覚書/ヴァイキングについて
北欧神話と言えば、スカンジナビア・ドイツの伝説で、特にスカンジナビア視点のものが取り沙汰されている。
スカンジナビアと言えば、彼の地の博物館学芸員が、高まるナショナリズムの風潮を受けて、自国の歴史に箔をつけようとした。だが蓋を開けてみると、ヨーロッパで古代ローマ勢力圏外だったスカンジナビアには、文字(歴史書)がなく、古代のことが判らない。ゆえに遺物や遺跡から当時の人は何をしていたかを解き明かそうとした。そうして考古学が学問として成立することになるのだ。
中世になると、悪名高いヴァイキングが欧州を席巻し名前が知れ渡る。竜骨が発明され、ロングシップに採用されるとアメリカ大陸に渡る者、フランスの半分を切り取りイギリスまで征服する者、ビザンツ帝国の傭兵となりトルコと戦う者といろいろ歴史に名を残す。――反面、交易で馬を欧州中に広めることに貢献、巨大交易圏を持っていたことからヴァイキング文明と呼称されることもある。――面白いことに同文明の消滅は他の文明に征服されたのが原因ではなく、彼らが征服し・移住した先の文明・文化に溶け込んでオリジナリティーを失い、同化したという微笑ましい理由によるものだ。――心優しい地元女性の愛が、ヴァイキング男性のすさんだ心を温め、普通の人にしたということか?――必ず最後に愛は勝つ!
さて、ヴァイキングは封建体制ではあったが、原始・古代の様相も色濃い。正妻と多数の愛妾からなる一夫多妻制で、愛妾は欧州各地で略奪してきた奴隷だった。もちろん人権なぞない。
古代・中世のヴァイキングを含めた欧州人について、外国人の人権に対する意識はどのようなものか? 一例としてギリシャの英雄冒険譚『オデッセア』を挙げてみたい。トロヤ征服に貢献した主人公のオデッセアは、帰りの航路で、食料が不足すると地中海沿岸の異民族集落を略奪する。――同族は家族だが、異民族は野生動物で狩りの対象なのだ。狩られた人間は奴隷として家畜化される。
このあたりの事情を踏まえたうえで、リアルにやったのが漫画『ヴィンランド・サーガ』、オブラードに包んだのが、児童小説『小さなヴァイキング・ビッケ』である。
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