86話
道はどんどん狭く、険しくなっていく。
坂を登り、時には段差を跳びながら、舜は進む。
天然の要塞、アウナリト。
危険な場所はゴロゴロあり、舜も警戒して敢えて難しいルートを取ったりもした。
(とはいえ・・・上から見たらバレてるかもしれない。)
常に警戒をし続けるというのはかなり体力も気力も奪われていく事である。
幾度もの悲劇と相見え、既にボロボロの舜にとってそれはかなりこたえるもので。
「疲れた・・・。」
そんな言葉がまた、勝手に口から出ていた。
イパノヴァの死から始まり、裏切り者として国を追われ。
それでも母国の民の為にクロムと戦った。そんな彼が今、攻め込む側となっている。
受け入れられたリライエンスではオーティエと戦闘、オーティエの目的自体は阻止出来たが大量の犠牲を止めることは出来ず―。
実験動物としての壮絶な過去を知るにあたりクトゥルフと戦い、調べるうちに母国が原因と知り・・・。
挙句の果てに義理の兄から仲間を殺されたくなければ戦うことを選べと言われ、その戦闘でライガの悲しみを受け、利用されたオーフェを殺す事になり。
「・・・・・・あああ゛あ゛あ゛!!」
疲れた舜の頭の中でそんな過去が止まることも無くグルグルと回り、思わず叫んでしまう。
「おや、どうかされましたかな?」
「・・・ポロス、か。今は誰の体を奪ってる?」
右大臣、ポロス。
そんな重役がこんな場所にのうのうと来るはずもない。
また、自分は安全地帯に居ながら何かをする気なのだろう。
舜は息を深く吐き、目を閉じて一旦感情を抑える。
抑えてないと、怒りで暴れてしまいそうだったから。
「はて、誰の身体でしたかな・・・。まああなたには関係ない事です。誰であろうと殺してしまえるあなたには。」
舜は鋭く睨みつける。
「お前は、お前のせいで死ぬ人間に、何か思う?」
「私のせいで・・・?はて、なんのことでしょうか。私を殺そうとしなければ、死なずに済むのですから。もし今死ぬ事があれば、それはあなたのせい、ですよ?舜様。」
神経を逆撫でするように。
1番イラつく答えを知っているかのように。
ポロスは悪びれることも無く言ってのける。
しかし、舜も既に思考が殺し合いのそれに変わっており。
「・・・・・・。」
何か思うことはあれど、それに影響される事は殺し合いが終わるまではない。
それが、彼の才能であり。それが、彼の苦しみなのだから。
「つまらないですねぇ・・・ではそんなあなたにプレゼントを差し上げましょう。」
パチンと指を鳴らす。
「・・・子供、か。」
歳は10から12位であろうか。
まだ、戦に出るような年齢じゃない子供たちが10人現れる。
全員、首輪をしていた。
(・・・あの首輪、どこかで?)
記憶を遡りながら、舜は剣を構えた。
「さて、どうしますか?あなたが憎くて憎くてたまらなかった魔力者を人工的に作る実験。あなたのおかげでより良い兵器が出来たと言ったら?」
「―!」
思い出した。
あの悪夢で見る、復讐鬼の過去を。
復讐鬼の恨みを。
自分の、恨みを。
ギリっと歯を食いしばった。
その目には、怒りと復讐だけが点っていた。
「・・・クトゥグア。」
斬られた左腕に炎がまとわりつき、新たな左腕として炎の一部が讓渡される。
何度か動作を確認し、レイガは倒れ伏した青龍に目をやる。
受け止めようとした鱗は当然のように抉られ、右目から首まで血がべっとりと付き、呼吸を荒らげている。
「まだ、生きてるな。なら動け青龍。」
その声を聞き、青龍は身体を起こしレイガの方を見る。
「・・・つぅ!頭が・・・!」
一方その頃、リーンはクラりとくる身体に頭痛が襲っていた。
本気でブチ切れた、その代償として自律神経が乱れ、身体の調子が悪くなる。
「まだ・・・!まだ・・・!!」
リーンは自分を鼓舞し、またハルバードを作り出す。
「・・・ドリャァ!!!!!」
そして、今度こそはトドメを刺さんとそれをぶん投げた。
(リーン・・・!)
リーンが敢えて声を出し、投げた事でレイガの意識はリーンに向いている。
(・・・仕留める!)
リビはその背後から首を狙いに静かに走る。
「・・・ふっ、青龍!m.d.!」
リーンのハルバードを炎が受け止め。
背後のリビに雹の混ざった暴風が吹き飛ばさんとする。
「さて、君たちで何が奏でられるか・・・やってもらおうじゃあないか。」
青龍とクトゥグアはそれに応えるように、2人の攻撃を受け切った。




