84話 灯火は消えどその意思は
このまま戦いが続いたなら。
きっと僕は舜に殺されるのだろう。
・・・心に深い傷を遺すんだろうな。
ああ、こんな事なら。まだ生きておくんだった。
あの時—
「・・・何の用だ。」
包帯で視界が狭い中、ベッドに寝ているオーフェは入ってきた人物に問う。
「君も聞いただろ?舜達がこの国を攻め込もうとしてることを。」
その人物—レイガはオーフェに言い放つ。
「それがどうした?」
そうは言いながらも、予想はしていた。
ただ聴取されるだけならまだいい。
もしそれ以上の何かがあるなら、覚悟は決めていた。
「もちろん、君に内通の疑いをかけてる人間はいるよ?でもね僕はそうは思わない。君になんの相談もなかったんじゃないかな?そもそもその身体だし大きな動きも取れないだろう。」
「・・・そう思ってるのなら、なんで来た?」
思いかげない言葉にその真偽を問わんとオーフェは目を細める。
「1つ、命令があってね。君の能力の事だが・・・」
「断る。」
お互いの視線が相手を刺す。
「悪いけど拒否権は無いんだ。命令なんだ。アトラック=ナチャ!」
「・・・!?」
カサカサと人程の大きさの蜘蛛が現れる。
蜘蛛はレイガの元へ歩くと、その身体を光らせ—小さな石となる。
「これを、食べてもらう。」
「・・・断ると言ったはずだ。」
オーフェは隠していたカプセルをレイガが離れている内に口の中に放り込み、噛み砕く。
「毒、か。クトゥグア。」
レイガの元から現れた炎はオーフェの胴を包む。
「・・・あ・・・ぐぁ・・・!?」
まるで心臓を掴まれたかのような苦しみにオーフェはもがきながら。
(早く・・・早く毒が回れ・・・!早く・・・終わらせてくれ・・・!)
だがその想いも虚しく。
ナチャの石はふわりと浮き、自らの意思でオーフェの口へ飛び込む。
「な・・・なんだ・・・頭が・・・焼き切れ・・・!?」
炎がオーフェを離れる、が今度は別の苦しみがオーフェを襲う。
「なんだこの情報は・・・!?要らない・・・!要らない要らないいやだ要らない助けてああ僕は今誰なんだ世界はなんでこんなに・・・!」
もがき、苦しみ、死を懇願した。
それでもオーフェは死ぬことは無かった。
「僕の身体が!?」
異形と一体化を始める。
ただでさえ、恐ろしい程の冒涜的な知識で脳が焼き切れる寸前と云うのに。
「ああ!嫌だ!嫌だ!助けて!舜!助けてくれ!僕は・・・僕は・・・!」
ガクンと身体が跳ねる。
「・・・あ・・・ぁぁ・・・。」
目を開けたまま気を失い、その身体はビクビクと動きながら糸に巻かれていく。
「・・・ここは。」
目が覚める、がそこには何も無い。
ただ空感が拡がり、そこにポツンと。
「はは、また独り・・・か。」
それを否定するように、石が光り蜘蛛の姿へと戻る。
「・・・。」
「・・・。」
お互い、何かを思いながら見つめ合う。
オーフェは既に落ち着きを取り戻していた。
その能力で物を食べる度に知識を、比較してしまい自身を卑下する程の他人の苦労を知っていったおかげが。
はたまた相手の事を知り、そしてその心に共感出来たからか。
冒涜的な知識に耐え、問う。
「・・・お前も、独りの寂しさを知ってるんだな。・・・えっと、名前は?」
「Na・・・cha!Nacha!」
「ナチャ・・・か。」
オーフェは知った。
ナチャは1人孤独と戦いながら何百、何千という年月を過ごした事を。
レイガから与えられた、孤独を打ち破る方法が自身の生存である事を。
・・・そして、舜の抹殺であることを。
毒が回り、死の直前の身体に。
ナチャが自分の命を繋ぎ止めているという事は分かった。
同じ孤独を知るものとして。
お互いにお互いを分かるものとして。
きっと出会いさえよければ支え合い、友愛を築けたであろうなとオーフェは思う。
だけど、やっぱり。
(舜を傷付ける方が・・・嫌だ・・・。あいつの道を・・・遮らせない・・・!)
ほんの一瞬でいい。
(僕の身体よ、心に応えろ!)
周りには膠着したようにしか見えなかった中で。
舜だけがその動きに気が付き、剣を消した。
「・・・オーフェ。」
哀しく、響く。
助からない事が分かってしまっているから。
「怪物の素質を齎すもの。」
あと1度壊せば、オーフェは異形と分離し、死ぬ。
その最期のラグナロクを使わせる訳には行かないと言わんばかりに。
異形が舜から喰らう前に喰ったその能力をオーフェは呟く。
オーフェの身体は異形から落ち—
歩み寄っていた舜に抱き止められた。
「・・・離せ、変態。」
「嫌だ・・・。」
異形はオーフェが分離したと分かるや否や、足で自分の上部を触ろうとしたり右往左往したりあからさまに動揺している様子であった。
「ナチャ・・・大丈夫だ。お前を1人にはさせない・・・。・・・舜、頼めるか?」
「もちろん・・・。」
オーフェはナチャの頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
ナチャは悲しそうに1度鳴き・・・石になって舜のポケットに入り込んだ。
話したい事は沢山あった。
それを時間が許してくれない。
あの頃のようなくだらない馬鹿話をもう一度したい。
そんな切望を—
オーフェは胸にしまう。
「・・・僕はお前に呪いをかけていくぞ。」
「・・・呪い?」
オーフェという人間は常に誰かの事を想い—
「僕やイパノヴァが生きたかった分まで・・・お前が生きろ。死んだら承知しないぞ。」
「・・・うん。」
自分を押し殺してるのに誰かの為になる事で清々しい笑顔を見せられる、舜の大切な仲間だった。
(ああ・・・もう時間切れか・・・。ふふっ、誰かの胸の中で死ねるなんで・・・考えなかったな。ああ、でももし許されるなら・・・。)
意識が消えかける中で、オーフェ自身それが口に出ていたかどうかなんて分からなかった。
「また・・・みんなで・・・ごはん、食べたかったな・・・。」
「———っ!」
そして、オーフェの命の灯火は消え—
その炎は舜に引き継がれて行く・・・。
作者のDustです。
書きながら、序盤のイパノヴァやオーフェがいて。
愛花と怜奈と一緒に笑い合いながら日常を過ごす舜の姿をもっともっと書けばよかったなと後悔しました。
ほんとに最初はただの序盤の仲間キャラでその後は愛花達を中心にフェードアウトする予定だったのですが、気が付けばとても愛着のあるキャラへ。
オーフェは物を食べるだけで発動してしまう能力が故に苦しみもがき、それなのに他の人の苦しみに比べると自分はのうのうと生き過ぎてるだなんて後悔しながら、それでも生を全うし、誰かの苦労をより知り優しくしたいと思えるキャラです。
もっと自分勝手に生きていいのに、と決して本人は思わないのが彼女の欠点にして美点です。
ひねくれたような態度を取りながら誰よりも優しい彼女への愛を吐露するだけで本文より長く書ける自信がありますが・・・
あんまり長く書いても仕方ないので(既に手遅れ?)あともう少しだけ。
ある意味では彼女は舜くんと似てる部分があるのでしょうね。舜くんも他人の幸せのためなら自分がどうなってもいいタイプの人間です。
クロム戦の時なんて自分が死んでも相討ちは取るという気迫で挑んでましたから、命すら自分の手札な主人公です。
似てるからこそ、気がついたのでしょう。
そしてオーフェは自分を犠牲に、舜くんに自分を犠牲にさせないよう呪いをかけたのです。
それが彼女の心であり、愛なのでしょう。
オーフェを書きながらせっかく「愛の歌」というタイトルに決めたのだから、オーフェのようにもっと色んなキャラの心を、愛を描いでいければなと思いました。
オーフェは私の成長のきっかけにすらなってくれるかもしれませんね。
あともしかしたらオーフェ好きすぎて過去回にサラッと日常回追加したり番外編で書くかもしれん!!!!!!
もっかい!もっかいイパオフェ書きてぇ!!!!!!!!!