読書/綿矢りさ『ひらいて』
ユーゴ―先生の『ノートルダムの鐘』に登場するヒロインは可憐だが「渦巻き」の目のようで、欲望のまま群がってくる男たちが、渦中に吞まれて破滅してゆく。こういうタイプの女性を文学用語で「運命の女」と呼ぶ。――綿矢先生の『開いて』の主人公は、自分を、ワイルド先生の『サロメ』に例えている。サロメも運命の女の一人だが、谷崎潤一郎先生の『卍』に出て来るヒロインにより近い。
主人公は情熱的な女子高生で、執着する同級生男子にフラれ、腹いせにその恋人をNTRする。百合関係になったお相手の女子高生は糖尿病、片思い彼氏は父親のドメバイで絶賛家庭崩壊中だ。中学二年から五年間かけて積み上げた二人の恋愛関係に強引に割り込んできた主人公は、さんざん掻き回した挙句、けっきょく失ってしまう。――これが大人になるということか。
主人公の内面的な成長を描く小説形態を「教養小説」と呼ぶが、その系譜にあるものなのだろうなあと、個人的には考えている。
ノート20240325
追記:
本音をいうと、ヒロインの攻撃的描写とか百合描写とか、読んでいてきついですね。反日で読める内容でしたが、読了に4日もかかってしまいましたよ。
綿矢先生のデビュー作『インストゥール』が高校在学中で、次作の『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。受賞に関し審査員の筒井康隆先生が、「文壇をモー娘化する気か」と嫉妬・激高なさっていたとのこと。対してやはり選考委員だった中堅作家様が、「彼女の美文は朗読することで際立つ」と解説なさっておられました。――いまやこの方の美文は疑いようもなく、若い作家の為の「写経」テキストになっております。――今年40歳、お子さんもおられる様子。いやはや時間経過の早いこと。