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Last&Rust~終炎の勇者と錆の魔女~  作者: あるごん
プロローグ
3/3

ボーイミーツガール

「僕の周りにしか槍が出せないと思ったか?マヌケめぇ!」


「ふざけ……やがって……」


重い音を立てて倒れ込む男。槍は消失して、傷口から血が川のように流れでる。


「ようやっと邪魔なやつが消えたよ。さて、遊ぶとしようか。」


縛られた少女に歩みよっていく。そして彼女の肌に触ろうとして、天使の肌はサビで覆われた。


「この女……!貴様も言う通りにならないというのか!思考を捨てた馬鹿どもめ!」


激情のままに、少女の顔の前に槍を突き立てる。一応は売り物になるはずのものに、やりすぎたか?と思い、必要なら催眠魔術を使ってやるべきか……と思案していると、少女が自分を睨みつけているのに気が付く。


「おいおいおい。逆らったって意味なんてないぞ?お前は捨てられたんだ。唯一の救いだったかもしれないやつはあそこで伸びてるしな?まあとりあえずあきらめろよ。僕のために使われるってことは、神に使われるのとほとんど変わらないんだぞ?喜べよなあ。」


「嫌……」


「嫌だあ?お前にもう選択権なんて残ってないってことにまだ気づいてないのか?そんなに助けてほしいんだったらもっと哀れに嘆くといい。もしかしたら境遇は良くなるかもしれないぞ?」


「助け……助けてぇ……」


「なんだってえ?聞こえないなあ!もっと聞えるように大きな声で話さないとねえ!」

そう言いながら、心にとどめを刺さんと歩み寄ってくる男。


「嫌……嫌ぁ……」


無駄な足掻きと分かっていても、それを続ける他に方法はない。藁にもすがる思いで、力を振り絞る。もしかしたら、もしかしたら、あの男ならもしかしたら……そんな哀れな願いを込めて


「助けて……助けてぇ!」


「まあ大声で言われたところで辞めるかどうかは別なんだけどね!」


助けを乞う対象が変わったことにも気づかず、さてどう楽しむかと舐めまわすように少女を見る天使。


『申請を承認。第一拘束の解除を開始。』


無機質な声が鳴り響く。怪訝そうに振り返ると、先程倒したはずの男がゆらゆらと立ち上がっていく。その服の隙間からは炎がちろちろと漏れ出て、開けた穴は塞がっている。


「貴様もか!クソ野郎!」


「うるせえよ。よくも腹に穴あけてくれやがったなあ!」


先程よりも数倍大きくなった剣を思い切り叩きつける。受け止められるも、膂力が上昇しているのか止めることもままならない。必死の思いで振り払ったのも束の間、首根っこを掴まれて投げ飛ばされる。


「なんだよてめえ!いきなり強くなりやがって!」


戦況の変化から、大きな翼を使って思い切り飛び立っていく天使。本来であればそれは千里を人知を超えた速度で飛行するものだった。


「逃がすと思うか?間抜けめ。」


凄まじい速度で飛び立っていくが、それではまだ足りなかった。

男がホルダーから柄を取りだし、細い刀身を作り出す。背中から弓を取り、番え、思い切り引き込む。


天使が振り向いてそれに気づいたのは、既に放たれる直前で。次の瞬間目にしたのは轟音と共に音の壁を越えて迫り来る矢。


明確な死の香りを感じ取り、まずいと思って身体をひるがえすも、それをするにはもう遅い。塔から続く橙色の一本の線のようにもみえたそれは、翼を貫き空へと進んでいった。



全身の汗が蒸発し、身体の熱を冷ます。


翼を失った天使は力なく地面へと落下していってしまい、最早見ることは出来ない。

ホルダーに再び柄を一本だけ残して収め、鎖に繋がれた少女の元へ歩いていく。


「やめ……こないで……」


いまだにおびえる様子を見せる少女に、


「大丈夫。もう終わったからな。」


と声をかけ、抱きしめてやる。

緊張の糸が解けて、少女の全身の筋肉が弛緩していくのを感じる。弛んで、弛んで。

生暖かい感触が、太腿を伝って……それに気付いた少女は、頬を赤らめ、


「離れてっ!」


突然のことに驚いた男はたじろいで二歩、三歩後ろに下がる。


「見ないでぇ……」


かけられた白い布に灰色の染みが少しずつ拡がってゆく。少女は泣き啜り、


「あっち向いててぇっ!」


そう叫ぶ。言われたとおりに後ろを向いて待つと、水の流れる音がする。しばらくするとそれは川のような音から地面を打ち付ける音へと変わっていく。


涙と、それ以外の何か。打ち付ける水音は徐々に、しかし確かに大きくなっていって。すすり泣く音をかき消すように、水の勢いは強くなっていく。


地面を見れば、地面を伝うように水が足元に迫ってくるのが分かる。やがて水の流れる音が帰ってきて、しかしまだ時折地面に勢いよく当たる音が数回、耳に届いた。


ぽつん、ぽつんと、水の流れる音も掻き消えた後に滴るような音が耳朶に響く。羞恥の篭もった掠れるような泣き声と嗚咽だけが、最後に残っていた。



◇ ◆ ◇



「見ないでよ…絶対だからね…」


ぐずぐずと泣きながら、フォルナは男に鎖を斬らせようとする。男は服の1部を切って作った目隠しで目を塞ぎながら、手探りで鎖を切っていく。


互いに言葉を交わさない無言があって。気づいた時には、2人とも塔の下だった。行くあてもない、目的もない。どちらが先に開口するのか待つような空気になった時に、


「心配だから戻ってきたよ名のない旅人君!」


空気が読めるのか読めないのか。判別のつかない男の声が聞こえてきたのだ。


男はフォルナを後ろに隠しながら、


「血で汚れてしまっていて……もし服の換えか何かがあれば、彼女に着せてあげるものが欲しいんだが……」


アミスは、余計に追及することなく


「そうだね。君、どうせ行くあてもないだろうから馬車を連れてきたんだ。中に衣食はある程度あるから、色々貸してあげるよ!」


快い返事を返してくれた。馬車をこの早さでここまで持ってきたことに、どこに隠してあったのか……と不審に思うが、彼の親切心は本物である。幸い、近場には先まで歩いてきた川がある。水も綺麗だったし、フォルナはそこに向かわせることにしようか。


「フォルナ。君はあっちの川で着替えてくるといい。私たちはここで待っているから、自分の好きな時に帰ってくるといい。」


そう言って、少女を川へと送る。振り返って、アミスと情報の交換をすることにした。


「この塔の上にあの子は縛られていた。生贄か何かだったらしい。上には空を飛ぶ妙な男も居たが……叩き落としたからそれはもう大丈夫だ。もしあいつのことについて知っていることがあれば教えて欲しいけれど、自分のことを教主とか何か、言っていた気がする。」


「ああ、あのカルト教会の……君、あいつを倒しちゃったのか。割と有名人だよ?あいつ。悪い方向の認知だけどね。」


「ところで、君はこの世界について、どれくらい覚えているのかな?騎士団のことは分かるかい?ギルドのことは?厄災について、覚えているかい?」


「前2つは覚えている。厄災とやらが何かは……覚えていないな……」


なるほど……と考え込むような仕草をする。


「であれば君は、僕に着いてくるといい。まずは記憶を取り戻さなくちゃいけないだろう。直接その原因に触れてみるのが、多分1番簡単な方法なはずさ。」


確かにその通りかもしれない。あの少女──フォルナのことについても考えなければいけないが、生贄としてあの塔に縛られていた以上、ここに長居することは出来ないだろう。


あてがない以上、行動を共にするしかない。となれば自分の素性くらいは明らかにしておきたい。


「まあ、とりあえず腹ごしらえでもするかい?君も彼女も、暫く何も食べてないだろ。腹が減っては戦ができぬって言うじゃないか。まあ戦はできるだけ避けるべきだけどね!」


なるほど確かに、自分は思ったより長い間何も食べていないらしい。彼女も縛られていた事に加え、元々の立場もそういいものでは無いだろう。いいものが食べさせられるなら、それがいい。


野外設営を進めていく。どうやら着替えも済んだようで、フォルナも帰ってきたらしい。彼女は何が好みだろうか。


◇ ◆ ◇


さて、今日のところはこれでおしまい。

これは一人の男の冒険譚。男の名はルキウス。人に愛され神に愛され偉業を成し遂げる勇者。今は自分を見失っているけれど、彼はきっと辿り着く。多くの願いを背負う旅路の中で、大切なものを見つけるはずさ。今はほんの準備期間。僕はこのまま特等席で、彼の勇姿を眺めることにさせてもらうよ。

読んでくれてありがとう!


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