55話
「・・・。」
吹き飛ばされながらもしっかりその攻撃を膝で受けた舜は着地して屋根の上を睨む。
そんな降りてきた舜を見かけ、近くにいた3人の男が呻き声を上げながら襲いかかってくる。
「今の一撃で気絶させるつもりだったんだが・・・。油汚れのようだな。」
「誰が油汚れだ。」
舜は上にいるアラタを睨んだまま3人を体術のみでダウンさせる。
「罪のない人を傷付けながらだと説得力が無いぞ!」
「先に襲いかかってきてるの見てなかったの・・・?」
「何を言う!力を持つ者が力を持たぬ者を攻撃するのは如何なる時も駄目なのだ!それが力を持つ者の責務!」
アラタは飛び降り、右手に剣を持ち左拳と左足、右足のつま先と膝で着地した。
そしてその隙を舜は顔面に蹴りを入れた。
「・・・鎧でダメージになってないか。」
すぐさま舜は距離を取る。
「ヒーローの演出中に攻撃する悪行・・・正義の欠片もなし!」
「・・・正義の味方さんはあの化け物が近付いて来ようとしてるの見て止めようとか思わないの?」
ふっと何を今更と言わんばかりにアラタは笑う。
「住民の平和を願うロルバちゃんがあの存在が救いだと信じているのだ!そんな少女を信じれずにして何がヒーローだ!」
「クソヒーローが・・・。」
舜は剣を出し、お互いに斬りかかった。
「行きますよ!漣ちゃん!」
「ま、待って愛花!」
出来る限り相手を傷付けず、足止めをする。
少し前にそれが出来ずに。
自らの手で守りたかったものを殺めた記憶が漣を支配する。
呼吸は荒く、視界はぼやけていく。
「大丈夫ですよ。」
そんな漣の震える手を愛花はギュッと両手で握る。
「私がついてますから。2人でなら、大丈夫ですよ。」
真っ直ぐ見つめるその目には信頼があった。
小さな暖かさが漣の心を再燃させる。
漣の炎が渦巻き、舜を追おうとしてた人々の周りを巻き付き、足止めさせる。
それと同時に2人に向かっていた正面の人々は愛花の魔弾に吹き飛ばされた。
「愛花!」
その声と共に愛花は体勢を低くする。
槍を愛花の背の向こうの地に突き刺し、背後から襲いかかっってきた相手に愛花を飛び越えながら蹴りを入れる。
愛花はその間に漣の出した炎を自身の魔弾で弾き、燃料とする事で炎の勢いをあげ無理やり突破しようとしてるのを阻んだ。
「・・・こっちに来るだけじゃない。こっちに来るのも複数方向から。」
その様子を雪乃と咲希に守られながら見ていたトワが観察していた。
「明らかに戦略を感じる。誰が指揮を?」
(タダで助けられる訳にも・・・いかない!)
トワはドクンと跳ねる心臓を必死に抑え、隠れ家へ走って戻る。
「・・・!」
それを見逃さず、雪乃も追う。
「とりあえずこれ!」
トワは包丁を手にし、雪乃の方へ向き直す。
「乳!私はあの男の為にやれることをやりに行く!」
そしてそのまま外へ駆け出す。
「お、おい!お前ら!」
「咲希ちゃんはここに残ってリライエンスから託されたものをお願い!私が彼女を守る!」
(そして舜さんの為になる事もする!!!!!!!!)
舜が後で気にかける事のないよう、死なない程度に加減しながら止めようとする民衆を蹴散らし、雪乃はトワの走る道を作っていった。
(・・・隊長は変なのに捕まったか。)
怜奈は1人、邪神に向かいながら思索する。
(・・・2人で変なのをさっさと倒す?・・・いやそこをまとめて狙われる方が嫌。)
「ギャオオオオオオオォォォォォ!!!」
クトゥルフが無理やり口を開けて叫ぶ。
胴体の触手がグルグルと回転し、そこに青い光が灯る。
「・・・っ!」
怜奈は上空まで飛び上がった。
次の瞬間、青い光と直線上にあった障害物がまるまる消し飛ばされていた。




