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王宮お茶会 一杯目

お茶会室の窓は大きく、冬の柔らかな日差しが入ってくる。ただ、外に出られるようなバルコニーは無く、中庭にある池の水面を見るためには窓に近寄らねばならない。

高位貴族程、奥の窓に近いテーブルに座るので執務室などが有る城の方の池の噴水は座ったままでも遠くに見える。

柔らかな陽射しを浴びて、サラリとした質感のテーブルクロスがかけられた円卓に五つの意匠の凝ったケーキスタンドが置かれている。

一番下のセイボリーは新鮮なベビーリーフと生ハムのクロワッサンサンドイッチと玉子のフィリングの白パンサンドイッチ。

二段目は定番のプレーンスコーンとナッツとイチジクのスコーンにタップリのクロテッドクリームカップとミックスベリージャムカップ。

一番上には生クリームが芸術的に絞られたスポンジケーキにシュークリームそしてーーーーチョコレート。


王宮のメイドが紅茶を蒸らす間に、手元の皿にサンドイッチを取り一口かじる。生ハムの塩気と新鮮なリーフが絶妙に美味しい。

同じテーブルにはカインと姉様の他にフローレンス=ベルアーニャ侯爵令嬢とキース=クーベルタン侯爵令息がついている。

フローレンス嬢はカインの婚約者の最有力候補だと、今回のお茶会前に教えてもらった。本人達の相性もあるからと、ただいまお試し期間で様子見状態だと言うことだ。

お試し期間....の割に、僕が従者になってからカインとフローレンス嬢が親睦を深めるためにお茶会をするという話は聞いてないから、どういう状況なのか謎である。カインから彼女の話を聞いたことも無く、だから今回その話を聞いてとても驚いた。カインの性格的に婚約者候補を放っておくとかちょっと信じられないからね。どうなっていることやら。

姉様も婚約者候補だったらしいが、僕が従者になったから候補からは外された。

僕が従者で婚約者が姉様だと権力が集中し過ぎて問題が有ると、父様が進言したらしい。

姉様が王妃に....僕的にはアリなんだけどな。権力闘争って分野になると色々面倒そうなのは確かだけどね。ただ、カインとの相性は良さそうだけど....姉様から見てのカインとの距離感は完全に弟だと思うけどね。

そういう訳で、フローレンス嬢はこちらのテーブルだが、カインと会話してる様子が無い。むしろカインは姉様と喋っているからちょっとよろしくないのではないだろうか?

もう一人のクーベルタン侯爵令息はカインと同じ年齢ながら今年初参加だ。

去年は体調を崩していて不参加だったと思う。線の細い色白の顔が、あまりハツラツとしている様には見えない。小さく切ったサンドイッチのひと口をもそもそと食べる様は、小動物の様だと思ってしまう。

僕は彼に話しかけた。

「クーベルタン令息、このサンドイッチ美味しいですね。」

僕が急に話しかけたのでビクッとしながらも、お茶で口の中のものを流してからこちらを向いて微笑みながら答えた。

「ええ、とても美味しいですね。」

「クーベルタン令息は今年初参加ですね。」

「はい、去年は不幸にもちょうどお茶会のタイミングで体調を崩してしまい、王子殿下への挨拶が一年も遅れてしまいました。シャルマー二令息にもなかなかお会いできず申し訳ありません。この度の従者就任おめでとうございます。」

クーベルタン令息は穏やかな口調で言った。

「ありがとうございます。僕の事はユリウスでいいですよ。」

僕はこの穏やかな口調としっかりした受け答えをする少年に好感を持ったので、名前で呼んでくれるように頼んだ。

クーベルタン令息はその事に気付いたのか少し目を見はって、そして嬉しそうに笑って、

「では、僕の事もキースと呼んでください。」

と言ってくれた。

二人でにっと笑ってサンドイッチをもぐもぐっと食べる。


位置的にほぼ正面に座っているベルアーニャ嬢は、ややうつむき加減でスコーンにクリームを塗っている。失礼に当たらない程度に見ていると彼女の視線がこっそりと動いている。

カインと姉様を見てるな。

そりゃ婚約者候補の自分を他所に違う女の子と楽しげに話してれば嫌でも気になるよな....

僕はちらりと横を見るとカインと姉様は相変わらず二人で盛り上がっている。

僕はため息をひとつつき、二人の会話に割って入った。

「姉様も殿下も、このテーブルは僕らも居るんですよ。ちゃんと話に交ぜてください。」

そう言ってこちらに注意を向ける。

「あらヤダわごめんなさい。」

「ああ、ユリウスすっかり忘れてた。」

悪びれもせず二人とも笑顔で謝る。

「二人で何をそんなに楽しげに喋ってたんですか?」

僕が聞くとキースもベルアーニャ嬢も顔を上げて二人を見た。

するとカインがニッと笑って言った。

「スラックラインの重要性についてだよ。」

「スラックラインの重要性?」

意外すぎる話題に思わずオウム返ししてしまう。

従者になってから初めてのカインの来訪日に姉様が提案した遊びが、スラックラインというピンっと張ったリボンの上を歩いたり飛んだりする遊び?運動?だ。

アレからも時々はやっていたが、結局慣れてしまった僕らはぐらつきもせず走って渡れるようになってしまい、そこまでの魅力を感じなくなってしまっていた。

つまり飽きたんだ。

そのスラックラインの重要性とは!?

僕がカインに詳しく聞こうとしたら、キースとベルアーニャ嬢が不思議そうに言った。

「「すらっくらいん?」」

ああ、そういえば姉様の前世の遊びだから説明しないと分からないよね。

「スラックラインというのはピンっと張ったリボンの上を歩く遊びなんです。」

僕が簡単に説明した。

「リボンの上を?」

「....歩く?」



うん。

そうだよね。

意味分かんないよね。

懐かしいなあ....僕も最初は分からなかったよ。


「そう!リボンの上を歩いたり飛んだりするんですよ!最初は難しいけど慣れると面白いんですよ!」

姉様がふふふっと笑って紹介する。

「その....リボンの上を歩くって....倒れてしまったりとかしませんの?」

ベルアーニャ嬢が不思議そうに姉様にたずねる。

「あら、大きなクッションを置いておけば大丈夫ですわ。」

「大丈夫って....倒れないってことではなくて、倒れても痛くないって意味ですよね?」

キースが笑顔を引き攣らせながら確認する。

「クッションに倒れ込むのも楽しいのだが、走れるようになるとワクワクするぞ!」

カインが斜め上の感想を言う。

「それを、ユリウスもやったのかい?」

キースが僕に聞いてきた。

僕はコクリと首を縦に振る。

「カイン殿下と?」

カインがコクリと頷く。

「シャルマー二嬢も一緒に....?」

姉様が嬉しそうにうんうんと肯定する。

「そんな....そんなに....な関係を....」

ベルアーニャ嬢が少し血の気の引いた顔色で、小声で何か呟いたが僕にはしっかりとは聞き取れなかった。

キースも何か考え込んでいたが、顔を上げると、

「ユリウス、時間が出来たら君の家に遊びに行きたいのだが、良いだろうか?」

と、いい笑顔で聞いてきた。

時間が出来たらって....カインと打ち合わせないと分からないんだけどな。

「ユリウスは毎日ほぼ私と一緒だからそんな時間無いのでは無いかな。」

僕が返事をする前にカインが答える。なんだかちょっとムッとしているっぽいぞ?

「ああ、ええ、もちろんユリウスの都合のつく日で大丈夫です。」

にこっとキースが笑顔でカインに返事をした。

「殿下、僕の予定はセビリア殿と相談で決められるハズですよ?」

「クーベルタン令息が居たら遊べないじゃないか....」

カインが小声でゴニョニョごねる。

「うふっ弟が増える予感っ」

横で物凄く小声で姉様がつぶやく。

姉様、今のやり取り見てどうしてそう思うの?ちょっと何言ってるか分からないよ!?


んんッっとわざとらしく咳払いして、僕は話を元に戻す。

「それで、スラックラインの何が重要だと言うんですか?」

軽く眉間にシワを寄せていたカインも、元の話題に戻ったからか表情を戻した。

「リナ...ゲフンゲフンッ、シャルマー二嬢、とも話してたんだが、スラックラインで走れるようになった辺りから剣術の時とか、身体のフラつきが減ってきてる気がするのだ。」

カイン、思わず姉様を名前で呼びそうになりましたね?

ここは公の場だから王族が異性を名前で呼ぶなんて、婚約者ですって公言してると同じ事だから気をつけるように言われてましたけど、油断すると危ないな。

「スラックラインは全身のバランス感覚を鍛えてくれますからね。足腰中心に鍛えられますよ!」

姉様が当然!っていう顔で頷く。

「そうそう!だから、今度騎士たちにもやらせて見ようと思ってね。」

カインが笑顔で言うと

「面白そうですよね!」

と、うんうんうなづきながら姉様も同意する。

「たしかに、最初は立つだけでも大変かも知れませんが、慣れれば上で打ち合いもやれそうですね。」

僕もそれはいい考えだと思った。

「じゃあ明日にでもベルナールに教えてやろう!」

「そうですね。ですがヴァンクライフト侯爵に言ったら、先に僕らがやって見せろって言われそうですね....」

僕らの剣術指南役の前近衛騎士長のヴァンクライフト侯爵なら頭から否定する事は無いだろう。だけど目の前で実演させられそうだ。

「羨ましい....私もその訓練見てみたいですわ。」

姉様が心底残念そうに言う。

王宮はご令嬢が用もないのにホイホイ来れる場所では無いので諦めて貰うしかない。

「訓練の見学か....おじい様に頼んでみるか....?」

カインがボソッとつぶやく。

「殿下、無理を言ってはいけません。」

姉様の言葉にカインが無理しようとするので、慌てて止める。流石にダメだと思う。

「あのっ、では私と一緒なら良いのではありませんか?」

それまで静かに聞いていたベルアーニャ嬢が提案をしてきた。

「あ、えっと、その、殿下が良ければ、ですけど....」

突然の提案に全員が驚き彼女を見つめる。

ベルアーニャ嬢の積極的な発言はとても意外なものだったのだ。

僕の印象でいえば、良く言えば彼女は物静かで控えめな感じ、悪く言えば気弱で引っ込み思案ーーーとてもここで無理して王宮に来ると言うタイプでは無いと思っていた。

カインもとても驚いているのが表情に出ている。

「あ、いや、うん。え?明日?」

カインの言葉も混乱の極みだ。

「ベルアーニャ嬢、ではお茶会が終わったら明日の予定を王宮に問い合わせてみますね。急なので殿下も分からないと思いますから。」

僕はとりあえずお茶会が終わるまで保留にした。

「あ、いえ....明日で無くても....」

えっ?

明日って意味じゃなかったの!?

「ユリウスも殿下も落ち着いて。はい、深呼吸!深呼吸!」

姉様が僕らに落ち着くように声をかける。

「明日じゃないならそんなに慌てなくても良いのではないかしら?」

「あ、ああ。そうだな。」

カインが頷く。

「でもフローレンス様、私も一緒に王宮に遊びに来れるんですか?たしかにありがたいのですが、無理なら無理で諦めますよ?」

姉様がベルアーニャ嬢の顔を見ながら確認する。

「は、はい。殿下....さえ宜しければ大丈夫だと、言われています。」

消え入りそうな声でベルアーニャ嬢が言った。

ふうむ....

これは、アレだ。

婚約者候補だから何時でも殿下と親睦を深められる様にとの、王宮側の配慮ってヤツだ。

でも姉様も一緒に来ていいのだろうか?

まあ、その辺は僕の預かる問題では無いからいいか。

そんな事情など知らない姉様は瞳をキラキラさせてベルアーニャ嬢とカインを見つめてお願いをしていた。

「では近いうちにベルアーニャ侯爵邸へ日時を知らせに使いをやりますね。」

「わかりました。」

少し硬い感じのやり取りをする二人を、笑顔の姉様が気にせず言葉をかける。

「フローレンス様、ありがとうございます!カイン殿下、スラックラインの剣術稽古楽しみにしてますね!」

姉様....この二人の空気に気が付かないのですか....?

いや、それとも意図して空気読まない様にしてる....?

姉様が分からないな。


和やか(?)な雰囲気の中、紅茶は二杯目が蒸らされていた。







お茶会ーーーアフタヌーンティーって女子の憧れですよね〜。

ホテルのアフタヌーンティーなんて結構なお値段ですもんね!


一杯目のお茶が空になったところで今回は投稿です。二杯目のお茶会の行方やいかに!?


いつも読んでくださりありがとうございます!(´▽`)

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