90話 原点
「デイム!」
ターガレスは切り裂かれたデイムを抱きとめる。
「・・・ばっ・・・逃げろ・・・!」
ジャメールは武器を構える。
デイムは傷付いたその身体で必死にターガレスを庇おうとする。
時が、止まった気がした。
ターガレスは恐る恐る目を開けた。
辺りにデイムも、ジャメールもいない。
黒い身体をした亀。その長い足に蛇が巻き付いた化け物が目の前に存在していた。
「・・・お前は。」
『久しぶりだな。』
ビャフーストの北にある山。
そこに存在していたターガレスにしか見えない存在。
昔、よく遊びに行ってはその背に乗っていた化け物がそこにはいた。
『目の前には穴がある。そのまま歩けばお前を飲み込まんとする穴が。よく、悩め。虚無へ落ちるように。』
取れる選択肢は―守るか、守られるか。
「決まっている。俺は・・・!」
その名を、呼んだ。
「玄武!」
その倫理と規律を持って御された化け物が顕現する。
「こっちもか―!」
ジャメールはより速く、始末せんとその武器を振り降ろし―
透明な何かに弾かれた。
「坎命牙壁!」
「なんだ!?」
ジャメールの目の前が真っ暗になる。
必死に辺りを見回すが、光など何処にも無い。
音がする。
チロチロと音がする。
何かが這う。足を這って、登ってくる。
(蛇か・・・!)
気が付いた時には身体が動かない。
真っ暗で何も見えないのに、睨まれている感覚がする。
何かを、踏んだ気がした。
蛇だけではない、既にこの蛇に殺された蟲の残骸か広がっているように思えた。
チロチロと鳴く蛇は身体を這いながら、ぐるぐると円を描いている。
「・・・ふん!」
ジャメールに刺され、蛇はその命を終わらせた。
辺りに光が戻る。
(なんだ今のは・・・!?)
眩しさに目を凝らしながらも、ターガレスとデイムの姿を確認する。
亀の化け物は、そんなものは最初から居なかったと言わんばかりに痕跡もなく姿を消していた。
「・・・逃げた方がいい。」
ターガレスはそんなジャメールに忠告する。
「構えろ。先程の続きだ!」
ジャメールは、しっかりと敵意を見せてから斬りかかろうとした。
『敵意という毒を、な。』
「・・・さっきの化け物か。」
辺りにはそれ以外、何者も消えていた。
『ほうれ、毒が回ってきたであろう。』
玄武を睨む度に頭が悲鳴をあげ、意識が薄くなろうとしていく。
「何を・・・した・・・!」
苦しみ、もがきながらジャメールは呻く。
『毒だ。貴様の内に既にある。100の蟲の生き残り。それを殺したお主の内に、既に呪いは起きておる。』
ジャメールは何かに吹き飛ばされた。
そして、グチャグチャと潰されていく。
「ジャメール!?・・・っ!天使!攻撃を受けたんだ!降伏後の攻撃は捌きの対象外になるだろ!」
シャロンは何者かに叫びかけ。
「やめておけ。」
後ろから止められた。
「・・・イーム。ちょうどいい、あんたも手伝って。」
「私は、やめろと言ったんだ。」
シャロンはイームを睨む。
「ここらの戦況は決した。もはや勝敗には何の影響もない。無駄に命を散らすな。」
「何言ってんの・・・?仲間が殺られたんだよ!?」
イームはそのままシャロンの隣まで歩く。
「だから、これ以上仲間に死んで欲しくないから、お前を止めるんだ。その傷で化け物連れた無傷の男とやり合うつもりだから止めてるんだ。」
シャロンはまだ、歯ぎしりをしながらターガレスを睨み付けている。
「はぁ・・・理解出来てないな。分かりやすく言うぞ。お前に死んで欲しくない。だから戦うな。それに・・・死んだ人間を弔えるのも生きてる人間だけなんだ。」
「・・・。」
シャロンはようやく、その視線を横へ逸らす。
「おい!交換条件だ!簡単な応急処置が出来る道具は持ってきた!それを渡すから私たちを見逃せ!いいな!」
イームはターガレスに叫び、呼びかける。
「・・・いいだろう!」
ターガレスはデイムの様子を一目見た後、了承する。
「よし!危ないからそこから動くなよ!私の能力で空間を歪ませるからな!」
イームはそう言うと、道具を持った腕を真っ直ぐ伸ばし―空間に消えさせた。
ターガレスの少し前に、イームの腕が現れる。
そのままゆっくりと下に道具を置くと、その腕は消え、元通りイームの元に付いた。
「行くぞ、シャロン。安全地帯まで歪ませてある。」
「・・・知らなかったよ。能力を明かしてまで私を助ける程、あんたがそこまで仲間思いなんて。」
イームはシャロンに肩を貸して歩く。
「ウェルの抑え役をやらされてたからな・・・。まあ、これから知っていけばいいだろう。お互い、生き残ったんだから。」
そして2人の姿は―消えた。
「ッヌォラぁ!!」
『くっ・・・!レイガ!』
リーンの投擲にクトゥグアが動かざるを得なくなる。
リビの攻撃を受け止めながら、レイガはその目を見開く。
「その程度の鎧ならやれるだろ。」
その声に反応し、青龍がリビを下から上へ突き上げる。
「こんの・・・っ!」
身体を捻りながらその顔に手を置き、空中で距離を取ろうとするが―
左脚を噛みちぎられる。
「・・・いっ・・・全身凶器!」
落下中に黒い生命体へ身体を変化させる。
それらが食い合ってまた"五体満足"のリビの姿へ戻る。
「・・・クトゥグア。」
『・・・ええ。』
クトゥグアの姿が消える。
レイガの目が赤く染まる。
その身体に炎が溶けていく。
『溶けよ。』
2つの声が重なる。
痛みからかまだ座り込んでるリビへ向かって爆炎が向かい―
「ごめん、遅くなった。」
「舜ちゃん・・・。」
その炎は舜によって打ち消された。
舜はレイガを真っ直ぐ見る。
「レイガ・・・。ライガは、死んだよ。お前を想いながら、俺の手によって。」
『それがどうした?』
冷たく言い放つ。
「そうか・・・。」
人の情すらまるで捨て去ったかのような程、冷たく。
『ライガにしろオーフェにしろお前を殺してくれれば、それが良かったんだがな。』
そう、言い放った。
実の弟のライガも、オーフェも都合のいい手駒のように。
舜は内から燃え上がる感情にその身を焦がす。
もっと、怒り狂え。
それでいい。
全てはそこから始まっているのだから。
「・・・知ってる?―誰かを想う力は何よりも強い。」
舜の魔力が、深く、深く、高まっていく。
そして、舜は―その目を赤く染めた。
「纏魔・原点。」
漣「漣ちゃんだよ!」
雪「雪乃です。」
漣「ようやく2人目の纏魔!そして主人公の舜くんが使用!」
雪「どんな能力なんだろうね。」
漣「何かあれに似てて叫びたくなるよね。卍!」
雪「ストップストップ。意図して無かったけどよく良く考えればそれじゃんって作者なったらしいから。無意識で影響出るほど好きな作品に喧嘩売らないでって。」
漣「それではまた次回!」
雪「読んでくれると嬉しいです。」




