覚書/漫画・アニメ『異世界失格』
『異世界失格』〝No Longer Allowed in Another World〟
所用の待ち合わせに間があったので、ネットカフェで作品リサーチをしていたら、新作アニメ化漫画の紹介棚に本作があった。第1巻を手に取ってみる。
タイトルからして、主人公が誰だか判り、キャラも理解できる。かつて『文豪ストレイドッグス』『さよなら絶望先生』で読者層を高校生、外国人にまで拡げた太宰治その人である。――ただし本作で「太宰治」の名は出さず、召喚者に、現世では「先生と呼ばれていた」と名乗ったことから、その後「センセー」と呼ばれるようになる。
物語は、太宰先生が38歳のときに、愛人・山崎富栄と玉川上水で心中する瞬間から始まる。山崎富江はテキパキした女性であることから、太宰は「すたこらサッちゃん」と呼んでいた。作中のセンセーも「サッちゃん」と呼んでいる。
太宰先生が愛人のさっちゃんと玉川上水で入水自殺しようしたところを異世界行きのお約束トラックにはねられて転生し、勇者となる。
異世界転移したとき、同じ異世界のどこかに、サッちゃんも飛ばされたらしい。生きる気力のないセンセーは、異世界で、最愛の女性・サッちゃんを探す旅に出る。
LV1‐2クラスの最弱ながら、作家スキルを活かした読心スキルで敵を圧倒、小説を書くということで「浄霊」してしまう。
文壇史上、リアルにモテまくったこの人は、異世界でもモテまくる。本人は風来坊なので無自覚だが、エルフ女神官、猫系獣人の格闘家がセンセーに惚れて寄り添いパーティーが結成された。さらに少年剣士が彼の人柄を慕って加わるらしい。
「異世界もの」は『指輪物語』に端を発し、ゲーム「ウィザードリー」「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」の影響をを受けつつ発展。3・11震災以前に『小説家になろう!』で、アニメ化もされている『無職転生:異世界行ったら本気だす』で確立されと言われている。『無職転生』は教養小説スタイルだが、そこから『小説家になろう!』『カクヨム』を媒体に、派生系として、「俺つえぇー系(チートもの、無双もの)」「悪役令嬢もの」「聖女もの」「スローライフもの」といった作品スタイルが登場した。
本作は野田宏・若松卓宏という、プロの漫画原作者・漫画家が、小学館の名門漫画雑誌「スピリッツ」において連載された作品で、『異世界おじさん(いせおじ)』『異世界美少女受肉おじさん』と同様に、「異世界もの」を斜め目線からみたパロディー仕立てだ。
近年、ネット図書館「青空文庫」で紹介されている太宰作品をほぼ読み終えたところ。そこにきて本作だ。期待している。
本作アニメは、今年7月9日‐14日に毎日放送他で放送される。私は13日のアマプラで視聴する予定だ。YouTubeでPVがあったので、観たらいい感じの動画だった。
ノート20240628
追記:
没後いじられる太宰だが、ほかに出て来る作品の彼と比して、色香があると思える。
恐らくは太宰治の筆名由来となったであろうダダイズムというスイス発信・虚無的な文芸運動が戦間期にあった。ニーチェが言うところの、超人になる過程で通る虚無。ダメ人間はスーパーマンになる可能性を秘めている。ドラクエの遊び人が賢者になるという設定も、このあたりから来ているのだろう。作品ムードがアンニュイなのはそのあたりから来ているのだろう。
『異世界失格』←『人間失格』:太宰の代表作:太宰自身をさす。自虐的ブラック・ユーモア
作中でセンセイが言う台詞『グッドバイ』:未完の遺作タイトル:コメディー
太宰作品は青空文庫でほぼ収録されているので、未読の方は読むのをお薦めしたい。一群の作品を読んでからアニメ本作を視聴するととても趣深い。
ノート20240629




