表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

6.嵐が連れてきた者

ヒロイン登場回になります!

 この異世界に転生して早三年の月日が流れた。





 18歳となりここでの生活に大分慣れたものの未だお一人様生活を満喫中だ。デエスから貰えるDPは日に最低10,000はあり、多い日はその数倍のDPが貰えた。毎日何もしなくても諭吉が降ってくると考えると恐ろしいけど、それを受けとる側としては非常に有難い。すっかり釣り生活も板につきDP稼ぎは順調そのものだ。


 増えたDPは食費に使う事が多く、衣服や家具などを購入しているため何百万とは貯まっていない。ここに来た当初は船の購入を考えていたものの、今となっては自由気ままな独身生活も悪くないと思い始めている。映画鑑賞や料理本を購入し趣味に打ち込み、大物が釣れる釣竿を買ったりと、そういった事にもDPを使っている。


 第2のプランであった魔法は、物は試しと思い風魔法を取得してみた。結果から言えば何も起きなかった。異世界の定番である魔力の流れを掴んだり、お腹付近にあるとされる魔力を感じとったり、魔法を詠唱してみたりと試行錯誤を繰り返したが何一つとしてうまくはいかなかった。

 それならばと魔道具を購入しようかと考えたが、魔力がないと使えないと書いてあり、魔法が使えないだけで魔力はちゃんとあるのかどうかの確証がなかったため購入はやめた。


「にしても凄い雨だな」


 今日も釣りしてDP稼ぎをしようと外に視線を向けると、生憎と大雨。嵐や台風に近いレベルの風と雨で海は大荒れのため釣り所ではない。そのためリビングでゆったりしながらなんとなしに外を眺め、今日の予定を考えていた。

 こった料理、家の掃除、はたまたDVD鑑賞をするか、一人悩んでいると不意に声が聞こえた気がした。


「空耳、いや風の音か―――」

「―――――け―――――――だ―――――――――――ぇ――――」

「――ッ!」


 嵐のうるささかと思ったが聞き間違えではなく異世界に来てから初めての人の声だ。急いで外へと駆け出し声の主を探すが、嵐の所為で視界が悪く容易に見つけられない。


「だ、れか―――け、てぇ―――」

「そこか!!」


 さっきよりも鮮明に聞こえる声。そのおかげでどこにいるか分かった。しかし今にも海に引き摺り込まれそうで、だけど必死にもがいてる手が見えた。遭難なのか漂流なのか、何故海のど真ん中で溺れているのか疑問が沸き上がるが今は後回しで助けるのが先決だ。しかし自分が海に飛び込んだ所で同じ運命を辿るだけだ。


「すぐに助けるっ!!もう少しだけ頑張ってくれぇ!!」


 人は終わりが見えない時ほど絶望を感じてしまう。まさに俺の社畜時代がそうだった。終わりの見えない仕事量に日々記録を塗り替える連続勤務日数。しかし人は明確な終わりが分かると、『もう少しだけ頑張ろう』という気持ちが湧いてくる。今はその僅かな時間が生死を分ける。

 家の中が濡れるのもお構い無しに助けられる道具を取りに戻る。幸いほぼ毎日使っている物でリビングに置いてあったそれを手に取り、部屋干ししていたタオルを乱暴に抜き取る。


「これに捕まれ!」


 この三年間で腕をあげそこそこの腕前にはなったと自負しているそれを海へと投げ入れる。針だと手を怪我するしルアーだと掴みにくいと思い、針にタオルを括りつけた。狙い違わず溺れている人の近くへと入水し、あとはそれを掴んでくれれば俺が必ず引き上げる。

 いつか大物を釣るんだ、と意気込みその場のテンションで買ってしまった釣竿がこんな形で役に立つ時がきた。これなら竿が力負けして折れたり、糸が切れたりはしないだろう。


「くっ、荒れた海の影響もあって思った以上にやばい…」


 一瞬でも気を抜けば逆に俺自身が釣られてしまう。しかし今回釣り上げるのは魚ではなく人。食い付くタイミングや疲れさせて釣り上げるといったテクニックは不要だ。釣糸が千切れない様に精一杯巻きあげるのみ。


「あと少しだっ!この手に捕まれ!!」


 お互いが手を伸ばせば届く距離まできた。後は釣竿に頼らず手を掴み引っぱり上げる。相当体力を消費しているのか投げ入れたタオルに必死に、体全体を使ってしがみつき手が伸ばせないでいる。だがはっきりと目が合いその瞳に活力が戻った様に感じ取れた。徐々に、だけど確実に手を伸ばし俺はその手を掴み、おもいっきり引っ張った。


「はぁー、はぁー、無事に救助成功だな」


 力任せに引っ張ったおかけで俺が地面に押し倒される格好になってしまった。不可抗力だが女性特有の膨らみが当たって―――いやいや、そんな事を考えている場合じゃない。


「おいっ!大丈夫かっ!!」


 一向に起き上がる素振りを見せないため心配になってきた。


「はぃ…」


 助かった安堵感とそれまでの疲労感が襲ってきたのか、至近距離にも関わらずか細い声で今にも力尽きそうに感じる。まるで俺が死んだ時の――――なに不吉な事を考えているんだ。あの時は一人だったけど彼女は違う。何故なら一人ではなくここには俺がいる。


「気をしっかり持て!」


 一度彼女を地面に寝かせてから持ち上げる―――俗に言うお姫様抱っこで彼女を家まで運ぶ。濡れるのは気にせずリビングのソファまで運びそこに座らせた。

 この世界にも四季があるのか不明だけど、今は地球で言う春か秋くらいの過ごしやすい気温だ。しかし朝晩は少し肌寒く感じられ、ずっとびしょ濡れのままだと体温を奪われ風邪を引くリスクがある。

 すぐさまヒーターの電源をいれ風呂場から乾いたタオルを多く持ってきた。


「このままだと風邪を引くかもしれんから服を脱がすけどいいか?」

「……(コクッ)」


 意識はちゃんとあるみたいだけど喋る気力はまだないらしく軽く頷き了承の意を示してくれた。ワンピースのようなドレスを着ているためそれを脱がせるだけで済んだものの、その下は下着姿だったためなるべく見ないようにして体を拭いていく。さすがに下着まで取るのはまずいと思ったので大方拭き終わったら、俺ので申し訳ないが適当な長袖を着せてあげた。俺よりやや身長が低いおかけで丈が余り下着を隠すことに成功したけど、逆にエロくなってしまった。


 煩悩をかき消すため頭を振りもう一度風呂場へ行きドライヤーを持ってくる。彼女は金髪のロングヘアーのためすぐには乾かないだろうと思い彼女に一言言ってから髪を乾かしていく。


 それにしても見た目は美人でドレスを着ているためどこかのお嬢様ってのが第一印象だったけど、そんな人が海で溺れている状況が考えられない。ましてこの孤島は海のど真ん中。つまりは大陸からは相当距離が離れていてある程度の日数を要するので余計に考えられない。

 そんな事を考えながら髪を乾かしていたら大方終わった。


「横になって寝るか?」

「……(フルフル)」

「なら腹は減ってないか?」

「……(コクッ)」

「よしっ!それなら軽く作るから待っててくれ。もし眠たくなったら遠慮なく寝てていいからな」


 どうやらお腹は空いているみたいなので食事を作る事にする。彼女を優先したためまだ自分は濡れたままなので、三度風呂場へ行き服を全部着替え髪も大雑把に乾かした。


 体調の悪い人の定番料理と言えばお粥だ。多少時間はかかるが普通の食事だとお腹が空いているとは言え、胃が受け付けずに喉を通らない事もあるだろうと思い、食べやすいお粥をチョイスした。


 朝の残りで卵があったのでたまご粥を作ることにした。元々家にあった土鍋を用意して適量の水、白だし、醤油を少々入れて加熱をする。沸騰したら朝の残りの米を投入する。ついでだから自分の分も作りたまご粥を昼食として頂くにした。

 再び沸騰したら弱火にして5分程加熱をして、その後中火にして溶き卵を投入。ささっとかき混ぜたら火を止め蓋をしてこれまた5分程蒸らしたら完成!彩りを良くするためネギを添える。


「お待たせ。一人で食べられるか?」

「……(フルフル)」

「しゃーない。食べさせてやるから熱かったり、口に合わなかったら言ってくれ」

「……(コクッ)」


 一度テーブルにたまご粥を置きスプーンで一口程を掬い、フーフーと冷ます。このシチュエーションは普通逆だと思ったが気にしない事にした。


「ほれ、あーん」

「……(もぐもぐ、ゴクン)」


 多少恥ずかしいのか口を開きかけすぐに閉じた。しかしスプーンを口元に近づけると意を決した様にパクリと咥えた。どうやらお口に合ったらしく可愛く口を開けて催促をしてきた。


「お腹いっぱい食べろよ。足りなければ俺の分も食べていいからな」


 軽く冗談で言ったつもりだったけど食欲旺盛らしく俺の分もペロリと平らげてしまった。まぁ食欲があるなら回復するのも早いだろう。お腹を満たしたら次にくるものと言えば睡魔だ。いい感じに腹が膨れ時程そいつは突如として襲いかかる。


「君の事情は後回しでいいから、今はゆっくり休んで体力回復に努めてくれ」


 彼女が船を漕ぎだしたのでソファに寝かせ毛布を掛けてやった。余程眠たかったのかすぐに夢の世界へと旅立っていった。


「さてと、もう一度昼食でも作るとしますか」


 疲れている時程良く眠るため当分は起きないだろうし、目を離しても平気だろう。先に昼食―――たまご粥を食べる気でいたので再びそれを作り出す。一人暮らしとはいえ余分に米を炊いていて正解だったな。昼食を食べ終えたら外に放置していた釣竿を回収して玄関からリビングまでの濡れた箇所を拭き取った。

 外へまた出て服が濡れたので洗濯もして、濡れたついでにシャワーを浴びた。


 一通りの事を終えても彼女は眠ったままだったのでやはり相当疲れきっていたのだろう。良い出会いとは呼べないけどこの世界に来て初めての人と出会い、個人的には嬉しかった。彼女が起きたら色々と聞きたい事はあるけど、昼間の食べっぷりから夜もけっこう食べるだろうし美味しい夕食でも作って起きるのを待つとしますか。



次話はヒロイン視点の話になります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ