14.魔法の練習
少し短めです。
風魔法―――≪ブラスト≫を発動してから数時間が経過し、今なお空中に漂っている。
単に魔力量の限界を知ることは大事、だとアリスに言われたのでそうしているが、本音の部分では空を飛んでいるのが楽しい。誰しもが一度は空を飛びたいと願っただろう、その夢が叶ったのだ。
ただ、いつ魔力が無くなっても大丈夫な様に、島の上しか飛んでいない。
アリスは30分程できつくなり今は休んでいる。魔力が少なくなってくると、吐き気や倦怠感に襲われ、その状態になっても使い続けると意識を失うらしく、枯渇した魔力によって眠っている時間が左右されるみたいだ。
調子に乗って島から離れて飛んでいて、途中で魔力枯渇に陥り海に沈むなんてことにはなりたくないから、ずっと島の上を浮遊している。
ただ飛んでいても退屈なので、アクロバティック的な動きをしたり、より速く、素早く動けるように試行錯誤を繰り返した。
そのおかげで、今ではスムーズに空を飛ぶことが可能になった。
「ヒロヤー!一度降りてお昼にしない?」
気持ちよく飛んでいたら、いつの間にか回復したアリスに呼ばれ地上に降りる。空を飛んでいたせいで、踏みしめる感覚にふと安堵した。
「体調は平気?」
「えぇ、大分回復したわ。ヒロヤこそ平気なの?ずっと飛んでいたみたいだけど、相当魔力量が多いのね」
ボソッと「すごいわ…」と聞こえた様な気がしたけど、聞かなかった事にする。
確かにアリスの言う通り、魔力の減った感覚が全くないから、魔力量は多いのだろう。
「うーん、いつもと変わらないからまだまだ魔法は使えそうかな」
「一度限界を知っておくといいのだけど、ヒロヤの場合はいつになるのかしらね?」
そればっかりは俺にも分からん。魔力を酒で例えるのは違う様な気もするけど、自分の限界を知らないとそこを越えた時ひどい事になる。しかし限界を知るまで使い続けるのもまた大変だ。
「とりあえず今日はこのくらいにして、また後日に魔法を教えてほしい。魔力は休んでたら回復するんだよな?」
「魔力の元―――つまり魔素を取り込むことによって回復するわ。だから休んでいれば少しずつ回復していくし、魔力回復ポーションを飲めばすぐに回復するわ」
確かポーションはDP購入リストにあった気がする。
「ただし、ポーションは魔素を凝縮した液体。だから何本も一気に飲むと魔力が高まり過ぎて逆に危険になるから注意がいるの」
魔力上限値を越えると危険ってことか。具体的な数値がないから、体の感覚で覚えないといけないのが厄介だな。
「りょーかい。魔力が減り過ぎるのも増え過ぎるのも危ないって訳ね。アリスが回復した事だし、お昼を作ろうか」
まぁ俺が楽しくてつい時間を忘れていただけなんだけど。しかし魔法のお陰で大陸に行く目処はたちそうだ。俺の魔力が持つ所まで飛んで、途中からはアリスに変わってもらって、それでもまだ魔力が回復してなければ、ポーションで回復して飛び続ける。ただこれだと道中で休憩する時間がないから、何日もかかるようでは現実的ではない。
無難なのは船を使い、風魔法で速度を上げる方法。船があるからそこで休めるが、魔物の存在をどうするかだ。魔法で撃退できるレベルの魔物ならいいが、万が一そうでない場合がまずい。
ある程度目処がたっても、まだまだクリアしないといけない課題が多いな。
その後は一緒にお昼を作り、午後からも魔法の練習をした。そのおかげで簡単な魔法なら無詠唱で発動出来るくらいまでにはなった。あとはスムーズに発動させるのと、より具体的なイメージをすることによって、同じ魔法でも威力が異なると言われたので、イメトレも行った。
風魔法に関してはアリスに教えてもらったおかげで問題ないが、闇と無に関しては芳しくない。
無は身体強化など、どの属性にも分類されない魔法がそれにあたるらしく数が多い。無魔法に適正があるからと言って、無魔法全てが使える訳ではないそうだ。従って一度使えるかどうか試してみないと分からないらしく、時間がかかる。
そして問題なのが闇魔法だ。これに関してアリスは全く知らないらしく、一からの手探り状態だ。試しにと風魔法の詠唱文である、風の部分を闇に置き換えたらダークボールみたいな魔法が発動した。従って特殊魔法でも似たような詠唱であることは分かった。あとは闇属性特有の魔法が何なのかが知りたい。
試行錯誤を繰り返してる内に陽が沈み始めてきたので、今日の所はここまでにした。これといった成果は上げられなかったが、ずっと魔法を練習していても魔力には問題がなかったので、やはり魔力量が多い事が証明された。
そしてあれこれ考えた結果、闇魔法についてはDPで教本を購入することに決めた。500,000DPとお高めだったけど、こればっかりは仕方ない。適正が合っても魔法を知らなければ使えないのだから。
教本を読み進めていくと、≪奴隷術≫なる魔法に目が止まった。アリスにとっては嫌な魔法だろうが、これは闇特有の魔法みたいだ。他にも≪ブラインド≫なる視界を暗くする魔法や、上級に分類されるが≪精神支配≫なる魔法もあった。
闇魔法の大半が相手に作用される魔法で、使い方を間違えれば一瞬で犯罪者になってしまう。さらに教本によれば闇魔法に対抗する手段は、光魔法に適正があるか、魔力量が相手よりも多い事だそうだ。逆に両方ダメだと闇魔法の餌食になると書かれていた。
「今のところは使い道のない魔法だな。当面は風をメインに練習を積んでいこう」
だがすぐにでも闇魔法を使う機会が訪れ様とは、この時の俺には知るよしもなかった―――。