78話
破壊衝動、というのだろうか。
この世界に堕とされてから暴力の欲求を抑えるのが難しくなった。
⬛︎■⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に・・・
・・・そう、この名前はまだこの世界じゃ発言が許されてない、と。
・・・今回はその破壊衝動に負けたわけじゃない。
ただ、使わないといけないから使うだけ。
そもそも相手は、人じゃないんだから。
言い訳も、要らない。
「諦めてくださりましたか?」
動かない怜奈にマキナが話しかける。
「・・・我が名は。」
「無駄です。何をしようとも。」
怜奈の魔力を知り尽くしている。
それなら、どんな事でも止めようがある。
それなのに、マキナの脳裏に恐怖の二文字が浮かんだ。
「・・・ムーンビースト。」
(・・・何も変わらない?いや、何かある。残虐な彼女がしそうな事と言えば・・・。)
「レヴォーク・フォーク。」
マキナの喉に何かが装着される。
その上下は尖っており、少し下を向けば顎と胸に突き刺さるであろう。
「最後にチャンスをあげる。能力を取り消す、そうすれば楽に殺してあげる。」
(・・・彼女の魔力じゃない?消せない・・・いや、そもそも魔力ではなく・・・これは?)
マキナは目の前の現状を解決すべく頭を悩ます。
数秒、怜奈は待って。
妖艶に笑った。
「あなたが選んだ結末。だから仕方ない。ふふ、はは、あはははは!!!!」
(・・・眠気?・・・身体が動か・・・。)
身体が固定されたかのように動かない中、マキナは眠気に逆らえずガクンと頭が下がる。
尖った部分が刺さり、目が覚め、また眠気が襲い、刺さり。
「あはは!もうちょっと重たくしてあげる!」
最期にガクンと頭が下がった時には顎を貫通し、心臓に突き刺さった。
「・・・なっ!?」
そして、マキナの目の前に怜奈がいた。
もう喉にはなにも付いていない。
しかし、確かな痛みが胸と顎に残っている。
マキナは必死に胸を、首を抑えながら困惑した目を怜奈に向ける事しか出来なかった。
「あはっ!また恐怖したね?」
(速・・・!?)
怜奈は短剣を出し、振るう。
受け切れなかったマキナの腕の皮が剥げ、血を吹き出す。
怜奈は楽しそうに笑っている。
マキナの皮を次々と剥いでは、痛みと苦痛に悶えるその姿をその目で見ながら。
「お次は肉を削ぎ落としましょう。」
死なないように最新の注意を払いながら怜奈は斬り、斬り、斬り、斬り。
痛みと失血で意識が消えた所で水をかけられ。
塩を塗られ痛み、絶叫し、痛み、痛み、痛み、痛み。
マキナは縛り付けられていた。
何時間位だろうか。
いや、縛られたのは今まさにのはずなのに。
延々と額には水滴がちょん、ちょん、と落ちてくる。
もうそれが何時間も、何日も続いてるかのようで。
「・・・ぁあ・・・ぅぁあ・・・。」
精神が蝕まれ、苦痛にもがくその姿を。
怜奈は眠る赤子を見守る母親のような笑顔で見守っていく。
(・・・海?)
ロープに繋がれ、船から落とされる。
息がまともに吸えない中で、船底にあるフジツボに身体を引き裂かれ皮膚がぐちゃぐちゃになっていく。
塩水で傷口が晒されながら、新たに皮膚がぐちゃぐちゃにされ、既にある傷口の肉すらぐちゃぐちゃに引き裂き。
次に目覚めた時はゆっくりと肉を斬っていく刃に首を斬られ。
首を斬るために何度も錆び付いたノコギリを引かれ。
馬に引き擦られ。
熱したペンチを身体中に当てられ。
血がまともに通わない体勢で放置され。
手足を機械で無理やり引っ張られ。
身体中に穴を開けられ。
全ての痛みと苦しみを感じながら。
喉に何かを取り付けられていた。
「最後にチャンスをあげる。能力を取り消す、そうすれば楽に殺してあげる。」
マキナは最初に受けた痛みの物だと理解する。
(・・・あともう少し・・・あともう少しで・・・この魔力も解き明かせる・・・。そうすれば・・・終わらせる事も・・・。)
「答えないんだ。」
マキナは息を飲む。
(先に考えろ。次は何をされるのか。心の準備を・・・。今までされた事より酷い事が・・・)
想像してしまった。
「・・・全ては幻影。・・・あなたの中の恐怖があなたに見せるもの。・・・だから、私はこの能力中に殺すことが出来ない。・・・だけど強くそれを想像した時、私はそれを"事実"に変えられる。」
共にマキナが見てた幻影を見ていた怜奈は、ポツリと独り言を言う。
「ァァァァァァァァァァアアアアアアア!!」
マキナの身体がガタガタと揺れ、痛みと恐怖と苦痛と何もかもで脳が焼き切れるように。
考えるのも放棄し、ただ魂の抜けた抜け殻のように崩れ落ちる。
怜奈はその崩れ落ちた首を斬り落とし―
「大丈夫・・・大丈夫・・・私は狂ってない・・・。」
楽しかった。
「違う・・・!違う・・・!」
自分がその苦痛を与えられて良かった。
「違う・・・!私は・・・!私は・・・!」
今回は沢山痛ぶれて気持ちよかった。
「・・・・・・。」
怜奈は口を抑え、頭をぶんぶんと振り、思考を止めて吐き気と戦う。
「・・・助けて。」
救いを求めた手を握れるのは、ただ1人。
だが、今はまだその時では無い。
(弾かれる・・・!?・・・まだ愛花くんの意識か!)
キッソスは愛花の魔力を使うのを止め、他の魔力で愛花の魔力と撃ち合う。
(先に殺せれば・・・それで勝ち・・・!)
「密度・大!!!!!」
愛花の叫びと共に魔力が収縮して小さくなる。
しかし、最大まで小さくする訳ではなく短剣くらいの魔力になったところで。
それが愛花の手の甲にしっかりと付いた。
「何をする気だい?」
「さあ・・・なんでしょう・・・か!」
舜の戦う姿を思い浮かべながら。
思いっきり踏み込み、手の甲の魔力を武器代わりとしてブンブン振るう。
「なるほど、ずっと手元に置いとくことで僕の能力で再利用されないようにって訳か!」
キッソスは詰められる度に後ろへ下がりながら魔弾を放っていく。
愛花はそれを武器で弾き、流し、弾き、流し、流し、流し、流す。
できる限り舜の戦い方を意識して、最低限の動きと力で流せるように。
「だが!その武器もどきも魔力である事には変わらない!」
愛花の意識が変わらないと判断したキッソスは、手元に残せていた全ての魔力を掻き集める。
「この魔力を弾けるかな?弾けたとて、弾けたこれもその武器も、辺りに霧散してまた僕の力に変わるけどね。」
「今!!!!!」
完全に魔力を集め切る前に、愛花は左手を右腕に添えて手の甲の魔弾を発射する―!
「・・・っ!だが!」
キッソスは攻撃に扱う為だった集めていた魔力を、愛花の魔弾にぶつけ、ぶつけ、ぶつけ。
そして遅くなったその魔弾を交わしてみせた。
「いいセンスだよ。今のは危なかった。だが、もう攻撃の為の貯蓄は・・・。」
魔力をかき集めながら、ふと先程ぶつけた愛花の方の魔弾の分が集まるにしては少ないとキッソスは感覚で判断する。
「・・・まさか!」
後ろを振り返り、魔力を準備した時にはもう遅く・・・。
愛花のコントロール下にまだあったその魔弾はキッソスの胸を貫いた。
「・・・どうやって・・・。」
「魔弾の形を変えて、真っ直ぐ撃ち合った時に流しやすい形状を探しました。」
何度も弾いたり流していたりしたあの時か、と膝を突いたキッソスは笑う。
「・・・速度の調節まで・・・ふふ、君がそこまで本気で・・・。」
そこまで言うとキッソスはそのままの体勢で息絶えた。
(・・・・・・何度も人の死を見てきたはずなのに。)
まるで初めて人を殺したかのように。
心が重かった。
心身疲れ果てていた。
(舜兄も、こんな感情を背負っているのかな。)
今まで見てきた姿が遠くに見えた。
きっと誰よりも苦労も、心も痛めてきたはずなのだと。
その道を止める事は難しいだろう。
「だから・・・私も強くなるんだ・・・。」
愛花は決意を胸にする。
「あの人の隣に立って・・・あの人の見ている光景を一緒に見て・・・あの人の感情を一緒に受け持って・・・支え合えるように・・・強くなるんだ・・・!」
隣に立つのに相応しくなる為に。
少女はまた1歩茨の道を行く。




