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王宮お茶会 挨拶

遠く雄々しく連なる山並みは晩夏の日差しに晒され、木々は葉を広げ街道に濃い陰を作っている。隊列を組んだ騎馬と馬車がその道を進んでいた。真ん中の少し豪華な作りの馬車の窓には横を流れる川の水面に反射した光がキラキラと踊っている。


住み慣れた屋敷を出発して数時間。

窓から外を眺めている少年が見慣れていた景色は遠く遠く遙か後ろに流れ去り、見知らぬ景色にこれからの生活に対する大きな希望と今までの生活には戻れない少しの寂しさを感じながらじっと眺めていた。


スチュアート伯爵領は王都から南西に馬車で三日の距離にある。美しい山並みと川幅の広すぎない河川が多くある農業の盛んな土地で、のどかな田園風景がそのほとんどを占めている。

オリバーはそんなのどかな田舎でのびのびと育った....訳ではなく、何時王都に行っても馬鹿にされないようにと、礼儀作法に厳しい家庭教師に躾られて育った。

八歳になった今年、冬に行われる王宮での子供のお茶会に参加するため、両親と共に初めて王都に行くのだ。

これから先、生活の中心は王都の屋敷となる。初めての都会、初めての社交、初めて尽くしのこれからにドキドキが止まらない。

「オリバー、貴方なら大丈夫よ。」

「そうだぞオリバー。お前より身分が高い方はそんなに多くは無い。そこだけ気を付けていれば後はどうとでもなる。」

父も母もそう言って僕を励ましてくれる。


王都に着いて日常生活に慣れた頃、父が同じ歳の子供を連れてきた。

「オリバー、今日からお前の臣下になる者だ。」

「お、お、お、お初に、おめ、目にかかります!セト=シャルムです!よ、よろしくお願いいたしますッッッ!」

そばかす顔の少年が緊張し過ぎてどもりながら頭を下げる。

「わ、ワタクシは、ロバート=シャガールですうう!よろしくお願いしますぅ」

クルクルクセ毛の少年がその横で同じように緊張し過ぎて声を裏返らせながら頭を下げる。

彼らの家はスチュアート家に使える子爵家という事で、これから先の僕の家臣になるということらしい。

僕らは三人でお茶会の練習をしたり、他家のお茶会会場に一緒に行ったりと、頻繁に行動を共にした。

二人はとても僕を助けてくれる。

まだ都会に慣れていないからと、僕が戸惑う時に直接言うのではなく、その場での言動でさり気なく教えてくれる。王宮お茶会会場でも本当は彼らは僕より先に席に着いてなければならないのに、不慣れな僕のためにギリギリまで一緒に居てくれた。

大勢の同じ年頃の令息令嬢に少し舞い上がってしまい、どこかの令息にぶつかり無作法に座り込んでしまった。さらに周りの衆目を集める等という羞恥に晒されたのに、率先して僕を庇ってくれた。しかも相手からの謝罪が無いのにカッとした僕の心を宥めるために、僕の代わりに声を上げ相手が僕以上の不慣れな田舎者だと教えてくれた。王宮で大きな騒ぎを起こさずに冷静になれたのも彼らのおかげだ。

本当に頼りになる家臣だ。


伯爵家以下の客が全員着席したので、ロビーで待機していた侯爵家の子息令嬢が入ってきた。僕が逆らってはいけない者たちだ。下位貴族どころか同じテーブルに着いている者たちからも感嘆のため息やざわめきがおこる。

「そういえば、シャルマー二宰相の令息が王子殿下の従者になったって父達がウワサしてたぞ。」

「それホントか?」

「ああ、今回のお茶会も殿下方と裏方で色々準備に奔走されていたと、王宮勤めの者から連絡があったって父が言ってたぞ。」

「まぁその話、私も父上から伺いましたわ!」

「シャルマー二侯爵家はもう勝ち組だな!」

同じテーブルの伯爵家子息や令嬢が小声で話す内容にため息が出る。

きっと今日は無理でも、いつか絶対にお知り合いになりたい人物リストにシャルマー二侯爵子息を入れておこう。

歩いてくる集団に目を向ける。


さすが高位貴族の子息令嬢だ。

ただ歩くだけでも優雅で輝いている。

そこだけ別次元と言っても過言では無い。

美男美女が集団で歩くとか、なんて眼福。

さすがは王都だ。


そんな集団の一番後ろから歩いてきたのは一組の男女。エスコートされている令嬢は薄く薔薇色の頬に微笑みを浮かべ、動く度に揺れる髪やドレスの端から光がこぼれるようで、まるで女神様だ。

僕は目が離せなくなった。

なんて可愛い人なんだ!!

そんな時に彼女はチラッとこちらに視線を投げてきた。

心臓が跳ねる。

目が合ったッッッ!!

そして彼女はふっと微笑んだ。

僕にっ!

気のせいじゃ無いっ僕に微笑んだ!

ドキドキとうるさい胸の鼓動と熱くなる頬。

彼女をっ、僕もっ!僕もエスコートしたい!

一体どんなヤツがあの羨ましいポジションに収まってるんだ!

僕は彼女の手を引く人間に目を向け....固まる。

ついさっき見た顔だ。

ぶつかったのに謝りもせず、田舎者だからと鷹揚に許してやったあの男だ。

なんで!?

ヤツは下級貴族だろ!?

何故下級貴族が彼女の隣に座るんだ!?

ロバートはヤツが下級貴族だと、いつもみたいに教えてくれたのに....どういう事だ?


僕はロバートとセトを見た。何か事情を知っているのかもしれないと思ったからだ。

だが、どちらの顔も驚きと怯えで離れた席の僕からでも分かるくらい真っ青になって、見たことない様な表情になってる。

僕は嫌な予感を感じつつも、ある事に気付いてしまった。


そう。


ロバートもセトも子爵家の子息だ。


対するヤツのテーブルは侯爵家....そこまで身分差が有れば面識なんてあるはずもない!!


子爵家の二人が付き合う相手は同じ子爵家の子息令嬢か、もしくは僕ら伯爵家の令息令嬢だろう。子爵家のセトとロバートでは侯爵家のお茶会なんて呼ばれるはずもなく、二人が彼を知らないのは当然だったのだ。



「お前より身分が高い方はそんなに多くは無い。そこだけ気を付けていれば後はどうとでもなる。」


不意に王都に来る途中、馬車の中での父上の言葉が脳裏に蘇る。



会場入りする前のロビー....子爵家伯爵家が会場入りしていたあのタイミングなら、早く来た侯爵令息と会う可能性も無いことは無い。


なんということだ....


父上....「()()()()」気を付けられませんでした....


俯いて自分の愚かさとこれから先の人生に絶望しているうちに、王子殿下と王女殿下が入場されたらしく、声が響いて来た。


「ーーー従者が決まった。ユリウス=シャルマー二、ここへ。」

従者。

これから先の王立学園にて王子と続きの部屋で暮らす、王子の最側近候補。

そんな侯爵家の中でも一番王子殿下に近い立場になる方だ。


そ、そうだ!

侯爵家でも一番上になるシャルマー二侯爵令息にとりなしを頼めば何とかなるのでは!?

兎にも角にも、お茶会が終わったら何とかお知り合いにならねばっっっ!


「はい。」


涼やかな返事の後、立ち上がった少年を見て、僕の未来が閉ざされる音を聞いた。



エスコートしてきた姉様を椅子に座らせ、自分も座ると会場の僕らが入ってきた扉とは違う奥の王族専用の扉が開かれ、カインとシャスリーン王女殿下が入場してきた。

先程までのざわめきが収まり、シンっと静まり返った会場を見渡したカインはひとつ呼吸をして始めの挨拶を始めた。

「皆、今日は王宮子供お茶会に来てくれてありがとう。去年見知った者も今年初の者もお互い交流を深めこれからの社交に活かして欲しい。今年は私の妹のシャスリーンも初参加だ。仲良くしてやってくれ。」

カインの言葉にシャスリーン王女が軽く頭を下げる。色白の頬がさっきより薔薇色になっているから、少しは緊張しているのだろう。

微笑ましい。

「そして噂で知っている者も居るだろうが、私の従者が決まった。」

会場全体がザワりとする。

「ユリウス=シャルマー二、ここへ」

「はい。」

僕はその言葉に静かに立ち上がる。

そしてカインの前に行き臣下の礼をする。

周りから注目を一身に浴びながら、立ち上がりカインの斜め後ろに立つ。

今日から公の場ではここが僕の定位置だ。

「皆、見知り置くように。ではお茶会を始めよう。」

その言葉を皮切りに、侯爵家のテーブルに着いていた全員がカインの前に一列に並ぶ。順番は家名のアルファベット順だ。


一人づつ挨拶と従者が決まった事の祝辞、その御礼と返事を返していく。

意外な事に去年まで緊張しすぎて上手く挨拶できなかった姉様が、びっくりするくらい完璧にお淑やかに挨拶をして行った。内心でどんな失敗をしても良いように気構えてた僕としては、なんだかほっとしたようなちょっと物足らないような複雑な気持ちになってしまった。

侯爵家が終わると伯爵家の番だ。

去年も参加した者は落ち着いて挨拶出来ていたが、今年初参加の者たちは真っ赤になって緊張しているのがわかる。

微笑ましい気持ち半分、進行速度を気にする気持ち半分でカインの後ろに立っていると、今にも倒れそうなほど顔色の悪い令息の順番になった。

さっきのスチュアート伯爵令息だ。

「お....お初に....御目に、か、かかります....オリバー........スチュアート、と、申し....ます」

可哀想なくらいガタガタと震えて自己紹介をする様子に、カインもシャスリーン王女殿下もただの緊張とは違う異常を感じているのか、チラッと僕に視線を送ってきた。

こういう時の反応の仕草がさすが兄妹というくらい同じな事に、場違いな面白さを感じてしまう。

僕は軽くうなづいて彼に声をかけた。

「あ〜スチュアート伯爵令息、」

僕が名前を呼ぶと飛び上がりそうなほどビクリッと肩を跳ね上がらせて、下を向いてしまった。

まあ、そうなるだろうとは思っていたけどね。僕にあれだけ言ったんだ。まともな貴族なら平気ではいられないだろう。

あの言動について冷静になって考えてみたが、褒められた物では無いどころか僕は怒ってもいいのだと思うが、姉様が褒めてくれたおかげですっかりその気が無くなっている。

むしろ今はお茶会の進行速度が気になるくらいなので、挨拶を早く終わらせたい。

パズルも待ってるしね。

なので僕は笑顔で席に戻るように言った。

「ユリウス、彼は体調不良では無いのか?」

心配したカインが小声で僕に聞いてきたが、原因に心当たりのある僕としては

「きっと余程緊張し過ぎていたのではないでしょうかね?ちゃんと席に戻ったみたいなので大丈夫ですよ。まあ、様子を見てお茶会後に声をかけてみますね。」

と、答えておいた。

おそらく様子がおかしい子息は後二人は居るはずだからね。

今はお茶会が無事に終わるように注力しなければ。


全員の挨拶が終わり僕とカインは姉様の待つテーブルに着席した。


お茶会の始まりである。




「バカって言う方がバカなんだ」

......ではないけど、田舎者って馬鹿にしてる本人が田舎出身でした(笑)


彼のこの先はどうなるのか?

チラッと出てきた学園情報。

とりあえず次話でやっとお茶が飲めそうです(笑)


良かったら(○-∀・)bいいね!お願いします。

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