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愛の歌  作者: Dust
3章
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58話

「舜、大丈夫か?」

簡単な止血しかしていない、穴が空いた身体の事を復讐鬼は聞く。

『うん、意識をしっかりしようって思ったら出来たから平気。』

「・・・そうか。・・・・・・そうか。」

納得がいかないと思いながらも復讐鬼はダゴンの動きを見る。

『神は人の手によってその存在を強め、人の手によって悪魔に堕ちる・・・。ねぇ、復讐鬼。』

「要件なら手短に頼む。」

『街の人達は?』


呻く声がする。その声は苦しんでいるように聞こえる。

「・・・完全には解放されてないな。とはいえ弱まっている。」

『何とかして集められないかな。』

ダゴンはじっと復讐鬼の方を眺めている。

「何をする気?」

『うん、あのね?・・・・・・とか試しちゃ駄目かな。。』

怜奈が駆け寄る。

「・・・その、身体は・・・。」

「大丈夫だ、こいつ大概人間やめてる。」

復讐鬼は舜のお願いを考える。

(・・・夜に像のところに集まっていたが、まだそれまで時間はある。・・・試してみる価値はあるか。)


そして青ざめた顔をしている怜奈へ向き直す。

「・・・月を出せるか?」

「・・・え?・・・・・・うん。」

怜奈が魔力を高める。

「雪乃!」

「・・・何?」

「・・・いやつんけんしすぎでしょこのふわふわ乳。」

冷たく返事をする雪乃にトワは驚きながら呟く。

『代わろうか?』

「・・・頼む。」

地面に降り立ち、復讐鬼は意識を交代した。


(おっと、思ったより頭クラクラするな。)

「雪乃、おねが・・・」

入れ替わった舜が雪乃に話しかけようとし―

「はい!舜さんの為ならなんでも!」

「うわっ、急にどうした情緒不安定か?」

雪乃はトワがまた驚く程の変貌を遂げた。

「像の場所まで行く!トワを守りながらアレを引き付けたい!」

「わわっ!」

雪乃はトワを小脇に抱え走り出す。

月が空に現れた。


「・・・隊長!」

怜奈は舜の元へ駆け寄り、怪我に影響がないようにとお姫様抱っこをした。

「ついてこいダゴン!」

抱えられながら舜は後ろのダゴンに声をかけた。

ダゴンは言われるがまま追ってくる。

1歩ごとに水で出来た槍が降り注ぎ、街を破壊しながら。

「・・・っ!・・・隊長、戦う?」

「いや、ダゴン自身には敵意がない!このまま逃げるぞ!」

ダゴンはただ見つめ、ただ追ってきていただけ。

ただ有るだけでそこに災害をもたらすのは悪魔として扱われたる故か。

街にいる人々は呻きながらわけも分からず月を見て像の元へ集い始める。


駆け抜け、駆け抜け歪な像へ。

「雪乃!像以外に飛んだ攻撃を防いでくれ!」

「はい!全身全霊で!!」

咆哮。水の槍が降り注ぐ。

雪乃の氷がそれと相対する。

そして、水の槍が像を打ち壊した。


「聞け!邪神クトゥルフはここにいる神、ダゴンが打ち倒した!お前らを救ったのはこのダゴン神だ!」

舜は大声を張り上げる。

混乱の中で人々はその声を少しずつ理解し、目の前の忌まわしい像を破壊したダゴンに意識が向く。

そして1人、最初に正気を取り戻した人間から一筋の光がダゴンへ。

それを皮切りに光がどんどんダゴンを包んでいく。

そして―


ダゴンはその姿を変えた。

くすんでいた羽は神々しい白い羽へと変わり、身体を覆っていた鱗は綺麗な肌へ。

それは、女神と呼ぶにふさわしい姿だった。

「ありがとう・・・。」

響き渡る美しき声。そしてダゴンはその身体から光を放ち、破壊された街が元通りへと戻っていく。

さらに1光が地面に現れ、クトゥルフに消された人々がそこへ現れた。


それはかつて神と呼ばれていた。

穏やかな日常を守るために。その人の心に安寧を与えるために。

神はそうやって人々の必要となる。

ただ神は時に争いの理由になる。

自身の神を相手に押し付けるために。そしてその争いに負けた者の神は悪魔となる。

それは当然の事かもしれない。

それは理不尽なのかもしれない。

個人個人の考えで1つの物事の見方など変わってしまう事は―

ただもし救いがあるとするならば。

僅かの人々だとしても必要とされん事を―



数日後。

「ダゴン様のところから帰ってきたよー・・・何やってんの?」

トワは隠れ家にしてた家へ帰ってくると、愛花が舜の腕にしがみついて動かない。

「見張ってます!」

「見張られてます。」

「何やらかしたのさ。」

呆れ気味にトワは言う。

「いや・・・愛花がこの傷痕までは治せないって悲しそうに言うからラグナロクで傷痕壊したんだけど。」

「魔力の消費のし過ぎで大量の血を吐きながらですけどね。本当に死ぬかと思った・・・。」

「―あんまり困らせるなよ、そんないい仲間。」

含みがあるようにトワは言う。


「で、今後どうするの?」

「んー?とりあえずここで何が起きてたかを詳しく調べてそれからかな。」

「ふふっ、じゃあまだ一緒にいれるんだ。」

トワは顔をほころばせた。

「私ここに永住するつもりだからさ。ダゴン様が守ってくれるし何より―」

一緒に行きたい、なんて言ったらきっと迷惑になるだろう。

それを否定もしてくれるだろう。

だから―

「ここが気に入った―から。」

そんな嘘を、ついた。

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