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愛の歌  作者: Dust
4章
67/230

65話

アウナリトの出した声明はまたたく間に広がっていた。

「反乱首謀者・舜」の処刑。匿う国があれば戦争すら厭わない。

「大変な事になったな。既に外じゃ舜探しが始まってやかまる。」

外から戻ったターガレスが話しかける。

レジスタンス集団にひとまず匿って貰いながら、舜はみんなと合流していた。


「しかしアウナリトもふてぇ奴らだ。向こうからこの国に攻撃しておきながら、旦那が一方的に攻撃の意図がないところを仕掛けて殺してきた事にしやがった。」

「・・・隊長。・・・その事なんだけど、隊長から見て何人が強かった?」

話を続けたターガレスの言葉を借り、怜奈が舜に質問する。

「甘く見積って・・・超甘く見積って5人。」

「・・・甘く見積もらないと?」

「0。経験が足りて無かった。」

怜奈はその返答に頷き黙る。

「足りてませんよ。今期軍に入った私たちの同期なんですから。」

絞り出すように、ただただ悲痛に愛花がポツリとつぶやく。


「・・・考えられる最低のシナリオだと―」

言いかけて止まる。

今の愛花の目の前でこの発言をするべきでは無いと。

より苦しみが、悲しみが溢れてしまうのでは・・・と。

「続けてください。・・・知っておきたいんです。」

愛花は自分の方を見てハッと黙った舜に力なくとも笑おうとして・・・笑うことすら出来ず目を下に向けた。

「あくまで可能性として・・・。あいつらは本当に攻撃を仕掛けるなんて知りもしなかったんじゃないかなって。」


向こうから攻撃しておいて、ポロスとの問答が終わった後も何かに呆然としていたことを思い出す。

ポロスが仕掛けて、それを何も知らずにそこにいた彼らは舜との戦闘に巻き込まれる形になった。

「ビャフーストを攻める戦力としては新人20人ってのは考えにくい。少なくとも他の大義名分があったと思う。例えば・・・会談でビャフーストに向かうポロスへの念の為の護衛、とか。」

念の為、と付けたのはポロス本人が魔力者としての力があるのこと。

そしてビャフーストが一切知覚出来ないまま攻撃された為、道中はワープなどの何かしらの移動方法があったのではということ。

つまり、護衛が必要なのは襲われるとしても無能力者であろうビャフースト国内だけの、簡単な仕事だったと予測出来たからだ。


「それじゃあ・・・!最初から死なすだけのつもりで・・・!」

「あくまで俺の憶測でしかないよ。そうだったら嫌だなって思い付いただけの、その程度のものだ。」

愛花を落ち着かせながら。

(愛花ほど真っ直ぐな子なら・・・憤るのか。・・・俺もそうだよな。俺を殺すための口実の為に関係ない人達が何人も死んだんだ。ああ、クソっ!)

舜は苛立ちを募らせていく。しかしその苛立ちは程なくして悲観へと変わっていく。

(どうして・・・怒りより先に。理にかなってるだなんて納得してしまったのだろうか。俺は・・・。俺は・・・!)

愛花に影響されたのか、悩み、悩み、悩む。

(そもそも・・・殺すしか無かったのかな。)


ナ ニ ヲ イ ッ テ ル ノ ?

コ ロ ス シ カ デ キ ナ イ ノ ニ

ア ナ タ ガ ス ク エ ル ノ ハ

ヒ ト リ ダ ケ


「っ!?」

頭が痛む。

「舜くん大丈夫?」

舜の異変にいち早く気が付いていた漣が寄って心配する。

「疲れてるんですね。少しお休みになられてはどうでしょうか。」

膝をカムカムと叩きながら雪乃が言う。

「・・・あ、そういえば。」

舜はぼーっとする身体で思い出した手紙を取り出し、読む。

そして、何もかもを忘れたかのように。

覚悟を決めた。


「・・・何が書いてあるんですか?」

「義兄上からの宣戦布告。アウナリトを攻めて自分のところまで来い、だと。」

舜は手紙の一点を眺め続ける。

「真面目な話、どこに逃げる?こうも向こうが潰しにかかってくると逃げる場所も・・・。」

「逃げない。」

咲希の話を遮る。

「・・・ていっ!」

「あ、おい!」

手紙になにがあると踏んだ愛花は隙をついて手紙を奪い取り。

「・・・え?」

困惑の声を漏らした。


「・・・俺は義兄上の要望通り、義兄上と戦うよ。」

「・・・最後のこの文章の為、ですか?」

舜は少し考え、答える。

「それもある。そもそも・・・本気で潰しにかかられると逃げ場も無いからな。」

「逃げ場がないからこそ、私と雪乃ちゃんを殺させない為に・・・ですよね。」

もし舜がこなければどこへ逃げ込もうと探し出し、愛花と雪乃を殺す。

それが手紙の最後にある内容であった。


「1人で行く、なんて言わないでくださいよ。」

「宛ならある・・・。・・・協力してくれるかは分からないけど。」

「私も行きますって言ってるんです。」

舜は愛花の目を真っ直ぐ見る。

愛花も真っ直ぐ見返す。

「今までと違うよ。大勢からの殺意が向かってくる。それも中には知り合いから。・・・知り合いと殺し合い、できる?」

「・・・・・・・・・・・・。」

痛いところを突かれ、目を背けたかったが愛花はそれでも真っ直ぐ見つめる。


「・・・やります。命を狙われてるのは私なのだから。いつまでも舜兄に頼って甘えている訳にもいかないですし。それに・・・あなたも私に頼って、甘えてください。その方が・・・嬉しいですから。」

「違うよ愛花。」

漣が愛花の言葉に割って入る。

「私たち、ね。」

「・・・俺、結構頼ってると思うのだけど。」

「足りてない!!!」

漣は思いっきり否定する。

「・・・じゃあ。・・・俺と、戦ってくれる?」

全員が頷く。


「・・・ねぇ、舜兄。こんなこと言っておいてまた頼りたいんですが・・・ちょっとの間でもいいから戦いを教えてくれませんか?」

「もちろん。・・・みんな死んじゃいやだからね。死なないために教えられることは教えるから。」

外の騒ぎが大きくなる。

「・・・場所、バレたみたい。」

怜奈がポツリと言う。

アウナリトの声明を受けて舜を捕らえようとしてるビャフースト軍だろうか。

「・・・まずは実戦経験から、かな。」

舜は外へ向かう。

「さあ、行こうか。」

彼らの絆は深まり合う。

皮肉な事に、傷つけ合う事をきっかけに―だが。

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