読書/ハインライン『人形使い』
Ⅰ 脊椎動物に寄生し洗脳して操るナメクジのような姿をしたエイリアン通称「マスター」がアメリカに飛来し、秘密捜査官であるサムや同僚たちの首根っこに吸着した。だが当局によってサムからマスターが引き離され、サムは助かる。寄生された経験のある被害者の証言は貴重で、当局のボスはサムを連れて大統領や議員の説得しだす。結果「上半身裸計画」が発動。服に隠れたマスターをあぶり出す作戦が行われる。だが、すでにマスターたちによって支配されてしまった地域もある。カンザス州もそうだ。
Ⅱ 合衆国政府は、人に寄生することによって支配者が制圧している地域を奪還する「逆噴射計画」が発動される直前、サムは問題の地域に派遣される。そこで視たものは、支配者たちが為政者から一般人まで取りついている実態で、困惑させる。その最中、敵支配地域奪還作成が発動される。敵は体分裂によって数千体に増殖していた。そして人類側の奇襲によって殲滅されてつつあるという偽情報を放送局や無線をつかって攪乱し、逆に人類側を追い詰めてゆく。事態を知ったサムは当局に連絡しようとしたが通信手段は敵の手中にあり、報告できない。直接的に飛行可能な自動車を奪い辛くも脱出し、当局に報告する。
Ⅲ 作戦失敗直後、ボスから一週間の休暇をもらったサムは、同じく休暇をもらった同僚の美人捜査官メアリを誘って、別荘の山小屋に招待し、密かに結婚した。山小屋は麓にいる羊飼いの老人が管理しており、サムの飼い猫が老人宅と山小屋間を往復している。その猫にマスターが寄生し、メアリに取りつく。死闘の末、サムが暖炉で焼き殺すが、飼い猫は死んでしまう。そこで二人はボスからの呼び出しを受け、ある地点へと向かった。そこには州軍によって墜落させられたマスターの母船があり、中のタンクには、捕虜たちが収容されていた。捕虜の中には人類以外の他の惑星脊椎生物も混じっていた。そこでメアリがデジャブ状態となり失神する。実はメアリは四半世紀以上前に全滅した金星移民者唯一の生き残りだった。金星もマスターによって支配されていたのだが、開拓者たちはマスターもろとも全滅していた。原因は金星の風土病「九日熱」によるものだった。メアリはこれに感染していたため、彼女に寄生していたマスターは死んだ。――その後メアリは、地球の宇宙船クルーに保護され地球に帰還し、秘密捜査官になり、サムに出会った。
Ⅳ サムの発案で人類の反抗が始まる。マスターたちは人類以外にも、犬・猫・猿といった脊椎動物に寄生するということが判っているので、動物園などから集めた猿200体を徴用し、「九日熱」病原体を注射、捕獲したマスターを取りつかせ、敵の支配地域に放つ。――媒体に人間を使わなかったのはマスターたちが「奴隷」から人語を学び理解していたからだ。――この作戦は成功し、人類側は敵を駆逐することに成功する。最中、ボスに寄生したマスターが、サムを飛行自動車に誘って乗せた。ボスにマスターが取りついたことはすぐに察知された。車中でサムとマスターが乱闘し、飛行自動車は墜落。ボスと寄生していたマスターが死ぬ。
事件後、人類は有志を募り、宇宙軍艦で敵の巣になっている木星衛生タイタンを殲滅に向かわせる。その中にはサムとメアリの夫妻の姿もあった。宇宙軍艦は12年後、現地に到着する予定だ。
所見:
人類の知らぬ間に、異分子勢力によって都市が支配地域にされているというコンセプトはラブクラフトの小説・クトゥルー神話シリーズ『インスマウスの影』に出て来るマーマンにちょっと似ている。病原菌によりマスターが壊滅するあたりはウェルズの『宇宙戦争』のオチみたいだ。これら「下地」を調合して、本作はつくられたのだろう。1951年に発表された本作自体も、その後のSF小説に、多大な影響を与えている。映画『未来警察』『インディペンデンス・デー』『攻殻機動隊』『チェンソーマン』などの随所で、『人形使い』ネタが見いだせて面白い。
ノート20240811