83話
例えそれが有象無象達の魔力であろうと。
数が揃えば驚異になる。
まして魔力が尽きかけている舜にとって防げる物ではない。
舜は息を整える。
打開策が思いついたわけではない。
ただ諦めていないだけ。
少しでも魔力を集中させて防げる物は防ぎ、防げないものは何とか交わしてやらんと、その目はしっかり糸を見続けている。
(・・・来い!)
「AGAAAAAaaaa!!」
異形が吼え、そして—
「バスターズ、参上!」
「—なっ!?馬鹿!下がれ!」
舜の目の前に1人、男が立ち塞がる。
「はっ!英雄様よォ!ここでお前が死ぬ訳にはいかないだろうが!・・・そして覚えておけよ!英雄を救って散った男の名を—アンガスの名を!」
「待っ—!」
剣が、槍が、魔弾が容赦なく降り注ぐ。
「アンガス!俺らも盾に・・・!」
「来るなバルトリーニ!クローヴィス!・・・アンガスだけで十分だ—使わせて貰うよ・・・。」
舜は残り2人の名を呼びを制止し、物量に押され倒れそうなアンガスの身体を支えながら盾にする。
(元から、名前は覚えてたよ・・・。)
舜はそうとだけ懺悔し、これ幸いとその身体を利用する。
幸い、という事にも罪悪感を覚えながら。
激しい光が飛び交い、目を覆いたくなる光景も過ぎ去り。
砂煙の中、1つの影が立っていて—
どさりと倒れた。
しかし、立っている影はまだ残っており。
砂煙が薄くなっていくに連れ、無表情で剣を持っている舜の姿が見えてくる。
「Ga・・・GUUuuu・・・!」
その姿に異形はまた攻撃の準備を行おうとする。
「・・・・・・。」
「GU・・・!Uuuu・・・。」
が、舜の視線に刺され隙を晒せないと動きを止めた。
数秒の睨み合いだが、それは永遠に感じられる時間でもある。
お互い次が最後の攻防になると分かっている、そう言わんばかりに時がゆっくり流れていく。
「アンガスさんの方、見てくれもしないんすね・・・。」
その睨み合いを見てムルシーはポツリと呟く。
まるで使えるものだったから使った、と言わんばかりに見える舜を涙目で見つめている。
(今なら殺れるか・・・!)
その前でシュヘルは隙を伺っている。
シュヘルだけではない。
バルトリーニもクローヴィスも仇を討たんと異形に息巻く。
だが—舜は動かない。
ただ、真っ直ぐ睨んでいるだけ。
異形も動かない。
いや—動けない、と言った方が正しいであろう。
そして舜は・・・剣を消した。
「押されている・・・か。」
アウナリト元帥・レイガは高台から戦場を覗いている。
「舜さえ殺せれば誰がどうなろうと構わないが・・・最悪奥の手をもう切ることも考えないとな。・・・それで。」
レイガは振り返る。
「何の用だい?リーン。」
「あら、元帥様に覚えていただいて光栄ですわ。」
わざとらしい口調でリーンは微笑む。
レイガは胡散臭い笑顔で返す。が、その目は笑っていない。
「妙な化け物が戦場に乱入してるのを見まして。—正体、ご存知ですよね?」
「・・・さあ、僕にもさっぱりだ。魔界からでも来たんじゃない?」
暫くの沈黙。
リーンとレイガの視線だけがお互い敵視していると雄弁に語る。
「では—オーフェが今何をしているかご存知ですか?」
「オーフェねぇ。なんで今ここで名前を出したのか—。クトゥグアよ!」
レイガの周りに炎が現れる。
リーンは作っていた表情を捨て、怒りに身を任せ両手にハルバードを持つ。
「お前が居るんだろ、リビ。」
「おっと!」
背後から襲いかかろうとしていたリビに炎が襲う、が。
『幸福をもたらす者』
不思議な声が響き渡り、その炎は掻き消される。
『レイガ、あの方は・・・。』
「ああ、本気で殺しに来てるみたいだねぇどうも。」
レイガは炎と会話をしながらトゥールとリビを警戒する。
炎は話しかける。
『私と、敵対するつもりですか?』
『まだどちらとも。見極めてる最中。』
トゥールはそう答える。
『・・・あなたは。』
「あーし?あーしは当然敵対するけど。」
リビの答えに炎は大きく膨れ上がる。
「クトゥグア!燃やせ!」
炎が意思を持ってリビに襲いかからんとする。
「リビ、クトゥグア本体が来る。これは止めないから。」
「大丈夫。」
一切避けるつもりの無いリビに炎が止まる。
『レイガ!後ろです!』
リーンの投げたハルバードがレイガへ迫る。
「青龍!」
天空から緑の龍が暴風と共に現れ、ハルバードへぶつかる。
晴れていた空は曇天へと変わり、嵐が吹き荒れ雷が鳴る。
「凄い魔力の化け物だね。・・・でも私今・・・。」
リーンは雨風を受けながらも仁王立ちでその龍を、レイガを睨む。
「ブ チ 切 れ て る か ら !」
ハルバードは暴風を引き裂き、その身体を持って止めようとした龍の鱗すら斬り裂き進みレイガの左腕を斬り飛ばした。
漣「漣ちゃんだよ!」
雪「雪乃です。」
漣「今回は異形が使った大技について解説!やってる事はキッソスの能力に似てる?」
雪「キッソスのは持ち主が操れなくなった魔力のみ、持ち主から根こそぎ奪ってそのまま活用する点で違うね。」
漣「となるとキッソスの上位互換?範囲も違いすぎるし・・・。」
雪「異形は奪ったものそのまま放つしか無いのに対して、キッソスは集めたものと自分の魔力を合わせて使えるからそうとも限らないみたい。」
漣「へー。それではまた次回!」
雪「読んでくれたら嬉しいです。」




