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19.魔法行使

 


 ―――戦闘を終えて数時間。気絶していた内の一人――耳の尖った女性――が目覚めた。

 ズークが身勝手にも一人で船へと戻り、取り残される形となった三人の奴隷女性。お互いに争う理由なく戦ったが、向こうは命令に従い俺を攻撃してきた。自分の意思でないと感じたため殺すことなく気絶させた。単に殺せなかったってのもある。


 起きた後に再び戦闘になるのを避けるため、両手足を縛り俺とアリスが外で交互に見張っていた。昼過ぎの出来事だったためお昼は済ましていた。しかし体を動かした事や緊張感が続いた事もあり空腹感を覚えた。交互に食事を取りながら体を休め、たまたま俺が見張っていたタイミングで起きだした。


「……ぅ」


 意識を失う前の命令が継続中だと仮定し、距離を取りいつでも魔法が発動できる状態にしておく。


「自分が何をしていたか覚えてるか?」

「…ぅ、あたしは……」


 どうやらまだ意識がはっきりしていないみたいだ。目覚めてすぐに「お覚悟ぉー」ってな感じで襲われなくてよかった。


「船に揺られ、突然島に行けと命令されて……その後はまた命令に従って―――」

「記憶はちゃんとあるんだな。で、今は命令に従って動いているのか?」

「―――いえ、なんともないです」


 考える素振りを見せ、漸く自分の手足が縛られている状況に気づいた。自分の言葉を信じさせる意味合いを含んでいたのか、抵抗する素振りを見せなかった。


「ならもう俺達に攻撃はしないんだな?」

「はい……その、申し訳ありませんでした」

「まぁ君は命令されただけだからな。それにこっちには被害がでなかったし」

「寛大な対応誠に痛み入ります」

「そういう堅苦しいのはいいから」


 奴隷として叩き込まれた教育なのか、地球に居た頃からそんな風に接しられた事がないせいでむず痒い。


「もう起きたのね。どうやら大丈夫そうね」


 と、そこへアリスが交代か様子見を兼ねてやってきた。ちょうど呼ぼうと思っていた所だったからナイスタイミング!


「まだ一人だけどな。悪いんだけど、彼女達の服を用意してもらっていいか?襤褸きれの服を着させたままっても可哀想だから」

「かまわないけど、説明とかはもう済んだのかしら?」

「いや全く。彼女一人に説明してもどうせまた同じ事を繰り返す嵌めになるだろ?だったら全員起きてからにした方がいい」

「はぁ…初対面はまず自己紹介からじゃないの?」

「いやいや、アリスの時だって―――」

「服の用意だったわね?すぐに持ってくるわ!」


 誤魔化して逃げたな。追及するつもりはないからいいけど、確かに自己紹介なしってのもあれか。


「色々と手順が間違っていたけど、俺の名前はヒロヤ・フクヤだ。一応この家の家主で、さっきまでいた彼女がアリス―――正しくはアリスティーゼ・フォン・クライガーだったかな?」


 いつもはアリスって呼んでるし、ここでは貴族とかの肩書きなんてものは意味がない。たまに度忘れしてしまうけど、間違ってはないはずだ。


「ヒロヤ様とアリスティーゼ様ですね。あたし――自分はティルと申します」

「お互いに訊きたいことは山ほどあるけど、さっき言った通り二度手間になるから後で説明するとして。その前に君達は奴隷であってるんだよな?」


 どこから来たのか、どういった経緯であの船に乗っていたのか。多くの疑問が湧く中、彼女達の現状は知っておかないといけない。


「はい、自分達は奴隷です」

「君達の主人はあの船にいたジャンって奴だよね?主人である彼が君達を残してどっかに行った。となると今の君達はどういう扱いになるんだ?」

「推測にはなりますが、恐らく奴隷のままかと。この首輪のせいで命令に従う主人が設定されています。ですので自分達は命令待機中の奴隷になると思われます」


 奴隷だけど奴隷じゃないってことか?命令さえなければある程度自分の意思で行動ができる。しかし再び主人(ジャン)が現れ、命令されるとそれに従わざる得ないと。


「奴隷からはどうやったら解放されるんだ?」

「一つは主人、またはこの首輪を付けた奴隷商から奴隷解放を命じられることです。もう一つは死ぬことです」


 前者は普通に考えれば当然のことだな。ただ一言奴隷から解放するって言えばいいだけだからな。

 後者に至っては解放って点においては間違ってちゃいない。間違ってはいないけど間違っている。


「アリスから聞いたんだけど、首輪を付けた奴よりも魔力量が多いと上書きできるってのは本当なのか?」

「はい、その通りです。しかし奴隷商の魔力量が低いと簡単に奴隷を奪われてしまいます。そのため必然的に魔力量の多い人物が務めます。サウシー帝国では奴隷制度が国家によって認められているため、噂ではありますが奴隷商の魔力量は筆頭宮廷魔導師並と囁かれています」


 奴隷商からすれば自分達の商品(どれい)が奪われるのは堪ったもんじゃない。一般人の魔力量がどれほどのもんかは知らんけど、一般人が宮廷魔導師の、しかもその一番には勝てないだろうな。


「話ぶりからして帝国で奴隷にされたのか?」

「自分はそうです。二人についてはわかりません」

「奴隷の所有権を上書きするに当たって、もし失敗したらどうなるかは知ってるか?」

「自分達奴隷に激痛が走り、その人物からは二度と上書きが出来なくなります」


 なんやかんやいっぱい訊いてしまったが、首輪に関しては何とか出来るかもしれん。別に彼女達を助ける義理なんかは全くない。もしかしたら犯罪奴隷なのかも知れない。

 理由はどうあれこの島に取り残された時点で、彼女達はどうすることも出来ない。このまま見捨てるって選択ができるくらいなら最初から気絶させてはいない。


「衣服を持ってきたわよ」

「ありがとう。アリスに相談があるんだけど―――」

「ヒロヤのことだから、助けたいとでも思ってるのでしょ?(わたくし)はいいわよ」

「え、いいの!?……てかよく分かったな」

「はぁ…一緒に暮らしてるのだからそれくらいはわかるわよ。それと私も貴方に助けられた一人なのよ?」

「そう、だったな」


 その言葉を聞き自然と笑みがこぼれた。アリスの了承も得られた事だし一つ試してみるとしますか。


「ティルに一つ提案だ。俺は闇魔法が使えて魔力量に関しては自信がある。だから一度奴隷の所有権を上書きできないか試させてもらいたい」

「……よろしいのですか?」

「あぁ。ただ俺は闇魔法を実際に使用した事がないし、絶対に成功する保証はない。もし失敗したらティルは激痛を味わうことになってしまう」

「少しでも可能性があるのでしたら、是非お願い致します」


 今さらだが、両手足を縛っているためずっと体育座りの格好を強いられている。縛った俺が言うのはおかしいけども、その姿勢のまま深々と頭を下げる彼女を見て、助けてあげたいと思った。もし自由に動けていたら土下座してそうな勢いだ。


 誤解しないでもらいたいが元々助けるつもりではいた。勝手なイメージではあるが、俺だったら奴隷になった瞬間人生を諦める。何もかも嫌になって誰も信じられなくなる。

 でもティルは違った。その瞳の奥には確かな光があった。リスクを承知の上で即答したのだ。仮に上書きできたとしても奴隷から解放するとは明言していない。自分の主人が俺に代わるだけだ。ただまぁ話の流れからしてその可能性に期待しているのかも知れないけど。


「あぁ任せろ。念のためアリスは近くにいてくれ」

「気をつけて?頑張ってかしら?ヒロヤにならきっとできるわ」


 アリスの方に向き直り無言で頷き、視線をティルに戻す。彼女はとうに覚悟が定まっているのか首を――正確には首輪を俺に差し出す様に近づける。

 初めての闇魔法行使に不安が募る。それ以上に彼女の喜ぶ姿を見たい、アリスの期待に応えたい。そういった正の感情、とでも呼ぶべきものが多く押し寄せる。一呼吸して上書きに挑戦する――――。



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