66話
「ターガレス・・・。匿ってる男を引き渡せ。」
「断る!」
既にターガレスとデイムは話を始めてる。
舜はつかつかと歩きながら剣を出す。
「まてまてまてまて旦那!まだ話し合いの段階だから!」
「え?でも・・・」
「でもじゃなくて!」
残念そうに舜は引き下がる。
「その男さえ引き渡せば、今まで通りの生活は保証しよう。いや、それ以上の待遇を数人になら与えられる。」
「んなのは間違ってるだろ!お前はずっと!仕掛けてきたのは向こうだろ!なんで悪くない者が被害を被らないといけない!無能力者だってそうだ!なんで加害者を立てて被害者を犠牲にする!」
デイムは静かに返す。
「理想だけでは守れないんだよ。それに命の保証はしている、要求しているのは最低限の犠牲だけだ。」
かつて友人だった2人。
片方はこの世界の犠牲者を救うために立ち上がり、片方は最低限の犠牲で守れるようにと思った。
似てるようでちょっとした違いが2人をすれ違わせる。
(・・・もういいかな?)
(まだ待ってあげた方がいいんじゃないですか?)
そのすれ違いを暴力でさっさと終わらせようとしてる男もいるが。
「最低限の犠牲ってのはてめぇらが勝手に決めたもんだろうが!納得出来ない奴がいるからこうやって集まってんだろ!」
影から、屋根から。様々なところから無能力者の目線が鈍き光となりてその2人を眺める。
「では、どうすると言うのかい?アウナリト軍にまとめて潰されろとでも?」
「・・・ア、アウナリトまで行って戦う!」
震えた声でターガレスは宣言する。
「駄目だ!」
感情的にデイムは叫ぶ。
「僕が何のために力を手に入れたと思っている!僕がなんのためにこの地位まで上り詰めたと思っている!僕は・・・!僕は・・・!!!・・・お前まで僕の元を離れないでおくれ・・・。・・・僕に守られていてくれ・・・頼む・・・。」
「・・・安心しろ、終わったらまた戻ってくるさ。ただ・・・希望ある明日をみたいだけだ。」
崩れ落ちるようにデイムは膝をつき、顔を覆う。
ターガレスも片膝をつき、デイムと目線の高さを合わせる。
「・・・絶対死ぬなよ。」
「・・・ああ。」
ざわつきが包む。
「デ、デイム団長!どうするんすか!?」
「対象だった者は既に国外に出ていた。この国に危害はない。・・・それでこの国の問題はおしまいだ。」
「で、でもぉ・・・。」
ナキムがざわつく他のものたちを見る。
「デイム団長。ここでターガレスも舜も倒し、あなたの混乱の元を断ってあげましょう。・・・あなたを罪人にすることなく終わらせますから。」
「待て!!」
デイムの静止も虚しく、何人かが飛びかかる。
ターガレスは"持っていた"モーニングスターで応戦する。
弱さを自覚している彼が、作れる訳でもなく頼りきりな武器。
漣は槍と炎で、愛花は魔弾で、咲希は爪で止めるために軍と対峙する。
そんな中、舜は何かを思いついたかのようにデイムへ近づいて行く。
舜の意図を確認するかのように見守る雪乃と、いざとなった時に舜を守れるよう怜奈が準備する。
「ターガレスを守りたいんだろ?」
舜はデイムに話しかける。
「いいの?守りたいんなら一緒に行かなくて。」
「・・・っ!僕は・・・この地位を・・・。」
「ターガレスを守るために、じゃないの?国とターガレス、どっちを優先するの?」
デイムは自分の頭がぐわんぐわんと歪むのに頭を抑える。
(もう一押し・・・!何か・・・!)
見回して、戦況を一瞬で把握しながら。
ふと、ナキムを見つける。
デイムの背後に周り、膝をついて呆然としているデイムに見えないように剣を出す。
「・・・っ!させないっす!」
デイムを殺そうとしてるように見えた舜に、ナキムは猛然と襲いかかる。
舜は剣を消し、魔力を高めた腕で受け止めながら。
ナキムの本気の剣はさすがに防ぎきれず、腕から血飛沫が上がる。
「・・・あ、愛花!」
その声は助けを求めるように聞こえただろう。
備えてた怜奈も一瞬動きかけたが、雪乃に手で静止され留まった。
「舜兄!?」
愛花の意識は武器を出せすらしてない舜と、それに襲いかかるナキムへと狭まる。
その時だった。
「グアっ!」
愛花の守りが無くなったターガレスへの攻撃でターガレスのモーニングスターが砕け、ターガレス自身も尻もちを付いた。
好機とターガレスにトドメを刺すために1人飛びかかる。
漣も咲希も他との交戦で向かえない。
すべてが計算通りだった。
「・・・っ!・・・はぁ!」
ターガレスを守るべく、立ち塞がった少女。
もはや団長と呼ばれた彼女ではない。
かつてターガレスや他の3人と友人であったデイムの姿がそこにはあった。