王宮訪問 後は若い者同士で....
目が笑ってない笑顔の姉様の言葉にうろたえ出すカインを見て僕は「マジか....」と呟いてしまった。
最初にシャルマーニ邸に来た時のカインを思い出すと、確かに姉様に対しておよそ女の子だからという気の使い方はしてる様には見えなかった。
姉様もそのことに対して特に何の抵抗もなく普通に飛んで走って木登りして....そういえば生き物関係も同じテンションで触ってたな....あの時も巻き込まれて母様に一緒に怒られた覚えがある。
まさかと思うが、あのノリでベルアーニャ嬢にも接していたなら、そりゃ嫌われても仕方がないだろう。
「あ....いや、あの....その....」
動揺して上手く言葉が出てこないカインに全員の視線が刺さる。
シャスリーン王女は呆れた感じでため息をつき、姉様は片手で額を押さえている。
だが、ベルアーニャ嬢だけは呆れとは違う表情を浮かべてカインを凝視していた。
「では....殿下は、あの時....私を楽しませようと、喜ばせようと思って、あの様な行動をしたと....?」
震える声でベルアーニャ嬢がカインに問いかける。
「あ、ああ....。」
うろたえながらカインが肯定する。
「........そうですか....」
ベルアーニャ嬢もそれだけつぶやくと、黙り込んでしまった。
やはりこの二人は少しすれ違っただけなのだろうか?
いやでも、今の気持ちはどうなのだろう?
僕が口を挟む事でもないし....う〜む....
このなんとも出来ない沈黙を破ったのは、やはり姉様だった。
姉様は手をパチンっと叩いて、
「....では、シャスリーン様。この部屋では無い場所を見学させてくださいませ。」
何の脈絡も無く、突然そう言った。
「....えッ!?....こ、この部屋では無い場所ですか?」
めちゃめちゃ戸惑いながらシャスリーン様が答える。
「そうです。私的には、いつもユリウスが勉強している部屋とか、鍛錬している外壁上とか、練兵場とか見てみたいですが....」
「姉様ッ!いくらなんでもそこは無理だよ。」
姉様の要求に僕が慌てて待ったをかける。
「まあ、無理なのはわかってるけどね。言うだけなら良いかな~って」
おほほと手を口に当てて笑う。
そんな姉様に僕は近寄って小声で聞いた。
「突然そんな事言い出して....姉様何がしたいの?」
「ん?カインとフローレンス様を二人きりにして、二人だけでしっかり話し合って貰いたいだけよ?」
....なるほど。
という事は、僕らがこの部屋から出て行けるなら別に何処でも良いということか。
「じゃあ、王宮の中庭とかいかがです?」
僕は姉様ではなく、シャスリーン様に向かって提案してみた。
「中庭....確か、王宮勤めの役人に解放されている所ですね。一応先触れを出しましょう。」
そう言ってシャスリーン様は部屋に控えているメイドを使いに出した。
「....ということで、私達は散歩して来ますから、お二人ともしっかり話し合ってくださいね!」
にっこり笑って姉様が念を押す。
「「えっ!?」」
それまで固まって黙っていたカインも何か考え込んでいたベルアーニャ嬢も姉様の言葉に驚きの声を上げた。
「あら、だって一番大事な事はさっき確認したでしょう?あとはお互いが話し合って気持ちを確認するべきよね?そこに私達はお邪魔じゃない?」
「いや....まあ....そうだけど....」
多少強引では?と思わなくもないが、姉様の圧が強めな言葉にうなずかされるカイン。
その返事に姉様はにっこりと微笑む。
「中庭を見学したらまた戻ってきますわ。そしたら結果を教えてくださいね!」
「「えっっ!!」」
「さ、シャスリーン様、ユリウス、行きましょう!」
驚くカインとフローレンス様をそのままに、シャスリーン様を伴って姉様は部屋から出ていった。
「ちょ、姉様待って!ああもう!カイン、僕姉様について行くからッまた後で!」
僕は一言カインに言って姉様を追いかけた。
僕らはカインとベルアーニャ嬢を二人きりにして中庭に来た。
奥宮から中庭に出るには専用の扉が有る。
ここを通るのには言伝程度の申請を出すだけで通れる。奥宮はそもそも王族のプライベートな宮なのでそこから出るのにそこまで大変な事は無いのだが、扉を開けた外側には衛兵が立っていたので僕は驚いた。
たしかに、中庭は執務宮の役人なら誰でも入れるから、奥宮に通じるこの扉に衛兵が警護に立っている事は考えれば当たり前である。
中庭は胸丈程の高さに揃えた花壇や植木が並んでいて、レンガで整えられた小道が程よく曲がってその花壇の間を縫うように敷かれている。さながら迷路の様な造りになっている。
花木の高さも歩いている人物は見えるが、座ると分からなくなるという絶妙な高さだ。
なので曲がった道の脇に不意にベンチがあったり、小さめの東屋があったりと、中々に凝った造りになっている。
今は冬なので花はとても少ないが、色の着いた葉っぱがその分賑やかに、華やかに彩っていた。
時々ベンチに座って休憩している王宮勤めの貴族や、上司を探して歩いている役人(おそらく平民)に挨拶をされながら、僕ら三人と後ろから付いてくるメイド達の一行は奥宮と執務宮に挟まれた中庭を散策しながら進んだ。
そして気づいたら中庭の端にある柵まで来ていた。
ここにも軽く扉が付いており、鍵などがあるわけでも、衛兵が立っている訳でもないのだが、ここからエリアが変わるという意味的な仕切り用の柵と扉なのだろうと感じだ。
ここからは大きな噴水がメインの腰丈の花壇が並んでいる。小道も先程とは趣きの違った整然とした造りになっている。
見渡すとベンチなどは無く完全に歩いて楽しむためのようだ。噴水は奥の池の端に設置してあり、その横にはやや大き目のガゼボが有る。
ああ、ここは王宮食堂から見える庭なのか。
と言うことは、あの噴水があの時見えた噴水なんだな。
王宮に通い始めて半年。
普段の行動範囲に無い場所は知らなかったので脳内マップに書き加えておく。
「王宮の中庭って結構広いんですのね〜。」
姉様がキョロキョロしながら誰にともなくつぶやく。
この花壇がメインの中庭から更に西側には迎賓館が建っている。
外国の国賓が滞在する為の館だ。
今は誰も居ないが、この庭は迎賓館からも庭伝いに入る事は可能だ。
おそらくその際には先程の仕切り扉にも衛兵が立つことになるのだろう。
噴水の横のガゼボに入り、僕らは座った。
付いてきたメイド達は僕らの声が届かない程度に離れた場所で待機している。
「お兄様達、ちゃんと話し合ってるかしら?」
シャスリーン様が首を傾げて言った。
「そうですね〜でもちゃんと話さないと、お互いの誤解はしっかり解消されませんよ。」
姉様はあちらこちらと見回しながらもそう答えた。
「そもそも初対面の令嬢にあんな非常識な事してるなんて信じられませんわッ!私だって木登りなんて絶対無理っていつも言ってるのにッ」
ぷりぷり怒りながら言うシャスリーン様を姉様と僕が凝視する。
「シャスリーン様にも木登りを強要してたんですか?」
僕がたずねるとシャスリーン様は自分の両腕を抱えて肩をフルフルさせながら言った。
「ええ、ええ。今思い出しても恐怖と怒りが込み上げますわ!お兄様は私を持ち上げて木に押し付けて登れって言うし、ある時は部屋までカエルを持ち込んで私の目の前でご披露してくださるしっっっ!」
「「うわぁ....」」
「もう、本ッッッッ当にあの顔に飛んできたカエル、思い出すだけで熱が出そうですわッ!!」
言いながら両腕をさするシャスリーン様に同情する。
その時にちゃんと学習していれば、今回みたいにはならなかったのに....
誰も止める人間が居なかったのか....?
居なかったんだな....。
「カインぐらいの年頃だと生き物って不思議で魅力的なのよね~まあでも、アウトよね。」
何を思い出してるのかしみじみと姉様がつぶやく。
「お兄様がフローレンス様を気に入っていらしたなんて初耳でしたわ。私にしたことと同じ事をしたと聞いて、あんなに注意されていたのにまたやったのなら余程気に入らなかったのだろうと思っていましたのに....」
シャスリーン様の言葉に付け加えるように僕も遠い目をしてつぶやく。
「彼女を気に入ったからまたやらかしましたなんて、絶対思いませんもんね....」
その時に僕が居れば絶対止めたのに....
「どんなに仲良くしたかったと言っても、ご令嬢が許してくれるかどうか....」
「難しいですわね....」
「難しいだろうな....」
ふぅ....と、僕とシャスリーン様がため息をつく。
「あら、私はカインが誠実に話せば勝算はあると思うわよ?」
姉様が明るく言い放つ。
「「えっ!?」」
「だって登城する途中でフローレンス様にその時の話しをお聞きしながら来ましたもの。」
「ね、姉様、そうなの!?」
「それで?それでリナリア様はどうなるとお思いですのっ!?」
僕もシャスリーン様も身を乗り出して姉様の次の言葉を待つ。
姉様は僕らの勢いに多少面食らいつつ自分の所見を述べた。
「いや、どうなるかは本人達次第だとは思うけど....上手くいってくれると良いなあとは思いますよ?」
だが姉様の答えは煮え切らない物で、当たり前と言えば当たり前な言葉である。
「....?リナリア様はお兄様とフローレンス様が上手くいく方が良いのですか?リナリア様がお兄様の婚約者になりたくは無いのですか?」
姉様の所見を聞いたシャスリーン様が不思議そうにたずねる。
姉様はその言葉にギョッとして
「王子様の婚約者!?いやいや、私には荷が重すぎます!」
と、身振り手振りで全力拒否をする。
姉様....断り方がアウトだよ....
「そうかしら?だってリナリア様はお兄様ともとても仲がよろしいじゃないですか。生き物とかも平気みたいですし....」
シャスリーン様が心底不思議そうに姉様に問いかける。
「たしかに、生物は嫌いでは無いですし、一緒に走り回ったりもいたしますが....どちらかと言うと遊び友達的な?関係だと思いますよ?」
....そうかなぁ?
時々違うんじゃ?って思う時があった気がするけどな....?
そうは思うものの、母があれだけはっきりと王族とのこれ以上の結び付きを拒否しているのだから、僕からは肯定する言葉は出さない。
しかも今の言い分を加味するに、姉様はカインを僕同様弟分としか見ていない。
....うん。
無いな。
無い無い。
「そう....なんですねの。リナリア様みたいなお姉様なら、私も楽しいと思いましたのに。」
シャスリーン様が残念そうに言った。
「こればかりは私達子供の意見だけではなんともなりませんよ。きっと政治とか派閥とかパワーバランスとかめんどくさい事がてんこ盛りに盛られてますからね。」
姉様が軽くははっと乾いた笑いを零しながらで明後日の方を見る。
ウチもそのパワーバランス的な理由で母様に釘を刺されたからな....
「まあそれならば今日の所は親しくなれたという所で納得しておきますわ。またいつでも遊びに来ていただきますけど!」
シャスリーン様がうふふっと笑って納得してくれた....がッ!
「あ、そのッ....」
僕が口を開きかけた時元気な壮年の男性の声がガゼボに響いた。
二人にされてちゃんと話し合えてるのか若干不安な作者がいます。
王宮の中庭....いい運動になりそうですね~
お城の庭と言えば、パリのベルサイユ宮殿の庭はとてつもなく広いですよね。端っこ霞んでた記憶があるな....あんなに広くは無い設定です(笑)