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誘拐 少年の事情

下町の少年ーータキは駆け足で炊き出し所に向かっていた。

今日は週に一度の炊き出し日なのに、飲んだくれで日常的に暴力を振るってくる実の叔父にアレもコレもと用事をさせられていたのだ。

妹のラナは何とか午前中に解放してやれたのだが、それが気に入らなかったのか仕事を増やされてしまい、炊き出し時間に間に合うかどうかという時間でやっと解放された。


「くっそぉ…なんで俺はまだ子供なんだッ」

走りながらも色々な愚痴が口から漏れ出る。

「大人になれば!きちんと働ければ!あんな飲んだくれと一緒に居なくていいのにッ!!」

タキがものごごろがついた頃、父が過労で死んでしまった。それから母が一人でタキとラナを育ててくれていたのだが、その母も去年の冬に病で死んでしまった。

このサラル王国では子供が最低でも十歳になるまで、血縁関係の有る親族が保護責任者となり養育義務を負わなければならないという法律が定められている。

それまで農村部で暮らしていた二人は母の兄が王都に居ると役人に知らされ、この下町で初めて叔父と対面した。

だが血の繋がった実の叔父は実家を出てから母と連絡を取っていなかったらしく、向こうも突然子供が二人も現れ養育義務があると押し付けられた事に非常に驚いていた。

初めは戸惑いつつも何とか生活しようとしていたが、その日暮らしのような叔父の生活では突然の生活費の増額に耐えられず、次第に生活も心も荒んでいき、半年も経たずにそのストレスを原因となった二人にぶつけるようになった。

最近では苛立ちのこもった舌打ちと冷たい眼差ししか向けられない。

結果、食事もまともに食べれず、週に一度の炊き出しが二人が生きる為の頼みの綱だった。

だから持ち帰れる干し肉と乾パンは本当に重要なのだ。

叔父自身は低賃金ながらも仕事をしているので食事も外で食べたりしているのだが、最近は稼いだお金のほとんどが自分の呑み代になっていて二人の生活費に回ることは無い。


それでもシラフの時はまだいい。

気に入らないながらも小金を稼ぐための仕事を受けて来て押し付けてきたり、家の雑用を命令されるくらいだ。


ーーー酔った時が最高にヤバい。


前触れもなく殴られるのは当たり前。

腹や背中を蹴ったり踏みつけられたりする。その暴力は自分だけでなく妹にも向けられるのだ。

タキも動けるうちは妹を何とか庇おうとするのだが、身動き出来なくなるまで暴力を振るわれるとどうしようもなく、床に転がったまま、ラナが動けなくなる程痛めつけられるのを見ている事しか出来ない。

一度叔父から逃げて二人で暮らそうとしたのだが、すぐに王都の警備員に補導され叔父の元に帰された。

二人は別の血縁関係者が居ないのか尋ねたが、その時に知らされたのはタキとラナの血縁関係者は叔父だけしか居ないという事だった。

つまり叔父と離れるには、タキが十歳になり冒険者として稼ぎ生活していくか、叔父が死ぬしかないという事だ。

叔父が死んでしまい天涯孤独となれば孤児院に入ることが出来る。だが孤児院も二人一緒に入れるわけではないらしく、男女で別の孤児院に引き取られるらしい。

そうなればタキもラナも離れ離れになってしまいその後どうなるか分からない。


だからどんなに辛くても叔父の家の片隅で暮らさなければならないのだ。


「あと二年……」


あと二年で十歳になる。

冒険者ギルドに登録出来るのは十歳からだ。

ギルドに登録すれば何かしらの仕事を回してもらえる。そうすればお金を貯めてラナと二人で暮らすこともできるだろう。

ラナはその時はまだ叔父の保護下に居ないといけないかもしれないが、一年くらい俺が匿ってやる!

その為にも週に一度のこの炊き出しでしっかり栄養を取っておかねば、叔父の暴力に耐えられない。


タキは首に巻いた緑のマフラーをギュッと握って足を早めた。



数ヶ月前の寒くなりかけた頃。

いつもの炊き出し所に子供の貴族が来た。


食事をして携帯食を貰って帰るだけだった炊き出し日なのに、その日は簡単な手伝いをしたらマフラーが貰えた。

最高に可愛い貴族のお嬢様が、平民以下の俺の手をわざわざ握って、しかも手作りのマフラーやら帽子やらをプレゼントしてくれた!

俺の首に直接マフラーをかけてくれた時のあの柔らかな空気。

ふわりと漂ってきた香り……

今でも思い出すだけで顔が熱くなる。


リナリア様……お元気だろうか……


また、炊き出し来てくれないかな……


走りながらつい思考がそちらに向かう。

嫌な事や辛いことは、幸せな記憶に差し替えてやり過ごす。

タキの心を守る方法だった。



そんなほわんとした事を考えながら走っていると、細い隙間の向こうから少女ものと思われる声が聞こえた。

「ぅん?」

その声がいつも殴られる時のラナの短い叫び声に似ていて、タキは足を止めて声の主を確かめようとその隙間の向こうを覗き見た。

人が通れないくらい狭いのその隙間の向こう側の通りに、さっきまで脳裏で微笑んでいたお嬢様と同じ顔があった。


「……えッ!?」

驚いてよく見ようとその隙間に顔をくっ付けて覗き込むと、その少女の身体が前に傾き、倒れる寸前、誰かの腕に受け止められた。そして少女はズタ袋を被せられた。

あっという間に袋に入れられた女の子は抱えられ隙間から消える。


「……ッッッええッ!?」


今見た事が信じられなくてかたまる。

心臓がドクドクと大きな音を鳴らす。


「リナ……リア様……?」


いやいやそんな馬鹿な。

彼女は貴族のお嬢様だぞ!?

なんでこんな下町にいるんだ?


……倒れたよな。

……袋、被せられ…た?

……………………誘拐?


えッッ!?

誘拐ッッッッ!?


タキは我に返って急いで走り出し、先程見えた向こうの路地に向かった。


四軒分の家の前を走り抜け角を曲がり、次の角から目的の路地に走り込もうと角を曲がった時に、その細い路地からこじんまりとしたよくある形の荷馬車が飛び出してきた。

馬車のあまりの勢いにすんでのところでたたらを踏んで尻もちを着くタキは、間一髪馬車に轢かれずに済んだ。


「ッッッっぶねぇ…!!」

尻もちをついたまま呆然と馬車を見送っていたが、正気に戻った途端、少女の姿を求めて路地を見た。


だがそこには既に何も無かった。


「……マジか……ッ!」


タキはさっき轢かれそうになった馬車を探そうとしたが、もう既に見えなくなっていた。

タキは今までで一番の速度で炊き出し所に向かって走っていった。


見間違いだと思う。

でも、万が一、本人だったら?


お貴族様に関係無かったら?


でも、女の子が攫われたのは間違いないはずだ!


タキは炊き出し所に走り込み、以前も見たパンを配る天使のような少年を見て、嫌な予感がさらに強まった。

「あ、あのっっっ!!」

荒い息を整える暇も惜しんで天使な少年に直接声をかける。

「ハイハイ、慌てないで。ちゃんと君のパンも残っているよ。」

天使な少年は驚きながらも苦笑し、パンをくれようとする。

「あ、いえ、あの……」

男から見ても綺麗な笑顔に出鼻をくじかれ言葉につまる。


なんと言えばいいのか……

彼の態度はあまりにも普通で…

やっぱり気のせいなのか?

じゃあ、お嬢様はここに居て、だから彼らは普段通りでいるのかも……

でも、アレが見間違いとも思えない!


戸惑いながらも小声で問いかけた。

「あのっ……リナリア様は……」

僕がお嬢様の名前を出した瞬間、天使な顔で話を聞こうとしてくれたお坊ちゃまの笑顔がスっと鋭くなった。

「平民が、貴族の令嬢のファーストネームを軽々しく口にしてはいけないのだぞ?」


ヒュッっと呼吸が止まる。

口調は静かだが、酔って殴ってくる叔父よりも数倍怖い…


「それで?リーナになんの用が?」

冷たい顔でお坊ちゃまが聞いてくる。

タキは恐怖で上手く呼吸が吸えず、溺れた魚のようにはくはくとしていると、お坊ちゃまの後ろからもう一人のお坊ちゃまが現れた。

「何、平民の子供いじめてるんだ?」

サラサラのプラチナブロンドにアイスブルーの瞳のお坊ちゃまはタキを見て、首に巻いてある緑色のマフラーに目をとめた。

「虐めてなんてないぞ!?」

「そうか、それはいいとして、君、タキ…という名か?」

プラチナブロンドのお坊ちゃまは軽く天使なお坊ちゃまをいなして、タキの名前を口にした。

「ッは、はいっ!」

驚きすぎて声が上擦った。


なんで?

なんで貴族に俺の名前が覚えられてんだ!?


タキはパニックを起こしかけていた。

「そうか。君の妹…ラナ、だったか?から伝言を預かってる。」




姉様が平民の少女ラナと冒険者パーティのリーダーであるゴルツをお供に、子供に携帯食を渡すため出ていってからしばらくして、炊き出しもそろそろ終わりかという時間に差し掛かった頃に少年が走り込んで来た。

少年はパンを配るカインになにか喋りかけた。

その途端、カインの気配が殺気立った。


何を言ったか知らないが、平民の子供とはいえ貴族を怒らせてはいけないと教えられていないのか?

……いや、何が不敬か分からないのかも?

それにしてもカインは殺気立ちすぎだろう?

王族があまり短気では将来差し障るぞ!?

可哀想に、平民の少年は呼吸も出来なさそうなくらい顔面蒼白になってるな。


姉様が居たらきっと止めるよな……

…………止めに行くか……。


僕はカインに近付いて声をかけた。

「何、平民の子供いじめてるんだ?」

近付い少年を見たら緑色のマフラーに目が行った。


アレ?

この少年……さっきあの少女から伝言頼まれた子じゃないか?


カインが何か言ったがそれはいいとして、

「君、タキ…という名か?」

僕が聞くと、飛び上がらんばかりに驚いて少年が返事をした。

いや、そんなに驚かなくても…

まあ、いいか。

「そうか。君の妹…ラナ、だったか?から伝言を預かってる。」

「え、ラナから?……伝言!?」

おお、驚いてる。

まあそりゃあそうだよね。

平民の子供が貴族の僕に伝言を頼むなんて不敬以外なんでもない。

僕も姉様のあの無茶が無ければこんな使用人みたいな事はしなかったんだが…しょうがない。

「ああ、彼女は姉様に連れられて、今日来ていない子供の家に直接携帯食を配りに行っている。」

「「はぁッ!?」」

僕の説明にカインとタキが驚く。

「えっ?じゃあリーナは?今居ないのか?」

驚いたカインが矢継ぎ早に質問してくる。

「護衛は?いつ出かけたんだ!?僕全然知らなかったんだけどっ!?」

「落ち着けカイン。姉様は三十分前位に彼の妹のラナと冒険者パーティのリーダーのゴルツの三人で出かけたよ。」

僕の言葉にタキは真っ青になった。

「じゃあ……じゃあやっぱり、気のせいじゃないのか…?」

尋常じゃ無い様子のタキを訝しげに見ると、彼はバッと顔を上げて僕らを見た。

「あのッ実はさっき、お嬢様に似た女の子が攫われるのを見たんですッッ!!」

「「はぁぁ!?」」

タキは自分が見たことを僕らに話してくれた。

「……先ず、誘拐とか有り得ないだろ?護衛に冒険者がついて行ったんだぞ?見間違いじゃないのか?」

呆れた口調でカインが言った。

たしかに、僕もそうだと思う。


(ユーリ!その子の言う事嘘じゃないかも!?)


焦った声色で僕の精霊のアリエスが脳内に響いた。

滅多に人前で話しかけてこないアリエスの言葉に驚きながらも理由をたずねる。

(アリエス、どういう事?)

心の中で返事をする。

(フーカの…リナリアに付いてるフーカの気配がすごい速さで遠ざかってるんだ!!)

焦り方と言葉の内容にさらに驚く。

ビクッとするカインを見るに、カインの精霊シェリーもこの事をカインに話しかけているらしい。

「タキ…詳しく話を聞きたいから奥に来てくれ。」

「あ、はいっ!」

カインの懐疑的な言葉に不安そうにしていたタキは、僕が話を聞くと聞いて力強く返事をした。

「君、すまないが、彼を奥に連れてきてくれ。」

僕はパンを配る窓から外を見て近くに立っていた手伝いの冒険者の一人に頼む。

そしてスープをよそっていたメイドの一人に声をかけ、

「少年を一人、奥のテーブルに案内してスープとパンを食べさせてくれ。」

そう指示して、僕はカインを連れて二階に移動した。


姉様が誘拐された!?

誰が?

どうやって?

何のために!?


いやいや、落ち着け。

先ずなにをすべきだ?

追いかける……には馬が要るな…

ここには荷馬車用の馬と僕らが乗ってきた馬車用の馬がいる。

馬車で追いかけるとすると、カインをどうやって王宮に帰すか……

当たり前だが、連れては行けない。

姉様を連れて行ったという事は何かしらの理由があるだろう。

すぐに殺される事は無い…と、思いたい。

連れ去った理由が姉様個人が目的か……あるいは侯爵家に何か有るのか。

怨恨は……無いとは言えない。

姉様……無事なのか?

何か危険な目に合わされてないといいが…

そもそも姉様だけが狙いだとは限らない!

僕も誘拐の対象だったかもしれない。

カインは……?

いやだが王子が今日の炊き出しに居るなんて知らないはずだから、王子であるカインを狙ったとは考えづらい……

あああああああッ!!

すぐに追いかけたい!!

だが、カインを王宮に帰さなければ……

ここの撤収も…

ともかく、使える人員が足りない。

屋敷から応援を呼ぶか?

あ、父様に連絡しないと!!


「…ウス!ユリウス!」

カインが肩を揺すって呼びかけてきた。

「ッ!?」

ハッ!!……いけない。

考え込んでしまった!


僕は出来るだけ落ち着いた口調で返事をする。

「……何?」

「全部口に出てるぞ!?」

「……ッ!?」

思わず両手で口を押さえる…が、既に遅い。


ーー小声で忠告されるまで、自分の思考を口に出して呟いていた事に気づかなかった。


二階の部屋に入り、二人でソファに座り込んで大きく息を吐き出す。

「はぁぁ…すまない。どうも混乱しているようだ。」

「そうだな。…シェリー、本当にリーナは誘拐されたのか!?」

二階の部屋には僕ら二人だけしか居ないのを確認して、カインは自分の精霊にたずねた。

「う、うん……誘拐かどうかは分からないけど…すごい速さで遠ざかってる。」

カインの肩に姿を現した精霊のシェリーは差し出されたカインの手のひらの上に立って僕にも聞こえる様にそう言った。

「すごい速さ……つまり馬車に乗ってるというわけか?」

カインが確認する様にたずねる。

「う…ん……今も移動してる……」

シェリーは目を閉じて何かを探るように集中しながら答えた。

「ユーリ、もうすぐ僕らの感知出来る範囲からフーカの気配が外れるよ!」

「「ッ!?」」

「ユリウス!これはもう僕らだけじゃなんともならないぞ!?」

「わかってるっ!!…でも何から、どうすればいいんだ!?」

焦りのあまりカインの言葉に強く言い返してしまった。

「……ユーリ、アルフレッドに相談しよう!」


アルフレッドに相談……つまり姉様が誘拐された事を相談するという事。

たしかに僕らでは焦るばかりでどう行動すればいいのか分からない。

大人であるアルフレッドに相談出来れば、多少なりともアドバイスが貰えるだろう。

だがそのためには姉様が誘拐された事が事実だと説明しなければならない。

根拠がアリエスとシェリーの証言である今の状況では必然的に精霊の事も言わないと……


「大丈夫だ、ユーリ。アルフレッドは僕にシェリーが居ることを知っている。」


何…だと…?


「ユリウス。今は僕を信じてアルフレッドに相談しよう!」


悩んだ末、僕はカインの提案にうなづいた。



おっと、ここに来てまさかの展開!?


リナリアはどうなったのか!?

状態異常:ダイコンラン のユリウスは使い物になるのか!? SAN値がピンチだ!


どうなる?続きは………………まだ白紙だ(笑)

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