マンホールからこんにちは
急ルールを採用しております。
クトゥルフTRPGは大好きですが、あまりルールを詳しく理解できていないです。
また小説用に改変しています。
少し空が高くなってきたこの頃、私はいつもの様に、アルバイト先の蕎麦屋から帰宅していた。
自転車で風を切りながら、お気に入りの動画の更新に胸を踊らせていた。
ニヤニヤと、前回の動画を思い出し幸せな気分でいた。
そして、突然、私の体は空に投げ出された。
視界の端に映る、ぽっかりとした道路の穴。
運転に集中していなかった私が悪かったんだけど…まさかマンホールの蓋が空いてるなんて。
そして視界は暗転する。
こんにちは。
私はGMです。
貴女は邪心の気まぐれのゲームに誘われた生け贄です。
ぜひ、貴女にとってのハッピーエンドを目指してください☆
若い女性の声が頭に響いた。
視界が急に光を取り戻し、周りを見渡せば痛々しいファンシーな部屋だった。
<GM>
貴女の名前は「キャサリン・ウィルストン」。
地方の男爵令嬢の娘で、今年から貴族学園に通うそこそこ可愛い女の子です。
さぁ、運命のダイスを振ってください。
「ちょ、ちょっと待って急に何!?」
いつの間にか私の目の前にはテーブルとダイスが存在した。
私の手勝手にダイスを振っていた。
◆キャサリン・ウィルストンのステータス
STR:8
CON:8
POW:12
DEX:13
APP:13
SIZ:10
INT:11
EDU:9
備考:男爵家令嬢で、紅茶色の髪と薄いグリーンがかった茶色の眼をもつ。
スキルはイベント次第で取得・公開
<GM>
まぁ、何とも鳴かず飛ばすなステータスですね。
果たしてこの乙女ゲームをクリアすることはできるのでしょうか。
姿が見えない声が勝手に進行して、知らない部屋で自分の意思と関係なく手がダイスを振った。
この現象に言い様のない恐怖感を覚えてしまった。
<GM>
あ、勝手にSAN値減らさないでくださいよ。
仕方ない、ルール説明もありますし、この部屋までは特別に回復して減少も無しにしてあげます。
姿のない声が言い終わると腹の底から冷えた感情が一気になくなり、とても落ち着いた気持ちになった。
「なに…これ……」
<GM>
どうやらプレイヤーのアイディアは高いようですね。その分説明も楽かもしれません…。
では、改めまして、初めまして。
私はGM、邪神の代わりにこのゲームを仕切っております。
貴女は、「キャサリン・ウィルストン」、この乙女ゲームのヒロインに選ばれました。
では、このゲームのルールを説明します。
1.貴女は努力とヒーロー達と愛を育むことでステータスを上昇またはスキルの取得が可能です。
2.一定の選択はダイス振って出た目に応じた結果となります。ステータスが高いほど成功しやすいです。
3.ヒロインのボーナスとして、オリジナルスキル「鑑定」が与えられます。ステータスと鑑定対象によって難易度が異なります。
4.邪神が満足すれば、貴女は解放されます。
理解が出来ない事態に手が震える。
その手の震えも直ぐに引いて、私は何故か事態を受け入れた。
「GM、努力ってどんな努力をすればステータスが上がるの?それにどうすれば邪神は満足するの?」
<GM>
本当はここでの質問は受け付けないんですがね。
私は優しいから答えてあげます。
ステータスの上昇は一般的な努力と一緒です。EDUを高めたければ勉強をすればいいし、STRを高めたければ筋トレでもしてください。
邪神がどうすれば満足するかは、私も分かりません。
ゲーム進行は私がしますが、貴女が正解を導いてください。
まだ質問をしようと口を開くと、足元に大きな穴が空いた。
<GM>
それではいってらっしゃーい。
愉しそうな声が頭に響いて視界が暗転した。
-
--
---
眼を開けると芝生の上に座っていた。
青々とした芝生が波うち、シロツメクサがふわふわと揺れる。
なんで、私はここに座ってるのか。混濁した記憶をゆっくりと整理しながら思い出す。
そっか、今日が入学式だった。
都会の建物は大きくて似たり寄ったりで分かりにくく、すっかり迷子になってしまい、途方にくれてここでうたた寝をしていたことを思い出した。
意識がはっきりしたところで、先ほどの夢が頭を反芻する。
奇妙な空間とこの世界ではない記憶、この世界の常識とキャサリン・ウィルストンの記憶が頭を反芻する。
私は、足元がぐらついた気がした。
<GM>
ダイスロール:アイディアロール…成功
貴女は自身の記憶が2人分存在することに気がついた。また、先ほどの夢も現実であり、この世界が作られた現実であること理解した。この奇怪な状況におぞましい恐怖感を覚える。
SANチェック:成功…-1 残りSAN値59
成功のため減少は少ないですね。
私が今はこの世界のキャラクターとして役割が与えられた人間であることを理解した。この世界は疑似であり、現実である…暖かいはずなのにうすら寒くて、私は両肩を抱いた。
誰もいない中庭で絶望と向き合う。
<GM>
シークレットロール:成功
シークレットステータス:-1
不思議なことに、ゆらゆらと揺れるシロツメクサを見ていると先ほど絶望感が和らいだ。
そうだ、ここにいても仕方ない。これからを考えなければ。
「うん、まずは…教室を探そう。とりあえず人が要るところに行こう。それから、少し落ち着いたら今後のことを考えなきゃ…」
無意識に出ていた涙を拭って私は立ち上がった。