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脱出

ーーーラナ視点

リナ様の精霊魔法のおかげで手足の自由を取り戻した私達は、脱出するための出口を探すため牢の中を探索する事にした。私はとりあえず鍵が開けれないか試すために鉄格子に張り付いた。

牢の鍵は簡単そうな作りだ。

ヘアピンが有れば開けられそうなのだが……今ここにヘアピンは無い。

岩壁は天然物のようで外は見えない。

というか窓は無い。

天井もむき出しの岩だ。

床と鉄格子以外は自然の物を利用している感じだ。

王都で気を失っておそらく馬車で連れられて来たんだと思うけど……こんな岩場、近くにあったかな?

もしくは……地下。

その線の方が濃厚だろう。


「ラナちゃんって落ち着いてるよね。」

リナ様が話しかけてきた。

三人で手分けして脱出出来そうな場所を探そうという事になったのだが……どう見ても窓が無いからこちらに来たらしい。

「リナ様……それは前世の記憶があるせいですよ。リナ様もそうでしょ?」

私が答えるとう〜んと腕を組んで考え込む。

「それが、そんなに落ち着いてる様に見られないのよね〜…いつも一つ下の弟に迷惑かけちゃってるのよ。身体の年齢に精神年齢も引きずられてるのかしら?」

「リナ様はお幾つで亡くなったんですか?」

ルリアが普通に尋ねている。

そんなデリケートな質問 、良くできるな…

見た目=実年齢なルリアはやはりそういう無邪気な所があるんだな、と思った。

「私?……確か…二十二歳だったかな?多分階段から足を滑らせて落ちたからそれが死因かな?」

ケラケラと笑いながらリナ様が答える。


……なるほど。

その年齢なら個人差の範囲で落ち着いてないのも有り得るか…前世ちゃんと老人ホームまで経験した私とは違って当然だね。

…ユリウス様もさぞ大変でしょうね。


「え〜ッ!!階段落ちるなんて痛そう…」

「まあ、フワッと浮いたトコまでしか覚えて無いけどね。そういうルリアちゃんはどうなってこちらに来たの?」

後ろで緊張感のかけらも無い会話が展開される。

まあ、絶望感とか悲壮感たっぷりに泣かれるよりマシか…。

「あ、家族でキャンプに来てて走り回って遊んでたら、足を滑らせちゃって……気付いたらこっちの森の中で倒れてたみたいで…フリーナが声をかけてくれたから馬車道まで出てこられて、お父様達に拾って貰えたんです。」

「その人達が貴族なの?」

「そうみたいです。読み書きやマナーを教えて貰っているんです。」


なんて幸運な子なんだ。

森で倒れてたら獣達に食べられるだろう。

運良く人に会ったとしても人買いか、良くて役所に連れて行かれる位だろう。

奴隷制はこの国では禁止されているとはいえ、国外に連れて行かれたら売り飛ばされる事もある。ひょっとしたら国内でも裏で取引されている可能性もあるだろう。

むしろ今まさにその危機かもしれない。

リナ様は侯爵令嬢だからこの誘拐は別の目的だと思われるが、私は?

どう考えてもついでに連れてこられているだけで利用価値も無い。口封じに殺されていないうえに、ここに捕まっているという事は売られる線が濃厚だ。

私もあんなクソみたいなおじに預けられるよりどこぞの貴族にでも拾われたかったわ…タキが居るから無理かもだけど。


タキ……お兄ちゃん。

一生懸命私を守ってくれる。

きっと今頃心配してるだろうな…

私が行方不明でもあのおじが探す訳ないし、もしかしてそれでまたタキが暴力を振るわれているかもしれないと思うと、胸の奥がギュッとする。

何とかして無事に帰らないと……


そんな事を思いながら鍵を開ける方法を考えていたら、リナ様が声を潜めて叫んだ。

「誰か来るわッ」

「「ッ!?」」

「私の横で手を繋いでッ早く!!」

素早く言われた通りにする。

私達は鉄格子の横の壁にもたれるように横一列で手を繋いで張り付いた。

「いいと言うまで声は出さないでね。」

その言葉にうなづいて返事をする。


そのすぐ後に遠くからザリッザリッと足音が近付いてくる。

こんな出入口近くの壁に張り付いても外からは丸見えだ。

だがリナ様が言うなら平民の私は従うだけだ。

というか、何かしらの精霊魔法を使うつもりなのだろう。


牢の外の通路が足音と共に明るくなり、カンテラの光とともに現れたのは冒険者のゴルツだ。


アイツ…なんか怪しいと思ったら誘拐犯だったのかッ…


リナ様の手がキュッとなる。

リナ様からしてみれば信頼していた冒険者が裏切り者だったのだ。ショックだろう。

私は元気付けるつもりでその手を握り返した。


「ンあっ?なんで誰も居ねえんだ?」

こちらを見ながらゴルツが声を上げる。


なるほど。向こうからはこちらの姿が見えないのか。

「っかしいな……鍵は……かかってるよな?」

ゴルツが腰から鍵を取り出しガチャっと回す。

無防備に牢の中に入ってきた。

あの筋肉ダルマからすれば少女三人なんてたいしたこと無いにしても、不用心だろう。

キョロキョロと見回しているゴルツの眼前で不意に何かが光った。

「うわっ…」

そう短く叫んで顔を覆う筋肉。

そのままうずくまり、ひと呼吸後ゆっくり顔を上げた。




ーーーリナリア視点

(リーナよ、誰か来るぞ。我が隠してやるから手を繋いで壁にもたれるのじゃ。)

風華の突然の警告に、急いで従う。

風華が隠してくれるのは姿だけ。

声は聞こえてしまうから声を出さないように注意する。

すぐにカンテラの明かりが見えて来た。

(何?見つからないようにしたいの?)

……いや、脱出したいんだけど…

ルリアの精霊のフリーナが目の前で飛びながら聞いてきた。

私は心の中でつぶやくが、そもそも契約者じゃない私と言葉なしで会話は出来ない。どうしようかと思っていたら、どうやらルリアちゃんが答えたらしい。

(ふふんっそんな簡単なこと、私に任せて!)

そう言って姿を表したゴルツの前に飛んでいく。

精霊付き以外には見えないと分かってはいてもドキッとする。

思わず手に力が入ってしまったら、ラナちゃんがキュッと握り返してくれた。可愛い。


「ンあ?なんで誰も居ねえんだ?」

牢の中を見回しながらゴルツが言った。

思えば最初から下町に行こうと提案してきたのはこのマッチョだ。

どこから計画されてたのか…まあそれは父様に報告すれば良いだろう…帰れれば。

それにしても…やっぱり脳筋なのかしら?

姿が見えないからって鍵開けて入ってくる?

舐めすぎじゃない?

こういうの『舐めプ』って言うのかしら?

……『プ』って、何の略なんだろ?


そんなどうでもいい事を考えてたら、ゴルツの目の前でフリーナが光を放った。


「うわっ…」

ゴルツは短く叫んで顔を隠す。

そのまま片膝をついてうずくまった。

そのゴルツの耳元でフリーナが何かを囁いている。

…何言ってるんだろう?

そして顔を上げて立ち上がったゴルツはスッと牢から出て、来た方に向かって戻り始めた。

「「「…えっ?」」」

その行動に私たちは呆気にとられた。

(ほら、脱出するなら今じゃない?)

フリーナがふふんっと胸を張ってドヤ顔で言った。

「あ、…そ、…そうね。うん。…さあ、行きましょ!」



ーーールリア視点

リナ様と手を繋いで壁にくっ付く。

誰か来るって…あの家庭教師さんかな…


私たちの様子を見てたフリーナが私たちの目の前を飛びながら聞いてきた。

(何?見つからないようにしたいの?)

(う…ん。見つからない方が良いみたいだよね。これから脱出しないといけないし…どこかへ行ってくれないかな……)

(ふふんっそんな簡単なこと、私に任せて!)

(えっ!?)

フリーナはそう言うとサッと飛んで行く。

ちょうどカンテラを持った筋肉隆々の怖いおじさんがぬっと現れた。

瞬間リナ様の手がキュッとなったが、私は現れたのがあの家庭教師さんじゃ無かったら事に少し安堵した。

あの家庭教師さん、とても優しそうな雰囲気だったのに…まさか私を誘拐する為にお茶に薬を混ぜてたなんて……怖い。

でも私の誘拐犯じゃないならあの怖そうなおじさんはリナ様達の誘拐犯って事よね?

……アレ?

ラナちゃんって誘拐犯に倒されて顔に怪我したって……しかも踏まれて気絶させられたって言ってなかったっけ?

じゃ、じゃああのおじさんが…そんな乱暴な事したってこと!?


そんな事を考えていたら筋肉おじさんがブツブツ言いながら鍵を開けて入ってきた!


ーーーヤダッ…怖いっっっっ!

(ルリア、大丈夫よっ!)

恐怖にパニックになりそうになった瞬間、フリーナが私にそう言っておじさんの目の前で光を発した。

「うわっ…」

そう言っておじさんが顔を隠して膝を着く。

そこにフリーナが何か囁いている。

するとおじさんはスっと立ち上がり何も言わずに牢から出て行った。

「…えっ?」

(ほら、脱出するなら今じゃない?)

フリーナが胸を張って言った。

「あ、……そうね。……行きましょ。」

リナ様も驚いていたがフリーナの言葉にハッとなって私たちを促してくれた。


牢から出て、少し前を行く筋肉おじさんの後を出来るだけ静かに歩いてついて行く。

明かりはおじさんのカンテラだけだからついて行かないと方向が分からないのだ。


そう。

牢から出て分かったのだが、岩肌の通路がずっと向こうまで続いているのだ。

なんか……洞窟っぽい。

暗いしジメジメしてるし……

いつまで続くの?この暗闇……


何時間も暗闇の果てない通路を歩いている気がしていたが、前を行く光がフッと消えた。

一瞬ドキッとしたが、角を曲がっただけだと理解して小さく息を吐いた。

通路の角を曲がったら少し先に光に照らされた階段があった。

長かった暗闇の終わりが来たのだ。


筋肉おじさんが階段を上り始めた。


やっと明るいところに出れるのね!


そう思ってほっとした時、先頭を歩いていたラナちゃんが立ち止まって壁を触り始めた。

何かを探してる様な、なんかスパイ映画で見た事あるような動きだ。

不思議に思って近寄ったらラナちゃんの目の前の岩壁が消えた。

その時階段の上でドアが乱暴に開けられる音がした。

「「ッッッ!?」」

私とリナ様が口を抑えて驚いてるうちに、先に入ったラナちゃんが私達の手を引っ張ってその暗闇の中に引き込んだ。



ーーーラナ視点

ほぼ暗闇の中、少し前を歩く筋肉ダルマ…ゴルツの持っているカンテラの明かりだけを頼りに、出来るだけ静かに後ろから歩いている。


自然な岩肌の壁や天井からここが普通の屋敷の地下では無いと思っていたけど、まさかこんなに長い洞窟の様な通路の先の牢屋に捕まっていたとは思わなかった。

ただの誘拐では無いとは思っていたけど、あまりにも用意周到ではないか?

つまり、それだけシャルマーニ侯爵家のセキュリティに精通しているという事なのか?

おそらくだけど、リナ様にも一人二人は陰から守るSPみたいな護衛が居るはずだ。だが未だに助けに来るその気配すらない。侯爵家のSPを欺けるだけの何らかの措置がとられているのだ。

侯爵家…しかも宰相を務めているシャルマーニ家にこんな暴挙をしても無事でいられる自信が有るなんて……同じ侯爵家か王家…もしくは隣国……とか?

う〜ん……

あと脱出するのに根本的な問題がまだ解決してないんだけど、このままこの筋肉ダルマについて行くと誘拐犯の根城に着いてしまうのでは無いだろうか?

牢からは出られたけど、あの筋肉ダルマが今どういう状態かも謎だし…誘拐犯があと何人居るのかも分からない。

リナ様やルリアの精霊魔法がどれだけ通用するかも分からないし……困ったな。

それにしてもこの通路。なんか覚えがあるんだよね。

昔、ここをこんな風に息を潜めて歩いた記憶が……


そんな事を考えていたら筋肉ダルマの明かりが消えた。

ああ、角を曲がったのね。

少し慎重に曲がり角の先を見たら上に登る階段が見えた。


その瞬間前世…どころかもっと前、以前この世界で生きていた時の記憶が思い出された!


ハッ!!

そうかッ!ここはあの通路だったんだ!!

じゃああの階段の手前にあの仕掛けがあったハズッ!


筋肉ダルマが階段を上り居なくなったのを見計らって記憶にある仕掛けを探す。


確かこの辺りの岩の窪みの中に……あった!


その仕掛けを見つけたと同時に上の階がなんだか騒がしい事に気付いた。

コレは……ここに居たらヤバいかも……

私は迷わずその仕掛けを作動させた。

目の前、階段横の壁の一部が消えたのを確認して中に入る。

よし、ここはアイツらには見つかってないな!

私は急いで二人の腕を取り壁の中に引っ張りこんだ。



ラナがいないと状況が進まない……

三者三様の思いを楽しんで貰えると良いなあ……

とりあえず脱出し始めました!

彼女達の冒険は始まったばかりだ!

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