77話
「・・・?感触が。・・・おっと。」
シィラの魔弾を剣でかき消す。
「無駄にやり合うつもりはないからさ。能力教えてあげる。あたしは別セカイの物質を持ってこれるの。この剣は魔力を完全に遮断出来る。だから諦め・・・っと。」
シィラの更に大きくした魔弾がムスルスの視界を覆う。
「だから無駄だっ・・・。」
ムスルスの振り払った腕が掴まれ、魔弾を顔に撃ち込まれる。
「・・・っ、随分老獪な戦い方をする幼女ね。」
「シィラは21年生きてる12歳ですから。」
「歳上!?」
ムスルスは掴まれてない手で、白くて小さい四角形の物質を投げる。
2人の間に投げられたそれは急速に大きくなるが—
「それはさっき見ましたから。それとシィラは歳下です。」
膨らむ途中、シィラは片腕でムスルスの片腕を掴んだまま、もう片方の腕でその物質の上部分を掴む。
身体が浮くと同時に足で勢いを付け、くるりとその物質の上を回るように飛び越え。
「がぁっ・・・!?」
ムスルスの背中側に飛び降りた。ムスルスの肩からバキッという音がし、持っている剣が落ちる。
「シィラの勝ちです。」
「うるさい21歳!」
ムスルスの首目掛けて切り掛るそのシィラの腕に、ムスルスはふっと何かを吹き付ける。
「・・・っ!・・・シィラは12歳です。」
「身体が痺れてる今でもそこに拘るのね。まあいいか。」
ムスルスは背後にガラスのような壁を置き、邪魔されないようにしてから新たに剣を無事な左腕で握る。
「じゃあね、自称12歳。」
「臨む兵よ、闘う者よ、皆、陣列べて、前を行け!」
デイムのレイピアの周りには9の文字が浮かぶ。
それぞれの文字が時間差でレーザーを放ち、または盾となり、時には別の刃になって襲い掛かる。が—
「おっとっと、気を付けてジャメール。この人厄介だ。」
「オーケイ、シャロン!」
初めて見るその攻撃をしっかりと対処されていく。
「・・・っ、アウナリト兵はそれ程か。」
デイムは2人の攻撃を必死に捌きながら対抗策を思案する。
「そもそも、無理矢理攻撃に使ってるけどその九字って護身の呪文でしょ?」
「話ながら攻撃だなんて、随分余裕じゃないか。」
ふっとシャロンは笑う。
「はい、気が逸れた。」
「っ!?」
いつの間にか、植物がデイムの手足に絡み付き身動きが出来なくなる。
「デイム!」
「来るなターガレス!逃げろ!」
ジャメールがデイムにトドメを刺そうとした所にターガレスが割って入る。
ターガレスの持っていたモーニングスターは簡単に壊され、胸を斬られる。
「・・・浅かった!まだあるぞシャロン!」
「あいあい!」
2人は息を合わせ、ターガレスとデイムへそれぞれ攻撃を仕掛け—
「・・・?」
「・・・どうした・・・んすか?・・・ぜー・・・ぜー・・・。」
何かを感じ取った舜は走りながら背後を確認する。
何とか着いてきてるムルシー、その少し後ろで必死に走ってるシュヘル。そして既に小粒のようにしか見えないほど遠いバスターズ。
「今の・・・れ・・・!?」
急に舜は足を止め、後ろのムルシーは舜の背中にぶつかる。
「わわっ・・・急になんすか?・・・・・・。」
ぶつかったまま、舜にしがみつくようになったムルシーは閃く。
(いや、チャンスっす!この無駄に重いだけだったFカップの使い所!自然に当てて意識させるっす!)
「離れて。」
「・・・え?あ、はいっす。・・・私、そんなに魅力な・・・!?」
しょぼくれようとした矢先に強烈な魔力を感じ、慌てて退く。
そして、目の前には異形が飛び降りた。
下半身は蜘蛛そのものである。
8本足を動かしながら、その身体を動かしている。
そして上半身は人型のナニかであった。
黄の糸のようなもので全身包まれながら、唯一空いてる右目だけが青く光っている。
その上はの身体付きは小柄の女性のようだった。
身体を包んでいる黄色のそれは左目と、お腹の辺りだけ妙に厚い。
そんな異形を見て、舜は息を飲んだ。
そんな事、思うことすら嫌だった。
それでも何故かそうなのだと確信してしまった。
信じたくは無いその気持ちを、僅かな希望を胸に。
その異形と相対する。
「・・・お前・・・・・・。」
その続きを口にするのを舜は躊躇った。