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愛の歌  作者: Dust
1章
9/199

8話 初仕事

寒空の下、郊外。

郊外、と言ってもそこまでは離れず見回りをする。

理由は簡単、ここに来るような相手はアウナリトの管轄を知らない魔力者になりたての経験浅いローグしかいない。

舜は耳を澄ます。

音はあまりしない。

それもそのはず、ここに住む人間はかなり少ない。


(もう少し遠くに行きたいんだけどなぁ・・・)

ちらりと舜はレイガを見る。

遠くからポツリと見える人影。あれがレイガだ。

その時だった。

ガサガサと音が鳴る。

何かを物色してる音。

舜は後ろの仲間に右の手のひらを見せ合図をする。

「・・・隊長、複数人・・・7人いる。」

怜奈が小声で話す。

「珍しいな・・・。ローグがそこまでの集団で動くなんて。」

ローグは基本的には自分の好き勝手に暴れてる連中である。

目的は私利私欲、そのためローグにとって他のローグも邪魔になりうる。

もちろん他のローグに邪魔されないようローグ同士で組むことも有り得るがそれでも7人という人数はかなり多い。


(まるで何かに警戒してるみたいだな・・・。管轄なのを知っていながら来たのか?・・・もしそうならかなり実力の自信もありそうだか。)

7人、こちらより人数が多いとなると戦い方は大事になってくる。

舜は軍章を外し、他のメンバーに見せてからしまう。

他の4人も意図を察し外す。

そして舜は音の鳴るほうへ堂々と歩いていく。

見張っている男がこちらに気が付いた。


「よう、お前らも群れてるのか。」

舜はフランクに話しかける。

「まあ今こんな状態だとな。」

見張りの男はジャラリと恐らく後ろへの合図を鳴らしてから答えた。

何人かの男がこちらに来て、何人かの男は身構える。

「・・・俺らはいつまで警戒してればいいんだろうな。」

舜は気にもしていないかのように話を続ける。

「さあな。お前らは見たことあるか?」

(・・・見た?・・・ふむん。)

「いや、まだだ。そっちは?」

ジャランジャランと音を鳴らす。


(2度・・・バレたか・・・?いや、まだだ。まだ様子見を・・・。)

「・・・よう、なんか用か。」

1人の小柄なやせ細ってる男が出てくる。

「話せるか?」

やせ細った男が頷く。それを見て見張りの男は後ろに下がる。

「あの化け物は・・・あれは・・・5mはあった。鎧を着てて・・・あいつの目は・・・うわぁぁ!!」

突如やせ細った男は目を見開き耳を塞ぐ。

それを見て見張りの男はまたかと言わんばかりで後ろに連れ戻す。

「おう、悪いな。余程トラウマになってるみたいでよ。」

代わりに1人の茶髪の男が出てきた。

「あんたがリーダー格?」

「リーダーとかそんなんはあんま決めてねぇがまあまとめ役ではあるな。」

そう茶髪の男は言った後舜の後ろの4人を物色するように眺める。


「おう、ものは相談なんだが・・・その女どもをあてがってくれねぇか?わざわざ男に付いてくるってことはそいつらも・・・」

次の瞬間にはその茶髪の男の首は飛んでいた。

「・・・下衆が。」

舜は剣に付いた血を払い、構える。

「全員戦闘態勢に入れ!」

見張りの男が叫ぶ。

すぐさま舜に向かい飛んできたのは短剣を持った男だった。

男が短剣で斬り掛かったのを舜は作り出した剣で受け流して隙を作ろうとする。

「バカが!武器ってのはこう使うんだよォ!」

その流されるのと同時に反対の手に短剣を作り出した男はその短剣で斬り掛かる。

舜は剣を消し、咄嗟にその短剣に左腕を出し。

そして左腕を斬られ・・・


「・・・は?」

なかった。

魔力を込められた左腕で無傷で止められている。

相手が急遽作り出した短剣であった事、舜本人の硬さが知られてなかったから出来た芸当である。

「武器の使い方教えてくれてどうも!」

舜は受け止めた状態で右手に新たに小さな剣を作り出し喉に突き刺す。


(話をして油断させたところで1人、次に僕も驚いたがその硬さがバレる前に1人の不意打ちで2人・・・やはり舜は実戦慣れしてる。)

「から任せる。」

オーフェはのんびりとそう言う。

「任せる!?」

舜はオーフェに突っ込むと共に他のメンバーの動きを見る。

怜奈はいつの間にか後ろへ回っていたのか、1番後ろの恐らく魔弾で援護しようとしてた相手の喉を斬り裂き、愛花は左右に回ってた2人をあっさりと魔弾で迎撃・気絶させた。

イパノヴァは見張りの男の動きを止める。

だが、舜に使った時は当てずに投げれている程の制度を誇っていた暗器がまるで当たらず、相手の男が動き始める。

人を殺せないのだろう。


「OK、任せて!」

舜はトントンとサイドステップでイパノヴァの前に立ち、剣を構える。

イパノヴァが動きを止めれば舜が簡単に斬れる構えだったのだが・・・。

その前に愛花の魔弾がその男に襲いかかっていた。

舜はさっさと気絶した相手の首に剣を突き刺す。

「えっと・・・大丈夫?」

(うん!ありがとう!)

結果としてかっこがつかない形になった舜にイパノヴァはほほ笑みかける。

「さて、とりあえずこの怯えたのは捕らえるとして・・・。」

「おっけー、預かっとくよ。」

いつの間にやら近くに来ていたレイガがその身柄を預かり、また遠くへ離れていった。

その間に怜奈は愛花が倒した相手にトドメを差して回る。


「意外だな・・・。怜奈はともかく愛花も特に問題なく戦えるとは。お前自身は殺しはしなかったが、殺しを見ても怯まないんだな。」

オーフェはポツリとつぶやく。

「心境的には私もあれだよ・・・。ほら、その・・・うん。」

愛花は浮かない顔をしながら上手く気持ちが言葉に出来ず、黙り込む。

「愛花のおかげで誰も怪我しなかったんだよ、ありがとう。」

舜はそんな愛花に笑いかけ、イパノヴァのうんうんと同意をする。

「それにほら、あれだ。その気持ちは人としてあって当然というかむしろ無くさない方がいいというか。その気持ちで苦しむことはあるだろうけどほら、大事だから、うん。」

フォロー慣れしてない舜は必死に愛花を元気づけようとする。

「・・・ふふ、まあそうですね。ありがとうございます。」

その不器用さに愛花は少し笑った。


その後、チラホラとローグと会ったものの怜奈か愛花がさっさと倒していくという、舜の見せ場もあったものではねぇ!というような事が続き、アウナリト首都へ帰還した。

「うんうん、よかったと思うよー君たち。それに1人何かしら知ってそうなの捕まえたし大戦果だ。後はゆっくり休みたまえ。」

レイガからそう労ってもらい、舜達は解散―と言っても途中までは向かう先は同じだが―とにかく部屋へそれぞれ戻ったのだった。


(・・・まるで役に立てなかった。)

舜はふと部屋で思う。決して出番がなかったという今日の事を悪く捉えてる訳では無いのだが。

怜奈と愛花、あの2人にとにかく圧巻されるだけだった。

この2人がこの活躍をするとなると自分に求められるはたらきってなんだろうか。

舜は考える。


(基本的にはタンク役・・・かなぁ。)

そんな事を考えてた時だった。

コンコンとノックされる。

「空いてるよー。」

ドアからは茶色の長い髪が見えた。

イパノヴァだ。珍しく表情は浮かない。

「えっと、ここで良かったら座って。」

舜の部屋は基本的に本棚がいくつも並んでおり、その中の大量の本と鏡とその前にある小さな机とベッドしかない。

だから舜はとりあえず自分が座ってたベッドをポンポンと叩いたあと、立とうとした。

イパノヴァはその舜の腕を掴み、座る。お互い横に座る形になった。


「えっと・・・どうしたの?」

イパノヴァはしばらく黙ってはたまに首をぶんぶん振る。

舜はそれを見て、話したくなるのを待とうとただ横に居座った。

(私・・・何の役にも立てなかった。)

ようやく振り絞るように出た声。

「俺もだよ。あの2人凄かったもんね。」

へへと笑いかけるがイパノヴァの表情は暗い。

(私には・・・人を殺せない・・・。)

「・・・だったらその分、俺がやるよ。」

イパノヴァは舜の肩にもたれかかる。

(でも・・・みんなは私が何もしなくても戦える。・・・私の価値は・・・あるのかな。)

「・・・自分の価値は自分で決めていいんだよ。」

務めて優しい声で、舜は言う。

(自分で?)

「うん。誰かが決めた価値観なんてさ。間違いや勘違いだらけで・・・しかもそれに沿えなかったら失望されちゃうしさ。それを嫌がって動こうとするなんてその価値観に囚われて本当の自分が消えちゃうと思うんだ。それにさ、自分がどれだけ努力をしてきたかとかどこか凄いかってのは1番分かるのも自分だと思う。逆に反省出来るのも自分だけ。反省すれば人は前に進めるし、自分を認めれば励みになる。だからさ・・・自分の価値は自分で決めて、その価値を自分が認めてあげるのが大事だと思うよ。」

その言葉は舜の実体験も踏まえていた。


魔力者の実験動物として、魔力が外に放てない状態で保護された舜はアウナリトの研究者の中で魔力を身に付ける途中なのでは、その仕組みが分かるのではと期待されていた。

舜もその研究者に協力をし続けていたのだが・・・。

結果として今もまだ魔力を放てない舜に失望し、今では誰も舜を期待していない。

(ありがとう・・・。)

イパノヴァは体勢を戻し、舜の手を握る。

(本当はね・・・。本当は・・・あなたなら励ましてくれるっていう算段があって、答えなんかよりただ励ましてもらおうっていう・・・えへへ、ずるい考えてきたんだけどね。)

イパノヴァはにこやかに微笑む。瞑った目に雫が光る。それだけ気に病んでいたのは確かなのだろう。

(うん、元気出た。私の価値・・・自分で見つけてそれで頑張ろうと思う。ありがとう!)

そしてイパノヴァは舜の頬に口付けをして、その後は表情を見せまいと舜に後ろを向きながらも背中越しにバイバイと手を振って去っていった。

舜はその頬に少し触れたあと、色々考えるためにベッドに倒れ込んだのであった。

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