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11.初めての料理

 


「それはどういったものですか?」

「まぁまぁやれば分かるさ!」


 半ば強引にアリスを誘い外へと出た。ここにやって来たのは昨日の今日のため海を見ることがトラウマになっていないかと心配したけど、大丈夫そうだ。


「釣りってのは簡単に言えば、この釣竿で魚―――この世界だと魔物を釣ることだ」

「こんな物で釣れるの?見た所これは食べ物ではないわよね?」

「これはルアー、分かりやすく言えば疑似餌だ。こんなんで釣れるのかって顔してるけど、釣れるんだなぁこれが」


 ルアーの良いところは手が汚れず臭くない。釣り堀とかの餌は独特な匂いがあるし、小魚を針に付けるのは初心者には抵抗があったりするもんだ。


「あとはこれを海に投げ入れて獲物がかかるのを待つだけ。海流の流れや水温、さらには季節によって釣りやすい時間帯や場所があるんだけど、全然分からないから運要素が強くなってしまう」

「つり、と言うのは奥が深いのですね」

「ただボーっと待つよりかは上下に動かしたりして、よりリアルに泳いでる風に見せると獲物が喰らいつきやすい」


 今回アリスが使っている竿はこの世界に来て初めて買った初心者用のやつだ。対する俺は大物を狙う用の竿を使っている。大物を釣ってカッコいい所を見えたい!


 しかしやる気とは裏腹に二人の竿に反応はない。時間だけが過ぎていき一度中断することにした。


「一旦止めて昼食にしようか。釣れない時はてんで釣れない。だけど釣れた時の感動はアリスにも味わってほしいから、もうちょっとだけ付き合ってほしい」

「ヒロヤがそこまで言うのであれば付き合いますわ――その分、お昼は期待しているわよ?」


 すっかり胃袋を掴まされてしまっているアリス。君も料理を手伝うのだから頑張りを期待している。


 とは言ったものの何を作ろうか?アリスは料理初心者だから難しい料理を挑戦させるのはまだ早い。となると初心者でも楽しく作れる料理―――


「カレーって料理を作ろう。これは料理未経験者でも簡単に作れる。とその前に米を炊かないとな」

「たしか、その"こめ"というのがヒロヤの国の主食でしたわよね?」

「その通り!俺たち日本人にとって米は必要不可欠。まずは炊く前に米を研ぐ作業だ。米が浸るくらい水を入れたら優しく底の方から米を掻き回す。すると白く濁った水―――とぎ汁を捨ててまた米を研ぐってのを数回繰り返す」

「優しく、ですね。濁りが消えるまで研げばいいの?」


 そもそも米を研ぐのは、表面についているぬかやゴミを取り除いて美味しい米を炊くためだ。水にも拘るとより美味しい米を炊くことができる。

 米研ぎの注意点は米を乱暴に研いだり、握り潰したりしないこと。そして勘違いしやすいのが―――


「一見濁っているから汚いと思うかもしれんが、このとぎ汁は旨味成分を含んでいる。透明になるまでやってしまうと逆に美味しくなくなってしまう」

「では少し濁ってるくらいがベストね」

「そういうことだ。研ぎ終わったら炊飯器に米を移して、今回は多めに4合を炊くから、このメモリまで水を入れる」

「量らなくていいのは便利ね………入れたわ」

「どれどれ……よしっOK。本来は少し時間を置いてから炊く方がいいんだけど、今回はすぐに炊くから蓋をしてスイッチを押す。あとは炊き上がったら音が鳴って知らせてくれるから米の準備は終了だ」


 次はカレー作りに取りかかる。カレーは辛さ、材料が家庭や店によって違い様々な種類のカレーが存在する。隠し味なんかも色々とあるけど、今日はシンプルに作る。

 そこで用意した材料は牛肉、にんじん、じゃがいも、たまねぎ、カレールー(甘口)だけだ。辛いのは平気かと訊いたら、苦手と言われたので甘口にした。


「米は知らなかったけど、野菜はこの世界でよく食べられている物ね」

「へぇー、世界が違っても似てる所は似てるんだな。最初にじゃがいもとにんじんの皮剥きをする。ピーラーってのを使って、こうやって上から下に滑らせていくだけで皮が剥ける。野菜を持つ手はちゃんと力をいれないと滑るから注意が必要だ」

「にんじんは簡単で、じゃがいもはゴツゴツしていてやりにくい…」


 誰だって最初から上手くはいかんさ。


「にんじんはそれでいいとして、じゃがいもは芽があるからそれをこうやって、ピーラーの部分を使って取る。芽を食べるとお腹を壊す可能性があるから要注意だ」

「わかったわ」


 俺は使い慣れている包丁を使って芽を取っていく。二人でやってるのですぐに取り終わった。


「たまねぎも皮を剥ぐ。これは手で上から捲っていって茶色い皮だけを捲っていく」

「……これは簡単ね!」


 たまねぎは簡単だけど、その後が厄介だぞ。


「そしたら牛肉とじゃがいも、それとにんじんを一口サイズの大きさに切っていく。包丁の持ち方はこう、そんで支える手をこうして、切る。力を入れすぎるとかえって危険だ。スッと引くだけで切れるから力みは不要だ」

「緊張するわね…」


 ぷるぷる震えて狙いが定まらず、余計に危なく見える。危険だと認識しているのはいいことだけど、包丁を持つ手はしっかりと握る方が安全だ。


「牛肉は適当な大きさに切り分ける。じゃがいもは半分の、そのたま半分に。にんじんは縦にして半分、それを横にして二つ同時に切っていくと簡単だ」


 一度切り始めると案外器用なのか、スムーズにこなしている。


「そしたらお次はたまねぎなんだけど、先に言っておくと……目が痛くなって涙が止まらん」

「…っ!?なんて恐ろしい食材!」


 これが、と呟きやがらじっくりたまねぎを観察している。対処法は色々あるんだけど、誰もが通る登竜門だと思って頑張ってもらおう。


「たまねぎもまずは半分にしてから、こうやって切る」

「が、頑張ります」


 恐る恐る包丁を当て、一度一呼吸を置いてから意を決した様に切っていき―――どうやら恐怖を煽り過ぎてしまったみたいだ…。


「ぐ、ぐすん。な、涙が、と、とま、ぐすん、ら、ない、です……」

「お、俺も、だ、よ」


 いつ切ってもこれは辛いな。対処法としては冷蔵庫で冷やしたり、レンジで加熱したりすると抑えられる。また割り箸を加えるといいってのもあるが、俺は効かなかった。それをアリスに説明したら―――


「どうして先に教えてくれなかったの!?」


 と怒られた。まぁ当然の結果ではあるが、ちゃんと意味があることを伝えると、不承不承ながらも納得はしてくれた。


「気を取り直して、下拵えは終わったので焼いていくぞ。最初はフライパンに油を引いて、中火で肉を炒める。赤身が消えたらOKだ」


 箸にまだ慣れてないから、フライ返しを使って炒めてもらう。


「これくらいでいいかしら?」

「完璧!そしたらそこへじゃがいも、にんじん、たまねぎを加える」

「全部入れるのね」

「焦げないように混ぜながら炒め、たまねぎが透き通るくらいになるまで炒める」


 ここは焦げないように注意するだけでいい―――フライパンからは落とさない様にな。


「よしっ!一度火を止めてくれ。次は鍋に適量の水を入れて15分~20分くらいに煮込む。水を量る時はこの計量カップを使うといい」

「えぇーっと、ここまで水を入れるのね。さっき炒めた食材を鍋に投入、で合ってるわよね?」

「あぁ、煮込んでいると、灰汁(あく)ってのが出るからお玉を使って取り除く。これをすることによってカレーが美味しくなるぞ」

「気合いを入れて取っていくわ!」


 いや、気合いはいらんぞ。


「そろそろ15分くらい経ったか?最後にカレールーを加えて溶かしながら、再び10分程煮込んだら完成だ!」

「……はぁ~、いい匂い!ますますお腹が空くわね!」

「俺なんかさっきから腹が鳴りっぱなしだよ」


 暴力的なまでのこのカレーの匂いは、否が応でも食欲が刺激される。カレールーが完全に溶け、少しとろみが出るまで煮込み続ける。


「……いい感じ!アリス、カレーが完成したぞ!!」

「やったぁ!初めて料理を作ったわ」


 二人でハイタッチを交わし完成を喜んだ。完成の余韻に浸るよりも、料理は出来上がりが一番美味しいので、盛り付けに移る―――


「ご飯をお皿の半分までよそって、残り半分にルーをかけると見た目も綺麗に―――」

「早く食べましょう!」


 が、待ちきれないアリスに急かされる。カレールーを煮込んでいた時から、ソワソワしてたからな。苦笑いが溢れるけど、初めて作った料理を早く食べたい気持ちは十分理解できる。


 二人分のカレーをよそいテーブルへと運び、いざ実食!


「「いただきます!」」

「……うまっ!しっかり煮込んだから、柔らかくて味も染み込んでうまい」

「お、美味しいっ!」


 お世辞なしで美味しく、初めての料理は大成功だ!!


「どうだ?自分で作った料理は一味違うだろ?」

「初めて食べる料理だから、違いはわからないけど美味しいわ。料理ってこんなにも楽しいのね!」


 それもそうだな。料理の楽しさを知ってもらえただけでも十分嬉しい。お互いにおかわりをして、お腹も心も大いに満たされた。



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