68話
無事ビャフーストを出た舜達はひとまずリエーへ向かう。
「ところで舜、宛ってなんなんだ?」
さすがに逃げる為に荷物を1人で任されては無い咲希がふと聞いてくる。
「・・・俺達の前にアウナリトに攻め込もうとしてた連中がいただろ?」
「「「!?」」」
かつてクロムとの激闘の末に、強力だった4人のうち3人は打ち倒した。
残る1人と、攻め込むためにいたローグ達。
舜はその存在を思い出していた。
「・・・本気?」
まず口を開いたのは漣だった。
「使えるものは何でも使うだけ。」
「でも・・・悪人なんじゃ・・・。」
「アウナリトから見たらな。・・・善悪なんて状況で簡単に変わるさ。」
漣は難しい顔をして黙り込む。
「場所とか分かってるのか?」
次は咲希が聞く。
「連絡取れそうな人なら・・・心当たりがある。」
アウナリトから逃げるきっかけにもなった男。
アウナリト左大臣・レアス。舜は彼が何故アウナリトに対しての侵攻に関わっていたのかは知らない。
だけど交渉の余地はあるはず、と睨んでいる。
「・・・やるんですね。・・・戦争。」
「ああ。」
最後に愛花が一言吐き、覚悟を決める。
その後は無言でリエーまで歩き続けた。
リエーにて。
外で電話をしていた舜は頭をかきながら、かつて隠れ家としていた家の大部屋に戻ってくる。
「どうでしたか?」
「・・・恐ろしい程すんなり進んだ。ダリルにも連絡をすぐするみたいだ。」
あまりのスピード感に違和感を覚えながらも、ひとまず戦力の問題は解決出来た。
「そーいえばダゴン様は連れてくの?」
トワは全員分の飲み物を準備しながら、ふと尋ねる。
「いや・・・」
舜が否定しかけた時だった。
「お呼びでしょうか。」
いつの間にやらダゴンが座っており、飲み物を飲んでいた。
「人間サイズにもなれるんだ・・・。」
「ふふ、神ですから。」
「お茶目ー。」
あっけに取られる漣にダゴンは笑いかける。
「・・・せっかくここに平穏が来たんだ。守護神にはそこを守って貰わないと。」
「そうですか?では一つだけ。」
ダゴンは舜の下半身を指差す。
「な・・・何?」
「ポケットの、その石。・・・クトゥルフは生きてますよ。石だけに意思があるってね。」
「くっ・・・あはは!」
皆がポカーンとする中、咲希だけが笑いを漏らす。
「・・・クトゥルフが?」
ポケットの中から、ズボンに繋げてたアクセサリーを取り出す。
イパノヴァのだった三日月のアクセサリー。
それを開いて小さな青い石を取り出す。
「・・・確かに魔力は感じる。」
「その状態でも水の力を使う事は可能です。とはいえ魔力を使いすぎると補充の為に定期的な休養は必要ですが。」
「・・・覚えとくよ。いざと言う時の武器って訳ね。」
ダゴンは頷き、そして消える。
「うわ、消えた。」
「あの神、海の近くならワープし放題らしくて。いやー平凡な無能力者の私の周りにどうしてこうも・・・特集な人達が集うんだろ。」
トワがやれやれとつぶやく。
(無能力者でありながらクトゥルフに包丁1本で戦いに出てたトワが平凡・・・?)
「何か言いたいことあったら聞くよ?」
「いや・・・なんでも・・・。」
トワは威圧感のある笑顔で舜に言う。
「・・・さて、やれる準備は最大限やるか。特訓じゃい!」
「押忍!」
愛花は元気よく返事をして舜の後について行った。
「先に殺せれば!勝ちなんだ!相手の意表をついたり!何でもありだ!加減をするな!」
愛花の魔弾をひょいひょい躱し、弾き、舜は近付く。
「萎縮するな!慢心するな!逆に萎縮させろ!相手に今手のひらにいると思わせろ!」
躱しながら舜が出したほんの小さな魔弾が素早く動き回りながら愛花の元へ。
「・・・っ!」
「こんな風に。」
その魔弾への対応に手を回した途端、すぐ目の前まで舜に詰められた。
「俺がまともに魔弾を使えないってのは知ってるでしょ?」
改めて小さな魔弾を出し、愛花に触れさせる。
「・・・自信満々で出されたからつい。まともなの出せるようになったんだって。」
死ぬ程努力をして、ようやく操れるようになったほんの小さな魔弾。
威力はほとんど期待できない。無能力者の弱点を狙っても効くかどうか。
それすらも舜にとっては使える武器に変わる。
「ま、最悪一か八かの賭けだ。やった事ない戦法ってのは出来るだけ取らずに勝ちたいところだけど。そうも言えない時がある。あと最後の手段として・・・。」
「手段として?」
舜は愛花の目を見て、そしてパンチの素振りで風を切る。
「全力で相手を呑まんと勢いよくゴリ押す!力押し!」
「力押し・・・。」
そんな時に電話が鳴る。
「・・・意外と有効なんだよ?ちょっと待っててね。」
舜は電話に出る。
愛花は暇を持て余しながら魔弾を何個も浮かせる。
(力押し・・・。)
その1個1個に威力をより齎したらどう動かせるか。
1つの魔弾に力を込めようとする度、周りの魔弾の動きが鈍くなる。
(・・・殺し合いするんだよね。)
ふと、思ってしまう。何度も覚悟を固めてはふとした瞬間に出てくる悩み。
何度か戦いを経てもまだ、悩みは尽きない。
「・・・分かった。」
電話を切って舜は帰ってくる。
「どうしたんですか?」
「・・・愛花、絶対に死ぬなよ。」
愛花の心臓がドクンと跳ねる。
「戦争開始はもうすぐだ。ダリル達と合流する。」
「・・・舜兄、私からも。・・・無茶しないでください。」
「・・・ああ、出来るだけな。」
「ねぇ、みんな。戦争が終わったら生きて顔合わせに来てね。待ってるから。」
「うん。置いてくものの管理任せて悪いね。」
その位、と笑いながらトワは手を振って見送る。
死地へ向かう彼らの無事を祈りながら。
漣ちゃんの難しい顔した理由。
これには認識の齟齬があって。
自分に居場所をくれた人が戦おうとしてる相手=悪人だと思い込んで参戦したところがあり。
でもそもそも舜はアウナリトの一般市民の事やイパノヴァの復讐の件も兼ねて戦っていて善悪自体は興味を持っていなかった。
正当化の為にか言い訳のためにか、殺し合いをする相手に悪を押し付けたい、という思いもきっと知らず知らずのうちにあったのでしょう。
むしろ舜くんはそんな言い訳すら無しに平然と殺し合いしてます。相手の善悪とか問わずに。
ビャフーストの20人との戦後に殺さない方法は無かったのかと思うくらいには少しずつ、その思いも揺らいでるようですが・・・。