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炊き出し 1

虫の音がかすかに開いた窓から聞こえてくる初秋の夜。いつもの様に食後の団欒を家族で過ごしていた。

今日は父様もゆったりとソファに座っているが、横から話しかけている姉様の話の内容のせいで、到底くつろいでいるようには見えない。


「父様、お願い!いいでしょ?」

姉様が父様の顔を覗き込みながらお願いしている。


僕がカイン殿下の従者になって半年。

姉様の好奇心がついに屋敷の外に向けられ始めた。

今までは一般教養、淑女教育、ダンス、体力作りと称した遊びをしながら、暇さえあれば屋敷中を探検して色々と使用人をびっくりさせてたという話は時々母様から聞いていた。


で、何を姉様が頼んでいるのかと言うと、貴族の義務として慈善活動をしなければならないという国の慣例を知り、次のウチの炊き出しに同行したい!と父様に頼み込んでいるらしいのだ。

だが、貴族の令嬢が気軽に屋敷の外に出るのは基本的に難しい。買い物で外出する事が無いのだ。欲しいものは父様や母様に頼まなければならないし、必要なら御用聞きの商人が屋敷に持ってきてくれる。

外に出る必要が無い。

もし外出するならば馬車で行かなければならないし、当たり前だが侍女と護衛は連れて行かねばならない。


誘拐等の犯罪に巻き込まれないためにも、子供のうちはお茶会に行く以外での外出はなかなか認められないのだ。


「炊き出しに同行することを願うのは立派な事だとは思うが、リナリアが現場に行く事はあまり賛成は出来ないな。」

「え〜!」

父様が困り顔で反対すると、姉様が子供っぽく抗議する。

家族だけの時の気安いやり取りだが、さすがにもう少し取り繕って欲しいと母様の顔に書いてある。


「じゃあ、ユリウスも一緒に行くなら許可してくれる?」


は?

ちょっ、ちょっと姉様?

僕、従者ですよ?

王宮で殿下の側で勉強ですよ?

そんな無理な事言って父様が許可する訳ないじゃないですか。


「ユリウスが一緒なら....まあ、いいか....?」

ええええええ....

「父様、僕にも従者という予定がありますよ?」

別にボランティアが嫌な訳じゃない。

でも、僕にはカイン殿下のお守りがある。

そんな勝手に予定は入れられない。


「明日王宮で予定を調整してみよう。」

父様も姉様のお願いには弱いのか、まさかの王族の予定調整の方に舵取りをするらしい。

「ユリウス、明日こちらで予定調整するからそのつもりでな。」

「ええええ....まあ、父様がそう言うのでしたら僕に拒否権はありませんから....ええええ....」

釈然としない気持ちはあれど、逆らうことも出来ない僕は承諾した。

「やったあああ!父様素敵!ありがとう!!」

姉様はぎゅーっと父様の首に抱きつき喜んでいる。


姉様のいい所は感謝と喜びの表現が素直で大きなところだ。現に父様も抱きつかれて嬉しそうだ。


父様の首から離れた姉様が僕の方へ満面の笑みで飛び跳ねながら来て自分の席に座った。

すごく嬉しそうだけど....なんだか嫌な予感がうっすらする。


その後すぐにルイザとマリアが入浴準備と就寝準備が出来たと呼びに来た。

僕と姉様は両親におやすみなさいと挨拶をしてお風呂に向かう。



うちのお風呂は男女に別れてて、それぞれ大人数が一度に入れる様になっている。僕ら家族が入ったら順に使用人達が入るようになっているらしい。通いの人も希望すればうちで入ってから帰るのだと、姉様から教えて貰った。

姉様、どこでそんな話を聞いたんだ?


僕の入浴はメイドが数人で僕を綺麗にしてくれる。

僕は言われるがまま手を上げたり足を上げたり、目をつぶって頭からつま先までアワアワにしてもらう。

綺麗になったら湯船に入る。

大きな湯船は今日も僕の貸し切りで僕はいつも湯船にぷかりと大の字で浮くのが大好きだ。

ゆらゆらと浮いていると今日1日あった良い事も嫌な事も悩みとかも、泡のように浮かんでは湯に溶けていくようにどうでも良くなっていく。


「坊ちゃん、そろそろ上がりませんと」

ルイザが声をかけてくれたらお風呂タイムの終わりだ。

ふわふわのタオルでしっかり水気を拭かれて夜着を着たら自分の部屋に移動だ。


部屋で寝る準備をし、ベッドに入り、掛け布団を整えてルイザの仕事は終わりだ。

「では坊っちゃま、おやすみなさいませ。」

「うん。おやすみ、ルイザ。」

そう言うと天幕のカーテンを閉めて部屋の灯りを最小にしてルイザは部屋を出ていった。

僕はあっという間に眠りに落ちていった。



翌日午後。

僕は王宮で殿下と午後のお茶をしながら休憩していると、殿下の父親である王太子殿下と僕の父様が前触れもなく入ってきた。

「父上、どうされたのですか?」

カイン殿下が嬉しそうに声をかける。

僕は跪礼をしてカイン殿下の後ろに控える。

「ああ、二人とも楽にして座りなさい。」

テーブルを挟んでソファに座ると父様達にもお茶が置かれた。

各々口を湿らしてカップを置くと、機嫌の良さそうな笑みを浮かべた王太子殿下と苦い薬を飲んだような父様の顔が並んでいる。


はて、何だろう?


怪訝そうな僕ににっこりと笑みを向けて、王太子殿下が話し始めた。

「ユリウス君、今度のシャルマーニ家の炊き出しに君も行くそうだね。」

「は、はい。」

「うんうん。そこで、だ。従者の君にうちのカインも一緒に連れて行って貰いたんだ。」


.........は?

.....え?

いやいや.....え?


聞き間違いかと思って王太子殿下の顔を見るもにこにこ顔のまま。


殿下も連れて行けと聞こえたけど.....え?

冗談ですよね?

「父上っ!!それは本当ですかっっっ!?」

カイン殿下がキラキラと目を輝かせて聞き返してるし、

めっちゃいい笑顔で王太子殿下がうなづいてる。

対して僕の父様は眉間にめっちゃ縦ジワ作ってため息ついてるし....

え、....コレマジなやつ!?

「カインよ、お前もいずれ人の上に立つ身。先ずは人々の生の姿を見て声を聞いてくるといい。シャルマーニ家の炊き出しならばそこまでの危険は有るまい。」

「はいっ!期待に添える様にしっかり炊き出しをして来ます!」

え....これ、僕がお目付け役って事!?

姉様だけでもちょっと心配と思ってたのに殿下まで!?

「と.....父様....?」

「はぁ....そういう事だ、ユリウス。大変だとは思うが、よろしく頼む。」

「....決定事項なんですね。.....はぁ〜。わかりました。」

僕は深いため息を1つついて顔を上げた。

よし、切り替えよう!


とにかく話を聞いて当日の場所や雰囲気、どういう流れで炊き出しをするのか、情報収集をしなければ!


「ユリウス、楽しみだな!」

カイン殿下は今にも飛び出しそうなほど興奮している。

僕はそんな殿下を静めるべく、両肩をポンポンと優しくたたいて、

「そうですね。姉様も含めて色々と準備しましょうね。父様、炊き出しについて詳しい話を聞きたいので手配をお願いいたします。」

父様に情報提供をお願いした。


要件はそれだけだったのかカップのお茶を飲み干して、王太子殿下と父様は部屋から退出して行った。


そして週に一回の殿下がウチに遊びに来る日、子供用サロンには僕と姉様とカイン殿下がテーブルに筆記用具を用意して、メイド長と執事から炊き出しについての話を聞いていた。


この王都で炊き出しを行う貴族は領地を持たない家である。領地持ちの貴族はそれぞれ自分の領民を養っているから炊き出し義務は無いのだそうだ。

炊き出しは各家年4回。

週替わりの持ち回りである。

二家が王都の二箇所で同じ日に行っている。

炊き出し場所は貧民街の炊き出し専用の家があり、その日は昼前から夕方までそこで食べ物を配るのだ。

もちろん、食器は回収するし人数の大まかな把握も行う。特に子供の数と年齢層は確認するそうだ。


「当日は朝からそちらでスープを作ります。パンは前日から焼いて持っていきます。一人一杯のスープと二個のパンを配るのが炊き出しです。」

メイド長が大まかに教えてくれた。

「じゃあ私達が当日やれる事はあるのかしら?」

「パン配りとか?」

「食器の回収?」

僕らが出来そうな事を口にすると、メイド長が慌てて止めた。

「いえいえ!お坊ちゃま方にそのような事をさせられません!」

「え....でもそうしたら何のために行くのか分からないじゃん。」

「僕だって手伝い位は出来るぞ!」

姉様と殿下が口々に文句をたれる。

困り顔のメイド長に変わって執事がなだめにかかる。

「その場に居らっしゃるという事が既に立派な務めになりますから、大丈夫でございます!」

「「えええええ〜っ!」」

二人の不満でござるという抗議を受けてメイド長も執事も困った顔でこっちを見る。

え?

僕にどうしろと?

この二人を説得するのなんて無理ですよ!?

まあ、でも一応なだめてみるか。

「姉様もカインも、ここで文句言ってもしょうがないですよ。僕達にどれぐらいの手伝いが許されるのか一度父様に確認して貰いましょう?」

「むぅ....そう言われてしまうとしょうがないな。」

「ウチの炊き出しは二週間後だからそれまでにはきっと返事も貰えるはずですよ。」

「そうだな。わかった。」

ふぅ。何とか収まった。

「前回の炊き出しの時は子供は何人ぐらいだったの?」

姉様、また唐突ですね。

「あ、そうですね....お嬢様ぐらいの子達が十人前後、それより小さな子が七、八人、歩けるようになったぐらいの幼子が三人ほどでしたね。子供は様々な理由で人数が変わりますから正確には分かりかねます。」

子供....結構居ますね。

「約二十人....これから寒くなるし、マフラーくらいならあげても良いかしら?」

「そうですね、メイドの中にもコツコツと何やら作っている者も居ますからお嬢様のお手隙の時に作成するのは良い事だと思いますよ。」

何と、姉様マフラー作って子供達に配るのか!

「リーナは凄いな....僕も何か出来ないかな....」

むむむっと殿下が悩み出した。


大体の流れと概要がわかったので僕はメイド長と執事にお礼を言って仕事に戻ってもらった。



お外で食べるご飯って何故か美味しいですよね!

炊き出しはBBQとは違うけどね(笑)


ユリウス君の苦労性がだんだん磨かれてきてますな!

頑張れ!


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