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捜索


「坊っちゃま、おはようございます。」


ルイザの声と天蓋を開けて差し込んでくる光に起こされる。

寝れないと思っていたがいつの間にか眠っていたらしい。

寝不足気味でいつもの様になかなかしゃっきりしない僕をルイザが手早く着替えさせてくれる。

「大丈夫ですか?よく眠れなかったみたいですね。」

「うん。」

「リナリアお嬢様のことは私共も聞いています。ご心痛お察しします。」

「……」

一晩寝ても、夢じゃなかった。

姉様はどんな朝を迎えたのだろう?


朝食を食べに行くと母様が席に着いていた。

「おはようございます母様。父様は?」

「おはようユリウス。父様はもう出られたわ。」

父様はもう城に出勤したらしい。

母様はゆっくりスープを飲んでいるが、元気も無く顔色も良くない。

スプーンも三回に二回は口まで辿り着かずに皿に戻って行く。

僕が朝食を食べ終わる頃には母様も食べ切るのを諦めたのか半分ほど残して席を立った。


僕は運動用の服に着替えて訓練場に移動した。

父様が指示した騎士団は日の出と共に姉様の捜索に向かったらしい。

見習い騎士達が騎士団員の訓練用の道具を用意している所に、一人だけ所在なげに立っているタキの元に向かった。


僕に気付いた騎士達が口々に挨拶してくれるのに軽く挨拶を返す。

王城の騎士団とは違い堅苦しい挨拶はしなくてもいいと、父様が決めたからうちの騎士団では皆立礼だ。

これは屋敷の使用人全員に適用されていて、騎士団だけでなくメイドも門番も庭師も皆、軽い会釈で挨拶とみなしている。

お客様がいる時はきちんとする様に言っているので、これは身内の挨拶という感じだ。

シャルマーニ家の騎士団やメイド達、下働き達は原則シャルマーニ家の敷地内に有る集合住宅か本館に住んでいる。

特に下働きの者たちは結婚して子供が出来ても家族ごと敷地内に住んでいる場合がほとんどだ。

その場合家族ぐるみで何かしらの仕事をして貰っている。

下働きの子供たちの一番人気は騎士団だ。

うちでは子供のうちは騎士団見習いの下で体力作りと、執事による読み、書き、計算、マナーの勉強を日替わりで教わる事になっている。

子供の教育をしっかりやる事で将来の有能な人材にしているのだ。

僕は王城でカインと勉強をしていたから知らなかったのだが、姉様はちょくちょくこの子供たちと従業人用区画で走り回って遊んでいたらしい。


タキの側に辿り着くと周りの様子を見て察したのか、挨拶をしてきた。

「お、おはようございますっ、ユリウス様。」

緊張気味に上擦った挨拶にうなづき、

「おはよう」

と、返事をする。


昨日騎士の一人が「引き取る」と言っていたが、もし彼の妹が無事に帰ってきたら二人共引き受けるのだろうか……?


そんな埒もないことを思いながら彼を見る。

身だしなみを整え、服はうちで支給している見習い子供服を着ている。目の下のクマを除けば周りの子と遜色は無い。


「君も……よく眠れなかったみたいだね。」

僕も彼と同じように酷い顔色をしているのだろう。

タキは僕の言葉にグッとこらえる顔をして、僕を見た。

正面から僕を見た彼はハッとして開きかけた口を閉じ、俯く。

「ユリウス様も……心配……ですよね。」

「……うん。だけど、僕らがやれる事は父様が既に手を回している。……ただ待つのは辛いな……」

「……はい。」

二人して重いため息をつく。

「僕らがこうしていてもしょうがない。とりあえず今日は剣術の練習をするぞ!」

よしッ!と気合を入れて声をかける。


それから見習い達と一緒に基礎訓練をした。

タキは見習いのその下、見習い未満の子達と一緒に体を動かしていた。

タキは体力はあったが、日頃の栄養状態のせいかスタミナが足りず、時々休みながらも一通り訓練メニューは体験した。


侯爵家の騎士団は外からのスカウトで入団する人と、使用人の子供が訓練に参加して見込み有りと判断されそのまま騎士団入りする場合と有る。

だから騎士団見習いの下にも小さな子供が一緒に訓練に参加しているので訓練メニューには幅が持たせてある。

そもそも筋力と持久力と瞬発力を鍛えるのが見習い未満の子供たちのメニューだ。

タキもその中ではそんなに見劣りするほどのレベルではなかった。


午後はタキの学力を見るために僕の勉強部屋に連れてきた。


簡単な果物の名前を読む事は出来るが、後は全滅だ。


そうか、文字というものは必要としなければ覚えられないものなのだな。


僕は貴族と平民の格差を見せつけられた気がした。


文字には苦戦したが計算はそこまで苦労はしなかった。とは言ってもごくごく簡単な足し引きだが…数字を覚えるのに多少苦労したぐらいか…。

僅かなアドバイスで理解していく様を見るのは少し面白いと思った。



夜、父様が帰ってきた。

僕と母様は先に夕食を済ませていて、父様の帰りを待ちわびていた。

父様の食事や着替えが終わった頃、執務室に呼ばれたので僕は矢も盾もたまらず走り込んだ。


「父様っ!姉様は?姉様は無事だったんですか!?」

今日一日の不安をぶつけるように尋ねると、父様はギュッと目を瞑り、絞り出すように呟いた。

「リナリアは…行方不明だ。」

「…ッッッ!?」


行方…不明!?

行方不明ってどういうことだ?

え?

だって陰の者が付いているんだろう?

なら、今日中に救出出来るんじゃなかったのか?

まさか……失敗した?

救出出来なかった……?


「まさか……死……」

「違うッ!!……そうではない。」

震える声で思わずもれた不吉な言葉を父様は強く否定した。

「はっ…そうですよね…え、ではどういう事ですかッ!?」

「私も報告を聞いたが良く分からないのだが、リナリアは昨日の夜にはちゃんと居場所を特定出来ていたらしいのだが、騎士団の到着と同時に屋敷に踏み込んだ時、何故かリナリアともう一人…おそらく一緒に攫われた平民の少女だけが居なかったと。」

「まさか……夜のうちに姉様達だけ移動させた……とか?」

「それが誘拐犯達も知らないというのだ。まあそれが演技か事実かは今頃じっくり聞いているはずだが…嘘をついているようには見えなかったらしい。」


姉様が…消えた!?

捕まってる状態から…どうやって…?

いや、でも。

前世の記憶とかで何とかした…とか?

まさか……


「…精霊魔法……?」


僕のつぶやきに父様は、ハッとして頭を抱えて机にもたれた。

「…有り得る。あの子の時々驚く程の行動力が、今回も発揮されたのなら…だが、側で隠れていただけなら、すぐに出てきて保護を求めれば良いのに……」

「つまり朝にはもう屋敷の側には居なかった?」


陰の者の監視を掻い潜って夜明け前に屋敷から脱出した……だと!?

姉様…侯爵令嬢だよねッ!?

行動力ありすぎじゃないッ!?

あぁいや、まだそうと決まった訳じゃない…

訳じゃないけど……

限り無く正解な気がする……


「と、いうことで、だ。」

僕がぐるぐる考えていると、父様が気まずそうに嫌そうに言葉を発した。

「リナリアを見つけるためにお前に探しに行って貰いたい。」

「僕に…ですか?」

「ああ。今回の犯人はもう捕縛してあるし、指示した者も目星は付いているからもう動けまい。なのでお前の精霊魔法でリナリアを見つけて欲しい。」


なるほど……

僕と姉様の精霊は範囲内に入れば位置が分かるからね。

たしかに騎士団や陰の者達が闇雲に走り回るよりは確実だろう。


「明日、馬車と護衛を手配しておくから午前中には出発してくれ。万が一見つからずとも五日後には屋敷に戻って来るように。」


「……五日……?」


「そうだ。リナリアの行動力とお前の捜索力、往復の距離を考えると五日が限界だ。」

父様はとても険しい顔で僕にそう言った。


五日……

王都から出たこともないのに、外泊五日……


僕はゴクリと生唾を飲み込んだ。

父様の覚悟が伝わってくる。

父様だって他の手段が有ればそちらを選んだんだろう。

だが、精霊魔法で気配を消してしまえる姉様を見つけるのは無理だと判断したんだ。

僕も、大好きな姉様を見つけたい思いは一緒だ。

五日か……探そう!


「分かりました。明日から探しに行ってきます。」

僕はぎゅっと拳を握り締めて父様に宣言した。

「ユリウス、お前だけが頼みの綱だ。無理せずリナリアを探してくれ。」

そう言って父様は僕を強く抱き締めてくれた。

「では、明日からの準備に取り掛かります。」

僕は慌ただしく執務室から自室に戻り、ルイザと相談しながら旅支度を大急ぎでまとめた。



翌朝馬車に荷物を乗せて母様に挨拶をする。

父様はもう王宮に出仕していて家にはいない。

玄関で一向に離れる気配のない母様のハグにそろそろ無理にでも離れようかと思った時、門の方が騒がしくなった。

エントランス脇の小部屋から転けそうになるほど急いでハンスが出てきて叫んだ。

「馬車がッ予定の無い馬車が入ってきましたッ!!」

予定のない馬車!?


玄関から出て門の方を見ると通常よりはるかに速い速度で、こちらに向かってくる馬車が有る。

「母様は中に。僕が要件を聞きます。」


門番が通したという事は、それ程害のある馬車では無いのであろう。

……ん?

あれは……王宮馬車では…?


エントランスに入ってくる時には普通の速度になった馬車を迎える。


ドアが開き、飛び出してきたのはいつもの変装用の格好をしたカインだった。


「ユリウス!僕も行くからッッッ!!」


「ーーーー…はっ???」


シャルマーニ家の全員が硬直した。


「殿下ッだから俺より先に馬車から飛び出すのはやめて下さいっていつも言ってるじゃないですかッ!!」

その後ろから文句を言いながら何時もの護衛のアルフレッドが降りてくる。

そのまた後ろから深緑色の髪を後ろでお団子にした落ち着いた女性が降りてきた。

呆気にとられた僕の前でカインが言った。

「ユリウス、僕もリナリアを探すから!大丈夫。おじい様の許可はちゃんと取ったから!」


おじい様の許可……

おじい様って…国王陛下の許可!?


「な、何で……国王陛下がこの件をご存知なんだ?」

「……あっ。」

僕の言葉に露骨に視線を逸らすカイン。

そこに最後に馬車から降りてきて、カインの後ろで控えていた女性が言葉を挟む。

「失礼いたします。お初にお目にかかります。私はカイン王子殿下の侍女のメアリーと申します。」

控えめなカーテシーと挨拶をしてカインの侍女のメアリーが顔を上げる。

「今回カイン殿下から最長五日の捜索とお聞きいたしております。ご息女様の事ご心中お察しいたします。こちらも極力目立たずに協力せよとの国王陛下からの指示をいただいておりますので、侯爵家の馬車に同乗させていただきたく存じます。よろしいでしょうか?」

侍女メアリーは無表情のまま、聞いてきた。


よろしいでしょうか?って……

この状態でよろしくないですって言えないじゃん!?


僕は半ば気圧されながら了承した。


仕方ない。

詳しい事情は馬車の中で聞くとしよう。


「ユリウス!僕が乗るのはユリウスと一緒だからな!」

「そりゃそうですよ!急に馬車一台追加で準備なんて無理ですから!」

カインとアルフレッドがそう言いながら、僕が乗る予定の馬車に乗っていった。


荷物の載せ替え指示が終わったのかメアリーさんも僕の侍女のルイザの横で待機している。

馬車は詰めれば六人乗れるが、今回用意した馬車は二台。

ルイザとメアリーさんは二台目に乗ってもらおう。

護衛に騎士が四人並走するので荷物も結構いっぱいだ。


「では母様。行ってまいります。」

「気をつけてね。」


突然の出来事でさっきまでの離れ難い想いは薄れたのか、今度はすんなりと見送ってくれた。

僕は出立の号令をかけ、シャルマーニ邸を出発した。

お転婆なお嬢様は大人しく助けを待ってられなかったのか?

実は陰の者にも気付かれずにさらにどこかへ連れ去られたのか?

捜索に子供を出さなければいけないパパとママは辛いよね。

そこに何故か乱入する王子様。

マジか(´・ω・`)…oh


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