1.異世界へ
本日2話目になります!
「はぁ……今日も疲れた……」
大晦日。多くの人が休日の中、俺は何故か働いていた。何連勤かは途中から数えるのをやめたので覚えていないが、休みなく働き続け、ようやく今日終わりを迎えたのだ。まさに真っ暗なトンネルから出口という光を見つけた気分だぜ!ハッハッハ……つら。
仕事を終え、いざ帰ろうと思っても終電。仕方なしにタクシーを拾って帰宅する途中に時刻は0時を回り、新しい年を迎えていた。非常に解せないがそんなことは今の俺にとっては些細な出来事である。
「明日は久しぶりの休み……!しかも3連休……!」
そう心を弾ませながら、タクシーを止めて家へと向かう。数十分程揺られた後、タクシーの運転手の声で目を覚ました俺はお金を支払い外に出ると、階段を使って部屋へと向かう。
「ただいま」
ガチャリと開け我が家へと帰宅。残念ながら帰りを待ってくれている家族などおらず、タワーマンションのタの字もない普通のマンションだ。仕事でほとんど家にいないため、必要最低限の物しかない寂しい生活空間ではあるが、今の俺に取っては一番心を安らげる場所と言っても過言ではなかった。
「はぁ……疲れたな」
さっきからため息が止まらない。やっと休みと実感したからか、どっと疲れが押し寄せてきた。貴重な休日を寝て過ごすのはもったいない気もするが、これは寝ないとやばいな。
本当は風呂に入ってから寝たいけど、そうも言ってられない程に体が怠い。半ば倒れるように布団へ寝転がり、そこで意識が途絶えた。
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「ふあぁぁー、よく寝た。ん?どこだここ?」
見慣れた一室ーーではなく何もない無の空間。家に帰りそのまま布団で寝ていたはずが、その布団すらなく見渡す限り雲海の世界。
もしかして明晰夢ってやつか?辛かった疲労感もなく清々しい気分であるため、きっとそうなのだろう。人生で初めて体験したけど本当に現実みたいな夢だな。まぁ現実って呼ぶにはあまりにもかけ離れた場所にいるけど。
「どうやったら夢から覚めるんだ?」
本当に現実で起きたことかどうか信じられない時は、頬をつねったりするが普通に痛い。おぉ、明晰夢ってここまですごいのか。
「およ?起きたみたいね!」
辺りを見渡した時に誰もいなかったはずなのに、後ろから声をかけられた。第一声が"およ"ってこいつアホか?
「ぷんぷん!初対面に失礼じゃない!」
声音からして女性だとは分かるが、まだ直接顔を会わせていないため、表情を読み取られたってことはない。まさか読心術か!?
「それに"ぷんぷん"ってマジでこいつ馬鹿なんじゃないか?」
「むきぃー!!温厚な私でも怒る時は怒るんだからね!」
おっと、今度は口に出してたみたいだ。取り敢えず突っ込むのはやめにして、この状況を説明してもらおう。
振り返った俺の目の前にいた人物は純白のドレスを身に纏った女性。服の上からでもわかる確かなボリューム、だが腰のラインは細くパッと見足も細く長い。つい視線がそっちへ誘導されてしまったが、視線を上へ向けると整った顔立ちの誰が見ても美人であり、純白とは正反対の漆黒の髪はその対比からか美しく輝いているようにさえ見える。
「うんうん、私ってば綺麗でしょ」
そうか、これが俗に言う残念美人。
「だぁーれが残念美人よっ!!本っ当に失礼しちゃう!」
「初対面の相手の心を読む方が失礼じゃないか?」
「うっ……それは――いいのよ!そっちの方が話が早く済むから」
「何一つ進んでませんけど?」
「あぁーもうっ、まずは自己紹介からよ!私は地球とは違う惑星の女神デエスよ」
「女神DEATH?」
やっぱりこいつはおかしいのだろう。普通は心を読まれたり、地球とは違う惑星とか、挙げ句女神だと告げられパニックになったりするはずが、女神DEATHのおかげで冷静だ。
「ちっがぁーう!女神デ・エ・スよ!!勝手に殺さないでよ」
「デエスさんね、理解した。俺は服野 広矢だ。で、ここはどこなんだ?」
「……貴方私は女神よ?神に対する言葉遣いがなってないわよ!」
「神ねー。自称でしょ?偉い人ってもっとこう、オーラがあったり自然と敬語になったりするだろう?残念ながらデエスさんからはそれが感じ取れない。残念美人だけにね」
「ムカつくわねあんた!それに残念美人言うなっ!!」
これ以上からかいすぎても時間の浪費だし、ちょっと可哀想に思えてきたのでこれくらいでやめておく。
「悪かったよ。それでデエス様は私にどういったご用件がお有りなのでしょうか?」
「今さら敬語にしなくてもいいわよ。何だかそっちの方が気持ち悪いわ」
「(なら言葉遣いを指摘するなよな)」
「ちょっとー聴こえてるわよ?」
「これは失礼しました。それで俺は何でこんな所にいるんだ?」
「…中々に肝が座ってるわね。普通そこは建前でも敬語を使い続ける所じゃないかしら?まぁ女神たる私は寛大だから許してあげるわ」
初対面の下りから全然話が進まないから早く説明プリーズ。
「簡単に説明すると、貴方は死んだから体を復元させて、輪廻転生の環に流れる前に魂を確保して復元体にいれたってわけ」
「…で?どうしてここにいるんだ?」
「ちょっとは驚きなさいよっ!貴方死んだのよ!!」
「いやぁー死んだって言われてもこうして喋れてるし体もある。死んだ実感が全くないだなぁこれが」
「うぅー、私の力が凄すぎた弊害ね。あぁー私はなんて罪深い女神なのかしら」
仮にだ、この女神の言ってる事が本当ならば俺は死んだって事になる訳だ。考えられる死因は過労死しか心当たりがないが、今はどうでもいい。何故死んだ俺をここに呼んだのかが問題だ。
社畜の俺でも休憩時間や通勤などにゲームや小説を読んだりしていた。小さい頃にやったRPGの勇者には憧れ、俺TUEEE系の小説は俺もこんな風に成りたいとさえ思ったものだ。まさにご都合主義バンザイ!
誰が好き好んで前世でハードモードの人生を送って、次もその人生を歩みたいと思う?誰だって楽して過ごせるならそうしたい。我が儘を言えば可愛い女の子(嫁)がいたら完璧だ。そう期待に胸を膨らませてデエス様に投げ掛ける。
「つまりは俺は死んだって事でいいんだな?それでただの一般人である俺に女神様が何の用だ?」
「えぇー、そんなあっさり受け入れちゃうの?でも説明が省けて私としては楽――コホンッ、貴方は私の条件に当てはまった奇跡的な人物よ。選ばれた幸運な貴方には私の世界で大いに楽しんでもらおうと思ってここに呼んだのよ」
「その条件とは?」
「およ?気になっちゃうかんじー?そ・れ・は1月1日の1時1分に亡くなった人を呼び寄せるように設定しておいたのよ!」
所々口調が変わって情緒不安定な女神だな。てか条件が意味不明過ぎるし、よくその条件に当てはまったものだと、死んだって告げられた時よりも驚いた。
「どう?凄いでしょ!ほら私ってば女神でしょ?神である私は頂点、つまりは一番ってこと!だから私に釣り合う人間もTOPである"1"が多くないとね!」
「なら11時11分とか誕生日が11月11日の人でよくなったか?そっちの方が1が多いぞ?」
「………そ、そんな細かいことはいいのよっ!!とにかく大事なのは貴方が選ばれたってことよ!」
本当に女神は大丈夫なのだろうか。この女神のいる世界がとても不安でしょうがない。折角の転生チャンスだけどよく考えないと前世よりもハードモードになる予感がする。
「貴方に拒否権はないからね。女神であるこの私に選ばれたのだから大いに感謝なさい」
口調といい、女神だからというマウントを取ってくるあたり、少しイラッとする。さらっと拒否権がないと言ったが勝手過ぎだろ。
「じゃあ俺はその世界で何をすればいいんだ?あと、どんな世界なんだ?」
「うんうん、気になるわよねぇ。地球とは違って丸い?楕円?をした大陸で、真ん中に海がある珍しい世界なの」
「………要するにドーナツみたいな大陸で空洞部分が海ってことか?外側も海なのか?」
「そうそう!それが言いたかったのよ!外側は行き止まりよ」
調子のいいやつだな。それよりもまたさらっと重要なことを言いやがったな。
「行き止まりってそれ惑星としてやばくないか?」
「そこは大丈夫よ。絶対に壊れない壁の向こうは海だから地球みたいに円い惑星になってるから」
「何だそれ?何のために壁が必要なんだ?」
「え?その方がおもしろ―――コホンッ、女神は一般人が考えもつかないことを常に考えてるのよ!細かいことを気にしてるとハゲちゃうわよ?」
確かに短時間ではあるがこいつの考えは到底理解不能だ。
「余計なお世話だ!ザックリだが世界感は分かった。それで俺の役割はなんなんだ?」
「うーん、ひ・み・つ」
「はぁあ!?俺を呼んだ意味は!?」
「え?なんとな―――コホンッ、女神は一般人が考えもつかないことを常に考えてるのよ!」
その言い訳はさっきも聞いた。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが正真正銘の馬鹿だな。
「心配しなくても平気よ。快適に生活できるよう適当にスキルとか用意しておくから」
「スキル?地球と同じ文化・文明じゃないのか?」
「あら言ってなかったかしら?地球でいう中世ヨーロッパのファンタジーな世界って言えばわかるよね?魔法とか魔物、種族では獣人とかエルフなんかもいるわよ。まぁ行けばわかるさ!!」
確かにファンタジーな世界は転生のお決まりだけどさ、普通最初に説明するだろ。てか行けばわかるってマジ適当過ぎんだろ。
「あー、説明に疲れたから転生させていい?いいよね?」
「はぁあ!?おいふざけん――」
つうか勝手に呼んどいて説明放棄ってマジ!?いい加減な女神で、本当に転生先の世界は大丈夫なんだろうな!?転生してすぐに死ぬのだけは御免だ。それにまだ訊きたい事は山ほどあるんだが!
だが女神様は一般人を待ってくれないらしく、突如足元に魔方陣が浮かび上がり、浮遊感に苛まれる。
「大丈夫、だいじょーぶ!"ステータス"って唱えれば現状確認ができるし、世界の中心に転生させるから現在地はすぐに把握できるから迷子の心配なし!さらにさらに独身生活に困らない住居も用意しておいたから安心なさい!ちゃんと地球での生活ってのを調べて用意したのよ!ふふん!どうよ?私の寛大さに咽び泣きなさいっ(ドヤッ)!」
お・ま・えぇーーふざけんじゃねぇ!!世界の中心ってそれ最早陸じゃなくて海のど真ん中だろ!?しかもこいつの用意した家は不安でしょうがない。せめて屋根付きだろうな!?
あぁー糞!聞く耳を持ちたくないのか、魔方陣が浮かび上がってから声が出せない。このままだと転生して溺死する!その上転生体が赤ん坊だったらマジで詰む。いや成人でも海のど真ん中に放り込まれたら生きてられない。
こんなことなら転生なんてせずに平和な地球で来世を謳歌したかった。悪い夢ならば早く覚めてくれ―――。