81話
舜は戦いの天才である。
元々の才能もさることながら、人一倍努力をし、誰よりも経験をしてきた。
その意味では戦いの秀才と呼んだ方が相応しいのかもしれない。
どちらにしろ—
舜は戦いの才能がある。
—戦いの才能があってしまった。
何か分からず対処してから気が付ければ。
いっそ対処出来ずにいた方がマシだったのかもしれない。
飛んできたモノが何か分かってしまった。
そして、それを斬り捨てないと自身に危険がある事も気が付いてしまった。
—そして、その決心を決められる程。
舜は強くあってしまった。
異形が飛ばしたソレは—
人間の上半身であった—
それも舜はその姿をよく知っている人の—
舜を庇って真っ二つにされたイパノヴァの、上半身—
「・・・っ!?」
抱き締めたかった。
その遺体を抱きしめて戦いの影響が及ばない場所まで庇って動きたかった。
それでも、舜はその心に従わず斬り除けた。
そして剣の側面を構え、異形の次の足の一撃を防ぐ。
「・・・てめぇ!」
怒りがふつふつと湧く。
吐き気と悲しみと絶望が襲う。
しかし、それでもその感情に身を任せられることも無く。
冷静に、悲しい程冷静に、戦況が見えてしまう。
イパノヴァの上半身を斬ったというのに—。
「・・・え?・・・な?」
ムルシーはペタンと座り込む。
人の遺体すら使ってくる異形にも。
その遺体をあっさり斬り捨てたように見えた舜にも。
思わず息を飲んでその光景から目を逸らしたくなってしまう。
シュヘルはそんなムルシーの前に立ち、異形の動きを息を飲みながら見守る。
「A・・・GA・・・!?」
異形は苦しむように動き、頭を抱える。
フラフラとイパノヴァに近付き—
舜がその前に立ちはだかる。
「A・・・SHU・・・シュン・・・舜・・・。」
「・・・オーフェ!・・・待ってろ!」
異形はグラグラ揺れている。
舜はその異形の蜘蛛の上に飛び乗り、その腕を掴む。
「全てを壊すもの!!」
弾かれる、が糸は解れ。
オーフェの顔が、現れた。
「・・・舜・・・やめろ・・・ラグナロクを使うな・・・。」
オーフェははっきりとしない視線で地に降りた舜を見る。
「やめない。」
オーフェを取り戻すという意味でもやめたくなかった。
だがそれ以上にオーフェと異形のどちらの能力も敵にあるという現状が、不利にさせると踏む。
—それ以上に、と思った自分自身に嫌気が差しながら。
「あ・・・ぐっ・・・やめろナチャ・・・あ・・・ああ・・・AAAAA!!」
オーフェの目から赤い光が灯る。
(また異形の支配下に渡ったか・・・クソっ!)
「・・・KOロSASENAイ・・・OoFE・・・。」
異形が糸を天空に出す。
「・・・なんだ・・・この・・・。」
辺りが暗くなる。
空を覆う蜘蛛の糸はその端が見えない程巨大で。
薄暗い世界の中、異形は赤い瞳を鈍く光らす。
それは、各地の戦場にも影響を齎す。
「流石です咲希様!怪物を手懐けているとは!」
「いや・・・えっと・・・。・・・!?今度は何!?」
「なっ!?武器が消えた!?」
「魔弾も消えたんだけど!?」
ハッとしてアウナリト軍が前の少女を見る。
「・・・ん?・・・んー・・・・・・???」
少女の周りにはしっかり魔弾が浮いている。
「クソっ!出そうとしてもすぐ消えやがる!」
「来るぞ!警戒しろ!!」
「警戒ってこの状況でどうしろと!?あの愛花相手なのに!!」
愛花はクエスチョンマークを浮かべながら自身の魔弾を全員の首筋にそそそと近付ける。
「・・・えい!」
「ひぃ!?」
完全に首元に当て、いつでもトドメをさせる状況にして愛花はテクテクと近付く。
「なんかよく分からないけど楽に勝てちゃった・・・。」
全員の両手を縛りながら愛花は呟く。
「にしても・・・あれなんだろ?蜘蛛の巣・・・?」
蜘蛛の巣が覆う、全ての大地の。
全ての魔力と全ての武器を収納した。
「GU・・・U・・・ア・・・。」
異形は前足を糸を絡めながら至る所投げていく。
(前足を迎撃に使えない内に!)
舜は咄嗟に異形へ向かって突き進み、反応が遅れたその前足を踏み台にして蜘蛛の上へ。
「全てを壊すもの!!!」
左腕が顕になり、舜は弾かれ遠くへ降りる。
(あと・・・胴体だけ!・・・!?)
舜は膝を付いていた。
魔力を使い過ぎた。
それでもあと1度、たった1度でいい。
しかし—
舜が隙を付いた間に。
異形が準備していたものは無視出来ない。
投げられたそれらから、蜘蛛の巣が覆う全ての大地から奪った無数の武器や魔弾が姿を現し—
膝を付いて動けない舜に、牙を剥いた。
漣「漣ちゃんだよ!」
雪「雪乃です。」
漣「後書きコーナのこの時間!・・・えっと、どの解説してないんだっけ?」
雪「漣ちゃんの能力?」
漣「あれかー。まだ分からない要素も沢山ある代物だからなぁ。」
雪「"かくの如く"じゃなく"かのごとく"なのは"か"に火もかかってるとかなんとか。」
漣「それではまた次回!」
雪「読んでくれたら嬉しいな。」




