7話
夢を見ていた。
正確には間違いなく夢だと思えるような光景を見ていた。
1人の、女の子がいる。
同い歳ぐらいだろうか?
顔は、後ろ姿で見えない。
黒く長い髪が風になびく。
「おめでと。」
一言、そう言われる。
俺は、俺はこの子を知っている。
誰かは思い出せない。でも知っている。
"大切な人"・・・そう、大切な人のはずなんだ。
「君は・・・。」
「これから大変な事もあると思う。でも、私は見ているよ。」
そして・・・
目が覚めた。
頭がズキリと痛んだ。
思い出せない。
思い出したいという気持ちはあった。
だが今日は就任式だ。舜は頭の片隅にあの光景を焼き付けながら準備をした。
就任式。
元帥であるレイガがそれぞれに軍章を渡していく。
「さぁて、今の渡されたところで就任式はおしまい!長くやっても仕方ないしねぇ。」
レイガは思ったより適当そうな人間であった。
「さて、2時間後に君たちは1回郊外に出て戦ってもらいます。先輩たちも付けるのでまー気楽にやってねー。」
今日から数回は複数の部隊で動く事になる。
それさえ過ぎ去ってしまえば自由にローグと戦える。
そう、自由に―
(・・・するには他4人の事もあるしなぁ。)
舜はベンチに座っていた。
茶色の髪が視界の端に映る。イパノヴァが横に座った。
(お疲れ様!)
「ん、そっちも。まあ愛花程お互い疲れてないだろうけど。」
就任式中、右手と右足が同時にギクシャクと出てきた愛花を思い出す。
(午後から本番・・・だよね。)
「不安?」
彼女は少しだけ考えてフルフルと首を振った。
(このメンバーなら大丈夫だと思う!)
「それは俺も思うよ。」
ベンチに手を付けていた舜の指にイパノヴァの指が触れる。
イパノヴァは気がついているのかいないのかニコニコ笑う。
「あー!舜ちゃんとイパイパじゃーん!」
あっけからんとした声と共にその嵐はやってきた。
「イパイパおひさー、舜ちゃんもはんせーぶん以来だね。」
(あ、リビちゃんだー!)
イパイパと呼ばれたイパノヴァは舜の指に触れてた手でリビに向かい手を振る。
「リビも話せるんだ。」
「ん、そだよ。舜ちゃんがイパイパ選んだ時はもしやと思ってたけれど舜ちゃんも話せたんだね。」
リビはえーとっと間をあける。
「あれ?舜ちゃんのところ全員イパイパと話せるじゃーん。意図して選んだの?」
「愛花と怜奈は先に決まってたから、その2人はたまたまかな。」
「いやそれだけどさー、ずるいじゃんその2人!」
実力はこれでもかと見せつけられた2人ではある。
舜もそれには頷く。
「頼りになるよ、あのふ・・・」
「あんな美人とあんな可愛い子いながら更にイパイパとオーたん取るってマ!?って思ったよ。」
「そっちかよ・・・。」
リビは真剣な眼差しになり、イパノヴァを見る。
「いー、もし何かあったらいつでも言ってよ。舜ちゃんがあんな事やこんな事押しかけるかもしれないし。」
(大丈夫だよ!そんな人じゃないから!)
リビの言葉はオーフェにも前に言われた通り、狙った訳ではないものの疑わても仕方がないと舜自身思っていたことでもある。
そしてそんな舜にはイパノヴァの一切疑いの気持ちがないその返答はあまりにもキラキラして見えた。
「・・・いい人と一緒になれたね、イパイパ。良かったよ。」
イパノヴァのその返答にリビも信頼を感じたのかその後は何も言わずに引き下がった。
(リビちゃんは元々怜奈ちゃんと愛花ちゃんとオーフェを誘って私を入れようと頑張ってくれたことがあったの。)
その隊がもし叶っていたら舜の今の隊と同じメンバーになる。
「いい人なんだな。」
敢えて舜の前で舜に警戒するよう言ったのもそれでやましい行動を牽制しようとしたから・・・なのかもしれない。
(うん、すごくいい子だよ。リーンちゃんもライガ君もリビちゃんの隊だし。)
舜が隊長になった為に降格した2人の名前。
「色々考えてるんだな・・・。」
2人はその後しばらくその場で話していた。
一方その頃。
「愛花。今いいか?」
「ハイナンデゴザイマショウカ。」
就任式で力を使い果たしていた愛花にオーフェは話しかけていた。
「・・・午後からの件なんだが。」
「ハイゴコカラハジッセンノヨテイデス。」
「ええい、めんどくさい!」
「あわわわわわわわ!」
オーフェが愛花の肩を掴みブンブンと振る。
「何!?ここは誰?私は超絶美少女?え?知ってる?さっすがー!」
「よりめんどうになった・・・。」
はぁとため息をつくオーフェ。
「冗談ですよ。それで午後からの実戦がどうかしたんです?」
「お前、人を殺したことはあるか?」
ピタッと愛花の動きが止まった。
「無いですけど・・・。」
「想像した事は?」
「・・・それくらいならまあ・・・こんなご時世だし・・・?」
オーフェはふむと頷く。
「お前の人を見る目は確かだ。お前レベルなら他4隊でも入れただろうが、僕たちが1番信頼出来る隊長はあいつしかいない。」
「へー、オーフェちゃんの中で舜兄の評価高いんですね。」
「当然だろう。あいつはおそらく私らの中で唯一人を殺したことがあるやつなんだから。」
「言い方・・・。」
オーフェがコホンと咳払いをする。
「とにかくだ。困ったらあいつの後ろに逃げればいい。殺せないなら足元だけ狙ってサポートするだけでいい。」
「ふふ、ありがとうございます。」
「お礼を言われる筋合いはない。」
心配してくれた事も照れ隠ししてるのも分かってる愛花はふふふと笑う。
「そういえばさっきから怜奈はあそこでマキナと何を話してるんだ?」
「え?・・・さあ。」
オーフェの視線の方向には確かに怜奈とマキナがいた。
だが、話してる内容までは誰にも分からなかった。
午後。
「それじゃあ君たちの隊は僕が付いていくよ。」
「元・・・帥・・・殿・・・!?」
「やだなー、君は王族なんだからレイガでいいのに。」
舜は息を飲む。
「まーそんなに固くならなくていいよ。どこの隊もそうだけど1人付いてくけれど殆ど力貸すつもりは無いし君たちの戦いを見せてね。」
そうレイガは胡散臭く笑うのだった。