96話
かつて仲間の、シャリーンの死を受けた時、リーグはどんな顔をしていたであろうか。
共に遺族へ報告へ行った身である舜はふと思い出そうとする。
あの時のリーグは・・・しっかりしていた。
罪悪感で負い目を感じていた自分を横に、しっかりその足を地につけていた。
(・・・ように見えていた、だけだったんだよな。)
シャリーンに庇われて、特殊部隊を抜ける報告をされていた時。
リーグは心底ほっとしていたように見えた。
いや、きっとしていたのだろう。
(少なくとも・・・暫くは安全だから・・・ね。)
過去に壮絶な最期を見せ付けられ。
必死に逃げてその上でまた死と隣り合わせで。
何かを知ってしまったが故に逃げる事すら出来なかった。
いや、逃げる道を1つだけ思い付いてしまった。
舜は過去にリビと1度模擬戦をした。
ライガとも模擬戦を1度、殺し合いを1度した。
なんなら仲間として戦う機会も1度見た。
アウナリト特殊部隊、彼らの世代はまだ1年目とはいえその質の高さを知っている。
その2位の男なのだ。
こんなあっさり殺せる程、楽な相手ではない。
最初から・・・逃げる為に向かってきたのだ。
そして、おそらくその選択をしたのは。
(もう・・・誰かの死を見るのは・・・嫌だったんだろうな。)
戦争が始まって。
恐らくたくさんの人の死が報告されるであろう。
例えどちらについても、勝っても負けても。
死はまとわりついてくる。
嫌になったのだろう。
だからセロもリーンも殺さず、まともに抵抗もせずに来たのであろう。
(追い詰めたのは・・・俺の選択なんだろうな。)
実際、最後の一押しになったのは開戦であった。
そしてその事実を舜は察してしまう。
『・・・何故?』
石から炎が現れ、女性の形となる。
「・・・クトゥグア?」
『貴方は今何を・・・?何故相手の心情を読めるのです・・・?』
舜は考え込む。
『セカイを壊せる力といい・・・やはり・・・貴方は・・・。』
『クトゥグア。』
ハストゥールが現れ、次の言葉を静止する。
「君たち自由に出入り出来るんだ・・・?」
『不安定な状態で目覚めた上に哀れにも倒されたらしいクトゥルフ以外は、出れる。』
ボンっとナチャも現れ、舜を背に乗せる。
「なんか・・・ちょっと訳あり?」
『ハス・・・トゥールとクトゥルフは争ってますからね。私も、恐らくこのセカイになんらかをしたであろう存在と敵対していますが。』
「お取り込み中ごめんね?これからの事聞きたいのだけど・・・ひゃっ!?ちょっと蜘蛛ちゃんこっち見ないでね。私虫苦手だから。」
リーンが恐る恐る近付いてくる。
「これから・・・これから・・・これから・・・?」
後は義兄と戦いに行くのだが・・・。
(・・・なんも考えてなかった―!)
アウナリト首都圏内に侵入し、城内まで攻め込まないといけない。
そして、それが恐らく1番大変である。
「・・・レアスがなんか考えてないかな。」
「考えてないかな!?」
冷たい空気が辺りを包んだ。
「・・・寒いね?」
『おや、火が必要ですか?』
「いえ必要ありませんよ。近すぎです炎巨大女。」
声の方を振り向く。
『訂正しなさい。私は180しかありませんよ。』
「2cm負けた・・・。」
『そこ、地味に傷付くからやめてください。』
178の舜はふふっと笑ってその声の方を向く。
「雪乃、無事で嬉しいよ。あとクトゥグアは・・・信用して大丈夫、だと思うから警戒心解いていいよ。」
「ありがとうございます!ふふ、久しぶりのような気がしますね。最後にあったのは69話で会話したのが65話位のような。その位久しぶりのような気がします。」
「・・・?確かに色々あったもんね?」
「さて、行きましょうか。先に道を作っておきましたよ。」
「・・・道?」
雪乃の服はだいぶ血で汚れている。
(向こうは激戦・・・だったのかな。ほんと、よく無事でいてくれたよ。その上でここまで来てくれるなんて・・・。)
全く汚れていない髪とそこに付けてる髪飾りだけが目立つ程に。
「・・・あ、その髪飾り。」
「ええ、貰ったものです!気がついてくれて嬉しいです、舜さん!」
(会う時になって付けてくれたのかな?ふふ、気に入ってくれて良かった。)
実際は常に付けていたのだが・・・それを知る由はない。
「・・・さて、俺は行くけど。怪我してる2人は残っててもいいけれど。」
「水臭いなぁ。こっちはもう反乱軍なんだよ?・・・それ、愛花とかにもやってるの?あの子、あなたの仲間だーって思ってるから悲しむかもよ?」
「うっ・・・いつも確認してる・・・。」
雪乃が舜にくっつくように間に入る。
「常に私たちのことを考えてくれている、いい所なんですよ。」
「・・・おお、なかなか恐怖と美しさが同時に来る目線・・・堪らん・・・萌え・・・!」
雪乃は華麗にスルーを決める。
「それでは付いてきてください、舜さん。」
雪乃の先導で歩いていく。
道中襲われることもなく、すんなりと。
「・・・罠の警戒をしておこう。逆に不気味だ。」
「ふふ、大丈夫ですよ。」
警戒を続ける舜に雪乃は笑って話す。
「・・・うん、舜くん。私も大丈夫な気がする・・・。」
漣も辺りをキョロキョロ見回しながら、後に続く。
「アウナリトはそんなに前線にばっか送り込んでたの?」
「うーん・・・そんな事はないと思うけれど・・・。」
リーンも不思議がりながら歩く。
「考えすぎならいいんだけどさ。そこの先導してる・・・雪乃さん?が全部始末してからこっち来たとか・・・。」
セロが恐る恐る喋る。
「いやいやまさかー。レイガに結構足止め食らったとはいえ、先に城から俺たちのいる所までの道を作るのは予知能力でもない限り・・・そもそも俺たちのいる所を知ってるはずが・・・あれ?」
漣はたまたま合流出来た。
(雪乃も・・・そうだった・・・にしては・・・?)
静寂が通り過ぎる。
「・・・あれ?雪乃さん?否定とか・・・なさらないのですか?」
思わず敬語になる舜。
「・・・ふふ、どう思います?舜さん。」
まあ考えすぎだろう、と舜は1人納得して頷く。
(場所に関してはクトゥグアと青龍とレイガの異常な魔力である程度何かあるって感知出来ただろうし。)
「一瞬本気に取りかけたけど・・・少し気が晴れる位には面白い冗談だったよ。」
雪乃はふふっと笑う。
「・・・さて。安全なのはここまでですよ。」
「・・・懐かしいな。」
城壁で囲まれた首都圏。
舜は色んな思いを馳せながらそれを眺める。
「・・・舜くん、こっち。」
漣がなにかに気が付き、スタスタと歩いていく。
「・・・・・・?」
出来るだけ音を鳴らさないよう、確認の声もあげずに全員で付いて行き。
ロープか降りてきた。
訝しめに見ているとひょこっと少女が覗いてきた。
「早く登りな。」
「キアラか。ふう、何とかレアス組と合流出来た。」
1人ずつ登り、キアラが付いてこいとジェスチャーをする。
「しかし、よく打ち合わせ無しで私に気が付いたな。打ち合わせ無しって正気かよって思ってたんだけど。」
「漣が気が付いてくれたからね。」
キアラは鋭く漣を見る。
「合図に気が付いたのか?」
「・・・合図?なにかしてたの?」
キアラはその目を見て溜息をついた。
「何も送ってないよ。ただ肯定したら疑う予定だっただけ。」
「・・・でもなんで気が付いたんだろ?」
漣自身、首を傾げている。
「・・・多分、あんた理由求めなくていいよ。ただ思ったようにやりな。いるんだよ、そういう人間って。・・・さて。」
首都の中でどこからでもその姿が見えるほどの巨大な城。
その壁にキアラはそっと手を触れ、コンクリートのブロックを引き抜く。
「真理とは。」
「変わらぬ魂と、数理。」
隠し扉が開いていく。
「・・・覚悟決めなよ。まあここに来る時点で決まってるんだろうけどさ。ここからはさらに死の危険が迫る。なにせ、アウナリト魔力使いの中でも最強と名高い現王様が相手だ。」
キアラは出来る限り素っ気なく言ってのける。
舜はみんなの顔を見回し、頷いて城の中へ入っていった。
漣「漣ちゃんだよ。」
雪「雪乃です。」
漣「過去の没設定と今の設定がごっちゃになって作者があれ?あれ?ってなってるらしいよ。」
雪「メモをちゃんと整理してたら防げる事ですね。アウナリトの描写ってどの描写だっけ!とか。」
漣「なんか過去の設定と違わない?ってなっても勢いで誤魔化すか!とも。」
雪「メモ整理して?」
漣「ちなみに今回キアラが言ってた合言葉はパロディ入ってるよ。」
雪「本来あとがきで触れるべき内容合言葉だけだったのに整理不足で軽く触れるだけと言う。」
漣「それではまた次回!」
雪「読んでくれたら嬉しいです。」




