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愛の歌  作者: Dust
4章
73/230

71話

冷たい風が緩やかに身体を包む。

舜は月を見ながら拳銃を眺める。

「そんな物を使うなんて聞いた事なかったな。」

シュヘルが舜の後ろから話しかける。

「使ったこと無いよ。」

「・・・?それ魔力で作ったもんじゃなくて本物か!?」

その拳銃は月に照らされながら、リライエンスの人々の顔を思い浮かばせる。

その引き金は、まだ使った事がないとはいえ―とても重たく感じる。

「俺なんかが使っていいものじゃ・・・無いのかもな。」

「・・・よく分からねぇけどそろそろ開戦なんだ。早く寝とけよ。」

シュヘルはそれだけ言うと戻っていく。

舜は思考に耽っていく。


沢山の人を救えなかった。

その思いは心に大きく残っている。

そんな自分が、これから沢山の人を殺しに行く。

そんな自分にこの銃を使う資格などある訳もない。

(人のためになる能力を羨ましがったりもしたな・・・。)

宿の壁を壊してしまった時、エリンが修復に来てくれた。

でもあなたが出来るのは殺す事。壊す事。そして、誰が1人だけ救う事。


「・・・ん?・・・何かに弾かれたのか?」

・・・舜はポケットから飛び跳ね、目の前にチラリと映った服に繋がれてるそれを手に取る。

「イパノヴァ・・・君がいたらどう思ったのかな。・・・あの時は頭に血が上ってすぐ戦いにってなったけれど。・・・殺すだけしかできてない、殺す事しか選べてない。」

舜は愛される事を知らない。許される事を知らない。受け入れられることを知らない。それらを強く渇望している己の心を知らない。


記憶の中に親が存在しない。

受け入れた養父は忙しくしている記憶と、死の記憶。

義兄はまさしく今、殺し合いを求められている。

爺やは必要以上の干渉をして来なかった。

愛を一瞬でも感じた女は、それを理解する前に君の目の前で散った。

それでも君は誰かを想う。

誰かの為に戦い続ける。

見返りなんて求めない。

花も歌も必要ない。

必要なのは拳だけ。

君はそういう存在じゃないといけない。


「ま、仕方ないか。戦わないといけないんだし寝る・・・。」

舜の頭に今更の疑問が浮かんでくる。

なんで愛花と"雪乃"だったのか。

アウナリトを出る時の仲間を指すなら怜奈であるべきだ。

こちらの現状を知っているぞという脅しを含めるにしても漣や咲希の名前も出すべきだろう。

雪乃である事に意味があるはずなのだ。

(・・・初めて会った時もローグから命を狙われていたな。)

そんな事を思いながらも眠りにつこうとした。



「・・・眠れない。」

漣は布団の中でボーッと過ごしていた。

自分が何をしたいのかが分からないままこの場に来ている。

愛花や雪乃が狙われていて舜が無理をしようとしている。

仲間として自分も動かなきゃという当然の思いはある。

でもその為に殺し合いがしたい訳ではない。殺し合いなんてどんな場面でもしたくない。

それでも相手が悪人なら、と気持ちに整理を付けたいところだが。

一方的に攻撃されてるこちらを被害者として相手を悪とするのは簡単だろう。

でも善悪なんて簡単に変わるという舜の言葉が頭をグルグル回る。


「誰のでも傷付いてるところを見たくない・・・のかな。」

それでも、仮に仲間を見捨て誰も傷付いてるところを見ないようにしようとしても。

きっと心のモヤは晴れないのだろう。

漣は自分でも何がしたいのか、何が出来れば満足できるのか分からないまま。

心のモヤと思考が延々とグルグルしながら。

1人、夜を過ごして行った。

「あーもう外が明・・・!?何!?」

テント越しにも分かる朝日とは思えない明るさに漣は思わず飛び起きる。


「さて、歓迎しましょうかね。ようこそアウナリトへ。」

高い山から遠くの豆粒のように見える遠くのローグ軍へ。

レイガは何かをすると満足そうに言い放った。

「開戦の合図だ。」

そしてローグ軍の上空に空を包み込むかのような炎が現れる。


漣はデバイスで舜達に連絡を取ろうとしながら、外へ出る。

炎は生きているかのように次々とちぎれては降り注ぐ。

足音が聞こえる。

(まずいまずいまずいまずいまずい!!)

次に聞こえるのは悲鳴。断末魔。

ローグ達がやられ始めているのだろうか。

自分と共に行く人たちは?

舜や愛花達は?

目の前が真っ暗になりそうだった。


否、実際に真っ暗になった。

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