72話
「・・・?」
暗闇に目が慣れていく。
「みんな無事?」
「はい漣姉様。シィラ達は無事です。」
(・・・違う。)
風が吹き抜けていく。
「・・・今、何か?」
「どうしたんですか?」
漣は闇の中の一点を見つめていた。
「被害無さそうですかね?なら寝ましょうか。」
「炎も敵襲も奇跡的にこちらには来ませんでしたね、愛花様。」
「敵襲は多分"本来"なら声だけで、寝させないのが目的でしょうね。」
(・・・!・・・どっちにしろテメェには興味ねぇ。)
愛花は暗闇の中を何かを追うように眺めていた。
「どうかされました?」
「・・・・・・へ?あれ?なんでみんな起きて・・・?」
その後ぽかんとしていた。
「おー・・・。クトゥルフの力で炎消せた・・・。だけど魔力は結構食うな・・・。使い道は大事そうだ。」
青い石を眺めながら舜はつぶやく。
「いやぁ、びっくりしたっすね!突然の炎もそれを打ち消す水も!水属性使えるなんて聞いてなかったっすよ?」
「使えるって言っても・・・っ!」
咄嗟に刃だけを出し、闇の中から出てきた剣を受け止める。
「敵襲だ!みな構えよ!」
シュヘルの声が響く。
「ちっ、めんどくせぇ・・・な!」
一瞬でそのシュヘルに間合いを詰め、剣を振り降ろし。
「うらァ!!」
片腕で伸ばした剣に思いっきり力を込めた舜が吹っ飛ばす。
「みんなは下がってて。奴の狙いは俺1人だ。そうだろ?ライガ。」
「はっ!狙いじゃねぇよ!テメェは踏み台だ!」
2人が何合か打ち合う間、シュヘルはムルシーの方を見る。
ムルシーは2人の動きを眺めながらブツブツと何かを呟いてる。
(よし、ムルシーもスイッチが入ってる。俺たちで仕留め・・・!)
「やめた方がいいっすよ、シュヘル先輩。」
ムルシーの頬に冷や汗が一筋。
「今ん所、先輩で入れる隙はないっす。」
そうは言いながらもムルシーは付け入る隙を探すため凝視し続けている。
(ガチガチに固めた基礎と高い身体能力、異常な程の反射神経・・・。1番殺すのに時間かかるタイプだな。)
まともに打ち崩すのは困難を極める。
しかし小細工はその反射神経と身体能力の前に躱される。
冷静に相手を観察しながら付け入る隙を舜は探し続ける。
(こんなとこで止まってらんねぇ!)
一方ライガはただただ猛攻を続ける。
より強く、より速く、より正確に。
自身の使える技を、自身の限界を。
ただ己の全てを相手にぶつけていく。
(もっと強く―!)
(仕掛けるか―。)
2人が全体重をかけ、互いに全身全霊の一撃を打ち込もうとしたその時だった。
「っ―!?」
突如横から現れた何かをライガは避けつつ、振ろうとしてた剣は舜の一撃を受ける為に構え―吹き飛ばされた。
「舜くん!」
「漣、ちゃんと相手の方を見て。」
漣は先程突き出した槍を構えてライガを見据える。
「チッ、先にお前だけでも倒したかったんだがな。おい!俺に殺られるまでに誰かに倒されるんじゃねぇぞ!」
それだけ言うと闇夜にライガは消えていった。
「・・・なんでここに?」
「や、なんか胸騒ぎがして。」
「ななななんすかー!?あっさり戦いに割って入るし距離感近いしくん呼びなのズルいっす!」
ムルシーがやいのやいの騒ぐ。
「俺なんでそんなムルシーに懐かれてんの?」
「だって強い人と仲良くしてた方が安全じゃないっすか!」
「打算的〜。じゃ、私帰って寝るね舜くん。」
漣は伸びをしながらテクテクと歩き始める。
「念の為送って行こうか?」
「んー?大丈夫だよ。」
「・・・はっ!そうだ身体を使うか!」
「頭を使え。・・・しかし連れまで化け物とは。」
漣を見送る舜を眺めながらシュヘルは呟く。
「クロム様の復讐なんて考えるんじゃないっすよ。長い物には巻かれろ、っす。・・・それにあの人だって決して悪人じゃないのは分かったでしょ?」
「・・・ああ。復讐なんて元々クロム様は求めてないだろうしな。」
その後、特に何事も起こらず。
夜は明けていく。
そして―
日が十分に辺りを照らす頃。
ローグ軍の進軍が始まった。




