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愛の歌  作者: Dust
4章
81/229

79話

「・・・何!?」

シィラに今まさに剣を振りかざさんとしたムスルスに炎がまとわりつく。

(身体を上下真っ二つにされながらも最期の力振り絞ってってやつ・・・?)

ムスルスは漣を斬り捨てた場所を見て―

「・・・は?」

唖然とした。

そこには血と焦げた地面しかなかった。


「・・・ここは?」

漣は起き上がる。

目の前には大きな火の鳥が鳴いている。

「・・・何?何を伝えたいの?」

必死に火の鳥は鳴くが、その意図が漣に伝わる事は無い。

火の鳥は諦めたかのように目を瞑り。

炎が漣を包んでいく。

否、炎と漣が一体化していく。


ムスルスの剣をゆらゆらと交わしながら、炎はムスルスから離れる。

ぐるぐると渦巻きながら炎はゆっくりと下から消え。

槍を持った人の姿を顕にさせる。

桜色の髪、桜色の瞳。

漣そのものが炎の中から現れる。

(斬った時にあった違和感・・・人を斬った気がしなかった。炎による幻覚・・・?でもだったらわざわざ時間差で姿を見せるなんてする意味は・・・。)

ムスルスは警戒をしながら思考を回す。

しかし―


「シィラを無視して貰っては困ります。」

「しま・・・!?」

まだ感覚が戻っていない身体を器用に動かして、シィラは浅くムスルスを斬り付ける。

強麻痺(マヒマヒ)。シィラも、相手を痺れさせられますので。」

シィラは短剣を作り、喉元を全体重を使って押し付けるように刺そうとするが―

「・・・!?漣姉様!?」

炎がシィラの行く手を塞いだ。

(・・・もう少し・・・届いた!)

その隙にムスルスは麻痺した指で服に付いてる何かを引っぱった。


「・・・あぐっ!・・・っぅ・・・さあこっちは万全に元通り。やっぱり厄介なあんたには消えてもらわないと困るんでね。」

外れた肩を服が無理やり動かしてはめ込んだ。

麻痺してても関係ないと言わんばかりに身体を動かす。

「私は貴女を殺す気は無いよ。」

「綺麗事を!」

例え相手がどんな手を使っていようが所詮は魔力。

限界が何処かにある筈だと、ムスルスは魔力を打ち消す剣で斬りかかり―

漣の姿は消え、炎がその刃を躱す。

「やっぱり幻影ってわけ!」

「残念だけど。」

「・・・!」

いつの間に背後に回った漣に腕を"掴まれていた"。


背後に剣を振るうがまた炎が躱していく。

(ただの幻影じゃない・・・質量がある・・・。それも掴める形状の。)

ムスルスの脳裏に浮かんだ可能性は有り得ない事であった。

だが目の前で有り得ない事が起きているなら、それは事実となりうる。

「自由に身体を炎に変えられる・・・。自由に炎から身体に戻せる・・・。ただの致命傷じゃあ炎から致命傷を受けてない身体に戻せて足りないって訳ね。」

ムスルスは自身が冷や汗をかかされてることに気が付く。

(殺すなら即死・・・首を落とすか。となると人型の時じゃないとダメって訳・・・。相手に悟られたらアウト・・・かも。)


ムスルスはふぅっと息を吐く。

「ま、魔力でやってるなら消せば勝ち、よね。」

何度も斬りかかり、観察する。

漣は炎になっては現れ、炎になっては現れる。

(・・・見えた!完全に炎になれる時間は短い!後は・・・人に戻るタイミングで・・・消し飛ばす!)

躱され続けながらもムスルスは今度は現れる時の状況を観察する。

剣を避けて2つに別れた炎が、それぞれ別の方向へ逃げていき。

片方の炎が渦を作る。

(そこだ・・・!)


現れた漣の首目掛け、ムスルスの剣は弧を描き。

その剣は確実に首を斬り落とした。

「ふぅ・・・さて後は12歳・・・。」

炎が燃え盛る。ムスルスはその方向を見て、目を細める。

赤く燃ゆる大きな火の鳥。その鳥は強大な魔力を放つ。

そしてその鳥の下で槍を持つ桃色の少女。

漣は槍をくるんと頭上で1回回し、穂先でムスルスの方を指す。

我が思いはかの如く(フェニックス)!」

溢れんばかりの炎がムスルスへ向かう。


「ズルじゃんそんなの・・・!」

ムスルスは剣を空中で回転させ、後ろへ飛び下がる。

炎はその剣を当たり・・・かき消されることすらなくムスルスへ。

「あっついなもう!」

全身燃やされながらも、魔力で全て受け切り更なる打開策を探るが。

その思考を遮るように火の鳥が囀った。

「・・・え?」

ムスルスの中で、何かが起きた。

その強大な魔力を誇る火の鳥は優雅に羽を1度羽ばたかせ。

緩やかに上へと少し飛んだと思えば、次の瞬間にはムスルスの方へ速度をつけて突進していく。

ムスルスはペタンと尻餅をついた。


「・・・やだ・・・嫌・・・や・・・死にたくない・・・嫌!嫌!来ないで!死にたくない!嫌!!!!」

巨大な死の宣告がそこまで迫り、ムスルスは思わず叫ぶ。

足元には大きな()()()()が出来上がる。

ギュッと瞑った目に、瞑っていても分かるくらいの眩しさが押し寄せ・・・。


「・・・?」

恐る恐る目を開ける。

「降参してくれる?」

火の鳥は目の前で止まっている。

「うん・・・はい・・・します!しますから・・・!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

もはや戦意を喪失したムスルスはガタガタと震えながら答える。

「シィラは反対です、漣姉様。この能力は今すぐ殺しておくべきかと。」

火の鳥は姿を消す。

「ううん、さっきも言った通り私は殺すつもりは無いよ。・・・っと。」

漣は右腕で最初に真っ二つに斬られた場所を、左手で首を抑えながら座り込む。


(めちゃくちゃ・・・痛い・・・!痛みは・・・消せないのかぁ・・・!)

苦悶の表情を浮かべる漣を見て、シィラはムスルスの背後へ回る。

「1番苦しめられた漣姉様がおっしゃるのなら、致し方ありません。それにしてもその歳になってお漏らしして恥ずかしくないんですか?」

「あ・・・あぅ・・・。」

手を縛られてる間、ムスルスは赤面しながら下を向いていた。




「だいぶ落ち着いてきたな。」

咲希はどっと疲れを感じながら一息付く。

「・・・もう大丈夫かな。」

雪乃はふらっと動き出し。

「また無言で雪乃様が動かれてるぞ!」

「はぁ・・・。」

その後を追って雪乃隊が離れて行き。

完全に咲希隊はまた咲希と5人に戻っていた。


(少し不安だが・・・後は何とかな・・・。)

「化け物だァ!!こっち来るぞ!!」

辺りから聞こえたその声に咲希の表情が青ざめる。

「咲希様!行きましょう!」

「いや、行かなくても後ろからこっち来てるっす大将!なんだあの化け物!?」

咲希は息を飲みながら、振り返った。

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