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冒険者『灯火』

「グワァァァガァァァァッ!」

森からぬっと出てきたビッグホワイトベアは仁王立ちになり私達の方を向いて咆哮した。

直で感じる獣の威圧に、座り込んでいる私の両腕は恐怖でカタカタと震え立ち上がれずただ見つめることしかできない。


そんな私と同じく動けずにいるラナちゃんの横を、冒険者パーティの『灯火』のメンバーが駆けだしホワイトベアに向かっていく。

森から完全に出てきたビッグホワイトベアは転んで倒れている御者に迫った。

尻もちをついたままそれでも懸命に後ずさる彼の悲鳴混じりの声がここまで聞こえてきた。

「く…来るなぁぁ!たすッ…助けッ…うガッッ…」

ビッグホワイトベアの腕が凄い速さで振られた次の瞬間、彼はビッグホワイトベアの鋭い爪になぎ払われていた。

軽く宙を舞いドウッと地面に落ち倒れた御者はピクリとも動かない。

「…ひぅッ……」

悲鳴になりきらない声が私の口から漏れる。

ビッグホワイトベアは倒れた御者に向かってのそりと進む。

「セーラッ足止めをッ!カーズッ!メリナッ!やつの気を引いてくださいッ!ロブスは盾でガード。チャックはその隙に彼をこちらにっ」

チェニスの指示がとぶ。

「おうっ」

大剣を軽々と持ち、全速力でビッグホワイトベアに向かっていく男性と、背中に両手剣を背負った女性がたどり着く前に、リナリアの横でスっと立ち上がった女性が静かに弓を引く。

見上げると引いた弓に矢が生成されていくのが見えた。

青い矢が出来上がるやいなやその矢は放たれた。

青い矢は凄い勢いで走る二人を追い越して、倒れて動かない御者に向かおうとしているホワイトベアの右肩を掠める。

二本目の矢が出来上がる時、セーラと呼ばれた女性の側に水系の精霊が浮いているのが見えた。

「…ぁ」

小さく呟いた私の声に気付いたのかその精霊はこっちを見てウインクをした。

(これが……精霊魔法…)

二射目の矢がビッグホワイトベアの二の腕に刺さった時、ようやくビッグホワイトベアの意識は御者から冒険者の方に向く。

「グルゥゥゥゥ……ゥガアアアアアッ!!」

明らかに苛立ちながら向かってくる冒険者に体ごと向き直り、再び吠える。

「ほらほら、こっちだぜ!」

ビッグホワイトベアの前に大剣の男ーーカーズがたどり着く。ニヤニヤ笑いながらホワイトベアを挑発し始めた。

「カーズッ!ホワイトベアの毛皮は高く売れるからッ」

背中の両手剣を正眼に構えた女性ーーメリナがカーズに注意をする。

「滅多に切るなってか!?…んなこたぁ知ってる!」

カーズが少し慌てて答えて、肩に担いでいた大剣を軽々と振り回しビッグホワイトベアに正対する。

その隙にビッグホワイトベアと御者の間に大盾を持った大柄な男ロブスが立ち、チャックと呼ばれた細身の男が御者を担いでこちらに戻って来た。

「チェニスッ連れてきたが…」

チャックが担いだ御者を下ろしながらしかめた顔で言葉を濁す。

「ありがとうございます。一応ヒールをかけてみます。」

チェニスはそう言うと御者の横に座り込み、首からかけてあった何かを取り外し、両手に握りこんで集中し始めた。

「あの人…治癒士だったんだ…」

ラナちゃんがポツっと言った。

治癒士とは、専門の学業を修め怪我や病気それに附随する知識を持ち、資格を取得した者だけが使うことの出来るメダルを授けられた者の事をいう。貴族のお抱えになる者や市井で平民相手に治癒を施す者、そして冒険者パーティの一員になる者などがいた。


「……ダメでした…。」

集中し閉じていた目を開けたチェニスは痛ましそうな声でそう言った。

御者は最後になぎ払われた時にくい込んだビッグホワイトベアの爪が内蔵深くに達していたため、チェニスのヒールでも間に合わず絶命してしまった。


「うルァァァっっっ!!」

一際大きなカーズの声にハッとしてビッグホワイトベアの方を見ると、カーズの大剣がベアの頭部を思いっきり殴った。

剣の刃で切るのでは無く、剣の腹で殴る。

思いっきり頭部を殴られたビッグホワイトベアはその勢いのままドゥっと倒れた。

そこにすかさずメリナが近付いて喉に剣を突き刺した。

ビッグホワイトベアはそれで絶命した。

「ああ、あちらも終わったようですね。お嬢様方、大丈夫ですか?ご気分が悪ければ仰ってください。」

私の視界にビッグホワイトベアが入らないようにかがみ込んだチェニスがそう聞いてきた。


あんなに怖かったビッグホワイトベアも、冒険者パーティにかかればあっという間に討伐出来るんだ…凄い!


声をかけたのに座り込んだまま呆然として返事の無い私に、相手が貴族令嬢だから声をかける以外のどうすればいいのか分からず困ってオタオタしているチェニス。

「リナ様…リナ様!大丈夫ですか?」

そんなチェニスを見て、ラナちゃんも声をかけてくれた。

「…はい。ええ、大丈夫です。」

今の精霊魔法から討伐までの連携に感動していた私はおざなりな返事をした。

私の返事を聞きほっと胸を撫で下ろすチェニスとラナちゃんに我に返り慌てて弁解をする。

「討伐していただきありがとうございました。とてもお強くて驚きのあまり返事が遅れてしまいました。」

「ああ、いえいえ。貴族のお嬢様にあんな凄惨な物をお見せしてしまいまして申し訳ございません。」

「…凄惨……そういえば御者の方は、その…」

「あ、はい。こちらに連れてきて貰ったのですが…間に合いませんでした。力及ばず申し訳ございません。」

頭を下げて謝るチェニスに慌てて言葉を返す。

「いえいえっアレは……あの状況ではどうしようもなかったと私も理解しています。ただ…あの御者はウチの者では無いので、事情を説明しに行かねばならないかもしれません。」

「…えっ!?」

私の言葉に驚き狼狽えるチェニス。

「彼はクーベルタン侯爵家の御者なんです。馬車もクーベルタン家の物で…」

「クーベルタン侯爵?……馬車に所属タグは付いていませんでしたよ?」

「え?」

「だから最初ここの休憩広場に入っていらしたた時、貴族の方かどうかも分からなかったんです。水汲みにみえたのがシャルマーニ家のお嬢様で本当に驚いたんですから。」

ああ、それで慌てて走り寄って来たのね。

「それに侍女も年下の彼女だけしか見当たらないし護衛もついてない様子ですし…何か理由が……ハッ!あっいえっ、いいですッ!なんでもありませんッ!!」

チェニスは疑問を口にしかけて自分が貴族の事情に踏み込もうとしている事に気付き、慌てて疑問を飲み込んだ。

こちらとしても誘拐された事を平民に言っても意味が無いどころか、下手に巻き込んで口封じ〜とかなったら申し訳ないので曖昧に微笑んでおく。

「リーダーッ、このビッグホワイトベア持って行って良いだろ〜?」

私達の会話が一段落したのを見計らってカーズが聞いてきた。カーズに呼びかけられてそちらに向き直ったチェニスの向こうに、綺麗に血を洗い流したビッグホワイトベアが横たわっていた。

横には水の精霊を連れた弓使いの女性ーーセーラが立っていた。

「持っていっても良いが…どうやって?」

「交代で担ぐ!」

「……だよね。」

やれやれと言った感じで仕方無さそうに苦笑するチェニス。

「ビッグホワイトベアが…綺麗になってる…?」

私のつぶやきにニコッと微笑んで、

「ウチの水使いは凄いでしょう?」

と、自慢げに言った。


精霊魔法でそんな事も出来るの!?凄いわね。


私はほぅ…っとため息をついて感心した。

「あの…ビッグホワイトベアを担いで行くのは大変ですよね。チェニスさん達はどこに向かわれるのですか?」

私は色んな下心を隠して聞いてみた。

そう、例えば近くの町まで護衛して欲しいとか、可能なら王都のシャルマーニ家まで連れて行って欲しいとか、御者の亡骸どうしようとか、出来たら一緒に事情の説明に行って欲しいとか…

「私共は王都に戻る途中でして…今夜はセライラ市で一泊します。無理すれば王都も行けなくもないですが、最初から明日王都に戻る予定にしてましたから、今日はまあゆっくり休む為にセライラ市で休みますよ。」

ーーーーえっ!?

「?…あの…王都に向かっていて今夜はセライラ市に泊まると言いましたか?」

チェニスの言葉に首を傾げながら疑問を投げかける。

「えっ?ええ、そう言いました。」

「えっ…」

だって私達は今朝王都に向かってセライラ市を出てきたところだ。つまりこの先は王都しか無いはずなのだ。なのに今この場所からセライラ市に行って王都に行くと言う。まるでここから王都への途中にセライラ市が有るかのような口ぶりだ。

「私達は今朝、セライラ市から出発して、王都に向かっている途中なのですが…」

私は戸惑いながら尋ねた。

「は?でしたらここは正反対ではないですか!?」

とても驚きながら信じられない事実を告げられる。

ーー正反対。

「…マジか」

思わず小声でつぶやく。

「…え?」

「いいえ、御者任せで乗っていたのでとても…驚きまして。」

「ええ、そうでしょうね。だが、何故こんな道を…」

それは私もとても気になる所だが、今の私の論点はそこじゃない。

「分かりません。あの…それで、王都までご一緒させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

そう!とりあえず子供二人では怖すぎてここから先何も出来ないことに気付いたのだ。

「あの、もちろんお礼はお支払いいたします。ただ、成功報酬払いになります。」


家に帰れば父様が払ってくださるはず!


「えっ…ぇぇっとお受けしたいのですが…私達は徒歩で、しかもビッグホワイトベアを担いで行くそうなのですが…」

とても困った感じで断る雰囲気を全開に出される。

「問題ありません!私達、歩きでついて行きます!」

「はァッ!?…リナ様、馬車を使っていただければ良いじゃないですか?」

私が勢いよく問題ないと言うと、横からラナちゃんがナイスなアイデアを出す。

「そうよね!私達が歩けば、あのクマぐらい乗るわよね!?」

「「はぁ!?」」

「えっ?」

私の言葉にチェニスとラナちゃんが驚く。

ん?何故ラナちゃんも驚くの?

「ビッグホワイトベアを…乗せるんですか?貴族の…馬車に?」

信じられないという感じでチェニスが聞き返す。

「リナ様が…歩くんですか?」

同じく信じられないという感じでラナちゃんも聞き返す。

「えっ?その方が効率的じゃない?」

「「いやいやいやいや…!」」

私の言葉にまたもや二人して手を振る。

「人の乗る場所に…ましてや貴族様の馬車の座席の中に獣の死体を載せるなんて有り得ないですよ!」

「そうですよッ私が言いたかったのは、冒険者の方であれば馬車を操作できる方がいるはずだから、馬車で行った方がリナ様も歩かなくて良いのでは?と、言うことですよ!?」

なんかすごい勢いで二人とも私を否定してくる。

「ああ!そういう事であればウチに一人操車できる者がおりますから馬車で向かいましょう!」

ラナちゃんの言葉を聞いて言葉の真意を理解したチェニスが納得する。

「いや、えっと、私歩きますよ?ベア、重いでしょ?」

私が乗車を遠慮すると、

「お嬢様は、ぜひッ馬車にお乗りください!大丈夫です。私共は慣れておりますので!」

「えぇ…」

私の乗車は決定された。

「……あ〜でもセライラ市で少しギルドに寄らせて貰っても宜しいですかね?ビッグホワイトベアと亡くなった彼の事を報告せねばならないので。」

最初は断られそうな感じだったが、いつの間にか王都まで連れて行って貰えれそうな感じになっている。こんな強い冒険者のパーティに一緒に行って貰えるなら、多少の寄り道は全然問題ない。

むしろ一緒に見て回りたい!

「今夜はセライラ市でゆっくり休む予定なのですよね?ご迷惑かもしれませんが同じ宿で良いので私達もご一緒させてください。」

ここもしっかり頼んでおかねば!

「え、で、ですが、私共の泊まる宿は平民用の安宿ですよ?貴族のお嬢様の泊まる宿とは程遠いですが…」

ものすごく戸惑っているチェニスににっこり微笑んで返事を返す。

「大丈夫です。平民の安宿、とても興味があります!ラナちゃんと同室でも皆さんと同室でもドンと来いですわ!」

「……分かりました。」

私の覚悟に諦めたのか、チェニスは一つ息を吐きキリッとして片手を胸に当て言葉を続けた。

「では、お嬢様のその王都までの護衛依頼。喜んで受けさせていただきます。」

「ありがとうございます。よろしくお願いします!」


こうしてビッグホワイトベアを担いだ彼等と共に出発したのだが…

「ねえラナちゃん。私の方向感覚が間違ってなければ、元来た道を戻っていないんだけど?」

そう。

馬車は()()()()()()()()()()進み始めたのだ。

彼等はセライラ市に寄ってから王都に行くと言った。

私達は今朝セライラ市から出てきた。

先程の休憩広場は王都に向かうには正反対だと言われた。

なのに進む方向が同じ…意味がわからない。

事情を聞こうにも御者は死んでしまった。

「私達、騙されてたの?」

私が沈んだ声でそう言ったら、

「……もしかして、ですが…」

と、ラナちゃんが話し出した。

「セライラ市の出入り出来る門は二つ以上有るとしたら、説明出来ませんか?」

「?……ああ…つまり表門じゃなくて裏門から出た…みたいな?」

私は前世の学校を想像しつつ答えた。

「何故かは分かりませんが、王都まで遠回りしているみたいですよね。」

「遠回り……確かにそうね。」

前世でも学校から帰る時にちょっと遠回りしたい時は違う門から出たりしたものね。

「でも、遠回りでもちゃんと王都には向かっていたのよね…う〜ん…」

あの御者は何がしたかったのか?

御者のせいなのかそもそもクーベルタン侯爵家が問題だったのか…そういえば地下通路から出たらクーベルタン家だったのも、おかしな話よね。

「……ここで考えてても分からないわね。家に帰ったら父様に全て報告しましょ。」

「そうですね。なんか色々あり過ぎて疲れました。」

私の横で深くため息をつくラナちゃんに、誘拐されてから時々思っていた事を告げてみた。

「ねぇラナちゃん。無事王都に帰ったら私の専属侍女にならない?」

「はい!?」

「専属侍女っていうか、本当は友達としていつも会える様な場所に…今みたいな感じで横にいて欲しいなって思ってるの。ただ、父様に聞かないといけないのだけれど、それでも私がそう思っている事だけは伝えておこうと思って!」

「リナ様…」

「とりあえず、前世が同郷とか抜きにしても一緒にいたいからッそれだけ、覚えてて。」

「…ありがとう…ございます。」

なんだかいたたまれない様な小っ恥ずかしい様な雰囲気が漂ってしまった。

告白でもあるまいし…いや、告白か。

そんなお互いにちょっと気恥しい思いをしていたら急に馬車が止まった。

「きゃぁぁぁッ」

思わず前にのんつめりそうになって慌てて体勢を整える。

「今度は何!?」

窓の外を見ると剣を持った騎士に囲まれていた。



なかなかお家に帰れませんね。

そしてやっと出てきた具体的な精霊魔法。

雑用ばかりが冒険者じゃないんです。

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