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僕のマナー 君のマナー

カイン王子とシャスリーン王女だけでなく、王太子妃殿下と王妃殿下もこちらを見る。

カイン王子は顔を強ばらせて呟いた。

「そんな....まさか....あの茶会に彼女が居たのか....」

残念ながら居たんです。

「最初に食べて倒れたのも姉です。まあ、本人はあまりの美味しさと、入っていたお酒でフラフラしたと言ってましたから、そこまでお気に病まれなくても大丈夫ですよ。」

まさかチョコショックで前世の記憶を思い出して人格がちょっと変わったなんて誰も信じ無いしね。

でもカイン王子はちょっと血の気の引いた顔色している。これはフォローしといた方がいいかな。

「カイン殿下、姉は元気だったでしょう?」

「っ!?....ああ、うん。」

「だからそんなに気にしないでください。まあでも、もし話せるなら姉にチョコレートをお茶会に持って行った理由を教えていただければ幸いです。」

まあ、父様は知ってそうだけどね。

「分かった、そうする。」

カイン王子は頷いて平静を取り戻したみたいだ。

そうか、これからこういう場面で僕は上手く殿下をフォローしなければいけないんだな。頑張ろう。


すっかり気勢を削がれた王子と王女が大人しくなったところで、王太子殿下が話をまとめた。

「ではシャルマーニ令嬢が一緒に運動する件は宰相殿の返事待ちという事でいいな?今日はこの後カインとユリウス君の今後の勉強する予定をセビリアと決めてくれ。」

「はい。わかりました。」

「ではセビリア、二人を勉強部屋へ連れて行ってくれ。」

「かしこまりました。さ、坊ちゃん方こちらへ」

「はい。では失礼いたします。」

僕は軽く頭を下げる略礼をしてセビリアさんの後に続いて部屋から出た。


カイン王子は何か考え込むような険しい顔をして僕の横を歩いている。

ハッとして僕は半歩遅らせて斜め後ろに下がった。

それに気づいたカイン王子は

「なぜ後ろに行くんだ?」

と聞いてきた。

えっ....と、うん?横の方がおかしい....よな?

「すみません、うっかりしてました。」

「?僕の横は歩けないという事か?」

険しい顔で殿下が聞いた。

僕はセビリアさんを見ると、セビリアさんも困惑した感じでこちらを見た。

これは....僕が説明するのか?

「あの、殿下は僕が後ろに下がった事をどう思われたのですか?」

「リナリアが倒れたのは僕が持って行ったチョコのせいだ。ユリウスは僕を恨んでいるだろう?だからユリウスが僕の横を歩くのさえ嫌なんじゃないのか?もしそうなら、僕の従者の話も断ってくれればいいじゃないか!」

カイン王子は怒って言った。

「喋り方もよそよそしいし!この前はあんなに普通に会話してくれたのに!これじゃあ他の奴と一緒じゃないか!」

あ〜、なるほど。コレは大変な誤解と教育不足だ。

「殿下、ここは廊下ですのでひとまずお部屋へ入りましょう。」

セビリアさんが王子を促した。


奥宮だからといって人が居ない訳では無いのだ。

だからといって何も言わないのも殿下の心のためには良くないからこの一言だけは言っておこう

「僕は殿下を恨んで無いですしもちろん嫌いじゃないですよ。お部屋で説明致しますね。」

「うむむむ」

カイン王子はちょっとだけ我慢してくれたようだ。

歩き始めてすぐに勉強部屋についた。


勉強部屋は明るく、程々の広さで勉強机が二つに本棚、ソファセットがあった。

「先ずはお茶でも飲みましょう。」

セビリアさんがそう言うと部屋の隅に待機していたメイドがワゴンからお茶とお菓子をソファの方に用意してくれた。

カイン王子は僕が座るべき方に座った。

「殿下、お席が違いますよ。」

セビリアさんがやんわりと注意する。

「何故だ?いつもこの位置だろ?」

「殿下、いつもはお父上やお母上など殿下よりも上の方が御一緒ですよね。ですが今この部屋では殿下が1番上の身分です。殿下がその位置に座られますとユリウス様のお席が無くなりお立ちいただくことになります。」

「....なるほど。だが、僕はユリウスとは同じ感じでいたい。だからどちらに座ってもいいのではないか?」

「殿下、そのお心は大変素晴らしく思います。ですがそれはほんのお二人だけの時だけしか通用いたしません。衆目がある場所、公の場所では身分の上下とそれに伴った所作にはちゃんとしたマナーがございます。それもキチンと守らねばなりません。」

「マナーか....」

カイン王子は嫌そうに呟いた。

「殿下はマナーがお嫌いですか?」

僕はカイン王子の横に膝をついて顔を覗き込んで聞いた。王子は少しびっくりした顔してバツが悪そうにフイっと目を逸らした。

「嫌い....って言ってはいけないとはわかってるけど、なんだか窮屈だと思ってる。マナーの勉強はいつもダメだダメだと言われることばかりだ。」

「では、今のセビリアさんの言葉は理解はできるのですね?」

「僕がどこにでも座っていい訳じゃないって事だろ?」

少し拗ねたように言う。

カイン王子は思ったより素直だ。

僕はすっかり保護欲を掻き立てられていた。

「今殿下がその場所に座り、僕が上座に座るとします。僕ら二人はそれでも大丈夫としましょう。ですがそこに王太子殿下が勉強の進捗を見にいらっしゃったとします。どう思われると思いますか?」

「休憩中かと思う....と思う」

僕は首を振る

「おそらく僕が大変怒られます。もしくは王宮から連れ出され明日からは来なくて良いと言われるかも知れません。下手をすると兵を呼ばれ牢に入れられることも考えられます。」

僕のちょっと大袈裟な想像に王子は顔を青ざめさせた。

「何故だ!?僕がいいと言ってるのに何故だそうなる?」

「先ず身分というのは守らねばならない序列です。これを疎かにすると規律が乱れます。僕が上座に座る事で殿下や王家を蔑ろにし、最悪叛意ありと周りには見られるのです。」

「そんなっ!たかがソファの座る場所だけでだぞっ!?」

「たかが....と言ってしまえるのは王子だからですよ。これはたとえですが、殿下がいつも一緒にいる王太子殿下や王太子妃殿下は今日はいつもと違うお席におすわりではありませんでしたか?」

僕の問に王子は考え込む。

「今日はおじい様とおばあ様がいらしたから横に座っていたぞ。」

「何故だと思いますか?」

カイン王子は少し考える。

「おじい様もおばあ様も普段はどこに座っても怒ったりはしない。だが、宰相や他の貴族の前ではいつも父上は少し横だ。つまりこれが身分のマナーという事か?」

「そうです。王族にも序列が有るので座る場所、順番、挨拶、全てに決まりが有るのもみなマナーなのですよ。」

「結局マナーなのか!」

「マナーというのは決まり事という事もありますが、相手への好意を表す簡単な方法でもあります。」

僕は殿下のマナーアレルギーを緩和するべく、マナーの本で読んだ内容をできるだけ分かりやすく説明する。

「殿下は気に入った相手や好きになった相手に嫌われるのは嫌でしょう?」

「嫌に決まってるっ!」

「好きになった相手を困らせたり、悲しませたり怒らせたりしたいですか?」

「したい訳ないじゃないか!」

「殿下は僕が嫌いですか?」

「ユリウスの事を気に入ったから、わざわざおじい様に頼んで来てもらったのに嫌いな訳ない。」

「ですが殿下、よく見てください。僕は座る場所が無くて大変困ってて悲しんでます。あちらの席は僕にとっては牢屋行き特別シートかもしれないからです。」

僕は肩を竦めて冗談っぽく言ってみる。

本気で牢獄直行シートだなんて思ってはいない。

でも、その可能性も王子には教えておかねばならないと思う。


僕の言葉にカイン王子はハッとして、すぐ立ち上がり上座に座り直した。

「ユリウス、すまない。そちらに座ってくれ。」

「はい、喜んで。」

僕は膝立ちから立ち上がりソファに座った。

そして心配そうな顔の王子と顔を見合わせて二人でクスッと笑った。


パチパチパチ

セビリアさんが拍手をした。

「お二人とも素晴らしいです。早速お勉強出来ましたね。さあさあお茶が冷めてしまいます。お召し上がりください。」

王宮の美味しいお茶を味わって、ふぅと息を着く。

「さて殿下、先程の廊下での話ですが....」

「あ〜、もしかして....アレもマナーなのか?」

少しバツの悪そうな顔をして王子が言った。

「はい。僕が横を歩くのはマナー違反なんです。僕も先程は緊張してついうっかりしてました。まだまだですね、一緒に頑張って勉強しましょう!」

「ユリウスも完璧ではないのだな!うん、一緒なら頑張れそうだ!よろしく頼む。」

さっきまでのどこか悶々とした顔が、ようやく晴れやかになった。カイン王子はとても素直なのだと、僕は嬉しくなった。

「それと言葉使いですが、自宅でも無いのに砕けた口調では話せません。むしろこちらの口調に慣れてください。」

王宮で王族の皆様を前にしてタメ語とか、無理に決まってる。まあでも、そのうち殿下が公と私を切り替えられるようになったら、二人だけの時はもっとフランクに喋れるようになりたいと思う。


勉強頑張れ〜(笑)


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