61話
ビャフースト。
そこは治安の悪さが有名な国で。
「あら、いらっしゃい。旅行かな?」
「え、あ、ああ。」
賑わう街。活気ある人々。
「・・・なんか思ってたのと違うな?」
「・・・ええ。・・・ここは早々に魔力者優先の政治を行ったもの。」
噂は宛にならない、と教えてくれる国でもあった。
「なるほど、無能力者には今までより多くの税を払わせる代わりに魔力者達から安全を、魔力者には衣食住の確保の代わりにいざと言う時の戦力に・・・って事か。」
歩いて回りながら、舜は怜奈からの解説を聞く。
「・・・ええ。・・・だからレジスタンス運動も活動は小さなものだけ。」
「ある事にはあるんだな。・・・元々住んでいた税が払えない無能力者、か。」
こくりと怜奈は頷く。
「・・・払えない人は労働を科せられる。・・・もちろん賃金は格安。」
舜は入国の際、魔力者かどうか聞かれたのをふと思う。
みんなで武器を出したり魔弾を出したりで証明させられたが。
(あれは能力者だから優遇しますよって事か・・・。)
ふと視線に気が付く。
「・・・愛花?どうしたの?」
「へ!?いや、なんでもないですよ!・・・・・・。」
舜の顔を見て、下を見て、更に顔をちらりと見て。
「・・・お前らそろそろ降りないか?もう街中だぞ?」
それらの会話を全て咲希の運ぶ荷車の上で行っていた。
「ありゃ、限界?」
「違うわ!人の視線が痛いんだよ!」
なんやかんやそのまま宿まで運ばれて行った。
宿の個室にて。
「しかしどう探したもんかな・・・。」
レイガに関する情報を求めて来たものの。
通りすがった人に聞いて回るのも心理的に抵抗感がある。
「・・・。いやまじでどうしよう。」
誰かと回れば少しは気が楽だろうか。
(そういえば愛花の顔少し赤かったような?体調崩しちゃったかな・・・。)
誰か、で真っ先に浮かんだ顔。ふと彼女の事が心配になり。
彼女の個室へ向かうことにした。
「あっ・・・舜兄。えっと、どうしたんです?」
「なんかいつもの愛花と違うのが気になって。ちょっと失礼。」
「ひゃあっ!?」
愛花のおでこに手を当てる。
「ま、待って!その・・・」
(冷や汗出てきてないよね・・・!)
愛花はモゴモゴワタワタする。
「・・・熱はなさそう、かな?身体どこか悪かったりとか?」
「な、無い!無いですよ!」
愛花は既に舜と視線を合わすことすら出来ていない。
「それじゃあ!ちょっと外見て回ろ!ね!」
「え、あ!はい!ワカリマシタ!」
舜の誘いで2人で外に出る。
愛花はドキドキが止められずただ舜の横を歩く。
当のその舜はと言うと。
(やっべー!顔真っ赤にしてめっちゃ怒ってるじゃん!?そりゃそうだよなーあんなに無理するなって心配してくれてるのにボロボロになるし直近で2回倒れてるし。仲間だからどこでもついてきてくれるって言ってはくれるけど、新しい場所に行くたびについつい来るか確認しちゃうし。だって命かかってるかもしれないんだし!そりゃこっちだって心配だしそんな危険な場所に来て大丈夫か確認しちゃうって!悪気は無いんだよ!仲間と思われてることに疑ってたりとかこっちが仲間と思ってないとかそんなんじゃないんだよ!)
そっと愛花を見る。
愛花はそれに気が付くと顔を伏せる。
(目も合わせてくれないじゃん!?マジかやべーどうするよ。どうしたら許して貰えるよ。いや待て男を見せろ舜。その場しのぎのご機嫌取りとかじゃなくて普段から大事にしてるんだって所を・・・。)
ふと、気が付く。
(・・・大事だからってのはあるんだけどそれだけじゃない?愛花に嫌われたくないっていうか・・・そう思うだけでかなりショックというか・・・?)
愛花の横顔をチラリと見る。
そして訪れた沈黙の中、2人は顔も合わせず適当に歩いて回る。
「・・・あ、えっと。何か欲しいものとか・・・ある?」
「・・・へ?えっと・・・欲しいもの・・・。」
沈黙。
会話が続かない。
「・・・・・・ご飯屋さん多いな。」
「・・・あ、お腹すいた?」
沈黙。
手の甲どうしがふと触れる。
ドクンと跳ねる心臓。
相手はどう思っているのだろうか。
そう思い視線が合い。笑い合う。
「ごめんなさい!なんかちょっと緊張しちゃって!」
「俺もだよ!なんでだろうな・・・。」
お互い、答えは既に自覚している。
しかし、その日のうちにそれを口にする事はなかった。
相手もそう思っている、だなんて頭にすら出てこなかった。
ただ、その胸の高まりが楽しいとだけ思わせる。
それが幸せで、ずっとその幸せを感じていたくて。
2人は笑い合いながら街を歩いていく―




