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リナリア視点

お茶会ってちょこっと苦手。

お茶もお菓子も美味しいけど

家で食べる時みたいにスっと喉を通って行かない。

ユーリと一緒に食べる時はこんなに食べづらく無いのに。


キュッと締まった可愛いドレス

ぎゅうううって引っ張られてるようなヘアスタイル

首を振ったら落ちそうなヘッドドレス

隣のテーブルで扇の端から投げられるチクチクする視線

弾まない会話....


今日のお茶会会場はベルアーニャ侯爵家自慢の庭が見えるサンルームサロンである。参加人数はちょっと多めの子供10人と親6人。保護者代わりの侍女は壁際に控えている。

親同伴のご令嬢が大半の中、私は親ではなく侍女を伴っての参加だ。

子供達はひとつのテーブルに集められている。上は12歳から下は6歳ぐらいの結構歳の離れた子供達のお茶会だ。親も同伴するだろう。

私は10歳なのでこの中では真ん中ぐらいの年齢だ。

隣の席の7歳のご令嬢は覚えたてのマナーでいっぱいいっぱいなのか話しかけるのも躊躇うくらい緊張している。うんうん、あれもこれもって混乱するよね。


子供達の隣のテーブルは大人席だ。

自分の子供と、ついでによその子供の一挙手一投足をチラチラ見ている。

侯爵家の娘である私も当然見られている。マナーの先生がとても厳しいのも、これを知っているからだろう。



ふぅっと息をついた時、私の後ろの庭に面した戸が遠慮がちに開いた事に気付いた。


こそっと入ってきたのは....えっ!?天使っ!?

庭から天使が入ってきたの!?


いやいや落ち着け、私。

天使なわけないじゃない。

でも、天使の様な少年だ。

背中に羽が生えてても納得しちゃいそうだ。


白銀のサラサラの髪は陽の光を浴びてキラキラエフェクトをまとってるかのように輝き、キョロキョロと元気よく動く瞳は宝石のアメジストの様な色。

着ている服は上品な仕立ての上着と半ズボン。

顔立ちは幼いながらも整っている....が、

まだまだ可愛いの域を出ていない。


そんなキラキラ天使は大人のテーブルを避けて、軽く身をかがめながら今日のお茶会の主催のご令嬢に近寄って行く。

周りを見てもキラキラ天使を見てるのは私だけみたい。

まあ、おしゃべりが苦手な私は庭を見る時間が長いから気づいたんだけど。

キラキラ天使はこそっと主催のご令嬢に話しかけて何やら箱を手渡し、あとは止める声にも構わず全力疾走で退場して行った。


主催のご令嬢、フローレンス=ベルアーニャ様はキラキラ天使から受け取った箱を見て、戸惑った顔をしながらテーブルの真ん中に置いた。

......なんだろ?


フローレンス様がメイドに言って箱をあけさせた。


そこには小さな焦げ茶色の丸い物が並んでいた。

「え、何これ」

「石?」

「なんというか....」

「宝石にしては....」

中を見たご令嬢方が小声でザワつく中

それを見た私の脳裏に見た事ない記憶が流れてくる。

リボンのかかった可愛い箱

開ける時のドキドキ感

.....私はそれを知っている

そんな訳ない、初めて見るわ

ツヤのあるコロンとした形

....それは美味しいものよ

見た目で食べ物じゃないでしょ

...だって毎日毎日食べてたもの

私は知らない、なのに…知ってる.....?

..甘くてちょっと苦くてでもトロリと溶けて

まずは1個口に入れて

あの幸せな時間を

思い出して


目の前の箱から1粒つまむ

周りの息をのむ気配もどこか遠いところから聞こえてはいるけど

どくんどくんと耳元の音で良く分からない

手が勝手にその粒を口に持ってくる

ふわっと香る初めての匂いに

私じゃない私が喜んでそれを口に入れた。


初めは苦味

次に体温で溶けだした甘味

ミルク感

歯をたてて口の中で割ると

中からトロリと出てくる液体

思わず飲み込む

喉を滑る冷たいそれは喉を滑り落ち

ゆっくりとお腹に落ちた時には

カッと熱く熱を持ち

口の甘さとお腹の熱さと

耳元のどくんどくんという音が

私の回りをぐるぐるぐるぐる回って回って回って....


....ああ、やっぱり美味しい......


私の中の私がうっとり呟いた。



目の前に光る文字が並ぶ板

手元は四角いボタンが並んだキーボード

すっかり冷めたコーヒー

そして、私の主食のチョコレート

両手でカタカタと文字を打ち込みながら

レポートを仕上げていく。


今日は今まで実験と考察を重ねて出た結果と予測をまとめて学会に提出する所までこぎつけた大事なレポートを書いている。

これを書き上げるまでは帰れない。

このレポートに着手して1ヶ月。

ここ3日はろくに睡眠も取れてない。

チョコとキーボードだけが友達さっって

どこかのヒーローかよっ

いやいや、そんな生活も後ちょっとよ!

たんッとEnterキーを押して止めていた息を吐く

「はあああああああ....終わった......」

コンコンッ

まとめが書き終わったタイミングで教授が部屋にはいってきた。

「おーい生きてるか〜?」

「今灰になりました〜〜〜」

「はははっそうかそうか、書き上がったかね。」

いかにもな野暮ったい銀縁眼鏡に白衣と伸びかけのグレーヘアを軽くバックに撫で付けた初老のおじさんが笑いながら労ってくれる。

教授はここ3日の私のおこもり生活を支えてくれた。

「せっかく持ってきたチョコは無駄になってしまったかな?」

そう言ってチョコレートの箱を机に置いてくれた。

オシャレな包みにリボンまでかけてある。

「いつもの量産型じゃないじゃないですか!」

書き上がったテンションの高い状態でこんな素敵な高級そうなチョコレートを貰って私はウキウキだ。

「そろそろ終わると思ったからね、デパートの特設会場で買ってきたんだよ。」

「ぉぉおおお!」

おじさんが行くにはかーなーり難易度高めなデパートの特設会場で、わざわざ買ってきてくれたと思うと感動もひとしおである。早速リボンを解いて箱を開ける。

1粒の包み紙も可愛い。

「しかしほんとにすごい人だったよ。チョコもいっぱい有るからよく分からなくてね、」

ポイっと口に入れる

「応対してくれた店員さんにおすすめを包んで貰ったんだ。」

.........

「だからどんなチョコなのか分からないんだよね。」

「.....めっちゃ美味しいいいいいいい!」

疲れた脳に麻薬か?ってくらい染み込んでくる甘味

でも甘すぎないように絶妙な苦味

さすが高級品

気づくと3つ4つと立て続けに食べていた。

「気に入ってくれたなら良かった。せっかく終わったんだし、今日はちゃんと家に帰って休みなさい。」

教授がそう言って私の肩をぽんっとたたいて部屋を出ていった。

レポートを保存し、パソコンを落として立ち上がった時

フラッとよろけた

おおっと、徹夜明けでチョコレートボンボンはアルコール成分のまわりが早いな!


そう、教授のチョコレートはブランデー入りだった。

カバンを肩にかけて部屋を出る。

食べかけのチョコボンボンはもちろんお持ち帰りだ。

家で残りを楽しむのだ。

なんとなくふわふわした心地で階段に差し掛かった時

身体が最高の浮遊感を感じた。



「お嬢様ッ!!もうすぐお部屋です。頑張ってください!」

耳元なのに遠くで誰かが叫んでる

いつも聞く声

あれ、私部屋の鍵カバンに入れてたっけ?

身体の締め付けが緩みキツかった髪が解かれドレスが楽な寝着に着替えられた。

ふかふかなベッドに横になり

意識が吸い込まれていく。



「.....もし、ちょっとあなた!」

ゆさゆさ揺らされはっと目を開ける。

目の前に光る人影

女性だろうとわかる輪郭

ただ、光に包まれているからはっきりは分からない

えっと.....

周りを見る。

柔らかい光に包まれた乳白色の世界

上も下も分からない

ただ、目の前に居る光を纏った女性に肩を掴まれ揺さぶられていた

「あなたこんなところに居たら帰れなくなりますよ」

あ、えっと.....ここ何処ですか?

「ここは○△※※#+(聞き取れない)よ」

え、なんて?


あの、帰りたくてもどうやってここに来たかも分からないのですが....

「あら、前の記憶が消えきって無かったのね。引きずられて来てしまったのかしら?」

前の記憶....?

「たまに居るけど今の生を受ける前の記憶が綺麗に消えて無い場合に、不意にその最後の記憶が思い出されてしまってそのままもう1回生まれ直しに来ちゃう子がいるの」

.......ん?

「私が見つけられればこうやって声掛けてあげれるけど」

......生まれ直し....?

「そのまま消えちゃう子も居るのよね〜」

き、消えちゃう!?

「そうよ〜だってこの先はそういう場所だもの。」

そういう場所.....

え、私死んじゃったの?

レポート書き上げたのに!?

お茶会で天使に会ったのはフラグ!?

.....ん?

え、どっち?

え?え?え?

う〜思い出せるのはチョコレートボンボンは美味しかったって事だけだわ。

「あらあら、その食べ物、よっぽど好きだったのね〜」

光に包まれた女性がふふっと笑う。

ちょっと落ち着こう。

自分の今の姿を見ればわかるはずッッ!

.......

...........

...............oh......

何も無いわ.....

正確にはどうやら手足とか身体とか無くてなんか、ふわふわゆらゆらの不定形体みたい....な?

形の曖昧な幽霊ってこんな感じ?

幽霊......えっ、私今幽霊!?

チョコ食べて死んじゃったの!?

「そうねえ〜前の人生は終わったから今の人生を生きているのだけれどもね。」

あ〜どっちかは終わってるのか〜

「どっちもアナタなんだから気にしなくても身体に戻ればいいと思うんだけどね〜」

まあ、そうなんですがね。


そうね、確かに私はわたしのままね。

混乱した気持ちが落ち着いて来た時

さぁ〜っと風が吹いた。

花の香りと共に女の子が勢い良くくっついてきた。

「やーっと見つけたのじゃ!」

白い翼の小さな可愛い女の子がびたーっと私に貼りついてきた。

「もう〜なんで全然起きないのかと心配したのじゃ」

女の子はどうやら私を心配してくれているらしい。

「あらあらこんな所まで来るなんて随分無理をしたわね〜」

「はっ!!!女神様っっ!」


なんと、私を起こしてくれた光る女性はどうやら女神様だったらしい。

「女神様、この子はこのまま消えてしまうのか?」

小さな女の子は悲しそうに女神様に聞いた。

「いいえ、今から身体に帰すところよ。」

コロコロと笑いながら女神様が答えた。

「では、では我が一緒に行こうぞ!」

あら、一緒に行ってくれるの?

実はちゃんと帰れるか心配だったのよね。

「その代わり我に名前を付けるのじゃ!それが条件じゃ!」

名前?うんいいよ。起きたら付けてあげる!

「約束じゃ!我はそなたと一緒に居たいからな」

ふふふ、可愛い〜嬉しいな!

「まあまあ、良かったわね。ではおかえりなさい」

女神様の言葉が終わるぐらいでふぅ〜っと風が吹いた。

身体が流れる....女の子も引っ張ってくれている。

やがて周りがとても眩しくなって

全てが真っ白になった。



目を開けた。

柔らかな日差しが部屋に差し込んでいる。

ふかふかな天蓋付きベッド

ここはどこだっけ?

なんか長い夢を見ていた感じ。

身体を起こしたら部屋にいた侍女が何か叫んで部屋を出たり入ったりしている。

頭に霞がかかってるみたい

何もかもが膜の向こうだ。

ぼーっとしていたら人が勢い良く入ってきた

大人の男女に少年だ

三人とも....めっちゃっ

「....イケメン〜.....」

はっ!

声に出して言ってしまった。


しまったどうしよう初対面なのに

....あれ?

初対面か....?

あれ?知ってる人....か?

いやいや私、わたし?

.....私は誰だ....?


なんか思い出そうとすると壁に突き当たるみたいな感じで記憶が出てこないぞっ!?

「えっと、姉様....?」

うわっ

めっちゃ可愛い男の子が私の目の前に来た〜

こういうの

「イケメンショタ尊〜」

って誰か言ってた....

「はわわわ」

声に出して言ってしまったッッッ....2回目。

恥ずかしすぎる!

私は顔を片手で隠した。


もう片手はイケショタ君がきゅっと握ってくれてるからね!でも心配してくれてるんだね。

なんかほっとする。

ほっとするとお腹が鳴った。

やだ〜めっちゃ大きな音した。

イケメン男女が、軽食を用意してくれるって言うからお礼を言ったら、ちょっと顔が強ばっていた。

あれ、お礼の言い方おかしかったかな?


周りの人達が色々と動き始める中

イケショタ君は手を握ってじっと私を見ている。

この子私を姉様って呼んだよね。

つまり

弟....なんだよね。

将来が楽しみな感じだわ。

「姉様、僕が誰かわかる?」

ドキッ!弟ってこと以外情報が出てこないぞっ

「あ、えっと.....誰かな?」

知ってるふりも出来ないから正直に聞いちゃおう。そうしよう。

なんせ、君どころか自分の事すら分からないのだからね!

そんな事思っていたら彼の肩に手のひらサイズの男の子が現れて何か囁いている。

やだ、めっちゃ可愛い。

そういやあ、夢の中で私も可愛い女の子に名前付けてって言われたな〜夢かな?

でも、肩の上の男の子が見えてるって言ったらめっちゃ驚かれたんだけど....あれ?

(せっかく隠れてたのにバレてしまったではないか)

花の香りとふんわりとした風が頬をくすぐる。

白い翼の女の子が後ろから現れた。

おおお、夢じゃなかったんだ。

(早く名前を付けて欲しい)

そうそう、彼女の名前はもう私の中ではこれしか無い。

「風華」

華香る風

彼女にピッタリだ。喜んでくれてるみたいだし、良かった。


「お嬢様、お着替えなさいますか?まだご気分がすぐれなければそのまま軽食をお持ちいたしますよ?」

急に声をかけられてびっくりした!

そうだ、ご飯食べるのにこのままはちょっとな....

でも、記憶が無い自分で大丈夫なのだろうか?

イケメン弟をじっと見て手助けをねだってみた。

「私、どうするのが正解なの?」

「身体が辛くなければ、マリアに任せれば大丈夫だよ」

「じゃあ姉様、また後で」

なんと、風華まで連れて行ってしまった!

えええ〜大丈夫かな.....私。


しかしそんな心配は杞憂に終わった。

ドレッサーの前の椅子に座って鏡の自分を見た時

色々な事がストンっと落ち着いた。


前世大学で研究生だった私。

徹夜続きでヘロヘロだったのに

教授に貰った高級チョコレートボンボンでほろ酔いになり、残念なことに階段から落ちて......今に至る。


あ〜向こうが前世だったか〜

でも今世は侯爵令嬢で、妖精とか居て

イケメン弟も居て

多少前世の知識もあるし、

楽しく長生きしようかな!









徹夜明けのお酒ってシャレにならないと思うの。

たかがボンボン、されどボンボン。

教授〜ボンボンって知らずに買ってきたこと、トラウマレベルで後悔したんだろうなあ....

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