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Last&Rust~終炎の勇者と錆の魔女~  作者: あるごん
プロローグ
2/3

塔にて

「あの上につけば周りを見渡せるだろうか。あいつに言われていることもあるし、登ってみるのも一興か。」


そう考えて、塔へと向かうことにした。


近づいてみると、遠くで見るよりも朽ちている様子がよく分かった。長い期間荒野の風にさらされて削れでもしたのだろうか。ちょっとしたことで崩れ落ちそうだ。


入口…というにはあんまりな、崩れた壁から中に入る。中は広く、やけにひんやりとした空気が漂っている。壁を見てみると、模様があるのがわかった。


「これは…文字か?読めないな……」


塔は階層に分かれていて、螺旋型の階段を上りながら文字のようなものを確認して進んでいく。二階層目に着いて、中をのぞいてみると、多くの石板のようなものが並べられているのが見受けられる。そこにはさっきまで見ていたような文字が彫られており、なぞってみると青く光った。


壁には穴が開いているが、それ以外に光源がないことがもともとここが暗室であったことを示している。人の生活していた痕跡はなく、人が入った痕跡もほぼない。誰が住み着いている訳でもないし、監視塔という訳でもないだろう。


なんのために使われていたのか分からず、その階層をあとにしていく。

そうやって同じような階層のつくりが何度も過ぎて、いい加減飽きが来たと言うときに変化が訪れた。


最上階手前というフロアで、石版が壊されて火をたいた跡がある。机が円形のフロアの中央に置かれていて、祭壇らしいものが確認できた。使われてからそうたってはいないようで、大きな杯の中にはまだ液体が残っている。


何かしらの儀式をここ数日でしたということだ。間違いなく上には何かがある。好奇心に突き動かされて、屋上へと歩を進める。


長い階段を上り終え、顔を出してみれば、塔の上には台座があって──そこには、1人の女の子がいた。フード……のようにされたボロ布を被っている女の子。


白い肌が覗いていて、顔立ちは整っているように見える。両手をさびた鎖で繋がれていて、こちらには気づいていないようだ。


近づいて布を外すと、狼のような耳の着いた、色白で銀髪で、吊り目の可憐な女の子が、こちらを睨むのが見えた。


「君、名前は?」


「……フォルナ。あなたこそ、誰よ。」


「俺か?あいにく名前は忘れてしまったんだ。悪いな。でなんでこんなところにいるんだ。」


「覚えてない……気づいたらここに縛られてて……」


「そうか。」


おそらくは下の儀式と合わせて考えて生贄か……そう考えつつ、


「今から錠を外すからあんまり暴れたりすんなよ。」


返答は帰ってこない。睨まれたままに、男は腰のホルダーからいくつかのカートリッジ──無機質な直線の柄のようなもの──を取り出して、ナイフ位の長さの刀身を飛び出させる。


赤い刀身が、少女を拘束する鎖を切ろうとした。


が、それは後ろから鳴り響く声によって遮られる。


「そこのお前、神の塔に捧げられた生贄に何か用か?」


羽の生えた男が自分のことを見下すように立っているのが見える。純白の羽と白髪で、そこそこに整った顔立ち。とりあえず見覚えはないし偉そうだったので少し腹が立ち、


「誰だよあんた」


語気を強めて尋ねる。

「貴様、誰に向かってその口をきいていると思っているんだ?お前、俺が誰だかわかってそれを言ってるのか?」


縛られたままの少女に目をやっても、自分だって知らないと言わんかのようにまた睨まれてしまった。俺だってこんな奴とかかわりあいになどなった覚えはない。


「お前、物分かりが悪いなあ!僕は天使、神の使い、ミハイルだぞお!?教祖ミハイル!聞いたことないのか?田舎人には伝わってないのかもしれないなあ!」


「誰だよ……」


再び知っているかと目をやっても、そっぽを向かれてしまった。


「俺はお前のことなんて知らんし毛ほども興味もない。まあ教祖だなんだというなら多少は敬うが……で、何でここにいて、なんでこの少女が縛られてるのか、説明願ってもいいか?」


「不遜だなあお前!まあいいさ。寛容になることも神の使いの義務だからね。下々の者の不満のはけ口になるのも我らの仕事だ。仕方ない。特別にお前には教えてやろう!この娘はなあ、生贄なんだよ。それも意味のない生贄だ。村から忌み嫌われて、生贄の形でついに村から追い出された哀れな娘だ。だがまあ、供えられたものを粗末にするのもあれだからな?ひとしきり楽しんだ後奴隷か何かとして売り払うことにしようかと考えていたのさ。」


なるほど、排他的な村ではよくある話だ。そこに付け入ろうとする族がいても何ら不思議ではない。


「で、そこに俺が現れたと。」


「その通りだよ。今まで何回もやってきたけどこんなことは初めてだ。空気が読めないよなあ。僕は別に何も悪いことなんてしてないのにさあ。そんなやつはさあ、何されても仕方ないよねえ?」


「で、お前はどうなりたいんだ?自分の名前もわからない男についていくのか、あの教主様に連れていかれて奴隷になるのか。好きな方を言うといい。」


「おいおい勝手なこと言ってるんじゃないぞお!お前さあ!」


記憶ではなく、体に染みついた本能にも近い何かで迫る脅威に備える。手が自然とベルトへと沿わされるのが、自分でもわかった。


自称神の使い……ミハイルの魔力が高まっていくのを感じる。なるほど神の使いを名乗るだけはある。記憶を失ったまま、こいつに勝てるだろうか。


「死ね!下民!」


ミハイルから羽のようなものが飛ばされる。とっさによけたが、わき腹を掠ってしまった。


「少し待つから、決めておけよ。」


そう、少女に一言語り掛けて、地面を踏み込み、自称天使の頭上を取る。そして、思い切り踵を空飛ぶ男目掛けて振り落とす。


「お前、人の分際で!」


天使はそう叫んで剣を取り出し、おおよそそれに似合わぬ形相で受け止める。男は体重を思い切り剣にかけ再び飛び上がり、腰のホルダーから柄を抜いて刀身を出現させ、思い切り振りかぶって、


「どこに隠してやがったそんなもの!」


「お前にゃ関係ないだろ。さっさと落ちろ。」


余った片手でホルダーから柄をもう一つ取り出し、ナイフほどの刀身を出して男の翼に向けて放つ。


「暑いじゃないか!何しやがる!」


喚き散らす天使の顔を蹴りつけ、地上に叩き落とす。何か叫ぼうとしていたようだが、気にせず二度三度と蹴りつける。


「お前この僕の上に立っただけじゃ飽き足らず僕のことを足蹴に……しかも顔を何度も!何度も!ただで


済むと思うなよクソ野郎!」


「クソ野郎はどっちだよ。」


「ほら、かかってこい。第二ラウンドだ。」


手招きをして、相手を挑発する。


「舐めやがって!お前は最高に惨たらしく、救いのない殺し方をしてやる!起動しろ、ブリューナク!」


その声を合図に、彼の周りに白い槍が数本浮かび上がる。一つ一つに魔力が相当につまっており、触れたらただでは済まないだろうと思い知らせる程の威圧感があった。


神の使い、事実やもしれないな……逃げてもいいんだが……答えを聞くまでは、待ってみるか。


長めの刀身の付いた柄を手に取ったまま、一気に斬り掛かる。床に跡がつく程の踏み込みを込めて斬りかかってもお互いに押し負ける様子はなく、2人の力は尋常のものでは無いことを知らしめる。しかし天使には自由自在に操れる槍がある。男はそれに常に気を払っていなければならない。槍に合わせて投げナイフのように短刀を投げて迎撃をし、なんとか留めている状態だ。


「おいおいおいさっきまでの威勢はどうしたあ?」


あざけるような声と共に、鮮烈な蹴りが繰り出される。もろに受けることは防いだが、それでも塔の端まで吹き飛ばされるほどに威力があった。


追い打ちのように槍を投げられて、強引に剣で振り払う。男は意趣返しと言わんばかりに瓦礫を拾い上げ思い切り投げつけ、飛びかかってお返しの蹴りを叩き込む。


「お前人の顔を何度傷つければ気が済むんだ!顔ばかり狙いやがって……」


「狙いやすい顔をしてるお前が悪いだろ。」


「なんだとお!」


互いに剣を取りだし、鍔迫り合いになる。


「とっとと死ねよクソ人間!」


男は足払いをし、体制を崩したところを蹴りあげる。浮き上がった身体を弾くように空いた手で殴り飛ばされ、立ち上がって戻ってくるも、男は連撃を繰り返し、徐々に外の側へと押し込んでいく。


流れる水のように放たれる連撃は、見た目とは裏腹に重い攻撃の雨である。単純に見れば、天使の側が不利とも思える状況。何とかして打開を試みようとするもしかし、優勢は男の方にあった。


剣戟を重ねる度に、押し込まれていく天使。槍を使っても全く歯が立たず、情けない声を上げることしかできなかった。が、


「これで終わりだ。」


トドメを刺されようと言う時、鈍い音がした。体を貫く音。臓腑を焼く痛みが男を襲う。見れば、土手っ腹に槍が突き刺さっているではないか。

読んでくれてありがとう!


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