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ご褒美お茶会 そして年末へ……

サラル王国では冬の間が社交シーズンである。


中央に仕事がある貴族は王都に屋敷を構え王都に住んでいる。

領地持ち貴族は当主本人か、継嗣または親族が領地を経営しているので領地にも王都にも屋敷を構えている。


冬の社交シーズンは普段王都に居ない領地持ちの貴族が年に一度、王に挨拶をするためにやって来る事になっている。

シーズン初めはそれぞれの領地から来た貴族が国王に夏の間の自領の事を報告する。

もちろん詳しい報告は国王ではなく国税庁の役人に提出するのだが、それ以外の話をしながら国王との面会が主な目的である。


王宮からのお茶会の招待状を受け取る年頃の子供がいる親は、王宮子供お茶会に参加するので前もって王都入りしていたりする。

そうでなくても雪が降り始める前までには大体の貴族は王都入りしている。なので秋終わりから春の雪解け位まで王都の人口は過密状態なのだ。


社交シーズン中の大人達は王都のお屋敷でお茶会や夜会、舞踏会を行って親睦を深めたり情報をやり取りしたりする。

そして年が明けたその日は王宮で行われる新年会がある。これは全ての貴族家の当主または当主代理が出席せねばならない。

王宮新年会では国王陛下から新年の挨拶や昨年の功績や報奨の発表、人事の変更など大事な連絡がある。もちろん後日文章でも配布されるが、直接渡される褒美なども有るのでとても重要なイベントだ。


この王宮新年会が終わると各々の家で新年を祝うパーティーが行われる。身内だけの会も有れば派閥の会も有る。

そして社交シーズンの締めくくりに王宮舞踏会が行われる。

領地を持っている貴族家のほとんどはこの王宮舞踏会を最後に各々の領地に帰っていく。


貴族の子供達は王都の邸宅で暮らす子も居れば、領地で暮らす子も居る。

子供でも学園に入っている間は長期休暇以外は基本的に学園の寮暮しとなる。そのためこの新年を挟んだひと月程は冬休みとなり、貴族の学生も平民の学生も各々の家に帰って来ている。

社交シーズンが終わるより前に冬休みは終わるので学生が王都に居るのはほんのひと月程度だ。


「つまり何が言いたいのかと言いますと、先日兄が学園から帰ってきまして、とても居心地が悪いのです!」


王族のプライベートサロンで行われている王子主催の『ご褒美お茶会』は、最年少のオリバー=スチュアートの自分勝手な暴走で失敗に終わるかと思われたが、シャルマー二侯爵令息の指導とカイン王子の恩情で一気に緊張感が緩和し、何故か各家庭のおもしろ苦労暴露話大会になっていた。


今、語気を強めて話しているのはエルトン伯爵の次男のポリット(十歳)だ。

彼の兄は二歳年上で今年学園に入学した。

そこで出会ったある令嬢にすっかり夢中になってしまったのだという。

その結果、帰省して来てからずっと、ずっと、ずううううぅぅぅっと、そのご令嬢の話をしてくるというのだ。


最初は兄にも春がっ…と、微笑ましく両親はじめ使用人一同うんうん、と聞いていたのだが、食事時も食べ物をフォークで一つ刺しては彼女はコレを美味しそうに食べていただとか、コレは食べている所を見たことが無いが彼女は好きなんだろうかとか、宿題をやりながらもどんなペンを持っているとかどんな風に授業を受けていたとか……


「兄には悪いですが、もう、ほんっっっとにどうでもいい事ばかり!」

うんざりといった顔でそう吐き捨てる。

「僕も両親も彼女の情報はもうお腹いっぱいなんですよ……本当に聞きたいのは彼女の生活ではなく、お兄様の学園生活なのに!」

エルトン伯爵子息の兄の話に全員苦笑だ。

兄姉の居る家庭では心当たりのある話なのかもしれない。


姉様も今度の夏明けから学園に通う事が母様によって決められた。


姉様……学園に入学したら、こんな風に知らない男に逐一観察されたり言い寄られたりしちゃうのかな……


うわっ、ものすごく嫌なんだけど!

そんな状況、許容できないし!

でも姉様、見た目は美少女だし……

……あああああ!

ものすごく不安になってきた…!!


ユリウスが心の中で姉の心配をして顔色を変えている横でカインが呟いた。

「……恋とは……恐ろしいものだな…」

そのつぶやきは、各々微妙な表情の令嬢令息の間に響いた。

「恋は、恐ろしいものですよ……」

カインのつぶやきを拾ってマルラール伯爵令嬢が呻くように言葉をこぼす。

「?」

その言葉に全員が彼女を注目すると、ハッとして口を抑えた。

「何か、あるの?」

隣に座っているロンベルク伯爵令嬢が話を促した。

マルラール伯爵令嬢は少し躊躇って、それから話し始めた。

「私の姉はこの春卒業予定なんです。」


貴族は十歳から十五歳のうちに学園に入学する。

必須課程の試験で合格を取れていれば最短で二年で卒業できる。

貴族の在学平均は三年程だ。

卒業する生徒はこの冬休みに家族に知らせると、卒業式までに色々準備をし始める。

学園の卒業式は王宮舞踏会の前日だ。

卒業式は午前中で終わり、午後は夜の卒業ダンスパーティの準備に追われる。


「卒業式の夜のダンスパーティーのエスコート相手って普通婚約者じゃないですか…」

「そうね。」

ロンベルク伯爵令嬢が相槌をうつ。


学園を卒業する年頃だと、大抵の貴族令嬢は婚約者が決まっている。

卒業して数年後に結婚という流れが貴族の基本となっている。

なので卒業式の夜のダンスパーティに出席するのに、エスコート相手が居ないという事はなにか問題が有ります、と公言しているのと同義で、とても目立ってしまうのだ。


「お姉様……何をとち狂ったか、突然婚約破棄して、平民の男性をパートナーにするって言い出したんですッッッ!!」

「「「ッッッ!?」」」


全員、絶句した。


「しかも、その平民を我が家の、む、婿にするってっ!」


衝撃が大きくて言葉も出ない。


「お姉様は、もう誰が何を言っても聞き入れず……部屋に閉じ籠ってしまって……」

マルラール伯爵令嬢は両手で顔を覆って高ぶった気持ちを落ち着けに入った。

横に座っていたロンベルク伯爵令嬢が宥めるように背を撫でている。

伯爵令息達は「うわぁ……」といった引き攣った顔で固まっていた。


「…で、でもまあ、その平民がとても優秀なら、貴族の養子になるという話も、無くはないでは無いですか?」

僕はあまり普通ではないが、過去にあった例を上げてみる。


それにしても、そんな秘密を喋ってしまってて大丈夫なのか心配になる。


サラル王国では優秀な平民が王宮で政治に参加する事はそんなに珍しくはない。

初代国王が「優秀な人材は広く採用すべし」との方針であったため、王宮で働く役人は貴族ばかりでは無く平民もいる。

また、そんな優秀な平民を見つけ育てる為に王都の学園では貴族も平民も平等に学ぶことが出来る様になっている。


全寮制で学費は王国持ち。

平民が入学する時の年齢制限は無く、在学期間は貴族と同じ最長六年間。

貴族は全員学園に入学しなければならないので、貴族の入学時に試験が行われることは無い。

だが平民の場合は、最低限の読み書き計算とマナーを履修済みという証明書と、学園への推薦状を持参の上、入学試験に合格せねば入学できない。

なので学園に通える平民は、ある程度余裕のある暮らしをしている商家の跡取りとか、貴族の屋敷で働く家人で将来性を見出された子供や青年とかである事がおおかった。


なので平民とはいえ学園生ならば、貴族籍に入ることも夢では無いのである。


「そういった方が見えるのは知っています……ですが、お姉様のお相手は…貧民の出らしいのです。」

「「「「…ッ!?」」」」

「……それはまた……」

マルラール伯爵令嬢の言葉に二の句が継げられない一同。


例えば貴族の家に仕えている平民の子供が、その伝で入学したのであったなら、相手の家格にもよるがマルラール伯爵家の出方次第では結婚も無理な事では無いだろう。

商家の子供なら、本人の資質次第ではもっと簡単だろう。


だがしかし

貧民の出か……


どんな経由で学園に入学出来たのか気になるが……


ん?

いや、ちょっと待てよ?

さっき婚約破棄してって言ったよな?

相手が貧民出身と聞いて聴き逃してたけど、そんな事よりも問題なのが、婚約破棄された相手の貴族だろう?

貧民と天秤にかけられて袖にされたのだ。

婚約相手本人もだが、その家も相当荒れているはずだ。


貴族社会は本人の感情だけで婚約破棄出来るほど、自由では無い。


もし、姉様が決まっている婚約者を蹴って貧民と結婚するって言い出したらどうしよう……

……

多分、嫌だけど全力で姉様のフォローする自分しか想像できない…


……いやいやいやいやっ!

今はそうではなくてっ!!



「……あ〜、聞かなかった事には出来ないけど、この話はそれぞれの胸の内に閉まっておこうか。」

なんとも言えない沈黙に耐えられずにカインが話を終わらせた。


こうして最初から最後までなかなかに驚きに満ちたお茶会は無事に終わり、お開きになった。


その後、僕とカインはいつもの学習部屋で自分の机に向かっていた。


「…リナリア……来年から学園に入るんだよな……」

机に頬ずえをついて何か考えてたカインが呟いた。

「……ああ。」

僕は今日の出席者と聞いた会話の内容、それと僕の所感を書き出しながら相槌を打つ。

「今日の話…もしそうなったらどうする?」

もしそうなったら……

「姉様が知らない男に懸想される話?それとも……」

「それともの方に決まってる!」

カインの強い口調に、書いていたペンを置いてカインを見た。

カインは頬ずえをつくのをやめてこっちを見ていた。

「どうもこうも、姉様が本気なら僕は応援するよ。」

「だって貧民だぞ!?」

「相手が誰であれ無理矢理な結婚生活なんて姉様にさせたくないからね。」

「そうだけど……いや、でも……」


カインの言いたいことは分かる。

僕ら高位貴族が感情を優先させた結婚なんてほぼ御伽噺だって事も。

だけど姉様に不幸になって欲しくない。

家を継ぐのは僕だし。

姉様が犠牲にならなければシャルマール侯爵家が立ち行かない、なんて事にはならないようにすればいいんだし!


「だって心配じゃないのか!?」

「心配は心配だよ。」

「そうだろう?……僕も来年入学するべきか…?」

「……はぁっ?…なんでカインがそんなに姉様の心配するのさ?むしろ僕が入学したいって思ってるのに!?」

「いやだって、僕にとってもリナリアは姉みたいな者じゃないか!」

「そうかもしれないけど!そもそもカインは姉様の心配する前にベルアーニャ嬢のことを心配しなよ。」

「っ!?…なんでここでその名前を出すんだ!?」

「…ちゃんと気にかけてあげないとまた婚約辞退されるぞ。」

ニヤッと、意地悪く笑ってやり返す。

「フローレンスは心配無いだろう?僕がいるんだし!」

「ハイハイ。」

焦りながらも惚気けるカインを微笑ましく思いながらも適当な相槌をする。


カインは姉様が身分違いの恋に落ちる事を心配してるが、僕としてはよく分からない男に懸想されて付きまとわれるかもしれない方が重要案件だと思う。


本音を言えば姉様と一緒に入学して姉様を守りたい。

その為にルイザにも内緒でこっそり自分で身支度出来るように練習もしている。

もうすぐにでも一人で寮ぐらしが出来る自信がある。


だが、僕は王子の従者だ。

従者は王子と同じ部屋で暮らす。

つまりカインと同時に入学しなければならない。


……あああああ……


何とかならないかな…


何ともならない悩みに身悶えしながら僕の年末は過ぎていった。




お茶会の事より王国の説明の方が長い気がする……


いやでも、大事な事だし!

やっと年末まで来ました(笑)


悩めるシスコンユリウス君は真っ当な彼女ができるのだろうか(汗)

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