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一話〜二話

ぼんやりと木々の隙間から月が見える、当たり前のような景色だが今その景色はひどく悲しく滲み、やりきれない怒りがあの光にすらぶつけたくなる。

 今まで馬鹿にされようがこの人とはいつか分かれて過去になるからと自分の中で消していたこともなぜか蘇ってくる。


「僕の命は今あの大人たちのゲームのピースにされている」


このことが今まで抑えていた…あきらめと言う我慢の蓋をこじ開けて「怒」と「不公平」という“本心”を呼び覚ました。

そして喧嘩や反論する勇気すらなかった自分が初めて思った……自分が悪いじゃないあいつが悪いんだ!


「生きてあいつをぶん殴る」


それだけがこの明日を知れぬ森で命を繋ぐ原動力となっていた、



……全ては面接の日から始まった。


チュンチュン


窓から差し込む意地悪な日の光で目を覚ました、

石作りの無機質な壁、

必要最低限の机とタンスが置いてある部屋だが僕にとっては最高の安息地、

このまま起きずに夢の中に入れたら幸せだったのにと思いながらベッドから出る、

今日も疲れる一日が始まる、


「大丈夫」


部屋を出る前にいつもの様に自分を鼓舞し入れてドアを開けた。



「おはよう!母さん、父さん」


心とは裏腹に元気よく挨拶をすると両親がそれに答えてくれる、昔から両親は優しいけどその視線は哀れみを宿したどこか心に冷たく悲しい感じのする目をしているあの日から……


それは入学時に可視化された自分の能力値の低さを見たときの両親の顔は凍りついた表情は忘れることはできない、

能力が全ての優劣を決める、こんな僕の親になってしまったことを申し訳ないという気持ちが、せめてのもの償いとして明るく振舞い気持ち良い挨拶や態度でこの異様な状況を生み出している。


「それじゃ!行ってくるね」


どんな扉よりも重いであろう木の扉を頑張って開き、そして一日が始まる。都市を繋ぐゲートを潜るとそこには石の道にレンガの家が広がる綺麗な都市へと移転する、


今日も嫌な暗い綺麗な青空だ……


「おう!ストーンおはよう」


やっかいな奴が来た……

ストーンと言うのはあだ名だ、

本当の名前はルージュという名前は髪の赤色から宝石『ルージュ』に由来して名付けられが、それを皮肉って宝石などは烏滸がましいからお前は無能なタダのストーンだとからかう同級生達によって付けられた。

正直面倒だ、だからそういうときは……


「おいおい、そんなこと言ったら石に失礼だろ」


「ははは、その返し最高だよ!お前笑いのセンスはあるんじゃないか」


そう笑われたらニコッと笑い返すいつもの流れ、

これで良い、反論したとこで面白がるのは目に見えているし怒れば余計に面白がる、

これが最善であり最高のかわし方だ。

道化でもなんでも楽しませてればマシなのだろうと自分に言い聞かせる、


少し小高い坂を上るとそこには白い箱の様な校舎が連なっていて朝から大渋滞だ、みんな正面の大きな白い鷲のついた正門から校舎の中へと足早に入って行く、

そんな中 正門を通り過ぎて校舎の裏手に繋がる小道へと進む、こちらの道はほとんど人が居ない、というか入ることができない。

なぜなら裏手に入れるのは獣師と呼ばれる適性をもっている者だけで、この先には獣舎とよばれる建物がある。そこには様々な「獣」と呼ばれる生き物がいる、偵察などに長けた鳥や移動に適した馬、中には戦闘に適した生き物など様々だ。「獣」とは主人の召喚により発現した生物、または自然界やダンジョンなどにいる生物と意思をかわすか従属させられたモノであり、その従属された獣は体の一部に同じ紋様が発現する。

獣師よっては経験や育成により強力な力をもった獣を配下として戦闘や獣の力を借りて魔法を行使する者、一人で数十体の獣を操り活躍する者もいる。


「おはよ!今日もうちのギリフォンは朝から手入れが大変でよ~なにせ大喰らいだからよ」


そういって牛舎のような建物から顔を出して話しかけてきたのは同級生だった、横には馬と鷲を合わせたような獣が肉の塊にかぶりついている。


「おはよう、朝から忙しくて大変だね」


「そうなんだよな、お前の楽で良いよな」


そう言って指さした箱に居るのは僕の希望だったモノと今の癒しだ…

なんの取り柄も無い僕に唯一あったのは獣師の適正……嬉しかった、

僕にも誇れるモノが出来たと……

だが最初の授業でその希望さえ砕かれた、

自分の獣を召喚する時にみんなが鳥、馬、強そうな獣の幼生を召喚していくなか、

俺が召喚出来たのはケセラという埃の様なモンスター、一応モンスターにカテゴライズされているが、意思があるのだか無いのだかわからない空中をフヨフヨ浮遊して、屋根裏などに住みつき埃と一緒に箒で掃除されてしまうような生き物、 このような最弱の獣を召喚したのは前代未聞であり、連れているモンスターがステータスの獣師にとっては致命的な出来事であり今でも伝説となっている。

この時わかったことは僕の低い適正値と最後の希望が打ち砕かれたことだった、


「おはよう、プクボン」


「……」


何を考えているかわからないがこっちを見てフユフユしながら俺に寄ってくる、

最初の頃は希望を壊され見るのも嫌だったけど、こいつには何の罪もないし、喋りはしないけど僕を頼りにしてくれるそんなそぶりをみせてくれる、それが何故か嬉しくて愛着が出て今では唯一の癒しだ。


「ほら、ご飯だよ」


 近寄ってきたプクボンに微力な魔力を灯した指先を近づけてやると、

フユフユ近づいてきて魔力を吸っている。


「こっち手伝ってくれないか?」


「あ、いいよ」


ケセラは基本魔力の補充だけで問題ないが、他の獣は毛繕い、爪切りなど種類によって多様であり、その手入れを怠ると還ってしまうものもいるのでケアは大変なのでよく手伝わされるが嫌いではない、むしろちゃんとケアしてくれると嬉しそうに反応してくれる姿をみるのは好きな方だ、なので将来的には馬車を運転する御者か獣の管理人になれればと思っている。


「獣師達そろそろ上がれよ」


先生の声が聞こえた、そろそろ教室に戻らないと…

教室に行くといつものようにからかう学友の期待に応えながら受け流し、

時間が過ぎるのを待っていると担任のローバート先生が自慢の髭を撫でながら教室に入ってきた。


起立!


礼!


着席!


「ええ、本日は各自の進路について個別懇談がありますので呼ばれたら進路室に来るように」


 今日は進路懇談の日だった、

希望と成績を元に進学及び就職先への斡旋があり、

翌週からその職場体験及び学校、体験入学をすることになる。

 ちなみにこの斡旋については体験後に変更申請も出来るが、

それを行ってしまうと職場、学校での立場が非常に悪くなることから変更する者はほとんどいない、

例えば実力以上の学校、職業を選べば身の丈を知らない愚か者扱いされて、

下を選べば自信が無い志の低い者、弱い者のレッテルを貼られてしまう。


「ええ、それではアッシュ君から懇談室に行くように」


授業と並行して懇談は進んで行く、

みんな授業のことなど頭に入ってこない

懇談から帰ってきて笑みを漏らす者も居れば、

落胆の色を隠せない者もいる。

贅沢は言わない、ただ最低ランクの御者でも良いし馬の管理師でも良いから、

そっちの職業に就ければ……


「ルージュ、懇談室へ」


「はい」


あとは神に祈るだけだ……

懇談室までの廊下が異常に長く感じる、

そこに待っているのは絶望か安らぎか……

心臓の音で周りの音が聞こえなかった。


コンコン


「失礼します」


「やあ、いらっしゃい」


中肉中背の人の良さそうな学園長は、白髪交じりの髪を掻きながら正面の席を引き座る様に促す、


「え~とだな…単刀直入にいうと、君の志望には添えない答えとなった」


一瞬頭の中が真っ白になった、それは小さなロウソクの炎を消さないように歩いて来た道から光を奪い去ってしまうような喪失感が襲ってくる。


「すまない、君の進路だが 山小屋の管理人だ」


「え?」


それは呪いの職業とこの国では呼ばれていた


山小屋の管理人は他の国では普通の職業であり悲観するモノではない、

仕事自体は旅人の安全確保、商人の休憩所の維持と重要な役割がある為に給料は高めであるが……

この国は中央集権的な考えであり、力ある者、財、技術全てが中央に集約されている……

その国で郊外に置かれるという意味を誰もがわかっている。


「まあ、あれだ この職業は能力的に高いモノは要求されない、山小屋の維持運営が主な仕事だ、安全面も結界があるから問題ない…」


「はい……」


「そう落ち込まずに、ここに仕事の内容がある…………」


それから励ますようにいろいろと説明してくれるが、全然頭に入ってこない

しがみついてた希望を消されたのだから、それはまるで暗闇の崖に落ちて行く様な何とも言えない虚無感と考える気持ちさえも凍るそんな状態。


「まあ、とりあえず今日はこのパンフレットを持って帰って色々考えなさい」


「……」


半ば追い出されるように部屋を出ると、ほぼ無意識で教室へと戻った。

教室に入ると自分の席へと座り顔を伏せた、泣くわけでも無い只 暗闇に包まれていることでしか自分を保てなかった。


周りがヒソヒソ話をしている

「アイツどうだったのかな?」

「おい、言ってやるなよ…あの入って来た時の顔を見ただろ」

「だな、この世の終わりみたいな顔してたな」

「今日はそっとしてやろうぜ」

「だな」


変な優しさが自分に突き刺さる、いっそ笑ってくれた方がまだ怒りや悔しさで自分を保てるのに…

あれからどれくらい経ったのだろうか、

顔上げるとお昼になっていた、周りはみんなお昼を食べにいったのだろう

何も食べる気もしないし、誰にも会いたくないので第二図書館に行くことにした、

あそこは地図や古文書といったあまり読まれない本が多い為、人がほとんどこない場所だ。

陽が指す窓際の席を避けて、奥の倉庫の手前にある一人がけの机に座る、

今の僕には太陽の光すら邪魔に思えるから……


眠るでもなくただ時が流れていく、

無音…

感覚さえも邪魔な気がする…

机に項垂れて目を瞑る、

目を開けたら自分のベッドの上で実は夢だったらと何度か目を開けたが……


そろそろ午後の授業だ……

体も動かないし、もう今日はこのままで良いかな

どうせ勉強しても未来は変わらない、


沈黙と動かない体の世界で思うことは未来へのことと両親のこと

昔はこの低い能力のことを両親のせいにして当り散らした、

そんなとき両親はごめんねと言って僕を抱きしめるだけだった、

ある夜更けに物音がしてそっと両親部屋を覗くと喧嘩をしていた…

内容は僕の事だった、

なんであんなに低い能力の子になったのか、母が泣きながら父と言い合いになっていたが

やがて喧嘩は治まったが涙だけはずっと流していた、

それから両親を責めることは止めた、この能力は誰のせいでもない僕のせいだと

恨むなら自分であり、それを決めた者がいるとするならその存在であると…

悲劇の主役に待つのは自分とその周りの不幸である、

その受け入れがたい運命の中で生きる術を考えて生きて来たんだ…


そうだったな……それが僕だ


そう考えると少しだけ顔を上げることが出来た、

今までだってそうだった、

最悪の中でも生きる術があった

そう無理やり自分に言い聞かせた


そして、現実という山小屋の案内書を見てみた、

内容は良い事ばかり書かれていた

国の基盤である商流を確保する誇り高き仕事、

高給であること、

旅人との交流など……


綺麗事ばかりでいっそ本質を書いてもらった方が楽になれるのに……


しかし内容を読んで行くうちにあることに気づいた、

考えてみれば馬鹿にする人も居ない、お金にも困らない、

両親やいろんな人に常に気を遣わなくて良い、たまに来る商人や旅人の相手をするだけで良いんだ……そう考えれば今より良いんじゃないか?


強引な解釈だがそう考えれば前を向くことが出来る気がした、

もう小さな幸せを望み足掻くのではなく、楽になれるんだ……

そんな風に思えたのは絶望するのに疲れたからかもしれない

何か光り輝くモノを追うのではなく安らぎの闇に身を任せよう。


いつのまにか空は茜色に染まっていた、

そして同じように染まった、目を冷やして重い足に力を入れて家路へと歩いた、


家の扉の前まで来たが、その日の扉は何時もにも増して重かった……


「ただいま」


それはいつもと同じ声量だったが、それは今できる最大限の声だった、


「おかえり、結果はどうだったの?」


母の心配そうな声が聞こえた、


「山小屋の管理人だって」


「え!?そんな」


「大丈夫だよ、給料も良いし納得もしてる……っ母さん!?」


バタン!


言葉を言い終わる前に、まるで何かの魔法を掛けられたような感じで母は倒れてしまった、精一杯元気な感じで言ってみたのだが……


「どうしたんだ!」


慌てて父さんが奥から出て来たので事情を説明すると


「……取りあえず、母さんをベッドに」


勤めて冷静に振舞おうとしているがその目からは光を失い、涙目になっていた。

その後、母をベッドに寝かせ居間で父さんと話をすることになった。

居間に訪れるなんといえない空気と沈黙が続いた、それは今まで感じたこと無いような重く辛い時間だった。


そして、その沈黙は父によって破られた。


「お前は納得しているのか?」


「納得も何も……」


「ダメ元で異議を申し立てるとか」


「父さんわかってるでしょ?この国の理を……」


暫く沈黙が続き、そして父の目から一滴、また一滴の水がこぼれ始め、


「お前は…聞き分けが良すぎるんだ……もっと俺達恨むなり当たるなり」


「恨んだことならあるよ」


「!」


驚きの顔をしていた、ほんとに自分たちが恨まれていたなんて思っていなかったんだろう、

父は優しい人間だ、それと同時に弱い人間だ、それはなんとなく分かってはいた、

僕に対して優しく…どこか腫れ物を扱うような感じがしていた、

本質に向き合わず、向き合っていたのは僕の哀れな部分とその父という自分の境遇だったのかもしれない。


「大丈夫だよ…今より悪い事はないから」


「だが……」


「お給料も良いし家に仕送りも出来るから」


「そんなことを言ってるんじゃ……」


「僕もいろいろ考えたんだ、今日は疲れたからもう寝るね」


「………」


 それ以上言葉が紡がれることはなかった、もし何か声を掛けられても僕には届かなかっただろう、全てを遮断して自室へと帰った。




~~~~~~~~~~~~~2話~~~~~~~~~~~~~~~


夜の風から朝の暖かい風に変わった、鳥が起き出した頃

僕も家を出ていた、実習の用意があるからと書置きをしたが

昨日の件もあって両親と顔を合わせたくなかったから飛び出した、

あまり眠れなかったので明るくなるまで町のシンボルでもある、

大きな木の下にあるベンチに横たわることにした。

暫くすると良い匂いが漂ってきた、大木から街に繋がる道は毎朝朝市が開かれる

食堂のおじさんや近所のおばさん達が買い物にやって来ている。


ぐ~


「そういえば朝ごはん…」


嫌な気分であってもお腹は減るんだなと思いながら朝市で朝食を買うことにした。

あんまり朝市には来たことなかったがこんな早朝から野菜やパン、肉や魚の干物などを売る店主の呼び声と値切る買い手の声が賑やかだ。


「いつもは寝てる時間に市場はこんな風になってるのか」


いつもは眠っている時間にこんなに人が動いてるのかと、

知らない町の一面の中に知っている人が居た。


「おーい!珍しいね」


嬉しそうに手を振る少女がいた。

彼女は近所のパン屋の娘で昔から気が強く、

最初は髪がショートだったこともあり男の子だと思ってたくらいだ、

今もトレードマークのショートカットとその竹を割ったような性格は今でも変わらない。


「あんた!山小屋の管理人になったんだって?」


「ああ」


「落ち込んでんじゃないの?」


「ちょっとね」


「元気だしなさいよ!いろいろ噂はあるんだろうけど実際はわかんないんでしょ」


「そうなんだけどね、まあ周りの目とかいろいろ」


「しっかりしなさい!あんたのことなんだから周りの目なんかほっときなさい、あんたは今どうしたいの?」


「とりあえず、山小屋の仕事自体はわるくないかもと」


「じゃあ良し!当たって砕けろよ!そんでダメならそん時考えなさい」


「そうだね」


「わかれば宜しい!コレでも食べて頑張りなさい、非常用食のカタパンも入れといたから」


そういってパンがいっぱい入った袋を押し付けて来た。


「こんなに悪いよ」


「いいのよ!将来お金が溜まったら返してくれれば、もちろん利子つけてね!」


「利子って」


「当たり前じゃない!商売よ!さあ今日もいっぱい売らないといけないんだから!またね」


「ありがとう」


半ば強引に押し付けられたパンから一つパンを取り出し取り出して食べたパンは

今まで食べたどのパンよりもフワフワで温かった。

出来立てってこんなに美味しかったのか……


朝は嫌いだった

早く起きれば起きるほど嫌な時間が長くなると思ってた

だけど、この焼きたてのパンは早く起きなかったら食べれなかっただろう

知らなかった世界の知らない至福があったんだな……

もしかしたら山小屋にもそんな至福が存在しているかもしれない、

もし存在するなら僕はその幸せを手に入れるだろうか?

そもそも存在していないかもしれない……


……


きっといくら悩んでも答えがでない事を自問自答してしまう悪い癖が

いつもの様に始まりそうな時

パンから あんたは今どうしたいの? と言われた気がした

僕にはもう選択肢が無い、だったらそのあるかもしれない幸せを見つけたい

それが答えだ。

そう思ったらなぜか急に体が軽くなったような気がした。

当たって砕けろだ!


いつもは気が乗らない学校の道をいつもよりも時間も足取りも早く進んでいた

そして、学校に着くなり職員室に行き就職担当の先生のとこに行き


「先生、山小屋の実習ですがすぐにでもやりたいのですが」


唐突の発言にまるでハトが豆鉄砲を食らったような表示をする先生だったが慌てて資料を確認している。


「ええとだな、最短だと3日後からの研修に間に合うがギルドに行くには2日ほどかかるから明日には出ないとダメだぞ?」


「構いません、お願いします」


「しかしだな、正直そんなに早く行かなくても」


「お願いします」


「ふむ、わかったでは手続きをしよう」


正直今が一番良いと思う、

昨日の事もあるから家に居づらいし

後にまわしてもいろいろ考えて

また、悪い癖の自問自答に陥りそうだから

そこに幸せがあるか彼是悩むよりも

その目で見た方が結論も出るし、

諦めもつくだろう。


「よし、手続きはこれで終わりだ」


「無理言ってすみません」


「今 記入にした書類をギルドに提出すれば研修を受けられるはずだ」


「ありがとうございます」


「あと君は獣師だったね」


「はい」


「同伴が許可されているから、申請すれば連れて行けるが」


「でしたら是非お願いします」


「わかった、しかし 本当に君は管理人になるのかい?」


「そうですね、他に選択肢がないですし」


「うむ…なんとかしてあげたいが申し訳ない」


「いえ、これは自分の問題ですから」


そう言って足早に教室を出た、

少し光が見えたらと思ったら人と話していくに内また雲がそれを覆い隠してしまう、

希望が不安で塗りつぶされる感じだ。

もう決めたんだ後戻りはできない、そう言い聞かせて獣師担当教諭にとこへ行き獣の動向許可の手続きを行った。


「ほんとに連れて行くのかい?」


「ええ」


「正直あの子は役には立たないと思うが」


「それでも連れていきたいんです」


「ふむ、そこまで言うならわかった」


 確かに先生には戦闘の役にも立たない最低ランクの獣かもしれないが、

僕にとっては最愛のパートナーなんだ。

ゲージに入れる必要もないので胸のポケットに入れ、野生の獣と区別するために通常はその証をつけるのだが小さすぎて付けれないため代わりの証明書を受けとった。


その後、明日の準備もあるので担任の先生に事情を話して早退することにした、

先生は先ほどの先生と同じように憐れむような言葉をかけて来るが、

もう聞き飽きた。


家に帰ると両親は出かけているようだったので部屋に直行して少しずつ貯めたお小遣いと荷馬車屋の馬小屋 でアルバイトしたお金をかき集めて旅の荷物を揃える為、

宿の近く道具屋に向かった。正直店主は堅物でいつも文句ばかり言ってるけど嘘は言わない人だあの人に頼んで最低限のモノを教えてもらおう。


「おう、ハグレモン何か用か?」


ハグレモンそれはモンスターの中に稀に現れる特殊なモンスター、

それは良い意味じゃなくて例えば早く走れるモンスターの中に鈍足なヤツの事だったり、

巨大なモンスターなのに小さいモンスターとして生まれてしまった個体だ、

刈る側としてみれば弱くて狩り易い個体であり、野生の中では生存率が低い。


「そのですね、山小屋の管理人になることになりまして…明日から研修に行くことになったんです」


「……」


「それで最低限必要な物を揃えたくて、このお金で揃えられるモノを見繕ってもらえませんでしょうか」


「……本気で山小屋の管理人になるのかお前が」


「はい」


それでまでからかうような口調だったもの、突然張り詰めたような空気と思い口調に変わった、まるで何かきつい現実を見せられたと言わんばかりに厳しい顔になった。


「…わかった、ちょっとまってろ」


そういうと店の奥に行ってしまった。

ガチャガチャと何かを漁る音が数分続き奥から布でできた袋を手渡してきた。


「中身を確認していくぞ」


そういうと袋を開けて道具を一つ一つ取り出していく、


「まずはコレだ」


そういって簡易テント、火打石、ナイフなどを一つ一つ丁寧に説明してくれた、

そして最後に僕の目を見て


「いいか、どんな仕事であったとしてもやるからには全霊を込めないといけねえ、生半可なことをすればそれは自分の身に振り返ってくる」


それは商売人の親父さんの信条なのか真剣で熱の籠った言葉だった、


「はい」


「例え山小屋の管理人だとしてもそれを利用する客が居る以上、お前の判断次第では命に関わることだってあるんだ」


「……」


「嫌々やるんじゃねえぞ、やるからにはしっかりやれ」


暫く沈黙が辺りを支配した……


「……正直今は判断つきませんが、研修でそれを判断したいとおもいます」


「はい」といえばそれで済んだのかもしれないでも正直なところ自信がなかった、

親父さんが言う通り僕はお客さんとちゃんとやっていけるんだろうか?その答えは今の自分では判断が出来ない。


「……それで良い、軽はずみに飲み込める内容じゃないからな」


そういって奥の方からなにか透明な小さい四角いガラス板を持ってきて僕に手渡した。


「これはサービスだ、一度しか使えないが魔物の思考を読めるアイテムらしい」


マジックアイテム、高等な魔法使いが作る効果付のアイテムで比較的に高価なモノが多いとてもじゃないけどサービスで貰えるようなものじゃない


「こんな高価なモノ頂けませんよ」


「ガキが遠慮などするな!大人になるガキに俺からの祝いの品だと思って持ってけ」


「ありがとうございます」


「あと、最後の贐の言葉だ 運命は平等じゃない、正義は目標であって現実では無い、そして世の中は理不尽だ」


「その辺りはなんとなくわかります」


「そうだな、お前なら良くわかってるはずだ」


そう、それは一番良くわかってる……


その日 学校が終わるのと同じタイミングで家に帰った、

どうやら家から夕飯の作っている匂いがするから多分 母さんが帰ってきているだろう


「プクボンちょっとココに隠れてて」


胸ポケットを広げてそこに入る様に促すと嬉しそうにポケットの中に納まってくれた、


「ただいま」


「……お帰り」


微妙な間の後に返事が帰って来た、昨日の今日じゃ無理もない


「あ、あのね」


「あ!昨日の事なら気にしないで」


そう言って言葉を遮るように自分の部屋へと逃げ込んだ、

買って来た荷物を整理していると少しだけどワクワクする気持ちと不安な気持ちが入り混じる不思議な感覚がした、変わるかもしれない現状それはプラスなのかマイナスなのかわからない、今は分かっていることは今までの空間が別物とへと変わっていく現実だけ…

そんな現実とわかれる前に僕は机に座り、書かなければならない手紙を書いた、


両親へ


その後、父が帰って来て夕飯となった

気まずい感じの中、昨日の件を早々に感情的になっていたのでと謝り、

その後両親からいろいろ言われたが極力感情的にならないように受け流し

なるべくいつもと変わらないように接し、そして心配しないようにとだけ言ったが

両親の方が感情的になってきたので早々に食事を済まして自分の部屋へと戻った。

そして、机に両親への手紙を置いてベッドにはいった。


ふよふよと僕の近くに飛んできたプクボンにこう言った


「明日は早いからもう寝ようね」



はじめて故郷を出た、

縛られていたものから解放された喜びと

まるで安全を確保する紐も着けずに崖を降りるような不安が

襲ってくる、天国か地獄かまだわからない。

そんな不安を抱えながら馬車は青い空と緑の生い茂る綺麗な森を抜けていく、

やがて大きな町を抜けると乗合の馬車から人はほとんど降りて残って居るのはフードを頭から被った僕と同じくらいの子だ、きっとあの子も管理人なるんだろう


「ちょっとそこで休憩にしますので」


麓にある小さな町の茶屋で休憩するようだ、

せっかくだから声でもかけてみようかな

これから一緒に試験受けるわけだし


「あの、君も講習を受けに行くの?」


「ええ」


「僕もそうなんだ」


「あら、そうなのね……でもあまり話しかけないでくれる?」


その目はこれ以上 自分の領域に入らないでほしいという雰囲気を出している、


「あ、ごめん」


まるで全てを拒否するかのようなそんな雰囲気を醸し出している、

よく考えれば山小屋の管理人になることになってしまったんだ、

気持ち的にやるせない、平常心でいられないことは

理解できるしこれ以上 話しても逆効果だと思いお互い距離を取り時間が過ぎるのを

待った。

暫らくして休憩が終わり馬車が動き出した、

町から離れ少し寂しい感じがする細い道が続き

日も落ちてきた

ぼんやりと寂しさを感じながらぼ~っと外を見ていると

それまでバッグの中でおとなしくしていたプクボンふらふらっと出てきて

一点を見ている

すると、バック中の道具屋でサービスでもらった四角いガラス板が光だした、


イ…ル…


女性の様な声が頭に響く


「プクボンなのか」


プクボンは一点を見つめたまま動かない、

おじさんが言っていたことがほんとならプクボンが危険を知らせてくれている


「おじさん!この先に何か敵が居るって僕の獣が知らせています」


「なんだって?本当か」


本当かどうかはわからなかったが、プクボンが言ってるなら

それを疑うことなど無い


「あっちの方角です」


すると一緒に乗っていた子が


「あっちね・・・」


槍の先が斧の様になっているハルバートという武器を構え


「俊映」


一瞬でプクボンが見ている方向の草むらへと移動し


「こいつか」


ズドン!


なにか激しい音が響き草むらから何かを引きずって戻ってきた、

そこには大柄な男が斧を持ったまま気絶していた。


「こいつはすごいな」


おじさんも関心している


「ほんとに凄いです」


関心していると、プクボンがまた一点を見つめ


マダ……


「え?」


プクボンは草むらの上の方を見ている

まさか、まだ後ろに!

もし、本当ならあの子があぶない!

何かないかこんな時に役立つスキルもない

だけど、普通のことなら出来るんだ

俺は目の前の石を拾いあげてプクボンの教えてくれた方向へ投げつける


「え?」


なんで急に石を投げられたのか驚く子の後ろで


「ちっ」


細身の男が木の上から下りてきて仲間を救出するために斬りかかる


「後ろ!!!」


俺が叫ぶと


「まだ、居たのね」


相手の攻撃を避けハルバートの柄の部分で腹へ打ち込むと男はそのまま倒れこんだ、

その時、フードがはずれて顔が見えた

青緑の短い髪に色白な肌、どこか幼さが残る少女だった。


「女の子?」


「そうよ?あなたのおかげで助かったわ」


「いや、僕は何も」


「あんたが教えてくれていなかったら奇襲を受けていたわ」


「この子のおかげだよ」


そういってプクボンを見せると


「可愛い…」


じーっとプクボンを見つめる

怖さを感じたのかバックに退避してしまった。


「あら…そうだあいつらの戦利品よ」


そう言って何かカードの様なものを投げてきた、そして彼女は再びフードをつけて馬車に戻ってしまい、それから何度かしゃべりかけてみたもののそれ以降しゃべってはくれなかった。

無言のまま時は経ち、いつのまにか空の青空が赤く染まり、

周りの景色もいつのまにか少し寂しい林道になっている。


「そろそろですよ」


こんな所に研修所があるのだろうかと思っていると、

目の前に少し切り開かれたところがあり、木の柵で囲われた建物が幾つか並ぶ集落が観えてきた。


「あれが研修所兼山小屋の本部となります」


集落の中に入ると最低限のお店や簡素な飲食店もあり意外に人も多くちょっとした村の様な感じに見える。

その中で一際大きな建物が集落の中央に建っている、建物自体は良く掃除がされていて明るい感じではあるが、本部というよりも大きな宿泊所のようなイメージだ。


「ここが終点です、それではお疲れ様です」


俺達を降ろすと馬車はそそくさと帰って行ってしまった。


「なんか緊張しますね」


「……そう?早くいきましょう」


久しぶりに聞いたフードの子の声だったが、それ以降はしゃべることもなく

本部の入り口まで行き、そそくさと呼び鈴を鳴らした。

すると中から髭を蓄えた大柄な男が出て来た。


「いらっしゃい、宿泊かい?」


中年の少し小太りでひげを蓄えた男が出迎えた

その顔は笑顔でもなく、かといって仏頂面でもない何といったらいいのか

不自然な位感情がない普通の顔といったらいいのか、


「いえ、研修で」


「僕もです」


すると急に顔からお面が外れたかのように表情が一変に、

面倒な奴等が来たと言わんばかりに顔を曇らせる。


「なんだ、研修の奴らか それじゃあ各自部屋を指定するからそこへ行け」


「はい」

「はい」


「あと、ここでのお喋りは禁止だ」


「え?」


「黙って部屋に入れ」


「喋るのが禁止?」


「ああ、わかったらさっさと部屋に行け」


そういうとぶっきら棒に部屋の鍵を投げてきた。


「研修内容はあとで各自の部屋に説明しに行く」


そういうと部屋の奥へと行ってしまった。


「喋るなって一体……」


そう呟いたがフードの子は反応することもなく荷物を持ち自分の部屋へと歩いて行った。


「お前もとっと行け」


「はい…」


反論も許されないような強い口調で不安な気持ちを強くしながら

指さされた部屋へと入室した。

部屋は小さな窓と最低限の机とベッドが置かれていた、

とりあえずここから始まるのかと感じながら荷物を置いて座ろうとした瞬間、


「荷物を置くんじゃねえ、汚れるだろ」


「え?」


「ココはお前の部屋じゃ無い」


そこには先ほど男がいつの間にかドアを開けてこちらを睨みつけていた。


「どういうことですか?研修があると聞いたのですが」


「ああ、研修はある」


「?」


「今から説明してやる、良いか山小屋の管理人ってのは基本的に一人で全てを自分でやらなきゃいけねえ」


「はい」


「今回の研修はそれを実際に体験してもらう」


「体験ですか?」


「ああ、今からお前をどこかの山へ転移させる」


「え?」


「お前にはこのコンパスとこの山の加護を使ってここまで戻ってこい」


「山の加護?」


「山小屋の管理人は山の神を信仰する者であり、そして山の神に愛される者でなければならないという言葉があるんだが、まあ そんな事は建前でこの護符があれば大抵の攻撃や妨害から身を守ることができる」


「そんなモノが」


「山小屋の管理人の唯一の特権だ、野党やモンスターが襲ってきても身を守ることができ一人でも自営出来るのはこれのお蔭だ」


「そうなんですね」


「ただ、守ることだけしか出来ないから そこからどうするかは己次第だがな」


「……」


「そしたら指を出せ」


「指?」


「この護符にお前の血を垂らして盟約とするんだ」


そう言って男は無地の白い長方形の紙と懐からナイフを取り出した、

雰囲気も相まってこれからそのナイフで刺されるんじゃないかと思ってしまうような感じだ。


「自分でやるか?」


そう言ってナイフをこちらに向けて来たので無言で頷きそれを受け取った、

どうせやるなら自分でやった方がマシな様な気がして

受け取ったナイフで親指の先を少し斬り札に血を当てると白い札に蔦のような緑の線が四方八方に広がり綺麗な絵画のようになっていった。


「綺麗ですね」


「それでお前に森で危害が加えようとする者からある程度は守ってくれるが、過信はするなよ」


「はい」


「あと、これがコンパスだ」


そういって渡されたのは銀色の円筒を輪切りにしたような透明な容器の中に

緑色の三角の細いモノが入っている。


「このコンパスは常にココを指す様に作られている、お前はソレを頼りに戻ってくるそれだけだ」


「えっと」


「内容は以上だ、では行って来い」


そういうと男は赤い札を手にした


「え?」


「これは緊急用の札だ、どこに飛んで行くかはわからんが近いことを祈るんだな」


そういって札を僕の足元に叩きつけた、

すると同時に目が開けられないくらいの発光が辺りを包み思わず目を閉じた、


夜を告げる鳥の鳴き声

ほんのり香る木の匂い

ひんやりとした空気

先ほどとは違う感覚が辺りを支配している

恐る恐る目を開けるとそこはどこかもわからない森の中だった


「ここは……」


慌ててバックからランタンに火を灯して辺りを見渡すがそこに広がるのは木々だけでなにもない、道らしきものを探しても何も見つからない。

混乱する自分を一生懸命に抑えながら試験管に言われたコンパスを取り出し針の指す方向を見つめる。


「とにかくこっちに進むしかない」


この状況を知ってか知らずかプクボンがケースから出てきて僕の周りをフヨフヨ漂い始めた。


「だいじょうぶ、一人じゃないんだ……行こうプクボン」


バックの中から鉈を出しコンパスが指す道なき道を歩き出した、

草を刈る青臭い匂いがする、はたしてこの先に何があるかもわからない状況で歩く怖さで足が竦みそうになるがぐっと堪えて先を進む……


ブーン!


光は虫を惑わす、暗い闇の中で光を灯せば当然 虫が来ることは予想できていが

現れた虫は大きさが予想とは違った、それは人の体位の大きさをした黒い胴体に似つかわしくない巨大な4枚の巨大な透明な羽を広げると空に輝く月をすっぽりと隠すほどだった。


「闇獣……」


人里から離れた奥地をテリトリーとして、人を恐れず襲ってくるモノの総称を闇獣と言いその生体は良くわかっていない、だがその素材は武器や上位種の獣の餌などに使う事がある為、戦闘職が刈ったりすることは稀にあるらしいがリスクが高い為そんなことをする人は高レベルの人位に限られる、またこういう場所をなんらかの理由で非戦闘職が通る場合は護衛を付けるのが普通だがココにはそんな人はいない……残された手は逃げるか自分で倒すしかないが僕に選択の余地はない、勝てるわけない…逃げるんだ!


闇の中全力で走り抜けた、仄かな明かりを頼りに闇雲に…しかし、 虫はどこまでもついてくる、アイツを超えるスピードが無い以上 光を消すという根本的なことを解決せずに逃げた所で結果は同じ、本題から目をそらして考えたところで解決できたことなんてわかっているが、ここで灯りを消したら何も見えず運が悪ければ足をとられて転んだり、

崖に気づかずそのまま落ちてしまうかもしれない……そんな焦りと不安で混乱してるうちに諦めにも似た決意が生まれた。

覚悟を決めて鉈を手に降りかえる、虫は光を目指して直進してくるだけそのまま叩けば…

灯りを少し先の岩場に置き素早く身構える、虫は予想通り明かりを目指して突進し岩場の灯りに突っ込む!

ズドン!という地響きが辺りに響く、虫は岩に当たった衝撃でその場で痙攣している。


「くらええええ!!」


そのまま羽の付け根へ鉈を振りぬくが堅い!だけどここで羽を折らないと……

この一撃には自分の命が掛かっている、自分の手がひきちぎれても良いこの一撃を通さないと!

腕が悲鳴を上げて、皮が擦り切れる感じがしたが関係ない持てる力を全て注いだ。

すると今まであった堅い感触が消えて一枚の羽根が宙を舞った。


「やった!」


羽さえ斬ればこいつはもう飛ぶことが出来ない!逃げられる。

切り取った羽を手に取り一目散に落ちている灯りを取り走り出した。

バタバタ地面をのた打ち回る音が響く中出来るだけ遠くにと思いながら

一生懸命走る、とりあえず崖でなければどこだって良い遠くにただ遠くに!

それからどれくらい走ったかわからないが疲れからか足が縺れて派手に転んでしまった。


「イタタ……あ!ランプ」


一瞬にして目の前が漆黒の闇へと変わる、

手にしていたランプが壊れてしまったからだ……

下手に動くわけにも行かず、とりあえず少しでも闇に目がなれるまでその場でジッとしているとなんとか目に前になにがあるか位までは認識できるようになってきたので休めるとこがないか辺りを見回すと切り株のようなモノがあったのでとりあえずそこに座り休むことにした。

どこかに朝まで身を隠せるようなところないか不安でしょうがない、そんな僕を心配してかプクボンが周りをフヨフヨ漂っている。


ぐ~~~


人間どんなときでも腹は減るもので、危機が一応去って安心したせいか

お腹の虫が泣き出した。

バックに確か非常食用のカタパンがあったはずだ、

カタパンは冒険者の非常食でパンの水分を抜き圧縮したかなり日持ちのするパンなのだが

堅すぎる為、サイコロ状のパンを飴のように舐めながら食べるものだ。


「ほんのり甘いな」


その優しい味に浸っているとプクボンが顔の周りをグルグルと回っている


「お前もお腹空いたのか?」


そういうとプクボンは先ほど切り取った羽にとまりこちらを見ている


「お前それを食べたいのか?」


どことなく頷いたようにみえたので、本当は売ってお金にしようと考えていたがどうせ生きて帰れるかわからないんだ、この子に贅沢させてあげようと思い「食べて良いよ」というとまるで芋虫が葉っぱを食べるように羽をむしゃむしゃと食べ始めた。

すると若干プクボンから淡く発光し始め食べ終わる頃にはほんのり体が大きくなったように見えた。


「おいしかったか?」


と喋ることもない相方に声を掛けると……


アルジ アリガト ヒカリイル?


「え?」


襲われた時に聞いたような幻聴なのかわかならいくらいのか細い声。


「プクボンお前なのか?」


プクボンに問いかけるがそれ以降しゃべってはくれなかったが、光が欲しい!

それが幻かどうかわからないがその声に答える。


「光が欲しい」


するとプクボンが仄かに光出した、それは決して強くはないが温かみのあるまるでろうそくのようなそんな明かりだった。


「プクボンありがとう」


しかし、先ほどのように声は返ってこなかった。

なぜならプクボンを見るとまるで体から振り絞るように一生懸命に光をだしており、

とても辛そうだった。

このままでは不味いと思い光が照らす森を見まわし安全な所がないか探すと、

木々の中でひときわ大きな木があり、その根元が空洞になっているのが見えたので

中に何もいないことを願いながら急ぎそこに向かうと幸いなことにそこに先客は居ないようだった。


「プクボンもう大丈夫だよ、光らなくても」


するとろうそくの火が消えるようにフッと明かりが消え、プクボンは眠ってしまった。

僕ももう疲れた……この状況下だから目を開けたら天国にいるのかもしれないが眠気が……


ビービービー


 眠りへの誘いを打ち壊す振動がポケットから発せられた、その正体に心当たりはなく恐る恐る探るとそこにはカードのようなものが赤く点滅していた。

 

「これは昼に襲われた時に戦利品だって貰ったモノだよな」


使い方もわからず触っていると、


「どうやら繋がったようね」


「え?」


「その声は……」


「あなたの馬車に乗ってた者よ」


「じゃ、君も」


「ええ、どこかわからない森の中よ」


「これは一体なんの!?森の中に急に落とされて殺されそうになって」


「落ち着きなさい、これは試験という名のあいつらのゲームよ」


「ゲーム?」


「ええ、たぶんあいつらはどこからか定期的に私たちの様子を獣師を使って見張ってるはずよ」


「それは僕たちの安全確保……」


「馬鹿ね、そんなわけ無いでしょ賭けよ」


「賭け?」


「戻ってこれるかこれないかを賭けて遊んでいるって聞いたわ」


「そんな……」


「はぁ~これが現実よ、もうそろそろ残量が切れるから切るわよ」


「ちょっちょと」


「良い?あなたはもうそういう状況に置かれてるの、悔しかったら生き残りなさい」


そう言って通信は切れてしまった……そして決意を新たにした。


どこかで誰かが助けてくれるんじゃないかと期待していた、

でも今までだってそうだった自分を助けてくれるのは自分だったんだ。

それに、人の生死を見てゲームって……

今まで罵られようとつらくても我慢できた命まで取られるわけじゃないと思っていた、

でも、今僕は現実に死と隣り合わせにいる……そして誰も護ってくれない。

それを見て笑っている奴らがいる……

今までは呑み込めてきた怒りや悲しみが今回ばかりは溢れ漏れてくる、

でも経験上わかっているここで泣こうが喚こうが何も変わらないことを……

ならばこの怒りで自分を支えよう……そしてあいつらを一発ぶん殴る。

そう心に決めて夜の明けるのを待った。


熟睡するわけにはいかずうつらうつらしていると穴の中に薄っすらと光が差し込んできた、

朦朧とする意識の中でいつのまにか横に誰かが座っている感じがして

横を向くと誰かはわからないが、あったことがあるようなそこにいることに恐怖もなければ嬉しさもない、ただそこにいることに不思議な感じがしない存在があった。


「君は?」


「私はわたしだよ?」


「なんでココに?」


「なんでだろうね?ここにいるよ」


「えっと……」


言葉に詰まっていると


「君はだれ?」


「僕はルージュ」


「ルージュ?綺麗な響きだね」


「でも、僕は綺麗でも何でもないみんなからはストーンなんて呼ばれてる」


「ストーン?石なの」


「価値がない弱い存在だから」


「石は弱いの?価値が無いの?」


「剣や魔法のような敵を倒す術もない、どこにでもある」


「剣はいつか朽ち、魔法は一瞬しか存在しないけど、石は砕けたりするけどソレ等よりも長く存在し続ける」


「それは……」


「君が石だと呼ばれているなら石の強さを知れるように頼んでおいてあげる」


「え?」


「また、会いましょう あなたの命はあなたのモノよ」


あれは夢だったのかわからないまま夢と現実の間にいるような感じでぼ~としてるところに、ポツンと朝露の雫が頬を撫でて目が覚めた。

あれが夢だったのか自分のさみしさが作った幻だったのかわからないがとても優しい声だった、それは今までに感じたことない、憐れみと違う優しい声だった。

 話の内容は夢ように徐々に薄れているようで朧げにしか思い出せないがその声に触れられたことでとても穏やかで冷静になれた気がした。


「ありがとうございました」


身支度を整えて気に深くお辞儀すると木漏れ日が僕を撫でるように降り注いだ、

昨日の恐怖がまるで悪夢だったかのように薄れて不思議と元気が出てくるような気がするそんな朝だ。


「僕の命……プクボン行こう、そして生き抜こう」


更新は不定期で遅くなり申し訳ございません。

なるべく早くかけるように頑張ります。

なお、この小説では山小屋をまるで悪い職業のように書いていますが、

あくまでこの世界での話なので現実世界とは関係ありません。

作中にも書きましたが念のため再度記載致します。

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