75話 意地VS意志
(焦燥と・・・悲哀?)
「どうした!防戦一方じゃねぇか!」
ライガの能力使用後、ライガの猛攻に対し舜はその攻撃を防ぐ事しか出来ていなかった。
「・・・そっちこそ、妙に攻め焦ってるじゃん。」
「はっ!速すぎてそう見えるか!」
ライガは表情を返ずに言い返す。が、
(揺れた!)
ほんの少しの隙も見逃さず、舜は反撃に剣を横へ振り払おうとする。
鋒が正面に向かった頃にはライガは既にその半歩後ろまで下がりきっていた。
舜はそれを見て剣を正面で止める。
「・・・時間稼ぎか?」
振り払った後に前に詰めようとしてたライガは何とかその足を止める。
「!」
魔法陣が鋒の前に現れる。
舜はその魔法陣を剣で突き、ビームとなって飛んでいく。
ライガは身体を捻り両手足を地に着けながら躱し、その両手足で大地を叩くように前に出、体勢を空中で立て直しながら斬りかかる。
(避けられたから避けましたって感じだな。こっちの事なんて見てすらいない・・・。自分の強さを求めてるだけ・・・。)
舜の放った魔力は奥の木の枝に当たり、その枝は少し揺れただけで折れることは無かった。
(何がそこまで強さを求めさせる?この強さを手に入れさせた?)
舜は更に知りたいと求める。その想いは餓えのように。
相手への冒涜のように。
深く眠るように奥へ。奥へ。時間を超越していき。
そして見える。
いや、知っている。
知りたい過去が。
戦う理由が。
強さを求める理由が。
「お兄ちゃん?」
6年前。
ライガがレイガを探す。
レイガは4年の間で力をつけ、アウナリトの特殊部隊にまでなれたのだが。
1人で首都外にまで出たのを疑問に思ったレイガはこっそり後を追っていた。
兄を尊敬していた。
両親が殺されても曲がらずに、自分を守るために力をつけてくれ、アウナリトに住めるようになった。
そのおかげでようやく前を向いて生きていけるまでに精神が落ち着けた。
自分は兄と一緒に誰かの悲劇を止められるようになりたい。
少年だったライガはそう思っていた。
そして兄を見つけた。
見つけてしまった。
泣き叫ぶ声に誘われて。
「助けて!助けて漣お姉ちゃん!いや!い・・・!」
既に両親と思われる大人2人は血だらけで倒れている。
見つけてしまったのだ。
両親が殺された男が、誰かの両親を殺すところを。
助けを求めて叫ぶ少女を、無慈悲にも殺すところを。
「・・・なんで。」
掻き消されそうな声しか出せなかった。
レイガは気が付かないまま、その少女の身体の中から何かを取り出す。
「生ける炎・・・ようやく見つけた・・・。この力があれば・・・。」
力。それが兄を狂わせたもの—。
そんなものに頼らなくちゃいけないのか。
そんなものがそんなに重要なのか。
なら。なら今度は自分が。
兄を真っ直ぐ、前を向いて生きていけるようにしないといけない。
その為に。
「俺が・・・兄を超える・・・。超えなきゃ行けない。手を汚してまで手に入れた力が無くても俺がいるんだって。その為に才能は無かったから、死ぬ程努力した。だから。」
「テメェなんかに負けられねぇんだよ!!!!!」
時間が動き出す。
「・・・っ!」
一撃一撃が重い。
十分すぎるほど理解した。
それでも。
舜にも負けられない理由がある。
誰かを守る為に戦うという舜の意志がある。
「負けられないのはこっちもだっつぅの!!」
お互い想いを乗せた一撃がぶつかり合う。
「くっ・・・!」
今まで防戦一方だった舜が、負けじと鍔迫り合いをする。
「ふざけるな!ふざけるな!!才能だけのエリート野郎が!!」
許せなかった。
噂には聞いていた。誰かが助けを叫ぶと現れる。
才能溢れる、そんなヒーローみたいな男がいると。
許せなかった。
努力を死ぬ程して、吐くほどして、死ぬ程して。
それでもまだ助けられない自分が。
許せなかった。
誰かを助けられる程の力を手に入れてるその男が。
許せなかった。
そんな風に思ってしまう弱い自分自身が。
(違う!!!!俺は強い!努力を誰よりもしてきた俺は誰よりも!!!)
(ライガ・・・お前の想いを知って俺は・・・!)
「「お前を超える!!!」」
永遠にも一瞬にも思えたその鍔迫り合いは。
舜が力づくで振り払いきった。
(ふざけるな!あんなに努力してきて、俺はまだ越えられないのかよ!)
気が付いていた。
目の前にいる相手は、自分がトレーニングをしてる時の空想の相手、理想の相手と同じ動きをしている事に。
そして自分がそのトレーニングの時にいつもその理想の相手を崩せない事に—
それでもライガには意地があった。
努力をし続けたライガの意地が。
ライガは更に加速して斬りかかる。
「才能だけのやつには負けられねぇんだよ!」
それは今までの努力を否定されたくないが故の叫びだった。
だが—
次に吐き出したものは血であった。
「・・・足りてなかったって言うのかよ。」
「いや、十分だったよ。」
背中越しに語り合う。
本当はわかっていたのだ。
認めたくなかっただけで。
自分が誰よりも努力をしてきたのだという自負が、邪魔をしたのだ。
相手は才能だけだと思い込みたかったのだ。
「ずるいぜ・・・才能もある癖に・・・努力もし続けてきたなんてよ・・・。」
ライガは倒れる。
「才能も努力も・・・互角だったよ。」
もう聞こえてるかは分からない。
それでも舜は続ける。
「お互い努力し続けた・・・。俺は先にそれに気が付けたってだけだから。」
倒れたライガの横顔は少し満足そうに見えた。