王宮食堂
お昼になり昼食のため1度奥宮から退出し、玄関横の待機部屋でセビリアさんと細かい打ち合わせをしていたら父様がやって来た。
「父様。お疲れ様です。」
「ありがとう。ユリウス、午後の予定はどうなった?」
「今日の午後は特に何もありません。」
僕の言葉に、ん?という顔をして父様はセビリアさんを見た。
セビリアさんはにこにこ顔で説明してくれた。
「本日は面接と勉強部屋の確認をいたしました。午後は特には予定を組んでおりませんのでお帰り頂いて大丈夫ですよ。」
「ふむ、では明日以降はどのようになっているのですか?」
「カイン殿下のご予定では明日は午前は座学午後は剣術となっております。ユリウス殿は今日より少し早めにこのお部屋にお越しください。それから....午後の剣術も御一緒されますか?」
エッッッ!?
いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。
剣術が嫌いな訳じゃないですよ?
でも
セビリアさんの問に思いっきりノーって言いたい!!!!
だって、僕だって早く帰って姉様と遊びたいッッッッ
ウッと言葉に詰まった僕を見て父様が笑いながら返事をしてくれた。
「ああ、もちろん御一緒させていただきますよ。」
と、と、父様のオニ〜!
僕が姉様と遊びたいの知ってるくせに〜ッ!!
ううう、しょうがない、これも従者のつとめ。
「......よろしくお願いします。」
はあ.....姉様と遊びたかった....
僕の返事にニコリとしてセビリアさんはうなずいた。
「殿下も張合いができて、大変よろしゅうございます。ありがとうございます。では明日は練習着もご持参ください。剣は王宮の物を使いますのでよろしいですよ。」
そうか、殿下も1人でやるよりは僕と一緒の方が頑張れるんだな....
僕はセビリアさんの言葉で気分が前向きになった。
「では本日は以上ですね。お気をつけてお帰りください。」
「はい。明日もよろしくお願いします。」
「セビリア殿色々気を使って頂いてありがとう。明日もよろしく頼みます。」
お互い深深とお辞儀をして僕と父様は部屋を出た。
明日からちょっと早起きだけど楽しみだ!
「ユリウス、ちょうど昼時だし王宮の食堂でランチを取ろう。」
父様がニヤッと笑ってお昼ご飯に誘ってくれた。
王宮食堂
それは王宮で務める政務官専用の食堂である。
メニューは10種類。
軽食からスイーツ、日替わりメニュー、ボリュームに特化したお化けメニューまで有る。
無いのはコース料理。
パッと見た感じカウンターがあってそこでお盆ごと料理を受け取ってテーブルまで自分で運ぶスタイルだ。
え、給仕メイド居ないの!?
よく見ると政務官は貴族と平民が4:6ぐらいで平民の方が多い。テーブルはいっぱいあって、4人掛けが多いが柱の周りとか壁際とか軽く1人用に仕切られてる場所もある。手すり付きの窓際は机も椅子も少し良い物が並べてあった。アレは多分高位貴族席だ。
「ユリウス、ここにメニューがあるからどれにするか決めなさい。」
入口横に大人の頭より少し上ぐらいの位置にメニューが書いてあった。1〜10まで番号がふってある。
.....大人サイズだからな〜
あんまりガッツリした物はやだな〜
鶏肉のヤツにしよ。
「父様決めました。」
「では次は手洗いだ。ここで手を洗ってハンカチでふき、注文口に行く。この流れは全員一緒だ陛下も例外では無い。覚えておけよ。」
父様は母様お手製のハンカチで手の水分を拭い僕がちゃんと手を洗うのを確認する。
僕が手を拭くと父様は横の窓口に移動した。
「注文はここでする。」
窓口には清潔な身なりの姉様より少し年上に見える女の人がペンを持ってにっこり笑顔で立っている。
「はい、ご注文どうぞ〜!」
「私は三番で、ユリウスお前は?」
え、番号で注文なの!?便宜上ついてるだけだと思ってた....
えっと鶏肉のは..
「五番....だったかな?」
「お飲み物はどうします?」
飲み物!?聞いてないっス!!父様〜!
「二人ともお茶で」
「はい。三番と五番でお飲み物はお茶ですね。こちら半券です。」
お姉さんは慣れているのかとてもテキパキと受け付けてくれた。僕はびっくりして動けずにいたら、父様が僕を前に押してお姉さんに話しかけた。
「明日から時々この子もお世話になるから、よろしく頼むよ。」
「まあ!宰相様のご子息様ですか?お初にお目にかかります、食堂受け付けのサーラでございます。よろしくお願いしますね!」
お姉さんは人懐っこい笑顔で言った。
「あ、ユリウス=シャルマーニです。よろしくお願いします。」
え、平民だよね?
メイドだよね?
なんか、今まで見た事ない対応なんですけど!?
「ではユリウス様、この五番の半券を持ってあちらの窓口手前でお待ちくださいね!料理の種類によって出来上がりに差がございます。出来るだけ順にお作りしていますが多少の前後はご容赦くださいませ。」
「は、はあ.....」
「今は前に同じ番号の方はみえないので番号を呼ばれたらお盆ごと食事を受け取ってお好きなお席でお召し上がりください。」
「は、はあ....」
「もし、前に同じ番号の方が見えた場合はその方から順に提供させていただきますのでご了承ください。」
「......」
「次回からもし量の調整などの要望がおありでしたら、番号の後に私にお申し付けください。出来る限り対応させていただきます。」
「....」
「お食事が終わられましたら各テーブルに置いてある青いナプキンを広げてお盆にお掛けくださいませ。これは食事の終了サインとなります。その後はそのままご退出されて結構です。何かご質問はございますか?」
よどみなく流れるような説明に何が何だか分からないまま僕はうなづくしか出来ない。
「ちょっとびっくりしているようだ。あとは私が説明しておこう。」
はははっと笑いながら父様が助け舟を出してくれた。
「いいかユリウス、サーラに声をかけて良いのは、注文する時と誰の相手もしてない時だけだぞ!それ以外は声を掛けてはいけないからな。それだけ覚えておけば後は慣れだけだ。そろそろ呼ばれるぞ、あちらに移動だ。」
「宰相様ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ!」
サーラはやっぱり見た事ない対応で僕たちを送り出した。
いや、嫌じゃないけど....
なんて言うか.....
さっき王子殿下に身分差のマナーとか言ってたのに....この食堂....
ええええええええええ〜〜〜〜....
「三番様〜五番様〜お待たせいたしました〜」
隣の大きな窓口から中年メイドが呼んだ。
「お、出来たみたいだな!やはり少し遅めの時間だと出来るのが早いな!」
父様はうきうきと窓口に歩いて行く。
僕も後ろについて父様の真似をして半券と引き換えにお盆を受け取った。
「すごい....コレなら給仕メイドが居なくても食べれますね。」
ひとつのお盆に全てが載っている!
「ユリウス、こちらだついてきなさい。お盆はまっすぐ持つのだぞ。」
「はい父様。」
父様はすいすいと歩いて日当たりの良い窓際の席に座った。
窓際だと思ってたけどそのテーブルの端の手すりの向こうは半階ほど低いフロアになっていて、そこにも窓際席が並んでいた。
なるほど、低い席は少し簡素な造りになっていて、平民や下級貴族用の窓際席になっている。
ここ高位貴族席も窓からの見晴らしも日当たりも良いなかなかの席だ。何より下の階のテーブルが視界に入らずあまり視線を感じない。さすが王宮食堂だ。
「ユリウス冷めるぞ。」
僕はお盆を置いてぼーっと周りを観察していた事に気付いた。
慌てて席に座り祈りを捧げ食べ始めた。
スープはスープ皿ではなく取っ手の着いたカップに入っている。父様は片手で持って直接口を付けていた。
スープスプーンも有るが、僕は父様を真似てみる。
「父様!何だかとても不思議な感じですが、とても美味しいです!」
父様はうんうんうなずきながら
「家で食べるのも美味しいが、ここはここで美味しいからな。ユリウスもここにこれば昼食は食べれると覚えておくように。」
「ですが、何だか不思議です。平民のメイドのあの丁寧だけどなにか違和感の有る応対とか、この自分で運ぶスタイルとか、嫌では無いのですが....何かその、大丈夫なんですか?....」
そう、貴族の中にはこのスタイルは受け入れ難いと怒る人も、自分で運ぶことや平民と同じ部屋で食事をする事をよしとしない人も居るだろう。
何より、受け付けの彼女はあの応対で大丈夫なのだろうか?
僕はとても難しい顔をして父様にたずねた。
父様は訳知り顔でうんうん頷きながら教えてくれた。
「ああ、ユリウスもそのうち学園に行くとわかるが、ここの食堂は学園の食堂と同じシステムを流用しているのだ。学園も平民は来るだろう?そしてなんと言っても学園は基本は身分差のない場所と王命で定められている。だからその学園を模倣しているこの王宮食堂も基本は
並んだ順、早い者順に料理を提供する、
給仕メイドはカウンターからは出てこない、
自分で食べる物は自分で運ぶ、
食べてる最中は緊急事態以外は話しかけない、
食べ終わったらナプキンをお盆にかける、
そしてこれが1番大事な事だが
食堂に入ったら先ずまっさきに手を洗う、
と、コレだけの絶対のルールが王命で決められている。学園でも教わるだろうが、ユリウスは今後この食堂も利用するようになるだろうからよく覚えておくようにな。」
何それスゴイ!
「陛下は凄いですね。」
僕は鶏肉を食べながら頑張って脳みそもフル回転だ。
「まあ、嫌ならここでは無いところで食べればいいだけだからな。だがこの食堂は王宮で働いていれば無料で食べられる。平民官僚や下級貴族は嫌でもルールに従うさ。」
父様は最後のお茶を飲みながら言った。
あんなに喋ってるのに食べるの早いな〜
「明日は私も何時に昼食が取れるか分からないからユリウス1人でここでお昼を済ましてくれ。」
「はい。」
「席は基本は自由だがお前はまだ子供だからな、階下に運ぶのは危ないからこのフロアにしておくのだよ。」
確かに、このお盆はそこまで気楽に運ぶほど軽くは無い。
むしろ重い。
ちょっとだけ階下も気になったけど暫くはお預けだ。
やっと食べ切りお茶を飲んでる時に誰かが話しかけてきた。
イメージは社員食堂?
学食?
いや、行ったことは無いんだけどさ(笑)