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老人

ケヴィン=クーベルタン氏の指示通り、メイドさん達は私達に軽食とお風呂を用意してくれた。

侯爵令嬢として入浴を手伝って貰っている私や貴族の夫婦に拾われて貴族教育真っ只中のルリアちゃんは入浴時にメイドさん達が色々と世話してくれる事に慣れているが、同じ扱いをされたラナちゃんはとても居心地悪そうで終始緊張をしていた。

あんなに丁寧にお世話される事は平民ではありえないからねぇ。

軽食をいただき身体もさっぱりした所で、疲れが出たのか私達は睡魔に抗えずふかふかのベッドで寝てしまった。


コンコンッ


部屋をノックする音で意識が浮上する。

「晩餐のための準備に参りました。」

部屋に入って来たメイドさんがそう言って私達を起こす。

ホントにぐっすり寝てしまった。

ふかふかの布団のせいだろう。

私達に用意されていたのは新しいが既成品のデイドレスだった。

舞踏会やお茶会で着るオーダーメイドドレスと違い、大まかなサイズで誰でも着れるように工夫がされているドレスだ。飾りもそれ程凝ったものは付いていない。

その代わり後から付け足せるような小物をオプションで揃えてあると以前聞いた気がする。

この家に同じ年頃の女の子が居るとも思えないし……寝てる間に買ってきてもらったのかな?

まあ、あの岩牢で袋詰めにされた時のドレスのまま晩餐の席に着くのも気が引けるから、この既成ドレスとはいえ新品に着替えれるのはありがたい。

元のドレスから流用できそうな小物を取ってアクセントにしよう!

三人とも色違いで用意されていたドレスを着て小物で多少アレンジしてから晩餐会場に案内された。


晩餐会場に入るとクーベルタン老は席に着いていた。

テーブルの上には皿やカトラリーが置いてあり、それぞれ案内されるがまま席に着く。

「ふむ…やはりオーダーメイドとは違って品質は落ちてしまうな。すまないね、ウチには年頃の娘もその気遣いをする女主人も居らんのでな…既成ドレスで許してくれ。」

席に着くなりクーベルタン老に謝られてしまった。

「こちらこそ突然の訪問にこのような晩餐やお風呂にベッドまで用意していただき、感謝こそすれ不満なんてある訳無いですわ。」

そう言って椅子に座った状態できちんと礼をする。

「ほぅ…流石宰相家のご令嬢だ。礼一つとっても素晴らしいの。では食事を始めるか。」

その言葉で食事が運ばれて来た。


薄味で野菜中心の柔らかい食感多目な食事はそれでもとても美味しくて、話題も流石高位貴族の紳士(やや高齢)だけあってそれ程退屈を感じることも無く晩餐は最後のデザートに移った。

前世で大人だったラナちゃんもテーブルマナーは完璧で、服装もドレスのせいかどこの貴族のお嬢様?と聞きたいほどだった。逆に実年齢が見た目通りで貴族マナーを学び始めたばかりのルリアちゃんは若干怪しい場面もあったが、何とか乗り切った。

「このアップルパイすごく美味しいです!」

デザートを一口食べてルリアちゃんが今日一番の嬉しそうな声で感想を言った。

デザートは焼きたてのアップルパイにアイスクリームが添えてあった。

クーベルタン老にはリンゴのジュレっぽい器が用意されていたので、このアップルパイは私達用に用意された物なのだろう。

「そうかそうか。年寄の味気無い食事に付き合ってもらったお詫びにデザートは料理長自慢の一品にしてもらったからの。喜んで貰えて何よりじゃ。」

アツアツアップルパイに冷たいアイスクリームが絡んであっという間にデザートはお腹に収まってしまった。

その余韻を名残惜しむように食後のお茶を飲んでいると、、クーベルタン老が尋ねてきた。

「明日の朝じゃが…馬車を用意させたから朝食後それぞれの屋敷まで送らせよう。ただ、シャルマーニ家とファミーユ家は分かったのだが…そちらのお嬢さんはどこに送ればいいのか分からんのだが…」

送ってくれるという申し出に喜んだのもつかの間、ラナちゃんの出自を思い出してハッとする。

「あ、ええぇっと…ラナちゃんは私と同じシャルマーニ邸でお願いいたします。」

「遠慮せんでええんじゃぞ?ちゃんと自宅まで送らせてもらうから。」

「ええ、はい。彼女はうちで大丈夫です。」

「そうかの…ではそのように申し付けておこう。」

「「「ありがとうございます。」」」

私達はクーベルタン老のご好意にお礼を言って食事を終えた。


ルリアちゃん…ファミーユ子爵家に拾われてたのか。本人が自分の家名をうろ覚えだったけど、クーベルタン家の情報にはちゃんと入ってたのね。


朝食は一緒にはならないというクーベルタン老の言葉に、では明日言えない分もと、しっかりお礼を述べて私達は晩餐会場を後にした。


「美味しかったね!」

「うんうん。あのアップルパイ…スゴく美味しかった〜!」

「流石お貴族様の晩餐でしたね。……薄味でしたが。」

「「それねッ!」」

ラナちゃんの言葉に私とルリアちゃんの相槌がハモる。

あははうふふとひとしきり笑う。

「でもラナちゃんのテーブルマナー完璧で驚いたわ。」

「ああ…長く生きてましたから一通りの基本は出来ますよ。」

見た目子供のセリフでは無い。

「私も前の人生で成人はしてたけど、なんちゃってコース料理しか食べたこと無かったから今世でみっちり教えられたわ〜」

「私なんてまだまだだからちょっと大変でした…」

ルリアちゃんがしゅんと落ち込む。

「お二人とも素敵な所作で…私も頑張って勉強しますね!」

むんっと両手で拳を作り決心を表す。

「そうね、でもこれからお茶会とかいっぱい招待されるからそのうち慣れるわよ?」

「……え?いっぱい…?」

「ええ、いっぱい。」

「だ、誰が招待するんですか…?」

「そりゃ…私よ?」

「ええええええええッ!?」

「あはは、大丈夫よぉ。それにウチなら多少失敗しても問題無いんだし……」

「そ、そうかも…」

「美味しいお菓子も用意するし!あ、なんならお泊まりしながら淑女勉強する?名付けて淑女合宿ッ!」

「本当ですか!?わぁ楽しみ!」

「……子爵令嬢が侯爵家でマナーレッスン…」

微妙な呆れを含んだラナの言葉は小さ過ぎて誰にも聞こえなかった。

家に帰れる嬉しさと緊張が解けた事で三人は夜遅くまでお喋りに花を咲かせていた。



そんな屋敷の違う一部屋でこの屋敷の主人はソファに埋もれながら指示を出していた。

部屋には老人と無表情のメイドが一人立っていた。

「…馬車は二台。一台はファミーユ子爵家にそのまま送ればいい。もう一台は()()()をして王都のシャルマーニ家に行くように…そうだな、南門から出て西の森のさらに西側を通って北上すればいいだろう。」

「はい。承知しました。」

無表情のメイドはクーベルタン老の言葉に了解の返事をし、一礼して部屋を出て行った。

そして一人になった部屋でケヴィン=クーベルタン老は独りごちる。

「……それにしても、昨日の今日で私兵をセライラに送ってくるとは…宰相殿も無能では無いという事か…ククク…」

チロチロと炎が踊る暖炉を眺めながら小声で喋る老人。

「だがしかし、あの小娘共……どうやって地下牢から出てしかもこの屋敷の地下通路に入ったのか……」

「目が覚めたら牢が開いていた?……バカなッそんな間抜けを雇ったのか?……冒険者を雇入れ、日程調整してシャルマーニ家の炊き出し日に娘を拐う……最後に裏切らん様にファミーユの娘も誘拐しておいたが……まさかこの状態で裏切ったりはすまい。……雇った冒険者の牢番が想像以上の間抜けだったのか?…ありえん。だが実際に牢から出てきた……さらに地下通路の件は?……暗闇を手探りで歩いていたらいきなり明るい通路になった…だと?……どんな偶然だッ!!」

ダンッ

昂った気持ちのまま思わずソファの肘掛を叩く。

ふぅ、ふぅ、と荒くなった息と気持ちを整える。

「……フンッまあいい。時間稼ぎは出来た。後はキースが上手くやっておれば問題なかろう。……どんなに調べた所でここまでは辿り着けまい。ククク…宰相殿の苦虫を噛み潰したような顔が目に浮かぶわ……ククク……」

ニヤリと口角を引き上げる顔は暖炉の光に照らされて、とても晩餐会の時の好々爺然とした老人とは同一人物に見えないほど悪人面になっていた。







短いですがキリがいいのでここまで。


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