64話
あまりの急襲にビャフーストは慌ただしくなる。
爆音の聞こえた場所へ向かって人々をかき分け、走る。
瓦礫を飛び越え、剣を出しアウナリト軍の正面へ着地する。
(20人ぐらい・・・?行けるか・・・?)
即座に臨戦モードに入った舜を見て男がゆっくりと前に出る。
「お久しぶりですね。舜様。」
「・・・右大臣様が出てくるなんてどういう風の吹き回し?ポロス。」
お互い表情は動かない。
「我が王、ネビロス様よりあなたに伝言ですよ。」
パチンと指を鳴らし、どこからか出てきた手紙がふわふわと舜の前に現れる。
と同時に先程までポロスが立っていたところには別の男が立っていた。
(ポロスの能力は無能力者との入れ替わり・・・だったか?・・・手紙を読むのは後か。)
宙で手紙を取り、ポケットに突っ込む。
(ま、無能力者って事はそもそも軍の一員かすら怪しいけど・・・。)
キョトンと周りを見回してる男に、形を少し変えた剣をぶん投げ、殺した。
「何かあったら面倒だからね・・・。」
今までまるで狐につままれたかのようだった軍に動揺が走る。
「父さん・・・?父さん!」
誰よりも早く、その中の一人が投擲で殺された男に駆け寄る女が1人。
「よくも・・・許さない・・・許さ・・・!」
その女の顔に、矢が突き刺さり倒れた。
「ねえ、リビ。」
「・・・うん。出来れば・・・みんな逃げて欲しいね。」
今回、元帥が送ったのはみんな同級生だよ。そんなリーンの言葉を聞く前にリビは答えた。
「・・・逃げる?」
「狙いは舜ちゃんたちだもの。」
リーンは息を飲む。
「そんな仕事だとは聞いてなかったけど・・・。そうだね、舜さんには愛花とか怜奈がいるから逃げられるとは思うけど・・・。」
「そっちじゃないよ。」
リビは真っ直ぐリーンの目を見た。
「ただの能力者20人で舜ちゃんを倒せるはずがない。最初から捨て駒なんだ。」
「・・・っ!?そんな!?」
「彼はね、天才なんだよ。戦いの天才とか殺しの天才とかなら良かったんだけどね。・・・そのどっちでもない。彼は・・・殺し合いの天才なんだ。」
「・・・次。」
弓を霧散させながら、ポツリと呟く。
弓矢で仲間を殺されたのを見た18人は武器を構え、舜に仕掛けようとするが―
既にその時点で1アクション遅れていた。
「ひっ!?」
いつの間にか目の前で剣を振り上げていた舜を前にした女は目を瞑りながら受け止めるために剣を頭上に掲げる。
舜が1歩踏み込むと共に、持ち上げた剣を降ろし突きに変えたとも知らずに、その最期を迎えた。
死を間近で見た者ほどアクションは大きくなる。
突き殺された仲間を見ながら、何とか斬りかかろうとする者。
目の前の死で呆然としてしまった者。
「・・・あ?」
舜は呆然としてる男を引っ張り、斬りかかって来た男に押し飛ばす。
仲間を斬ってしまい動きを止めた所を両者まとめて突き殺した。
恐怖は伝染する。
恐怖はその身体を縛る。
実力が発揮出来れば何とかできたかもしれない。
だが、それをさせない。
動きが固くなった者から次々と殺されていく。
一方で変わらず攻撃を仕掛けてくる相手の攻撃は小さな動きで淡々と防ぐ。
何も通用しないのでは無いか。
そう思わせる為に。より大きな恐怖を与えるために。
「・・・さて。」
いつしか返り血に塗れた舜は残った5人を見る。
「あんたら、自信あるみたいだな。」
「ふっ、見抜くか。この雑魚どものように勢いだけでは俺らには勝てんぞ。」
舜は後ろに飛び退きながら場所を選び、改めて剣を構える。
「いくら舜さんが天才と言ってもあの5人組がいるでしょ?5人で組んだらリーグにすら模擬戦で勝ってた・・・。」
「模擬戦と殺し合いは別物だよリーン。殺し合いの経験が薄い彼らが勝てる程舜ちゃんは甘くない。」
「・・・もしそうなら。・・・どうして?元々の目的も舜さんを倒すって目的も果たせないのに・・・?」
「くっ!この変態!」
5人で舜を囲み、息を合わせた攻撃を仕掛け、反撃を許さないようにしていた彼らに対して舜はそのうち1人にピッタリと付いた。
「早く誰か何とかしてよ!」
付けられた女は叫ぶ。近すぎて自身の武器で何とかするのは難しく殴打で対応するが、舜は防ぎながらただただその動きを合わせる。
(何とかするって言われても・・・!)
舜が女に近いせいで手を出すのも難しい。
「うぉおおおおおおお!!」
痺れを切らし、ついに1人が舜に斬りかかろうとし。
それは陣形が崩れた事、反撃の機会を舜に与えた事に他ならなかった。
舜は踏み込むと同時に反転し、その斬りかかった男へ剣を突き刺し先に殺してみせた。
そしてまた先程までピッタリと付いてた女の方を見る。
「2度は食ら・・・なっ!?」
その視線だけで大きく後ろに下がってしまった彼女はなにかに足を滑らせる。
その隙を逃してくれるはずもなく、胸に剣を突き刺され彼女が足を滑らせた血の持ち主の死体の横に転がった。
「後3人・・・あれ?」
あまりの速さの出来事に対応出来なかった2人は恨めしそうに睨みながら剣を握っている。
その奥でただ必死に逃げている女の姿がある。
「・・・2人で、いいんだ?」
分かりやすく笑う。
「・・・怯えるなよヴァレミー。その隙を殺られるからな。」
「分かってるさジャレイフ。たとえ向こうが格上だとしてもただ1度殺せれば勝ちなんだ。」
舜は何かに気が付くとふっと構えを解いた。
「何かある・・・!」
「いや、仕掛けるぞ!たとえ何かあったとしても先に仕留め・・・!」
「「!?」」
魔力が2人の背後から襲いかかる。
驚いてしまった時には舜の剣のサビとなった。
「助かったよ愛花。」
「・・・・・・。」
愛花は青ざめ、口元を抑え目を逸らした。
「・・・アウナリトが攻め込んで来た、んですね。」
その声はか細かった。
「そうですよね・・・レイガからしてみたら指名手配犯な上に実験潰した訳ですから・・・でもこんな・・・。」
愛花の手はキツく握られ、震えていた。
「わざわざ知り合いで固めてこなくても・・・よかったはずなのに・・・!」
「愛花。」
舜は愛花の横に並ぶ。
「・・・一旦戻ろう。・・・ね。」
2人は静かにビャフーストへ戻って行った。