瑠璃亜がルリアになった件
私の名前は川嶋 瑠璃亜 小学四年生。
両親と弟、家族四人でキャンプに来たの。
秋のキャンプはウチの恒例行事で、ちょっと寒いけど落ち葉やドングリを拾い集めたり、弟と鬼ごっこしたり、木登りしたりして遊ぶの。
あの日もそうやって弟と走り回って遊んでる時だった。
斜面ギリギリを走ってる途中で私は転げ落ちた。
最初は何が起こったか分からなかった。
ギュッと目をつぶって勢いよくぐるぐる回る自分の身体が止まるのを待つしか無かった。
自分の身体なのにまるで入れ物の人形の様な自分じゃ無い様な感覚だった。
早く止まってとそれだけ願っていた。
どのくらい経ったのか、自分の身体が止まっていることに気付いた。
目を開けて周りを見る。
夕暮れの森だ。
どれだけ下に落ちたんだろうかと見上げたが、そこに斜面は無くただ鬱蒼とした森がどこまでも続いている。
見回してみても転がり落ちたはずの斜面はどこにもなくて、それどころかキャンプ場も家族の姿も見当たらない。
「ここ……どこ?…お父さん……お母さんッ!……碧輝ッ!どこにいるのッ!?」
返事どころか気配も無い。
さっきまで紅葉した森にいたはずなのに今はどこもかしこも寒々とした雪の載った枝だけの木か、常緑樹の青さが雪化粧を施された木が有るだけで、紅葉とは程遠い。
迷子になった時ようにと持たされた携帯電話を首から下げていた事を思い出し、ボタンを押すも何も反応しない。
転がっているうちにぶつけて壊れてしまったのだろう。
「……なんで……ここ、どこ…?……みんな、っク……グスッ……どこに、いるの…?……お父さん…お母さん…碧輝…ぅぅぅ…」
誰もいない。
どこか知らない場所で自分一人。
涙が溢れて、立ってられなくて座り込んで泣いていたら何かが声をかけてきた。
(騒がしいと思ったら変わった子供が居るわ)
不思議に思って顔を上げたら女の子の妖精さんが目の前で飛んでいた。
「あ、……妖精?」
(まあ!貴女私が見えるの!?あと、私は妖精では無くて精霊よッ)
手のひらに乗るぐらいの大きさの赤い髪の女の子がツンっと顔を逸らしながら答えた。
「あ、ごめん…なさい…」
涙を拭いながら謝る。
(まあいいわ、許してあげる。それで?なんでこんな森の中で泣いてるの?)
「あの…お父さんもお母さんも見当たらなくて……一緒に遊んでた弟も居なくて……」
(何?迷子なの?)
「迷子……なのかな…キャンプ場まで行けば待っててくれてるのかな?」
(キャ…なんですって?)
「キャンプ場って何処ですか?」
(キャンプ…?聞いた事ない言葉ね……ん?待ってよ?貴女名前は?)
キャンプ場、知らないのかな?
「私は川嶋 瑠璃亜 です。」
(カワシマルリア……ハッ!!貴女、迷い子ね!?)
「迷い子?……うん。迷子だから……」
(そうか……だから変わった気を感じるのね。なるほど、納得。じゃあ私の疑問は解消されたから帰るわ。)
彼女は満足そうにくるりとこちらに背を向けて飛んで行こうとしたから、慌てて引き止める。
「えっ!?帰っちゃうの?」
せっかく話し相手が出来て少し気も紛れてきたのに。こんな森の中でまた一人になるなんて嫌だ!
「お願い!一緒に居て!せめてキャンプ場まで!」
目に涙が浮かんでくる。
(ぇぇぇぇ…キャンプ場なんてこの辺には無いわよ……あ〜…確かにここで私が見放したらすぐに獣のご馳走になっちゃいそうよね……ハァしょうがない。どうせ退屈してたし、付き合うか。ちょっと、ルリア 、貴女私に名前を付けなさい!気に入った名前なら貴女に付き合ってあげるわッ)
そう言ってまっすぐこちらを見つめてくる。
突然の提案に嬉しさと、気に入った名前を考えるというプレッシャーにあたふたする。
「えっ、あ、う〜…ん。うん。」
(どうしたの?早くしてよねッ)
「は、はいっ……えっと…フリーナ…とか、どうですか?」
恐る恐る、でも姿を見た時からコレだろうと心に浮かんでいた名前を告げてみた。
彼女はくるっとこちらに背を向けて肩をフルフル震わせた。
「……気に、入らない…?」
怖々聞いてみる。
すると向こうを向いていた彼女、フリーナはこちらにバッと振り返り首に抱きついてきた!
(なによッ!最高じゃないッ!気に入ったわッ!ルリア、よろしくね!)
名前が気に入ったのか上機嫌になったフリーナに先導されて歩いたら道に出た。
(…ルリア、ちょっと待ってなさい!)
そう言ってフリーナはスッと飛んでいった。
私は大人しく側の木にもたれて座っていると遠くからガラガラと大きな音を出して馬車が近づいて来た。
そして目の前で止まると中から恰幅のいい初老の夫婦が出てきた。
……自動車じゃなくて馬車?
服もドレスとピラピラが胸元についたタキシード?みたいな?
何かの仮装中の人達かな?
胸元にピラピラを付けたおじさんが心配そうに声をかけてきた。
「こんな森の中でどうしたのかい?」
「まあまあ、こんなに汚れて!あなた、お腹は空いてない?」
ドレスにキラキラとした宝石のネックレスに大きなブローチで毛皮のコートを留めているおばさんもとても心配そうに尋ねてくれる。
「え、あの…」
二人の迫力…圧?に気圧されてどもっているうちに会話はどんどん進んでいく。
「行くあては?いいや、こんな時間にこんな場所で一人でいるなんてきっと何か不幸があったのだろう!おおお可哀想にッ!」
「んまぁああ!可哀想に…あなた、ウチにいらっしゃい!」
「え、あの…」
「エルミーナ!いい事を思いついたぞッ!ウチの娘になればいいと思わないか!?ウチには子供が居ないのだ!こんな可愛い子ならばうちの子にぜひなってもらいたい!」
「アナタッ!マクベス様ッ!なんって素敵なアイデアなのッ!さ、お立ちなさい。貴女お名前は?」
「あ、…瑠璃亜です。」
「ルリア!なんと愛らしい名前だ!私はマクベス=ファミーユ。ファミーユ子爵家の当主だ。」
「ルリア…わたくしはエルミーナ=ファミーユ。マクベスの妻よ。よろしくね!今から貴女は私達の娘よ!ほら、遠慮せず馬車にお乗りなさい!」
「え、あの…」
「御者よ、急いで屋敷に帰るのだ!」
あまりの迫力に口も挟めず戸惑っているうちに、このコスプレ夫婦に連れられて屋敷に到着した。そしてこの夫婦の子供ということにされ、気付いたらお風呂に入れられ、七五三の撮影で着た様なドレスを着せられ、見たことないようなご馳走を食べ、お仕着せを着たお姉さんに手伝われて絵本や映画で見たようなカーテン付きのフカフカなベッドに入れられた。
「な……何がおきたの……?」
ベッドに横になったまま呆然とつぶやくと、枕元にフリーナが得意げに立っていた。
(どうよ?なかなかいい暮らしの夫婦に拾ってもらえたでしょ?貴族なんてロクなヤツらばっかりだけど、ここは比較的マシよ。しばらくはここで暮らせばいいんじゃない?)
「でも…お母さん、心配してるかも……」
(だって連絡方法がわかんないんだもの。そもそもここは貴女の元いた場所じゃないんだし…とりあえずは生活しなきゃなんだから、子供として生活すればいいんじゃない?)
「そっか……そうだ…ね…」
(そうよ。今日はもう寝なさい…おやすみ、ルリア……)
「おや…すみ……」
フリーナの小さな手が頭を撫でる感覚に思った以上に安心して眠りに落ちた。
あれから半月。
分かったのはドレスはコスプレじゃないという事。箸は無くて食事どころか様々なマナーが厳しいという事。ひらがなも英語も無くて文字を一つずつ覚えないと何も読めないということ。走ったりする運動はダメだという事。探したけどパソコン関係機器なんて気配すら無いという事。
……ここは、日本では無いという事。
ショックを受けたが、それ以上に私を拾ってくれた夫婦ーーマクベスさんとエルミーナさんが物凄く私を気に入ってくれて、実の娘のように服も飾り(宝石)もいっぱいプレゼントしてくれる。
私は貰いっぱなしはいけないとお母さんに教わっているから何かお返しがしたいんだけど、何がいいのかさっぱり分からない。
お仕着せのお姉さん達ーーメイドさんに聞いたらクスクス笑って「毎日笑顔でお健やかに過ごされるだけで充分でございますよ」と、言われた。
小学四年生でも分かる。そんな訳ない。
だから言われた事は頑張ろうと思った。
文字を覚え、マナーを覚え、ダンスにお茶会立ち居振る舞い。
そんな中、正式に養子手続きが修了して私は川嶋瑠璃亜からルリア=ファミーユになった。
正式に娘になったので家庭教師を付けてくれるというから、いっそう頑張ろうと思った。
先生に会った初日。
気付いたら岩の牢屋で袋詰めにされていた。
何が起きたのか分からなかった。
目が覚めたら私の他にもう二人居た。
一人は私より年下でもう一人は美少女だった。
混乱していた私を正気に戻したのは美少女の寝起きのつぶやきだった。
「スマホ……どこ?」
え!?…スマホ?有るの?
「……スマホ…」
もう一人の女の子も明らかにスマホが何か分かってるつぶやきをこぼした。
という事は、やっぱりスマホあるんだ!
今までまるで感じなかった文明の気配に諦めていた期待が膨らむ。
「リナ様…起きられました?」
年下っぽい少女の言葉に美少女が返事をする。
この二人は知り合いなんだ…
私はとりあえず自分の状況を理解しようと二人の会話を息を殺して聞いた。
「コレは…まさかの誘拐事件…かしら?」
ゆ、ゆ、誘拐事件!?
「そうですね…まごうことなく誘拐事件です。」
誘拐事件なんて、大事件じゃない!?
なんでこの人たちこんなに落ち着いてるの!?
え、待って…じゃあ…私も誘拐された…の?
でも、そんな乱暴にされた記憶はないわ。
確か…家庭教師の先生と挨拶をして…お茶を飲んで……今。
…………お茶?
っていうことはあの家庭教師が犯人!?
「ーー背中から蹴られて倒れた所で踏まれた …かと。」
その時年下少女の言葉が耳に入ってきた。
蹴られて、踏まれて気絶したってこと!?
ヒュッ…と息を飲む。
世の中、こんな子供にそこまで酷いことをする人間がいる事に心の底から恐怖を覚えた。
「……貴女も攫われてきたの?」
突然美少女が話しかけてきた。
私がいる事に気付いたのかな。
私は首を縦に振って返事をした。
それから美少女はリナリアという名前だと名乗った。年下少女はラナという平民で、リナリアは侯爵令嬢だと。
アレ?ウチは子爵って聞いた気が……子爵より侯爵の方が身分が高かった…よね?
一応こんな格好だけどキチンと挨拶はしておこう。でも…この挨拶で合ってたかしら……?
「ううう…すみません……まだ、勉強中で…」
これから教えて貰う予定の家庭教師に誘拐されました……なんて、笑えない。ぅぅ…
悲しくなって涙があふれる…と、フリーナが頭を撫でて慰めてくれた。
そしてそのまま何故かリナリアさまの精霊さんと口論が始まった。
フリーナ以外の精霊さんを見たのは初めてだったので驚いた。
だがそのフリーナの発言で、リナリアさまが私の事に疑問を持ったみたいでどういう事なのか尋ねられた。
私は掻い摘んで今までの事を説明した。
「あの、ここって地球じゃないって本当ですか?」
私は知りたくないけど、聞かずには居られないこの質問をした。
だってこの人達、『スマホ』って呟いたから。
お屋敷のメイドさん達は誰も知らなかった。それどころか正確に発音できない、聞き取れない単語みたいな反応をしていたのだ。
だが、この質問はこの二人の間でも内緒だったのか、リナリアさまも驚きながらラナちゃんに聞き返していた。
「スマホ、知ってますよ。リナ様も知ってるでしょ?」
ラナちゃんがため息と共に教えてくれた。
「スマホ!あるんですか!?じゃあウチに連絡出来ますか!?」
お母さんお父さんに連絡出来ると思って勢い込んで尋ねたら、知ってるだけで持ってないと。それどころかリナリアさまは日本で既に亡くなっていて、こちらで生まれ変わったと。転生って言うらしい。ラナちゃんも転生だって。
私は…死んだの?でもキャンプで遊んでたそのままの格好でこちらに来たから…死んで生まれ変わってない。
そういうのは転移って言うのか。
そしてここは地球とは違う世界。
異世界。
やっぱり……もう帰れないのね。
そんなショックに呆然としていたらいつの間にか二人とも身体を拘束していた袋を切り裂いて立ち上がっていた。
私の拘束袋も切ってもらい立ち上がった。
そういえば今年の運動会で袋に入って競走する競技をしたな...懐かしい。
そんな何気ない事を呟いたら、ラナちゃんが物凄く嫌そうな顔をして、
「……嫌な思い出が蘇ってきちゃいましたよ……せっかく忘れてたのに…」
と呟いた。
袋競技中に転んだのかな?
……異世界転移した小学生って、多分大変だろうね 。
運動会で袋に入ってぴょんぴょん飛ぶ競技やったわ〜
彼女はこの先どうなるのか…( ≖ᴗ≖)ニヤッ




