プロローグ
「金100万円也」
「金500万円也」
「金680万円也」
「金1500万円也」
「――六車義孝 様」
借用書の紙に埋もれた机を見て、僕は落胆していた。
友人に誘われて始めたギャンブルに、現状大失敗しているからだ。
失った分を取り返そうと、他の人に勧められて借金をしたのにこれだよ……。
思い切って取り返す諦めれればよかったのに……。
地道に返そうとしても、利息等を考えると20年はただ働きだし……。
借金の時効……、これから8年間逃げ出すにも、日数にすれば2890日……。
自信のない自分にできそうにはない……。
外には冬特有の強い風が、僕を責めるように窓ガラスを叩く。
こんな額、勘当された親に相談なんて無謀だし。
これからどうすればいいんだ……。
「もう死んじゃえよ」
脳裏にその言葉が響いた。
自分の足りない脳みそではそれが最善策のように思えてしまう。
だけど、死ぬにはどうしたらいいんだろう。
絞殺は苦しそうだから嫌だし、溺死は結局息をしたくなって水から顔を上げてしまうかもしれない。
出血死はビビッてできない、練炭は掃除が大変と聞いた。
むしろ部屋で死んだら、曰く付き物件で迷惑をかけてしまう……。
かといって、樹海の餓死や雪山の凍死はお金がない……。
うーん……飛び降りが安定なのかな……
正直、自分をよくしてくれたアパートの大家さんには迷惑かけたくない。
飛び降りなら警察がやってくれるんじゃないかと安易な考えに至る。
ここらへんで一番高いところは三つ隣のマンションだったっけ。
洗濯していないスウェットの上からジャンパーを羽織り、外に繰り出す。
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冷たい風がスウェットの細かい目を抜けて、下半身の服の中を吹き渡る。
それに応じてか、ガタガタと震えている自分の身体。
こういう時にでも生きているのを実感してしまう自分が嫌になる。
件のマンションへ着き、フロントへと向かう。
オートロックはないみたいだから、やすやすと入れる。
比較的豪華と思える内装を通り、外付けの階段を上っていく。
足取りが重く感じる。
自分はこれから命を絶つのだろうと。
「…今日はちょっと寒いから嫌だな」
口からポロリといつもの癖が出てしまう
こういう思考回路が僕をダメにしていくんだ。
頭を振り払い、階段へ一歩一歩進んでいく。
12階もある屋上につくと、台風のごとく強い風が吹いていた。
飛び降り防止のためだろう、2mもあるフェンスが有刺鉄線とともに備え付けられている。
死にに行くなら多少の傷でも、と思ってしまうんだけども…。
しかし、ここで大事件が起きてしまった。
名前は知らないが、髪の毛が整っていない長髪の女性が飛び降りようとして
――フェンスによじ登っているのを。
まさかのダブルブッキング、これはまずい。
だって、この後自分も飛び降りで死んだら「駆け落ち」だとか「後追い」とか。
何も関係がないのに、「二人の関係性は!?」みたいな記事ができそうで嫌だ。
一日に同じ場所で飛び降りなんて、第三者の心理的にも「あぁまたか」みたいな。
後は、死んだ後の形状もがっつり見てしまうことだろうし……。
せめて……せめて死ぬなら最初がいい……。
そう思うと、自分の身体は勝手に動いていた。
フェンスへ 一直線へ向かい、女性をフェンスから引きはがす。
妨害されると思っていない、恐怖で指が震えていた女性は難なく床へと突っ伏された。
掃除されていない床の砂埃が彼女の来ているコートに纏わりつく。
呆気に取られている彼女に向かって、僕はフェンスを登りながら
「ぼ、僕が先に死ぬんですから、死なないでください!!」
あれ?ちょっと何言ってるのか分からなくなってきた。
彼女もぽかんとしている。
その間にフェンスを乗り越え、あと数cmで飛び降りれる距離になった。
鉄線のせいで手が傷だらけになり、とても痛い……。
生きていると実感してしまう。
風と共に、虚無の時間が流れる。
「Θ〇Δε×$&”!」
彼女はフェンス越しに何か叫んでいる
だけども、僕にはもう関係ない。
空に向かって、自分の足を投げ出す。
あぁ、これで死ぬんだ。
落ちていく重力がこれまでの自分を癒してくれている気がした。
案外落ちるのって時間がかかるんだね。
そう思った束の間、鈍重な音が頭の中を鳴り響いて
僕の目の前は真っ暗になった。
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