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捜索

セライラ市北東部

街道から市中に入って街の東側にその家はあった。

周りは倉庫や貸し馬屋用の馬場、あまり高級な物は置いてないと思われる商店等が並んでいる。

行き交う人も少なく、なるほど人目につきにくい立地だ。

そんな場所にフルプレートの騎士が立って警戒している家があった。住民は物陰や建物の中からその様子を恐れと好奇心とが混ざった瞳で眺めていた。

そんな物々しく警備された建物の前に一台の馬車と六人の騎乗した騎士が到着したのは昼過ぎた頃だった。

昨日の大捕物に続いて何事だ?と家の中から様子を伺う住民の視線の前に馬車から降りてきたのは、周りの騎士より幾分軽装な装備の騎士の青年と、輝くアッシュブロンドのサラリとした髪に知的な輝きを宿したアイスブルーの瞳が鋭く冷たい表情の美少年、それとブラウンのロングの髪を一つに束ねて好奇心を宿した黒っぽい瞳をきょろきょろさせたこれまたとびきりの美少年だった。より近くで見れば二人目の少年の瞳はアメジストの様な濃紫色だと分かっただろう。

服装も簡素ではあるがどう見ても貴族だと分かるくらいは上品な物を着ている。

馬車から降りたその三人の前に、騎士の立っている家の中から出てきた一人の冒険者がひざまづいた。

「姉様が拐されて運び込まれたのはこの家だったのだな。」

「はい。」

ユリウスの言葉に肯定の返事をしたのは頭を下げたままの冒険者だ。

「お前が姉様に付いていた陰の者か。…その後何かわかったか?」

固い表情のままユリウスはその冒険者ーー陰の者に問いかけた。

「こちらへ。」

顔を上げた彼は先頭に立って屋内に三人を案内した。

中は小綺麗に片付いていて、むしろ何も無い状態だ。だがよくよく注意してみると壊れた家具が部屋の隅に固めて積んであった。

おそらく昨日の突入時に壊れた物だろう。

入口を入ってすぐの部屋を抜けると薄暗い廊下があった。上に行く階段の横のさらに奥に続く廊下を進むと広めのダイニングキッチンがあり、その奥にももう一部屋有るみたいだ。

案内役の彼はその奥の部屋に入って行く。

「ここは……倉庫か?」

「食料庫の様ですね。」

後ろから着いてくるカインとアルフレッドの会話に心の中でなるほど…と同意する。

「こちらです。」

案内の彼に声をかけられそっちを見ると、片隅の床を持ち上げていた。

「これは……地下室か。」

「はい。…言い訳になってしまいますが、まさかこの規模の根城にこの様な地下室があるとは思わず……この食料庫か、二階より上の部屋で監禁されていると当たりをつけてしまい、踏み込んで捜索しても見つからずようやく情報を得た時にはお嬢様の姿は無く……」

ギリィと歯を食いしばる彼の表情からは後悔とそれ以上の姉様への心配と不安が見て取れた。

僕だってこの三日間胸を掻きむしるほどの不安と後悔をずっと抱き続けている。

気を抜けば、一番近くで姉様を守らなければならない彼を罵倒してしまいそうだ。

だが今はそんな事をしてる場合では無いという事も理解している。だから一つ大きく息を吸って心を落ち着けた。

「では実際姉様が捕らえられていた場所に降りてみよう。」

「はい。ではこちらをお持ち下さい。」

彼はそう言って前方だけが光を照らす小型のランタンを渡してくれた。

「下は暗いので足元にお気をつけ下さい。」


灯りを持って階段を降りるとそこは剥き出しの岩の通路だった。

てっきり地下室だと思っていたので驚いて立ち止まった僕にすぐ後ろから降りてきたカインがぶつかりそうになった。

「っぶな!ユリウス、急に止まるな。」

「あ、ああ。ごめん…ちょっと驚いて。」

「なんだ?お化けでも見たのか?」

茶化しながら言うカインに首を振って階段の先が見えるように少し体をずらした。

「……コレはっ…思ったより大掛かりな地下通路ですね。」

カインの後ろから降りてきたアルフレッドが先を見ながら言った。

「ただの犯罪組織にここまでの事ができるのか?」

僕は疑問に思いながら階段を下りきって先に進んだ。通路はすぐに左に折れ曲がりその先は灯りが届かない程の通路が伸びていた。

「これはまた……」

「真っ暗な通路だな。」

アルフレッドとカインが絶句する。

灯りを持っていてもなお暗い通路を案内の彼について進む。

長いような短いような、そんな自分の感覚が分からなくなる頃鉄格子が見えた。

「お嬢様は恐らくここに連れてこられたと思われます。」

「なぜここだと?」

「ここ以外に囚われていた形跡がありませんでした。」

姉様は侯爵令嬢だぞ?

何故こんな犯罪者が閉じ込められるような場所に入れられていたんだ?

シャルマーニ家に対する人質として姉様を攫ったのではないのか?

こんな…冷たく固い床に暖も取れない場所でっ…

「それで、ここからどこに移動させられたのか予想はついているのか?」

暗い岩の通路は岩牢の先まで続いている。

僕はその先を照らしながら尋ねてみた。

「それが…この先はセライラ市の地下水路に繋がっており、その先まで行こうとしましたが先ず水路に出る為の扉が数年単位で開けられた形跡がありませんでした。そして外に出るための水路脇の通路は途中の柵に流木が挟まっており中からは出られそうにありませんでした。」

「なん…だと!?」

「じゃあご令嬢は地下水路を市内に向かって連れていかれたのか?」

僕らの話を聞いていたアルフレッドが尋ねた。

「この地下水路の歩ける場所は中心の領主の館に続いていまして、他に行ける通路も無く、そこにも鉄格子が掛かっており数年単位で格子が動かされた形跡も無く…何処に移動させられたのか皆目見当もつかない状態です。」

「ん?…じゃあリーナは何処に行ったんだ?」

カインが首を傾げながら言う。

姉様が何処に居るのか追跡出来ない…。

「……そうか。なるほど…確かにコレは僕らじゃないと探しようがないな。」

精霊の助けが無ければ探しようがない、つまりそういう事だ。

(でもユリウス、僕とシェリーがずっと探ってるけどフウカの気配は全然無いよ。)

アリエスが話しかけてきた。

ずっと探してくれているのは知ってたけど、そうか…この地下通路にはもう居ないって事か。

(でもアリエス、ここは地下だからはっきり分かるのは繋がってる空間内だけよ?)

カインの精霊のシェリーも話しかけて来る。

「……つまり?」

首を傾げてカインが尋ねる。

僕はシェリーの言葉にハッとした。

「この地下通路と地下水路の間に扉かなにか有る…と分からないって事か?」

「…この地下通路から水路に出る所には分かりにくい扉がございます。外からは多分分かりません。」

僕の言葉に案内の彼が情報を補足してくれる。

「じゃあダメ元で一度その水路まで行ってみるか。」

僕らはそれから真っ暗な通路を進み行き止まりまで来た。

微かに水音がする。

案内の彼がしゃがみ何かを探すように壁を触ると目の前の壁が無くなった。

「この先が水路です。」

確かにさっきより水音が大きく間近に聞こえる。だがカンテラをかざしても何も見えない。一歩踏み出し、壁だった場所を越えると途端にそこは水が結構な勢いで流れる水路の脇の通路になった。

「こんなに凄い水量の水路だったのか!?全然わからなかった!」

僕の後ろから出てきたカインが驚きの声をあげる。

「ここで探査してみてくれるか?」

僕はアリエスとシェリーに頼んだ。

((任せて!))

「リーナ、見つかるかな…」

不安そうにカインがつぶやく。

見つかってくれないと困るが、ここには居ないで欲しいとも思う。

正直に言うと、この地下水路に居るのはそれはそれで可哀想だ。なぜなら先程の岩牢よりもこの水路の方が数段寒いのだ。誘拐犯は姉様をあんな岩牢に閉じ込めていたんだ。防寒対策をしてくれるとは思えない。ましてや温かい食事や寝床なんて用意して貰えてないのではなかろうか!?

そうであればこの水路には居ない方が良いような気がする。

(……いないね。)

(地下水路中探ってみたけど人間は居ないわ。)

アリエスもシェリーも姉様は居ないと断言した。

「そうか…ありがとう。」

僕は二人にお礼を言った。

「居ないなら引き返すか!」

若干嬉しそうにカインが言った。

おそらく水音と絶えず吹いている風で余程寒くなったのだろう。

僕らは元の地下通路に戻った。

さっきの気温よりも少しマシな程度の気温がなんだか無性に暖かく感じる。

「なぁユリウス。さっきの水路沿いの道ってなんで領主の館まで伸びてるんだ?」

カインが不思議そうに聞いてきた。

「緊急脱出用だろ?」

「領主が?」

僕が答えるとカインが更に尋ねてくる。

「今の領主じゃなくて、昔のだよ?だってここは昔の隣国の首都だったって教わったよね?」

「おおっ!では今の領主の館が昔の隣国の王宮だったということか!」

「おそらくね。地上の建物は変わっても地下までは変えてないのかもね。」

「そうだよな〜埋めるのも大変だもんな!」

「ただ…地下水路の通路はそれで説明がつくけど、この地下通路は謎だな。まさかただの犯罪者の隠れ家にしては手が込みすぎている気がする。……その事もしっかり聞き出せると良いんだが……」

「誘拐犯が主犯だと思っていないって事ですな。」

アルフレッドの言葉に同意する。

「後ろで糸を引いてる貴族が居る。多分。」

「っ!?」

驚くカイン。アルフレッドと案内の彼は予想していたのか静かにうなづいた。


姉様を狙った犯人……絶対に許さない。


僕は心の中で固く誓った。


暗い地下通路から出て誘拐犯の隠れ家の上の階も一応確認するために登った時、精霊達が騒いだ。

(居たッ!居たよッ!!)

(フウカの反応があったわっ!)

彼等の言葉に僕とカインが素早く反応する。

「「何処にッ!?」」

(ん……街道を…セライラ市に向かってるって。)

(馬車に乗ってるって言ってるわ。)

「この街に向かってきてる馬車だな!?」

「見張り二人残して街の門に行けッこちらに向かって来る馬車を早急に確保だッ!」

精霊達の声を聞いて大声で指示を飛ばすと急いで階下に下りる。

一階に着く頃には第一団が馬に乗り駆け出す所だった。

先頭で指揮を取るのはさっきまで案内をしていた彼だ。さすが姉様の護衛だけある。見事に僕らを置いて疾風の如く向かっていった。

僕らも馬車でなければこんな待ち時間は無かっただろうが、馬を繋いで車を入口に回してくるのにどうしても時間がかかってしまう。

「姉様達はどんな様子?」

僕の言葉にアリエスが答える。

(リナリアは無事だって。…ん。新しい侍女?が一緒って言ってる。)

「……は?」

(冒険者はかっこいい……あ、それはフウカの感想ね。うん…ビッグホワイトベアも一緒?)

「……はぁ!?」

アリエスとシェリーの言葉にイマイチ状況が分からず僕もカインも聞き返すしか出来ない。

というか、誘拐犯は?

姉様、誘拐されてたんだよね?

新しい侍女って何さ!?

それに冒険者?ビッグホワイトベア?

ほんと、何言ってるか分からないよッ!?


僕らは用意が整った馬車に乗り込み、無事に見つかった喜びと、姉様の意味不明な現状に首をかしげながら姉様と再会するべく大急ぎで街の外に向かうのだった。






あともう少し!!!

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